表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

故郷

現在船で新宮へと移動中だ。

船の中で俺は特にすることもなかったので寝ていたが携帯のバイブで目が覚めた。

携帯を見ると新宮に居る夏川さんからメールだった。


どうやら夏川さんは俺が新宮に着いたら迎えに来てくれるようだ。

昔住んでいた場所だといっても記憶が全く無くて心配だったので夏川さんの迎えは本当に助かる。




メールも終わり俺は時計を見ると桜川を出発して結構な時間が経っていた。

そろそろ新宮に着くはずなのだが。


「あっ、あれが…」


窓の外を見ると遠くに新宮の街が見えてきた。



船が近づくにつれて新宮の街がどんどんはっきりと見えてきた。

ぱっと見でわかるけど桜川と違いやっぱり新宮って都会なんだな。

俺があそこに住んでいたなんて信じられないな。



呆然としばらく新宮の街を眺めているともうすぐで着くという連絡が入ったので俺は船から降りる準備をすることにした。











「ここが新宮かぁ」

船から新宮へと降りた。船から見てもわかってたがやっぱり近くで見ると本当に都会ということがわかる。

なんだあのでかいビルは。それにデパートもかなり大きい。

それにここの船着き場からは大きな観覧車も見える。


なんだか俺凄い田舎者だな…。


「おーい空~」

遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

俺はその呼んだ方を見てみるとそこにはこっちに走ってくる夏川さんの姿があった。



「こんにちは夏川さん」

「本当に新宮に来てくれたんだね」

まぁ嘘をついても仕方ないしな。それに両親の墓とこの目で自分がどんなところに住んでいたかを見ておきたかったし。


「わざわざ迎えにきてくれてありがとう夏川さん」

「ううん、全然。私が迎えに来たくて来ただけだし」

夏川さんにそう言ってもらえると俺としても助かる。それよりもこんないい子が俺の幼馴染だったんだよな。なんだか今の幼馴染の渚と全然違うタイプなんだよな。清楚っていうのかな?

まぁ別に渚が清楚ではないと思っているわけでもないんだが。


「どうしたの空?」

「なんでもないよ。さてとそろそろ行こうか夏川さん」

「あ、その前にひとつお願いがあるんだけど」

「お願い?」

「私のこと名前で呼んでほしいの」

「ああ、そんな事か。俺は別にいいけど夏川さんはいいの?」

「いいに決まってるよ!空、昔は私たちの事名前で呼んでたし」

そうだったのか。私たちってことは梶谷君や桑原さんのことも名前で呼んでいたってことなのかな。


「わかったよ。改めてよろしくね唯」

「うん!それじゃ行くとしようかぁ」

唯は名前を呼んでもらって嬉しかったのかスキップをしながら進み始めた。

これだけのことで喜んでもらえるのはこちらとしても嬉しいな。

というか俺って何気に女性を下の名前で呼ぶの慣れてきたのか?

さすがにそれはないよなぁ。









唯に連れられて移動しているが一体どこに行っているんだろう?

俺が住んでいたといわれる家は火事でなくなったらしいけど火事の後はどうなったのかな?

少し気になってしまう。


それにしても今さっきから人がたくさん歩いているけど祭りでもあるのか?

車も凄い走ってるしこれが都会では当たり前なのかな。


キョロキョロと見ていると唯は裏道の方に入って行った。

俺は唯を見失わないように追いかけた。

裏道に入ると今さっきみたいに車も走ってなく歩いている人も少なかった。

俺としてはやっぱりこっちの方が落ち着く。


しばらく裏道を歩いていると結構広い道に出てきた。

そこには凄い数の家が並んでいた。ここが住宅街か。





「空ここだよ」

またしばらく住宅街を歩いていると唯は立ち止りそう言った。

俺は唯が立ち止った前の家を見ると3階建てくらいの大きな家だ。


「ここは?」

「私の家だよ」

唯の家か。なんだろう初めて来るのに全然そんな気がしない。

やっぱり昔唯の家に何回も来ていたからかな。


「あ、ということは隣は…」

俺はこの前唯が俺と家が隣同士だったと言ったことを思い出した。

「ううん。私の家はあの火事があった後ここに引っ越してきたんだよ。だから空の家は隣じゃなくてここからもう少し行ったところにあるよ」

そっか。俺の家が火事にあったとき隣の唯の家にも燃え移ったかもしれないんだよな。


「そんなことよりほらほら空ドア開けてよ」

「あ、ああ」

唯は俺を察してなのか話を変えた。

俺は唯に言われるがままにドアを開けた。


「こんにちは~」



「「おかえりー!」」

ドアを開けるとそこには梶谷君や桑原さんが居て俺を迎えてくれた。



「よく帰って来たな空!」

「待ってたよ空君」

「あはは…どうも」

俺はどう反応していいのかわからず逆に困ってしまった。

ここは「ただいま」でよかったのか?


「まぁまぁ空。ここに立ってないで中に入って」

唯に言われて俺は少し戸惑いながらも中に入って行った。


リビングの方まで行くとそこにはたくさんの料理がテーブルに並べられていた。

それにリビングはえらく派手に飾りつけがされていた。

俺を迎えるためだけにここまでやってくれたのかな。



「あなた空君ね」

俺はリビングを見ていると後ろにはいつの間にか40代中ごろの男性と女性が立っていた。

唯の両親なのかな。


「ええ、そうですけど」

「やっぱり!本当に大きくなって」

そう言うと唯のお母さんであろう人はいきなり俺に抱きついてきた。


「わわっ」

俺は驚いてバランスを崩しそうになってしまった。

「ははっ母さん空君が驚いているだろう」

「あらら、ごめんね空君」

「久しぶりだな。元気にしてたかい空君」

「ええ、一応」

「よかったわ。それにしても本当に大きくなったわね空君。昔はあんなにちっちゃかったのに」

「お母さんお父さん空は昔の事覚えてないんだよ」

「あ、そうね…。ごめんね空君」

「いえ、全然大丈夫です」

まぁ実際記憶をなくしていることについてはそこまで困ったことはなかったしな。


「おーい空座れよー。おばさん達がせっかく料理作ってくれてるんだから食おうぜー」

「そう言って一番食べたいのは社君でしょ?」

いつの間にか梶谷君と桑原さんはいすに座っていた。

俺もふたりに促されて席へ着く事にした。それにしても本当に豪華な料理だな。


「空君も帰って来たことだし皆で乾杯しようよ!」

「お、いいな。やろうぜ」


「ほら、空もグラス持って」

「あ、うん。ありがとう唯」

俺は唯からジュースの入っているグラスを受け取った。


「さてと、乾杯の温度は私がいかせてもらうね」

そう言うと桑原さんは立ち上がり俺の方に顔を向けた。


「それじゃあ空君の新宮への帰省を祝して乾杯ーーー!」

「「「乾杯ーー!!」」」

皆はグラスを持って大声で乾杯をした。

俺も少し戸惑いながらも皆につられて同じように乾杯をした。








「それでね空君が居ない間は唯ったらずっと寂しくしてたんだよ!」

「ちょっと余計なこと言わないでよ柚子!」

「あっはっはっ!でも本当のことなんだろう夏川!」

「社君まで余計なこといわないでよー」


3人はとても楽しそうに喋っているが俺は未だにこの場にとけこめないでいた。

この3人とどうやって接すればいいのかがわからない。今のこのまま初めて会ったような状態で話していいのかそれとも昔のように幼馴染として話していいのかが。


「どうだい空君。楽しめているかい?」

隣にいる唯のお父さんが俺の様子を窺うように話しかけてきた。


「はい。料理もおいしいですしわざわざ俺のためにここまでしてくれなくても」

俺がそう言うとなぜか唯のお父さんは何故か笑った。

「それは君が帰ってきてくれたことを皆が嬉しく思って勝手にやったことさ、だから気にしなくていいんだよ」

「そうですか。それならいいんですけど」

「ふっ、君は昔からそういうところは変わってないんだな。そこのところは父親ゆずりのようだな」

「父さんと?あの、父さんは…俺の両親はどういう人だったんですか?」

「そうだな…いや、この話は明日することにしよう。今は楽しんでくれ。せっかくのパーティなんだからな」

唯のお父さんは立ち上がりグラスを持って飲み物を取りに行った。

自分の両親のことはすごく気になるがやはり唯の父さんが言ったように今は楽しもう。



「ほら空君も食べて食べて」

「うん、食べてるよ。あ、そうだ桑原さんって…」

「桑原さんじゃんなくて柚子でしょ綾人君!」

「え、でもそんないきなり」

「でもじゃないよ。私たち幼馴染じゃない。それに唯のことだけ下の名前で呼んでるのに私のことは名字で呼ぶなんて反則じゃない」

「反則って。じゃあそう言うなら下の名前で呼ぶけど」

「んじゃ俺も俺も!俺たち友達だろ」

「あぁ全然いいけど」

唯のときもそうだったがいざ呼ぶとなったら少し照れてしまうな。


「改めてよろしくね柚子、社」

「えへへ~やっぱりそっちのほうがいいね」

「よろしくな綾人」

名前を呼んだだけでふたりはどこか嬉しそうな顔をしてくれた。


「あれ~唯ちゃんったらなんか嬉しそうじゃない?」

「ほんとだー。ねぇねぇ唯なにかいいことあったの?」

「え?ううん、ただこうやってまた綾人と皆と一緒に楽しく喋れる時が来て良かったって思って」

唯は恥ずかしそうにそして嬉しそうにそう言った。


「そうだな。俺も同感だ」

「うんうん!やっぱり全員がそろってこそだよね」

唯の両親が温かく皆を見ている中3人は笑いあっていた。



ここに居るとなんだか落ち着く。いや、ここに居る皆が居るからこそだろう。

やっぱりこう思えるのは昔俺がここに居たからなんだろうか?



けれど今は昔のことなど全く関係なしで楽しいと思うのだった。











俺の帰ってきたことを祝うパーティは終わり夜になると皆は解散した。

そして俺は唯の家に泊まることとなった。使ってない部屋があるということなので俺はそこを使わせてもらい今はその部屋でゆっくりとしていた。

部屋を見る限り明らかに俺が泊まることを前提にきれいにしてくれてるよな。

おいしい料理も食べさせてもらい風呂も使わせてもらい、泊めてくれて本当に唯、それに唯の両親には感謝しないとな。


「あ、そうだ。姉さんに電話をしておかないと」

新宮に来てからバタバタしていて全然連絡をとっていなかった。早く連絡をしておかないと




「空ー今いいかな?」

携帯をカバンから取り出そうとしたときノックの音とともに廊下から唯の声が聞こえた。


「ああ、いいよ」

「失礼しまーす」

俺が返事をすると唯はドアを開けて入ってきた。唯は結構可愛い青い色をしたパジャマを着ていた。

そして手には何か四角い分厚いものを持っていた。


「どうしたの唯?」

「明日のことを話しておこうかと思って。空は明日空いてる?」

「全然空いてるけど」

そもそも新宮に遊びに来たというわけじゃないんだしな。


「だったら明日空のお母さんとお父さんのお墓参り行こうと思ってるんだけど。あ、社君と柚子も一緒にね」

「俺もそれが目的でここに来たみたいなものだし案内よろしく頼むよ」

「任せてよ。あ、それと…」

唯は手に持っていた物を俺の前に出した。


「これは、アルバム?」

「うん。空にアルバムを見せようかなって思って。私たち幼馴染でほとんど毎日一緒に居たから写真に空がいっぱい写ってるの」

唯はアルバムを開いた。開いたアルバムの中はたくさんの写真が貼られていた。

開いたページだけを見てもそこには男の子と女の子がふたり楽しそうに遊んでいる写真でいっぱいだった。もしかしてこれって


「これが私。それで私の横に居るのが空だよ」

唯は男の子と女の子が楽しそうに公園で砂遊びをしている写真を指差した。


「これが俺なのか」

唯は今とあまり変わらず笑顔が可愛い女の子なのだが俺は特になにも特徴がないような男の子だった。


「でも空ってあんまり顔変わってないね。成長してないのかな」

唯は笑いながらそう言ったのだが俺自身もそう思ってしまう。

というか言われてみれば面影があるような…。


「ほら、これも見て!」

今度は海ではしゃいでいる俺と唯が写った写真を唯は指差した。

この写真も二人は楽しそうに遊んでいた。本当に俺と唯は仲が良かったんだな。


「ほらほら、これもこれも!」

唯は次々と俺にアルバムの中の写真を見せていった。

アルバムの中の写真はほとんどが俺と唯のツーショットだったのだが途中から社と柚子も写っていた。


「この写真は…」

アルバムの最後のページの写真を見ると俺はアルバムから取り出した。


「これは空が新宮から居なくなる前の最後の写真だね」

写真には俺、唯、柚子、社が笑顔で写っていた。

唯、柚子、社は分かるが俺がこんなに笑顔できていたなんて信じられないな。


でもそれだけ新宮が、皆と一緒に居るのが良かったからなんだろうな。


「ねぇ空」

「ん?」

「えーっと、その…」

唯は言葉を詰まらせて何か言いにくそうにしていた。


「ううん、やっぱりなんでもない!それじゃ明日も早いからおやすみ空!」

「え、ちょっと」

唯はアルバムを持って急いで部屋から出て行った。

一体なんだったんだろう。



それよりも姉さんに電話をしようと思っていたがもう夜も遅いしメールにしておこう。

唯も言ってたように明日は朝が早い早く寝なきゃな。




この後俺は姉さんにメールを送って寝ることにした。

ちなみに携帯を見ると着信が10件にメールが20件以上と驚愕の数字だった。

ほとんどが姉さんだったのだが俺は見なかった事にした。

とにかく明日はちゃんと電話しよう。














次の日の朝。


「おはようございます」

リビングの方に来ると既に唯のお父さんと唯は起きており唯のお母さんは朝食を作っていた。

「おぉ空君早いね。おはよう」

「起こしに行こうと思ったんだけどな~。昔と違って一人でも起きられるようになったんだね空」

「あはは、さすがにね」


正直言うと朝一で姉さんから電話があってそれで起こされたんだけどね。昨日電話をしなかったことに対して説教されたがまぁこっちから電話しなくて済んだしよかった。


俺は唯に手招かれテーブルのいすに座ることにした。


「昨日はゆっくり寝れた?」

「ああ、おかげさまでね」

「そっか。それならよかった」

「はーい皆朝ごはんできたわよー」

唯と話していると唯のお母さんが朝食を持ってきた。ベーコンエッグに食パンそれにサラダどれも普通のものだけれど凄く香ばしい匂いがして凄く美味しそうだ。

「すいません、わざわざ朝ごはん作らせちゃって」

「なに言ってるの!空君は息子みたいなものなんだから作るのは当たり前よ」

息子か。なんだかそう言ってもらえるだけで俺は何故か凄く嬉しくなった。





「おはよーございまーす」

朝食を食べようとしたら玄関のほうから声が聞こえてきた。この声は柚子だな。


「柚子たちでしょー入ってきていいよ」

唯が返事をすると柚子と社はリビングのほうへやってきた。


「おおっ!空のやつがこんな早くから起きてるだと!?」

「本当だ!空君がこんな時間から起きてるなんて」

「あはは…そんなに変かな?」

子供のころの俺ってどれだけお寝坊さんなんだよ。


「柚子ちゃんと社君も朝ごはん食べる?」

「いいんですか!?」

「ええ、来ると思って多めに作っておいたのよ」

「ぜひぜひいただきます!」

「おい、柚子。お前朝飯食べてきたって言ってたじゃないか」

「お母さんとおばさんの朝ごはんは別なんだよ~」

そう言うと柚子は俺の隣に座っておばさんが用意してくれた朝ごはんを勢いよく食べ始めた。

社はそれを見て肩をすくめていたが社もおばさんが朝ごはんを用意してくれたので椅子に座って食べ始めた。


こんなに大勢でご飯を食べるのは桜川の皆と海に行ったとき以来だな。

最近は姉さんと喧嘩してて一人で食べていたがやっぱり一人で食べるのと皆で食べるのは全然違うな。

俺はしみじみとそう思いながらおばさんの作ってくれたおいしい朝ごはんを食べるのだった。










「さてと、そろそろ行こうか皆」

朝食を食べた後俺たちは準備をして外に出た。

唯が言うには今日は先に俺の両親の墓参りに行ってその後は俺が元住んでいた家に行く予定だ。


「ここからお墓までは近いの?」

「そうだね、だいたい歩いて30分ぐらいのところかな」

「バス使って行ってもいいんだけど空君新宮のことほとんど忘れてるみたいだから歩いて新宮見学ということで新宮を思い出してもらおうと思ってね~」

「そうなんだ。それじゃあ頑張って思いださないとな」

まぁ本当に思いだせるかは別にして新宮をゆっくりと見てみたいという気持ちはあった。


「それじゃあ出発しようぜ」

「そうだね。それじゃあしゅっぱーつ!」









唯の家を出てからは俺達はまるで遠足に行くかのように楽しく新宮の街を見て回っていた。

途中あった遊具の多い公園、桜川ではまず見ることない異常なでかさのデパート、そしてグラウントが広い小学校。この全部のものがここにいる3人と遊んで、勉強した場所なんだよな。なんだか本当に考えられなかった。




しばらく新宮の街を見学しながら皆と話しているとあっという間の内に墓場に着いた。


「空のお父さんとお母さんの御墓だよ」

父さんと母さんの墓は結構高台の方にあり一見は普通の墓なのだがその墓の周りにはたくさんの花束やお菓子などが供えられていた。


「空君のお父さんとお母さんって凄く優しくてそれに楽しい人だったんだよ。街では結構人気者だったんだから」

「そうなのか」

だから墓の周りにはこんなにも花束などが供えられているのか。


「空、これ見て」

そう言うと唯は俺に一枚の紙切れを渡してきた。どうやら写真のようだ。

俺はそれを受け取って見てみるとそこには3人の人物が写っており真ん中には今では考えられないほどの眩しいほどの笑顔の俺が居る。

その子供のころの俺の左右には優しい笑顔をしている男性と女性が写っていた。もしかしてこれは…


「それが空のお母さんとお父さんだよ」

「これが俺の父さんと母さん…」

父さんは身長が高くていかにもスポーツマンという感じの人だ。母さんは父さんとは逆で身長は低めな方で顔を見てもわかるように凄く優しい人だというオーラが写真からでもわかった。

俺が見る限り顔は母さんのほうに似ているのかな?


「どうだ、空。何か思い出せたか?」

社に聞かれて俺は首を横に振った。でも、何か思い出せそうなんだ。

ここに来て父さんと母さんの墓、そして父さんと母さんの写真を見て何かが頭の先までこみあげてきている。

俺は再びじっくりと写真を見ることにした。



何度見てもその写真には優しい顔の二人が写っておりその二人の間には俺が明るい笑顔で居る。

ここまで俺が笑っているという事はそれほどこの時が幸せだったという事だよな。



会ってみたい。もう一度父さんと母さんに…。

記憶も何もかも忘れているけどこの写真を見るだけで俺の心は何故か癒され会いたいという気持ちが強くなっていった。




「うッ…」

そう思っていると突如頭に痛みが走りひざから崩れ落ちてしまった。


「空君、大丈夫!?」

柚子がそう聞いてきたが俺はあまりの頭の痛さに口が開かなかった。

この頭の痛みはこの前の唯が俺に過去の事を話してくれていた時の痛みと一緒だ。



俺はなんとか立ち上がろうとしたが突如視界が真っ暗となり俺の意識はとんでしまった。












あの時と一緒だ。

夢を見た…いや、これは夢なんかじゃない。




「お母さん!お父さん!」

そう、あの俺の家が火災にあったとき俺と母さんと父さんは家の中にいたんだ。

だけど火が迫ってきている部屋からではどんなに母さんと父さんを呼んでも声は届かなかったんだ。


母さんも父さんも来ないまま俺の部屋には火が一面に広がろうとしていた。

このまま死ぬわけにもいかない。もしかしたら母さんや父さんはとっくに避難をして逃げているかもしれない。それに唯、柚子、社が僕を待ってくれている。


そうして俺は意を決して2階の自分の部屋の窓から下へと飛び込むことにした。




ここで俺の記憶が飛んでしまったんだ。いや、こんな思い出を自分から封じたかったのかもしれない。






そして俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。どこの病院かもわからずましてや自分のことなんて下の名前ぐらいしかわからなかった。


そんな状態の時に声をかけてきてくれたのが姉さんの父さんの祖父でありおじさんだ。

そこから俺の新しい記憶が始まった。少し変わった姉と呼べる人に出会い、素直じゃない幼馴染の女の子ができて悪友と呼べる人物そのほかにもたくさんの人に出会った。





全てが繋がった。





これが全て俺の記憶。













「空!!」

近くで大きな声が聞こえる。これは――――


「あ、皆」

目を開けると眩しいくらいの太陽の光と心配そうに俺を見つめている3人が俺の前に居た。


「空大丈夫!?心配したんだよ!」

唯は俺に勢いよく抱きついてきた。

「全くいきなり倒れるからマジでびびったぜ」

「ほんとほんと。あんまり心配させないでよね空君」

どうやら3人は俺の事を本気で心配してくれていたようだ。



「俺、全部思いだしたよ」

「え?」

「3人と出会った時の事、ここで暮らしていた時の思い出。それに母さんと父さんの事も」

「嘘…」

唯は目に涙を浮かべて俺の顔を見た。


「本当だよ。だから…」

俺は3人の顔を見てから新宮に帰って来てから言ってないことを言う事にした。





「ただいま」

照れながらも俺は幼馴染たちにちゃんと言いたかった事が言えた。



「おかえり!」

そして3人の幼馴染は笑顔で俺を迎えてくれた。









記憶を取り戻した後は改めて墓参りをすることにした。

不思議なもので記憶を失っていた時と記憶を取り戻した今とでは全然感じが違う。たった数十分前のことなんだけどな。


記憶を失っている時は親の事はあまり関心なんてなかったけど今は違う。

父さんと母さんの声が聞きたかった。もう一度父さんと母さんと一緒に暮らしたかった。

本当に心の底からそう思ってしまう。


「空大丈夫?」

俺の様子が気になったのか唯が心配そうに俺の顔を見ていた。

確かに今は父さんも母さんも俺の傍には居てくれない。


だけどこうやって俺のことを心配してくれる友達がいる。


「大丈夫だよ」

だから安心して母さん父さん。俺はもう大丈夫だから。

俺は墓に花を置いてお参りをした。




「さて、帰ろうか」

「もういいのか?」

「うん、十分お参りもできたしね」

「そっかー。それじゃあ皆でお昼ごはん食べにいこー!」

「いいな。だったら最近ここの近くにできたカフェレストラン行こうぜ」

「おっ、社君のくせにいいアイデアだすね。それじゃあそこまで競争だー!」

柚子は勢いよく走り出した。

「おい待てよ!さすがに走っていくとなると疲れるって」

柚子をおいかけるように社も走り出した。


2人を見ているとすごく懐かしい感じがした。昔のことだというのに昨日からあったような気がしてしまう。

そういえばそうだったな子供のころはいつもハイテンションな柚子。それにいつも冷静な判断をする社だったよな。まぁ今もあの2人は何も変わってないようだけど。


「行こ、空♪」

唯は俺に手を差し出してきた。俺はその手をとり手を握った。


「ああ、行こうか」

唯もそうだったよな。この3人の友達の中では一番付き合いが長く昨日唯が見せてくれた写真の通りいつも一緒だったな。手を繋いで遊びに行って夕暮れまで遊んで…。



また3人と昔みたいな関係を築くことができる。

俺はそう思うだけで嬉しい気持ちで感情が高ぶるのだった。













夜。今日一日中俺達は外に居たような気がする。

俺が気を失って倒れた事もあり墓参りに時間がかかり昼食も遅くなった。だけどカフェレストランでの昼食の時間は本当に楽しかった。

特に会話の中では俺達の昔話で盛り上がった。今日の朝までこの3人の事を忘れていた事が本当に嘘のようだった。


そして唯の家で今夜もまた唯のお母さんの料理を食べらせてもらうことになり昨日と同じで皆と食事をとっていた。




「そういえば空って今どんな暮らししてるの?」

唯のお母さんが作ってくれたシチューを食べていると唯がそんな事を聞いてきた。


「今は姉さんと姉さんの祖父のおじさんが居るんだけどその人と暮らしてるよ。でもおじさんは出張で居ないから姉さんとふたりなんだけどね」

「へぇそうなんだ。その空君のお姉さんってこの前の人だよねあの人綺麗な人だったよね~」

「そうだな。あんな人と一緒に暮らしてるなんて羨ましい限りだぜ。それにあと二人女の子居ただろ?」

「あの二人は学校の友達と今の幼馴染だよ」

確かに姉さんは他の誰が見ても美人と言うだろう。でもずっと一緒に暮らしてるから俺は別に何とも思わないんだよな。


「それじゃああの人達は本当にお姉さんと友達ってことだよね!?」

「そ、そうだけど」

何故か唯はいきなり声を上げた。


「そうだよね。えへへ、ごめんね変な事聞いて」

「ふふ、唯ちゃんまだチャンスはあるわよ。お母さん応援してわよ」

「お母さん何言ってるのよ!」

唯は顔を赤くしてお母さんに怒っているが何だ?


「まぁでもこれで空がいつでもここに帰って来てもよくなったな」

「そうだね。なんてったってここが空君の故郷なんだしね」

「うん。それに記憶が戻ってよかったよ」

あのまま記憶が戻らなかったらなんだか新宮が故郷とは言いづらかったしな。


「だったら空君こっちに戻ってくるというのはどうだい?」

「えっ?」

唯のお父さんがいきなりそんな提案を出してきた。


「ここは君の故郷だ。君のお父さんやお母さんだっている。それに私たちは君が帰ってくるなら歓迎するよ」

「そうね!パパいい事言うわ!空君戻ってきなさいな。学校の手続きだって私たちがやってあげるしもし空君がよければここで暮らしてもいいのよ」

「おっ、唯のお父さんお母さんいいアイデアですね。空是非そうしろよお前が戻ってくるなら俺たちだって嬉しいぞ」

「そうだそうだー、空君戻ってきちゃいなよ」

皆がそう言ってくれるが正直俺は凄く困っていた。

故郷に戻ってくるのは全然いいけどでも今の俺には桜川がそれに桜川には姉さん達が…


「ちょっと皆!空が困ってるじゃない!」

そんな俺が困っている中唯が皆の事を止めてくれた。


「あ、ごめんね。空君私たちが勝手に話し進めちゃって」

「いえ全然大丈夫です。そのことについては考えときます」

今の俺の返事はそう言うしかできなかった。

だけど明日の夕方にはここを出ないといけないので答えは今日中には考えておかなければならない。






その後は本当に楽しい食事の時間だった。

食事が終わると柚子と社は帰って行った。俺も借りている部屋に戻り明日の準備をしてから姉さんに電話をすることにした。


「空、今いいかな?」

ドアの向こうからノックをして唯の声が聞こえてきた。


「ああ、いいよ」

「おじゃましまーす」

パジャマ姿の唯は何故だが恥ずかしそうに部屋に入って来た。昨日もここで話したというのにどうしたんだろう?


「どうしたんだ唯?なんか変じゃないか」

「そ、そうかな?き、気のせいだよ」

明らかに動揺してるし気のせいじゃないよな。


「ところでどうしたの。何か用事?」

「う、うん。その事なんだけど…」

唯は何かを言いだそうとしているのだがどこか言いづらそうにしていた。


「久しぶりの新宮の街はどうだった?」

「んー、そうだな。やっぱり俺が子どもの頃の時の新宮と結構変わってたから少し驚いたけど変わってないところもあったから安心したよ」

「そ、そっか。それならよかった」

その新宮の話が終わると唯は黙って俯いてしまった。


「どうしたんだよ唯。なんかおかしいぞ、熱でもあるんじゃないか?」


「…いてよ」

唯の顔をのぞこうとしたら唯は何かつぶやいた。

「え?」


「このまま新宮に居てよ空」

唯は目を潤ませながら顔を上げてそう言った。


「ごめんね勝手な事言って。でも私は空に新宮に居てほしいの。私、空が居なくなってから本当に寂しかった。毎日毎日泣いたよ。でもこんな私のままじゃ空に笑われちゃうと思って変わろうと今までがんばってきた。空がいつかここに帰って来てくれることを信じて」


そんな唯が言っている事に俺は何も言えないでいた。


「空と再会できた時本当に嬉しかった。また空に会えたって、また空と一緒に居られるって。だから、だから…」

唯は言葉を詰まらせていた。

姉さんと話さなくなった時も姉さんは泣いていたよな。俺が桜川から居なくなるのが怖くて。

でも今回は逆だ。俺が新宮からまた居なくなる事で唯が泣いている。


「また一緒に居てよ空!」

今度はしっかりと俺の目を見て唯ははっきりとそう言った。


そして俺はそんな唯の目から目をそらせないでいた。



「ごめんね本当に勝手なことばっかり言って。でも私のこの気持ちは本当の気持ちだから」

そう言うと唯は立ち上がり部屋から出ていった。


それからしばらく俺は呆然としていた。

俺は一体どうしたらいいのかわからなくなった。記憶が戻る前はこっちで自分の事を知ったらすぐ帰る予定だったのに。今は心境が全然違う。


それに今さっきの唯の涙を流していた顔が頭によぎる。

本当にどうしたらいいんだ。



俺はしばらくの間考えていたが答えを出せないでいた。


そんな時俺の携帯が鳴りだした。

携帯を開けて確認してみると電話をかけてきたのは姉さんだった。


「やぁ姉さん」

「やぁじゃないよ、空君!また私のこと放っておいて!!」

「ごめん今日は色々あって電話かけるタイミングがなかったんだよ」

「全く~いつから空君はこんなに不良になっちゃんだろう」

ここまで怒っているってことは今日も姉さんから電話にメールが結構きていたんだろうな。


「あのね姉さん聞いてほしいことがあるんだ」

「どうしたの空君?」

俺は姉さんに自分の記憶が戻った事を言う事にした。隠してもしょうがないしそれにやっぱり記憶が戻った事は家族である姉さんに知ってほしかった。


「よかったじゃない空君!記憶が全部戻って」

予想がに姉さんは俺の記憶が戻った事を喜んでくれた。こっちに来る前に姉さんとは色々あったからな。


「それでさ、姉さん」

俺は今悩んでいる事を姉さんに言おうとしたが言葉が詰まってしまった。こっちに来る前にあれだけ俺は必ず戻ってくるなんて言っておいたのに今は桜川に居るべきか新宮に帰ってくるべきかで悩んでいるなんて言えるはずがない。


「ねぇ空君」

何を言えばいいか考えている時姉さんが喋り出した。


「空君の好きにしていいんだよ。私は空君が決断したことには何の文句も言わないから」

「えっ?」

「どんなに空君と私が離れていても私たちが姉弟だという関係は変わらないんだから。例え血がつながっていないとしてもね」

こっちに来る前はあんなに俺をひきとめていたというのに姉さんは一体どうしたんだろう。


「確かに空君が居なくなるとお姉ちゃんも寂しくなるけど、でも大丈夫だからね!」

姉さんの表情は見えないけど俺は姉さんがどこか無理をして今喋っているような感じがした。


「そろそろお姉ちゃん眠くなってきたから寝るね。おやすみ空君」

「あっ、ちょっと姉さん!」

姉さんは無理やり電話を終わらせた。やっぱり無理してたよな姉さん。




「どんなに離れていても姉弟だということは変わらない、か…」

姉さんもここまで考えて俺に言ってくれた。

だったら俺もちゃんと考えて決断しなければならない。


これからの俺自身のためにも。


俺はまたしばらくの間今後どうするかを考えて寝ることにした。












夢を見た。


いや、これは夢なのか?あの過去の時の夢を見た時と全然違う気がする。

そもそも俺の意識がはっきりとしている。


「ここは、どこだ?」

俺は夢か現実かわからないところで自分の周りを見た。そこはどこまでも真っ白で何もない場所だった。

というか学生服を着て居るんだ?俺は普通に寝間着を来て寝ていたはずなんだけど。やっぱり夢なのか




「空」

「空君」

様々な事を考えていると後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。


「あなた達は、もしかして…」

呼ぶ声の方に振り返るとそこに居たのは写真で見た俺の父さんと母さんだった」


「大きくなったな空」

「ほんとね。あら、やっぱり顔は私似なのかしら?」

写真のままの二人は普通に喋っていた。


「ど、どうして父さんと母さんが…」

「どうしてと言われても、なぁ?」

「そうですね。気づいたらいつの間にか私たちも空君の前に居るのよ」

どうやら父さんと母さんも何も分かっていないようだ。


「やっぱりこれが空君の夢だからじゃない?」

「そうだな。それが一番妥当な考えだな」

「ふふ、幽霊でも意識ははっきりとしていものね」

母さんは自分が死んでいる事をわかっているのだがどこかあっけらかんとしていた。


「あの父さん母さん」

俺は父さんと母さんに何かを言おうとしたのだがどう話しかけたらいいのかがわからなかった。


「どうした空。久しぶりに会えたんだおもいっきり甘えていいんだぞ」

「そうよ空君。夢の中だし誰も見てないから抱きついてきてもいいのよ」

「い、いやそれは…」

さすがに夢の中だらからといっても恥ずかしい。それに久しぶりに会えたということもあり余計に恥ずかしかった。


「全く。恥ずかしがり屋さんなところはお父さん譲りなんだから」

「ははは、そうか?」

母さんは俺のところまで来て俺を抱きしめてきた。


「ちょっ、母さん!?」

「本当に大きくなったね空君」

母さんに抱き締められて凄い恥ずかしかったがそれと同時に凄く安らぎを感じた。

それになんだか懐かしい匂いがする。


「ごめんね空君。ひとりぼっちにさせて寂しい想いをさせちゃったね」

「本当にすまなかった空。辛かっただろう?」

父さんと母さんは俺に謝罪をしてきた。

俺は父さんと母さんに謝ってほしくなんてなかった。だって俺は…


「父さん、母さん俺は大丈夫だよ。今までは記憶を失って自分がわからなくて辛いこともあったけどそれでも、僕の周りにはいつも誰かがついてくれていた。おじさんが、姉さんがそれに大切な友達が。だから俺は大丈夫」

「空君…」

「お前は強くなったんだな空」

「だけど、だけど今だけは…」

俺の目に急に涙がこみあげてきた。


「空君私たちは今ここに居るよ。あなたの傍に」

「だから安心しろ」

「ぅ…あっ…」

限界だった。俺の目からは涙がこぼれおちてきた。

涙なんて父さんと母さんが死んで俺が記憶を失った時から流すことなんてなかった。

だけど今この瞬間だけは母さんの腕の中で俺は泣いていた。






「ごめん。父さん母さん」

「なに言ってるの。泣くなんて当たり前のことなんだから」

「お前はまだ子供だ。泣きたいときはいつでも泣いていいんだ」

しばらくしてやっと俺は落ち着いてきた。


そしてふと俺は自分の体を見てみると俺の体はどんどん透けてきていた。


「なっ、なんだこれ…」

「どうやら時間のようね」

「えっ、時間って」

「そろそろ空の夢が終わる、目が覚めるってことだ」

そうか、これは夢だったんだよな。あまりにもリアリティがありすぎて現実のことだと勘違いしていた。


「そんな!俺はまだ父さんと母さんに話したい事がいっぱい…」

「私たちも空君のお話いっぱい聞きたいよ。でもね空君には待っててくれる人たちがたくさん居るでしょ?」

俺を待っててくれる人。おじさんや姉さん、それに桜川の友達に新宮の友達。


「それに俺と母さんにはいつでも会えるさ。俺達はお前のここに居るんだからな」

そう言うと父さんは俺の胸を軽く叩いた。


「うん…そうだね」

「だからお前の居るべき場所に戻れ空」

俺の体はもうほとんど透けていた。もう少しで夢から覚めるのだろう。

だから俺はこの最後に言っておきたい。ずっと父さんと母さんに言っておきたかった事を。


「父さん母さん俺は今幸せだよ。だから…」

父さんと母さんに甘えたかった。もっとずっと一緒に居たかった。

でも、それはもう叶わない事。

だけど今の俺には皆が居る大切な仲間達が。


「俺を生んでくれてありがとう!」

俺は最後にそう言うとそれを最後に意識が途絶えた。

最後の最後で父さんと母さんの笑顔が見えた気がした。










携帯のアラームと共に俺はベッドから体を起こした。

父さんと母さんと会った夢は本当にリアルだった。

でも確かに俺ははっきりと覚えている。父さんが言ってくれた事を母さんのぬくもりを。


「行かなきゃな」

俺は着替えをすませ今日の準備をすると部屋を出て階段を下りていった。




「皆おはよう」

1階に下りてくるとそこにはすでに皆が揃っていた。

「おはよう、空」

「おっはよー空君」

「よう、空。もう俺は朝ごはん済ませたからお前も食べろよ」


3人ともすでにおばさんが作ってくれていた朝飯を食べていた。おばさんとおじさんは居ないようだけどどこか出かけたのかな?

それにしても昨日の事があってか少しだけ唯は元気がないように見える。


「あのさ3人とも聞いてほしいことがあるんだけど」

「どうしたんだ?」

俺は言う事にした自分で決めた事を。


「俺これからも桜川に居ようと思う」

「「えっ!?」」

俺が言った事に皆は驚いたようだった。


「どうしてだよ空!ここはお前の故郷なんだぞ」

「そうだよ空君!せっかくまたここに帰ってこれたっていうのに」

「ごめん。それでもあそこには友達が居るんだ」

桜川には俺を待ってくれている人たちがたくさんいる。その人たちを待たせたままにはいかない。


「だったら空にとって私達は友達じゃないの…」

今さっきまで喋っていなかった唯が立ちそう言った。


「違うよ。もちろん俺にとって3人はとっても大切な友達だよ」

「じゃあ、だったら!!」

「でも、桜川に居る人は記憶がなかった俺を受け入れてくれた。こんな僕を家族として受け入れてくれたんだ」

今でも俺はおじさんそして姉さんには感謝している。記憶をなくしてからは俺の事をここまで育ててくれたことに。


「そして今こうしている間にも僕の帰りを待っててくれる人たちが居るんだ。だから俺はその人達が待っている桜川に帰るんだ」

これが俺の出した答え。もう迷うことなんてしない。

俺の答えを聞いて皆はまだ呆然としていた。やっぱりこの答えに納得してくれたないのかな?



「そっか、そうなんだ」

口を開いたのは唯だった。


「そこまで空が言ってるってことはその人たちは本当に空にとって大切な人なんだね」

「うん、唯たちの事を大切な友達って思ってるくらいね」

「それを聞いて安心したよ」

「唯ちゃんいいの?」

「空の奴また居なくなるんだぞ」

「大丈夫だよ。だって空は記憶が戻ったんだしそれにもう今までとは違うよね?」

今までとは違うそれは確かにそうだ。一昨日新宮に来た時とは全然違う。


「ああ、俺の故郷はここだとは変わらないよ。だからまた帰ってくるよ」

「だから待ってるね空」

そう言うと唯は笑顔を見せてくれた。



「さーてとお話は終わったかしら?」

話が一区切りするといつの間にか唯のお母さんがリビングに入って来ていた。


「お母さん今までどこに行ってたの?それにお父さんは?」

「ちょっとお父さんと大事なものを取りに行ってたのよ。でもお父さんは仕事で急に呼び出されちゃってね」

唯のお母さんは大きな袋を持って俺のところまでやってきた。


「空君受け取って」

唯のお母さんは俺にその持っていた袋を差し出した。

俺はその大きな袋を受け取ると中を見てみた。


「アルバム?」

「そうよ。そのアルバムは空君の家が火事になったときに唯一綺麗に残ってたものなんだよ」

「大切にしますね」

「それと空君。お父さんとも喋ってたんだけどあなたはもう家の子だからいつでもここに戻って来ていいんだからね」

おばさんは笑ってそう言ってくれた。俺はその気づかいが本当に嬉しかった。


「ありがとうございます。必ず戻ってきますね」

「よし!これで話は終わり。それじゃあ空君私が作った朝食お腹いっぱい食べていってね!」

話が終わると俺達は朝食の続きに戻った。






そして食事の後は特に出かけることもなく皆と唯の家でゆっくりと昔話に花を咲かせた。


そんな昔話をしている内に時間は早いものでもう帰る時間が迫って来ていた。



俺は唯のお母さんの車で船着き場まで送ってもらうことにした。







「あっという間だったな」

「ほんとだよねー」

社達の言うとおりだった。ここで過ごした2泊3日はあっという間で俺にとって有意義な時間となった。


「空忘れ物ない?」

「大丈夫だよ。念のために何度も確認したし」

俺は一番重要な船に乗るチケットを財布から取り出し唯に見せた。

唯もそれを見てホッとしたような顔をしていた。俺ってそんなに信用ないのかな?


「さてと、そろそろ行こうかな」

「絶対また新宮に帰ってこいよな空!」

「うん、絶対に帰ってくるよ」

社は拳を俺に出してきたので俺も恥ずかしながらも控えめに拳をだして社の拳と軽くコツンと小突いた。


「嘘ついたらハリセンボン飲ますから覚悟しておいてよね空君」

「あはは、お手柔らかに…」

柚子は俺の肩を笑いながらバンバンと叩いてきた。


そして最後に唯が俺の前へとやってきた。


「私本当に空の記憶が戻ってくれた事が嬉しかった。空が私たちの事を思い出してくれたから」

「俺ももう思い出せないだろうと思ってたけど思い出せてよかったよ」

「また絶対帰って来てね空。私待ってるから」

「ああ、約束だ。俺は絶対に帰ってくるから。それと唯たちもまた桜川に来てくれよ。あそこは本当にいいところだからさ」

「うん!絶対に行くよ。空に会いにいくね」

「ありがとう。俺も待ってるよ」

俺と唯は最後に握手をした。唯の手のぬくもりが俺に伝わって来た。



「それじゃあ、またな唯、柚子、社」

「絶対に帰って来てね!私たちも会いに行くから!」

「電話にメール待ってるよー空君」

「桜川の皆によろしくな」

俺は3人に見送られながら船の中へと入っていった。


桜川で過ごした2泊3日大変であり充実したものだった。

やっぱり一番は記憶が戻ったことだ。

それに父さんや母さんの事、唯や柚子、社それに唯のおばさんとおじさんの事を思い出せることができてよかった。


そして今度また皆に会うときは今回話せなかった今までのことを皆に話したいな。















船に揺られること4時間。

桜川に着いた頃にはすでに外は真っ暗となっていた。


「先輩おかえりなさい!」

「美琴?それに皆まで」

荷物を持って船から出るとそこには久しぶりに会う友人たちが居た。


「もちろん空さんの帰りを待っていたんですよ。空さんが新宮に行く時はお見送りができなかったので帰りだけは待っていようと思いまして」

「そんな、わざわざいいのに」

「フフ、それほど朝倉が私たちに愛されてるってことよ」

「そんな冗談はいいから」

「で、どうだったの朝倉?」

水無月はそう聞いてきたが新宮であった事を聞いているんだろう。それに皆の表情を見る限りどうやら皆は俺の事情を知っているようだ。


「楽しかったよそれに新宮の人たちもいい人達だったしね。でも、やっぱり今の俺にとっては桜川の方が故郷みたいなもんだし」

「まぁいい判断だね。空が私が居ないのにあっちで暮らせるはずないしね」

「それはお前だろ渚」

「私は全然大丈夫だもん!」

全くせっかく帰って来たっていうのに渚のやつは素直に「ただいま」も言わないのか。


「空く―ん!!!」

「わぁッ!ちょ、姉さん!?」

俺が一通りの事を言うといきなり姉さんが俺の事を抱きしめてきた。


「寂しかったよー!お姉ちゃん寂しくて死んじゃうところだったんだよー!」

「姉さん…」

こんなに涙流してるってことは昨日の電話はやっぱり無理してたってことだよな。


「全く瑞穂ったら朝倉君に甘いんだから」

「あれ、先輩まで来てくれたんですか?」

「え、えーっとそれは、そう!円香が行くっていうから仕方なくついてきてあげたのよ。こんな夜にひとりは心配だし」

「全くーお姉ちゃんは素直じゃないんだから。それよりもお帰り空君」

「ただいま。円香もわざわざここまでありがとね」

「私が来たかったからお礼なんて別にいいよ。それに空君のお土産楽しみしてたし♪」

「ちょっと空君!私のこと忘れていませんか!」

「あ、菜穂先輩」

「あ、じゃないですよ!せっかく空君を迎えに来たんですから私のことを抱きしめてくれてもいいはずなのに」

「アハハ…ちょっとそれは勘弁」

それに未だに姉さんが俺に抱きついたまま泣いてるし。


「ちくしょー!!なんでお前ばっかり女の子にちやほやされるんだよ!!」

相馬まで来てたのか。こいつのことはすっかり忘れてたな。



「さ、空君帰ろ。皆で今日はパーティーだよ♪」

姉さんは顔を上げそう言った。それにしてもパーティーって大げさだな。


「ああ。帰ろうか俺達の家に」

でもこうやって皆と一緒に居るのは悪くない。むしろ今の俺にとっては居心地がいい。

やっぱり俺の今の居場所はここなんだよな。


俺は皆に囲まれてしみじみとそう思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ