嵐を呼ぶ学園祭
俺が桜川に帰って来て2週間ほど経った。
3週間前はあんなに慌ただしかったのだが今ではいつもと変わらずな毎日を送っている。
記憶が戻ったからといっても特になにかが変わるわけでもないんだよな。
そんことよりも俺個人ではなく今俺達の学校は忙しい期間へと入って来ているのだ。
「皆聞いてるー!?私たちのクラスだけ学園祭の出し物決まってないんだよ」
そう俺達の学校ではもうすぐ学園祭という大きなイベントが近づいてきている。
中等部の頃も学園祭には参加したのだが出し物は基本高等部がやっていたので高等部1年となった俺達は今回出し物が初めてとなる。
そして現在俺達のクラスの委員長が前に出て出し物を決めているのだが特に何も進展していないのであった。
「朝倉やりたいことは考えてきたかしら?」
机でボーっとしているといつの間にか水無月が俺のところまでやってきていた。
「特に考えてはないけど」
「フフ、やっぱりね」
「まぁ俺は皆に任せるよ」
「そう。だったら私のやるこにも付き合ってもらわないとね」
「なにをやるんだよ?」
「フフ、学園祭当日になったら教えてあげるわよ」
そう言うと水無月は自分の席へと戻って行った。
そういえばあいつこの前も学園祭のことについて聞いてきたよな。一体何を考えてるんだあいつは。
「おい空俺がやりたいと思っている出しもの教えてほしいか!」
「お前のはいいよ」
どうせこいつはまた前と一緒で合コンパーティとか言うだろうし。
隣の席で相馬が一人で喋り出すのと同時に俺は机でうつぶせになり寝ることにした。
「…ら…空!」
気持ちよく寝ていると大きな声で俺を呼ぶ声が聞こえた。
俺は起きて前を見てみるとそこには渚が居た。
「なんだよ渚せっかく気持ちよく寝てたのに」
「気持ちよく寝てたのにじゃないよ。もう授業終わってるよ」
渚に起こされ俺は体を起こしてまわりを観てみるといつの間にか皆は帰る準備をしていた。
「終わったのか。それじゃあ俺も帰ろうかな」
「実はそうもいかないんだよね」
俺は渚が言っている意味がよくわからなかった。
「今日からしばらくの間放課後は残って学園祭の準備をすることになったんだよ」
「学園祭の準備ってことは俺達のクラスのやること決まったのか?」
「うん。喫茶店だよ」
喫茶店か。まぁ無難なところだな。
「あ、それと喫茶店の制服なんだけど各自着るものが違うから」
「は?制服って普通揃えることないか?」
「それだと面白くないって榎本君が言ったの」
相馬め余計な事を…。
「ちなみにもう皆着るもの決まってるから」
「え、もう決めたのか!?」
「空が寝ている時にね」
「それで俺は何の衣装になったんだ?」
「パンダの着ぐるみだよ。榎本君が空の分の衣装も決めてたの」
別にそこまで悪くはないけれどなんだかなぁ。
「その着ぐるみ以外にはどんなのがあったんだ?」
「ん~男子のは浴衣とか袴とかスーツとかたくさんあったよ」
その中で俺はパンダの着ぐるみなのか。相馬の奴自分だけいいのを選んで俺の奴は絶対ネタで選んだな。
「そういえばお前は何着る事になったんだ?」
「えっと、私はね…」
渚は言葉をつまらせてどこか言いづらそうにしていた。
「今は内緒だよ」
「なんだよそれ。別にいいじゃないか」
「駄目なものは駄目!それより空早く準備するよ。学園祭まで後10日もないんだからね」
そう言うと渚はクラスの準備している女子のグループのところまで行った。結局渚の衣装はわからなかったがそんなに恥ずかしいものなのかな?
俺は渚の衣装を気にしつつも準備をしているグループのところまで行こうとした時ズボンのポケットに入っている携帯のバイブが鳴った。
携帯を出して見てみるとどうやら部長からメールのようだ。
「もし時間があれば部室の方に来てください」とのメールだった。
クラスの出し物のカフェの準備もあるが俺としてはめんどくさいし部室で部長と居る方が断然いいに決まっている。
俺は早々と答えを出してこっそりと教室の後ろのドアから出ていった。
「空さん来てくれたんですね!」
部室に入ると部長がいすに座っていた。机を見るとコーヒーが置いてあるのでたぶん飲んでいたんだろうな。
「うん。ちょうど暇だったし」
「だけど学園祭の準備はよかったんですか?」
「あ、ああ。俺達のところはカフェなんだけどそこまで派手にやるようなものじゃないし俺が居なくても大丈夫だよ。それに俺としては部活の方に来たかったしね」
「本当ですか!?空さんにそう言ってもらえると凄く嬉しいです」
部長に心配させないために言い訳がましいことを言っただけなんだが部長はどういう訳か喜んでいた。
「そういう部長は自分のクラスの出し物の方大丈夫なの?」
「私のクラスは休憩室みたいなものになりましたから特に準備とかは少し前の日にするだけでよくなったんですよ」
休憩室ってナイスアイデアだな。俺達のクラスも休憩室にしたらよかったのにな。
「ところで今日はなにかやるの?部長がメールで俺を呼び出すなんて珍しいし」
「はい、そのことなんですけど実はこの前言ったように私たち天文部も学園祭に参加することになりました。ちなみにもう出し物の申請は終わってます」
「おー、いつにもまして行動が早いね部長。それで一体なにをすることになったの?」
「プラネタリウムです!」
おー、ここにきて天文部らしいことをするな。
「いいんじゃないかな。天文部だしピッタリだと思うよ」
「本当ですか!よかったぁ空さんにそう言ってもらえて」
「ただ、ちょっと問題があるんだよね」
「問題ですか?」
「俺達天文部なのにその知識があんまりないって事だね」
俺も部長もそれに顧問の先生まで全く知識がないのはさすがに部としてもやっぱりどうかと思うよな。
「大丈夫ですよ。知識がなくてもプラネタリウムはできますよ。なんとか作品を作って後は本を読みながらでも説明をしたらなんとかできますよ」
なんだか簡単なように言っているけど大丈夫かな。まぁ部長がここまで言っているんだし否定はできないよな。
「そうだね。やってみないとわからないか」
「そうですよ!それでは早速準備するものなどを説明しますね」
この後俺と部長はプラネタリウムに必要な物などやどれぐらいお金がかかるかなどを計算していった。
「やっぱり意外とかかるもんだね」
「そうですね。でもこれぐらいなら大丈夫ですよ。ちゃんと部費もありますし」
「それなら安心だね。後は学園祭まで1週間ぐらいだしがんばって準備して行こうか」
「はい!」
自分のクラスのことはもう渚達に任せる事にするか。どっちかというとこっちの方が忙しくなりそうだしな。とりあえず当日にクラスの方をちょくちょく手伝いながらこっちに来る感じでいいか。…パンダの格好でだけど。
「それよりも部長のクラスは何をやるの?」
「休憩室です」
「羨ましい…」
「ただいまー」
「あ、空君おかえり」
部室で部長とあらかた学園祭について話した後はそのまま解散にして俺は家に帰って来た。
「あれ?姉さんはクラスの出し物の手伝いとかしなくていいの?」
「うん。私のクラスは結構早めから準備してたから余裕があるの」
早めから準備してたのか。俺のクラスと大違いだな。
「ところで姉さんのクラスは何をするの?」
「お化け屋敷だよ」
「へぇ、姉さんがお化けねぇ…」
なんだか妙に面白いな。というか姉さんがお化けって…。
「ちょっと空君。何笑ってるの~」
「いや、ごめん…。ちょっとおかしくて」
「全く~…」
いつものように姉さんはわざとらしく頬をふくらませた。
「ごめんごめん。それじゃあまた晩御飯になったら来るよ」
俺は姉さんにそう言って自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると制服を脱ぎ普段着になっていつもの様にベッドに倒れ込んだ。
「あ、そうだ電話しとかないとな」
俺は思い出したように携帯を取り出してある人に電話をすることにした。
「もしもし空?」
電話をして3コールほどで電話の相手は出た。
「あ、唯今いいかな?」
「もちろんいいよ!ちょうど家に帰って来たところだし」
電話の相手は俺の故郷でもある新宮に住む唯だ。
「それよりも空から電話なんて珍しいね。いつもメールばっかりだし」
「あはは、そんなに珍しいかな?」
「そうだよ。だって最後に空から電話したのが空がそっちに帰って着いた事報告したのが最後だよ」
というと約3週間前になるということだな。
「そうだったかな~?」
「絶対そうだよ。たまには空からもメールだけじゃなくて電話もしてね」
「ああ、そうするよ」
「それよりも今日はどうしたの?」
「ああ、実はな…」
俺は今度学校である学園祭について唯に説明した。今回電話したのは唯や柚子、社を誘うためだ。
「行く!絶対行くよ」
「でもやっぱりこっちまで遠いよな」
新宮から桜川まで船を使っても4時間はかかってしまう。
それに往復の料金も結構かかってしまう。
「そんなの関係ないよ。私たちは空に会いたいんだから」
「そっか」
なんだかそう言ってもらえるとこっちも凄く嬉しい。
「それに空が通ってる学校も気になるし空の友達も気になるんだ」
「だったら学園祭の時同時に紹介するよ」
「うん!お願いね。それじゃあ私は柚子ちゃんと社君にも伝えておくね」
「ああ、頼むよ」
この後少し唯と会話をしてから電話を切った。
唯が来るということは柚子と社も恐らく来てくれるだろう。だったら学園祭の方も少しは気合いを入れて頑張らないと。それに唯たちに桜川の友達を紹介する事になったし仲良くなってもらえたら嬉しいな。
学園祭前日。
学園祭までついに残り1日となった。
クラスの喫茶店の準備の方は着々と進められておりもうほとんど完成したようなものだった。まぁ俺は特になにもやってないのだが。
そして天文部の方も色々と難しいこともあったのだがなんとかインターネットや本などを使い予算の範囲内でほぼ自作でプラネタリウムを映す投影機を作ることができた。また俺達の先輩達が使ってあったであろう道具もあったので助かった。
多少不格好だが天井のスクリーンに映し出すのだからたぶん問題はないだろう。
とにかく学園祭までには間に合ったので本当によかった。
「いよいよ明日か」
「そうだね。空、明日はちゃんと手伝ってね」
「わかってるよ。パンダだけどな…」
実際にパンダの着ぐるみを見たのだが誰が何を言おうパンダだった。それ以外特に言う事はなかった。
「明日は他校の生徒も来るから楽しみだぜ!いよいよ俺の本気を出す時が来たようだな!」
「フフ、屑ね」
相変わらずだな相馬は。それに水無月も。
「それよりも3人とも部活の方の出し物はいいのか?」
「俺はもとより行く気はないしな」
「料理部はもちろん料理を出すよ」
「へー、姉さんも居るだろうしだったら料理部に行ってみるかな」
「私ももちろんやるわよ」
「お前は一体何をやるんだよ?というか本当に部活なにやってるんだよ」
「フフ、気になるかしら?朝倉ならいつでも歓迎よ」
「いや、やっぱり聞かない事にする」
たぶん、水無月の事だからろくでもないことでもするのだろう。
「天文部もプラネタリウムするんでしょ?大丈夫なの?」
「ああ、なんとかな」
そうは言うが正直まだ心配なところは結構あるんだけどな。
「それじゃあ俺は部活の方行くよ」
「ああ、お疲れさん」
「また明日ね空」
「フフ、明日は楽しみにしておくことね」
水無月の言った事は聞かなかった事にしておいて俺は最終確認のため部活に行くことにした。
部室に入ると部長が投影機の確認をしていた。
うーん、部室を見る限りプラネタリウムの外観は全然問題ないんだよな。あとは本番でうまく説明などができるかだよな。
「部長、投影機の調子はどう?」
「あ、空さん。調子は上々ですよ。スクリーンにバッチリ映りますよ」
「そっか。それじゃあ後は星座についてだけど…」
「それは大丈夫です私に任せておいてください!」
「え、大丈夫なの?」
「はい!だから空さんはクラスの出し物の方も頑張ってください」
少し心配だけど部長がここまで言うって事はそれほど自身があるということなんだろう。
「わかった。だったら頼むよ部長」
「はい。任せてください!」
「それにしてもウチ顧問は何もしないよね。少しぐらい手伝ってくれてもいいんじゃないかなあの人は」
「あはは…仕方ないですよ」
手伝わないどころか全然先生はこの部室にすら顔を見せないでいた。
「悪かったね。頼りない顧問で」
部室の扉のところからタイミングが良いのか悪いのか今一番聞きたくない声が聞こえた。
「あの、頼りないとまでは言ってないんですけど」
扉の方には俺のクラスの担任でもあり天文部の顧問の常盤先生が俺の方を睨んでいた。
「うっさい。私は当日自分のクラスの出し物と天文部の出し物の見回りやらちゃんとやるんだから。それと朝倉と水無月の監視もね」
「先生、俺と水無月って…」
「また、あんた等が何かするかもしれないからねだから生徒会やら他の先生達から言われてあんた等の監視も任されてるのよ」
また俺と水無月か…。俺は本当に何も関係ないんだけどな。
「ということで私は当日色々と忙しいのよ。特にアンタと水無月の監視にね。もちろん今さっき言った通り顧問としてここにもちゃんと来るから安心しなさい」
「ありがとうございます先生」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ明日はがんばりなさいよー」
それだけ言うと先生は部室から出て行った。
「あの人は頼りになるのかならないのか本当にわからなくなってきたな」
「でもちゃんと来てくれるみたいですからよかったですね」
正直よかったかよくなかったかは微妙なところなんだよな。
「とにかく明日はがんばりましょうね空さん!」
「ああ、そうだな。がんばろう」
この後は最終チェックをして今日は明日が本番という事もあり今日は早く解散することになり途中まで部長と帰った。
そして学園祭一日目。
「なぁ、どうしても着なくちゃならないのか?」
「今さら何よ。クラスの手伝いほとんど何もしなかったんだから今日ぐらいはちゃんとやってもらわないと」
「そうだぞ空。ほら着替えにいくぞ」
学園祭が始まり俺達のクラスの喫茶店オープンまで残り1時間ほどになった。
俺はパンダの格好に着替えなきゃならないんだがいざあのパンダの着ぐるみを着るとなるとなんだかちょっと抵抗が出てしまう。
「フフ、楽しみにしてるわよ朝倉」
教室では女子が着替えるので俺は渋々更衣室に向かうのだった。
更衣室に来てからもやはりこのパンダの衣装を見るだけでなんだか疲れてしまう。
「何してるんだよ空。さっさと着替えないと喫茶店オープンするぞ」
「わかってるよ。それよりもお前…」
相馬の衣装はスーツだった。というか普通に似会ってるな。
まるでどこぞのホストのようだ。
「俺様はなんでも似合うからな!学園祭に来た女性たちは俺様にメロメロさ」
喋らなければ本当にカッコいいやつなんだけどな。
「とにかくさっさと着替えろよ。俺は先に行ってるからな」
相馬や周りの男子達は着替えるとさっさと自分のクラスへと戻っていった。
仕方ない俺も着替えるか。
「着替えてきたぞ」
俺も着替えを済ませてやっとのことで教室に戻って来た。
教室に入るとやはり何人かが俺の方を見てきた。しかも笑ってる奴も居るし相馬にいたっては爆笑している。
「フフ、似会ってるわよ朝倉。キュン死しそうだわ」
「うんうん!可愛いじゃない空!」
「褒められても嬉しくない…」
鏡で改めて見ても俺の格好は何を言ってもパンダだ。
顔は出してパンダの頭はフードになっているのでそこだけは助かった。フードじゃなく顔を覆い被るやつだったらまずこのパンダの着ぐるみは着なかっただろう。
「それにしても水無月と渚はメイド服か」
メイド服はテレビとかでは見た事はあるがリアルには見たことなかったんだけどこういう感じなんだな。
「ちょっと空。あんまりジロジロ見ないでよ」
「あ、あぁごめん。それにしても二人とも結構メイド服姿似合ってるね」
「ちょ、ちょっと急に何言ってるのよ~」
顔を赤くして渚は動揺しているようだ。俺は普通の事を言ったつもりなんだけど。
「フフ、当然ね。惚れていいわよ朝倉」
「それは遠慮しとく」
「おーい、そろそろオープンするぞー」
どうやら時間になったらしい。何故かクラスを代表をして相馬がドアを開けている。
「なぁ俺はどうすればいいんだ?」
「空は接客お願い。後はお客さんの呼び込みお願いね」
接客はいいものの客の呼び込みってことは教室の外でやらないといけないよな。
「それじゃあ呼び込みの方行ってくるわ」
「お願いねー」
俺は仕方なくプラカードを持って教室を離れて呼び込みに行くことにした。
やはり廊下を歩いているだけで俺への視線を感じてしまう。
まぁそんなことよりもやはり学園祭という事もありどこのクラスもそれに部活も華やかで活気がある。
ほとんどが屋台などでヨーヨー釣りや射的などお祭りにあるようなやつが何個もある。
廊下に貼ってあるポスターなどを見ると部活やクラスで劇をするところもあるようだ。
どうやらやっぱり皆考えている事は一緒のようだな。
「ところで宣伝どうしよう」
さすがにこのパンダの格好で声かけなどをする勇気は俺にはなかった。
とにかくこの周りの視線を我慢をしてプラカードを持ちながら校舎内を歩いているか。
「空君みっけ!」
しばらく歩いていると前から菜穂先輩と茜先輩がやってきた。
「あ、どうも」
「朝倉君。なかなか楽しそうな格好してますね」
「いや、全然楽しくないんですが」
「そんなことないよー。空君凄くかわいいよ♪」
菜穂先輩は俺というかパンダの着ぐるみをさわってきた。
まぁ喜んでもらえるとこちらとしても嬉しいかな。
「先輩達は見回りですか?」
「ええ。クラスの出し物も大事ですけど生徒会の方が優先ですので今は見回りをしています」
「そうですか。大変ですね」
「というわけですので朝倉君。水無月さんと一緒に騒ぎは起こさないでくださいね?」
「なんで俺達が…」
「前科がありますので」
先生にしても生徒会にしてもやはり俺の周りには敵が多いみたいだ。
水無月がほとんど一人でやってることなのに。
「大丈夫だよ空君。そんなことしたら私が空君を生徒会に入れて更生してあげるから♪」
特に嬉しい事ではないんだけどな。というかすっかり生徒会というか菜穂先輩に狙われているという事を忘れていた。
「それじゃ朝倉君私たちは見回りがあるので」
「後で空君達のクラスにも行くからねー」
「はい。先輩達も頑張ってください」
一通り話した後先輩達は見回りへと戻っていった。先輩達が行った後俺も自分の仕事へと戻る事にした。
しばらくした後俺は教室の方に戻って来た。
教室に戻ってくるとまだ午前というのに意外にも人が来ていた。
「あ、やっと戻って来た。そんなところに立ってないで空も手伝ってよ」
メイド姿の渚は手に料理とジュースを持って忙しそうにしている。
「手伝ってって言われてもな」
教室に居る皆がそれぞれ役割を決めてやっているため俺の出る幕がないようにも気がするんだよな。
「あ、パンダさんだー!」
皆の仕事の状況を見ていると後ろから子どもの声が聞こえた。
パンダといえばたぶん俺の事だろう。
「パンダさん!パンダさん!」
3歳か4歳ぐらいの男の子が俺の足元に抱きついてきた。
顔は出してるんだけどそこのところはどうでもいいみたいだな。
「こら、やめなさいパンダさん困ってるでしょ。すいません家の息子が…」
子ども相手でどう対応しているか困っているとこの子のお母さんらしき人がやってきた。
「いえ、全然いいですよ」
「パンダさん♪パンダさん♪」
それにしてもこの子は余程パンダが好きらしいな。
「すいません。よかったらこの子と写真写ってもらってもよろしいですか?」
写真か。ここはやっぱりサービスだよな。
それにもしかしたらこれが俺の仕事なのかもしれない。
「もちろんですよ。よし一緒に写真撮ってもらおう!」
「うん!」
俺は脱いでいたパンダの顔のフードをかぶってパンダになりきって子どもと一緒に写真を撮ってもらった。
この後もこの写真を撮っている光景を見ていた外部の人や学生たちが集まって来て一緒に写真を撮るという事を繰り返していた。
「疲れた…」
いつの間にか時間は12時過ぎとなっていた。
写真を撮られるというだけなのにここまで疲れるとは思わなかったな。
「お疲れ様、空」
「ああ、お前もな」
休んでいると渚がやってきた。さすがにこいつのメイド姿も見慣れたな。
「そろそろ休憩入れていいよ。部活の方もあるんでしょ?」
「ああ、まぁね。でもそれは渚も一緒だろ」
「私の方は明日料理部を手伝えばいいからいいの。それに人数も多いしね」
「そっか。それじゃあ悪いけどあとは頼んだ」
クラスのことは渚達に任せて俺は部活の方へとむかう事にした。
途中で部長の分の昼ごはんも買って行く事にするか。たぶん部長の事だから昼ごはん忘れて働いているだろう。
――天文部部室
天文部に来ると意外な事に客が来ていた。決して多くいるというわけではないがまさかこの天文部にお客が来るとは思わなかったからな。
「あ、空さん」
部長は俺を見つけると俺の方にやってきた。
「部長、離れて大丈夫なんですか」
「はい。CDプレーヤーなどで説明は任せているので私が働くとこと言えば実際接客ぐらいだけなんですよ」
そういえば今さっきから声が室内に響いているな。よく聞いてみると部長の声だ。
なるほどCDに自分の声を録音してきてスクリーンに合わせて星座とかの説明をそのまま流しているだけなのか。
「それよりも部長これ」
俺は今さっき屋台で買ってきた焼きそばとオレンジジュースを部長に渡した。
「ありがとうございます。空さんの分は?」
「俺は今さっきここ来るまでに食べたから」
「そうですか。それじゃあお金を…」
「いいよ気にしないで」
「でもさすがに悪いですよ」
「いいんだよ。部長には天文部のこと任せっぱなしだったしこれぐらい大したことないよ」
「そうですか…。ありがとうございます空さん!」
部長は笑顔でお礼を言ってきた。ここまで喜んでくれたら気を利かせて買ってきた甲斐もあるってもんだよな。
「それよりも空さん」
「どうしたの?」
「そのパンダさんの着ぐるみかわいいですね」
「あ…」
すっかりパンダの着ぐるみを脱いでくるのを忘れていた。
というかこっちにくるまで着ているのすら忘れていた。
「あ、ありがとう」
まぁでもなんだかこのパンダの着ぐるみもなんだか慣れてしまったしこのままでもいいか。
「それより部長。なにか手伝えることとかない?」
「そうですねー。だったら廊下の方で接客お願いします。私は次のお客さんが着た時天文部の説明などしますので」
「了解」
俺は部長と交代して接客することとなった。部長は俺の渡したお昼ご飯を食べて次のお客さんのための準備をし始めた。
接客はほとんどクラスの喫茶の接客の時と同じで廊下の方で天文部への呼び込みをしてそして会計をするという流れの繰り返しだ。
「ハロー空君」
「やっと会えましたね先輩♪」
天文部に来たのは円香と美琴だった。
「二人とも、珍しい組み合わせだね」
「私が美琴ちゃんに学園の案内お願いしたんだよ。それに私たち仲いいよね」
「はい!私と円香先輩は仲良しです!」
どうやら二人は本当に仲が良いらしい。でもこの二人の性格ならすぐに仲良くなれるよな。
「それにしても空君パンダの格好可愛いね♪」
「めちゃめちゃ可愛いですよ先輩!」
「ありがとう…」
二人からこんなに直視されて褒められたらさすがに照れてしまう。
「と、ところで二人ともよかったらプラネタリウムどうかな?」
「もちろん寄っていくよ」
「それに千穂先輩も居るんですよね?挨拶もしていきたいですし」
「というわけで空君2人分の入場料」
そう言うと円香はプラネタリウムの入場料を渡してきた。
「毎度あり。それじゃあ中の方へとどうぞ」
入場料を渡して俺は二人を中へと案内した。案内した後は部長に任せて俺は自分の仕事へと戻っていった。
「おっす空」
二人を案内してすぐに廊下に戻ってくると今度はスーツ姿の相馬がやってきた。
「お前クラスの方はいいのか?」
「ああ、やっと休憩時間になってな。暇だからお前の様子見に来てやったわけ」
「別に俺は頼んでないんだけど」
「そう言うなって。それにしてもお前のパンダ姿好評だぞ」
なんだかこいつに言われても嬉しくないんだけど…。
「お前はいいよなスーツ姿で」
「早いもん勝ちよ!」
「あっそ…。それよりもお前バスケ部の方はいいのか?」
「俺は幽霊部員だから関係なし!」
どこか誇らしげに相馬は言ったがそれでいいのかと思ってしまった。
「お前の様子も見た事だしそろそろ行くかな。休憩がてらに早速女の子たちとお茶してきますかー。それじゃあな空」
それだけ言うと相馬はさっさと天文部から去っていった。
どうせ来るくらいならプラネタリウム見て行けよな。
「今さっきの榎本君?」
プラネタリウムが終わったようで円香と美琴が教室から出てきていた。
「女の子とお茶しに行くってさ」
「榎本君は相変わらず馬鹿だねー」
「はい、榎本先輩は女ったらしですね」
なんだか凄い言われようだな相馬の奴。やっぱりここ最近皆からの相馬の評価下がって来てるよな。
「それじゃ空君、私たちは行くね。プラネタリウム楽しかったよ明日も来るから一緒に学園祭まわろうね」
「先輩明日は一緒に学園祭過ごしましょうねー」
二人と別れると俺はまた自分の仕事に戻った。それにしても意外と人来るもんだな。
そして気づけば一日目の学園祭は終わろうとしていた。
「お疲れ様です空さん」
「うん、部長もお疲れ様」
「それにしてもよかったんですかクラスの方は?午後からはずっとこっちで働いてくれてましたけど」
「大丈夫だよ。渚がクラスより部活の方手伝ってあげてって電話くれたし」
「そうですか。それならよかったです」
どうやらクラスの方は俺が居なくても順調に事が運んだようだ。
「それにしても意外とお客さん来てくれてよかったね」
「はい!お客さんも喜んでくれてたようで良かったです」
プラネタリウムもそれなりに好評で一日目は良かったと思う。
この調子なら明日は心配する事はなさそうだな。明日は唯達の案内もあることだし忙しくなりそうだしな。
「空さんこちらはいいですのでクラスの片づけを手伝ってあげてください」
「え、でもこっちもまだやることがあるんじゃ」
「大丈夫ですよ。こっちは明日の用意少しするぐらいで終わりますから」
「そっか。それじゃあ行かせてもらうよ」
後の事は部長に任せてクラスの方へ行こうとしたが行く前に部長に言う事があった。
「あ、そうそう部長」
「どうしたんですか?」
「明日の昼だけどよかったら一緒に食べに行かない?」
「え、私とですか?でも明日新宮からお友達がいらっしゃるのでは」
「唯達はお昼ちょっと過ぎるかもって言ってたから時間がちょっとあるんだよ。だから一緒にどうかなって」
「あの、一緒に行っていいんですか?」
「当たり前だよ。部活の方も大切だけど昼飯の休憩ぐらいはいいでしょ。あ、でも部長が嫌なら別にいいんだけど…」
「そんなことありません!明日是非一緒にお願いします!」
今さっきと違い急に部長は声を張り上げた。
「そ、そう?それじゃあ明日の昼ということで」
「はい!楽しみにしてます♪」
少し部長の反応が気になったがまぁ喜んでいるようだしいっか。
「あれ、特に手伝う事なかったかな」
「空戻って来たんだ。うん、片付けも終わったよ」
教室に戻ってくると皆はすでに帰ろうとしていた。どうやら手伝う必要はないようだ。
「なんかごめんな、色々と任せっきりで」
「いいよ。空も色々と忙しいみたいだしね。それに空が居なくても結構問題ないよ」
なんかそれはそれで寂しいような寂しくないような。
「そういえば水無月は?なんか今日は午後から全然見てない気がするんだけど」
「さぁ?彩音ちゃん気づいたら居なくなってたから」
確か俺が休憩する前には居なかったような気がする。一体なにをしているんだろう少しだけ気になる。
「空そろそろ帰ろうよ」
「そうだな。帰るか」
「あ、空!」
「ん?なんだよ」
「それ、そろそろ脱いでもいいんじゃない?」
「あ…」
俺はすっかりパンダの着ぐるみを脱ぐのを忘れていた。ここまで忘れていたってことは相当慣れたってことだよな?
「そういえば明日新宮の友達来るんだっけ?」
「ああ、うん。明日の昼過ぎにな」
「空の新宮の友達かー。できることなら仲良くなりたいけど大丈夫かな?」
「心配することないよ3人とも良いやつだから。それに、あの3人も友達になりたいって言ってたし」
「そっか。それじゃあ明日楽しみにしておこっかな」
桜川の友達も新宮の友達も俺にとっては大切な友達だしどちらも仲良くしてくれたら俺としては嬉しい限りなんだけどな。
「それしても女の子二人かー。ちょっと心配だな…」
「ん、何か言ったか?」
「何でもないよ。独り言」
渚が独り言なんて珍しいな。まぁそう言う時もあるか。
「ただいまー」
「おかえり~空君」
家に帰ってくると姉さんが迎えてくれた。なんだか今日1日色々大変だったからか姉さんと会うのが凄く久しぶりに感じる。
「姉さん今日はお疲れ様」
「うん、空君も。それにしても疲れたよ~空君に会えなくてお姉ちゃん寂しかったんだから」
「そ、そう?」
姉さんの話を聞く限り相当料理部は忙しかったようだ。そういえば休憩している時見たんだけど料理部の屋台の方は凄い行列ができてたな。
それほど料理部の作る料理が人気ってことなんだろうな。
「姉さんは明日も料理部?」
「午前中だけね。午後からは空君と一緒に学園祭まわれるよー♪」
「それならよかった。姉さんに新宮の友達と会ってほしいんだ」
「新宮の友達ってこの前一度修学旅行でここに来てた3人の子達だよね?」
「うん、その3人のことだよ」
「そっか。もちろん会わせてもらうよ。それに謝りたいこともあるし」
たぶん姉さんが謝りたいと言ったことはこの前俺が新宮に行く前この家であったことを言っているのだろう。
でも、あの3人は特に気にしてないだろうし謝らなくてもいいと思うんだけどな。
まぁ謝らなくてもいいと姉さんに言ったとしても姉さんはずっと気にしてたろうし謝るだろう。
「仲良くなれるといいね」
「うん。空君の友達だったら私も友達になりたいし」