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真実

長かったようで短かった夏休みは終わってしまった。


そして9月1日、2学期のスタートだ。

俺は冬休みまでやっていけるだろうか…。


「はぁ…だるい…」

「ちょっと空。教室入って早々何やる気なくしてるのよ」

久しぶりに1-Bの教室に入るとクラスメイト達がすでに教室に来ていたが皆を見てみると顔がやけきってるやつ、少し髪を染めてみてるやつ、休みで太ったんじゃないかと思えるようなやつ。様々なクラスメイトがいるわけだがその中で俺は机に突っ伏してだらだらしていた。


「そりゃやる気もなくなるだろ。夏休み終わったんだぞ。しばらく休みないんだぞ…」

「ん~、確かに空の気持ちはわからないでもないけどそんなこと今言ってもしょうがないでしょ?終わっちゃったものは仕方ないし」

「お前は本当にポジティブなんだな」

たまにこいつのこのポジティブさがうらやましくなってくる。



「おいーっす、空に渚ちゃん!」

「おはよう榎本君」

「久しぶりだな相馬」

無駄に朝から元気な相馬が俺の席の後ろへと座った。


「そういえばお前祭りの時途中居なくなってたけどどこ行ってたんだよ?」

「もちろんナンパに決まってるだろう!」

やっぱりな…。心配しなくて正解だったようだ。


「で、成果のほうはどうだったんだ?」

「祭りで声を掛けた女性たちはどうやら俺の魅力に気づいてないようだったな」

ということはダメだったという事だろうな。わかっていたことなんだけど…。


「そうか。それは残念だったな」

「だが俺は諦めん!この2学期からは俺はもっと積極的になっていくぜ!」

今の相馬のままで十分だと思うんだけどな…。


「フフ、今日も元気そうね朝倉」

いつ来たのか分からないが水無月が俺たちのところまでやってきていた。


「どこから見たら元気そうに見えるんだよ…」

「彩音ちゃんおはよう。今日は遅かったけど何かしてたの?」

「言いたいけどそこは秘密よ」

「お前は本当に秘密だらけだよな」

確かに相馬の言うとおり水無月は秘密が多すぎる。まぁ今更なんだけど。


「朝倉。2学期は忙しくなるわよ」

「忙しくなるって何かあるのか?」

「フフ、学園祭よ」

「あー、そんなものあったな」

毎年10月に桜川学園は学園祭を行っている。学園祭の期間は2日で校外からもたくさんの人たちがやってきて意外と賑わっている。

俺も中等部の頃は学園祭に参加したが店や催し物をやるのは高等部の学生だけなので見るだけだった。

だから今年の学園祭俺たちはクラスで何かをしなければならない。


「俺たちのクラスってやること決まってるのか?」

「んー、決まってないね。早いところはとっくに夏休み前から決まって夏休みに準備してたらしいけど私たちのクラスってあんまりやる気ないっていうかまとまりなくて結局夏休み前には決まらなかったじゃない」

そういえば1学期の期末テスト終わってからホームルームの時間があったけどその時間中に全然決まらなかったんだよな…


「俺様はアレだけ合コンパーティがいいと言ったんだけどな」

「皆が聞いたとしても生徒会が許さないと思うぞ」

特にあのお堅い茜先輩は許すはずないだろうなぁ。

でも俺としても合コンパーティなんてすべるだけだと思うけどな。


「それにしても水無月。お前ってそんなに学園祭楽しみにしてるのか?」

「フフ、そうね。ある意味楽しみだわ…」

「ある意味ってどういう意味なんだよ。もしかしてお前学園祭でまた変なことするつもりじゃないだろうな?」

「今はまだ言えないわね。でも朝倉には手伝ってもらうわよ」

「内容も知らないのに手伝えと言われてもな…」

絶対ろくでもないってことはわかるんだけど何故か気になってしまう。



「おーいお前ら席につけよー。朝のホームルーム始めるぞ」

チャイムが鳴ると同時に常盤先生が教室に入ってきた。流星群以来先生を見ていなかったけど先生は何も変わってないな。


「それじゃあ朝倉。この話はまた追々ね」

そう言い水無月と渚は自分の席へと戻って行った。

水無月の考えていることは本当によくわからん…。






久しぶりの授業と言っても登校日1日目で朝のホームルームと始業式だけだったので昼までには終わり早く終わったはずなのだけど俺としては久しぶりの学校ということもありとてつもなく長く感じた。


帰りに俺は天文部の部室に行ってみることにした。

流星群で活動して以来全く来ていなかったので本当に久しぶりだ。



「こんにちは~」

「空さん、こんにちは」

部室に入ると部長は俺を待ってたかのようにいつものように俺の分のアイスティーを入れてくれていた。

俺はいつも自分が座っているところに座って部長からアイスティーを受け取ると流し込むようにアイスティーを飲んでいった。


「部長が入れてくれる飲み物って本当においしいよ」

「そんな…。ただ私は普通に入れただけですよ」

そこが不思議なんだよな。姉さんや渚が入れてくれる飲み物と何か違うっていうか…。

なんなんだろう?


「あ、そうだ部長。10月に学園祭あるけど天文部は何かする予定とかあるの?」

「そうですねぇ…。なにかしたいかといえばやりたいですけど、でも空さんはどうですか?いやなら私は別にいいんですけど」

「俺は別にいいよ。せっかくの学園祭だし天文部も参加しよう」

俺がそう言うと部長は笑顔を見せた。その顔を見る限り何かやりたかったということがわかる。


「本当ですか!?空さんありがとうございます」

「あはは、そんな大げさな。でも何をしようか?」

「そうですねぇ…。やっぱり天文系のことですかね?」

天文系ねぇ…。ただでさえこの天文部はろくに活動もしてないのに今さら天文系に関することを学園祭でしてもなぁ。


「無理して天文学のことやらなくていいと思うよ。うちの部活はうちらしく考えようよ」

「そうですね。それじゃあ今日の議題は学園祭で何をするかについて考えましょう!」


ということで今日の俺たちの活動内容は学園祭の出し物を決めるということになったのだがあまりよい提案もなく30分ほどで今日の部活動は終了して行った。





特にすることもなくそのまま家に帰ると既に姉さんが居てお昼ご飯を作っていた。


「はーい、空君。今日のお昼ご飯はお姉ちゃん特製のチャーハンだよ」

お昼御飯に姉さんは一番得意のチャーハンを作ってくれた。ちなみに姉さんが作ってくれる料理の中で俺は一番チャーハンが好きだ。


「やっぱりおいしいな姉さんの作ってくれる料理は」

一口食べたがやはり姉さんのチャーハンは最高だった。

見た目よし、味よしと完璧だ。


「ありがとうね空君♪」

姉さんは褒められたのが嬉しいのかかなりのご機嫌だ。


「そういえば空君知ってる?この島に修学旅行でやって来てる学校の事」

「桜川に修学旅行?何でまたこんなところに?それにわざわざ夏休み終わったばっかりの後に」

桜川の町に今まで修学旅行で来た団体さんなんて聞いたこともない。それに一体何しに来たんだろうこの町に。


「確か鈴丘学園ってところからの修学旅行生らしいよ~」

「鈴丘学園?聞いたことないな…。やっぱり外からの人たちなんだろうな」

ここら付近である学校と言えば俺たちの通っている桜川学園と円香が通っている女子高ぐらいしかない。やはりわざわざ外からの修学旅行生達ということになるだろう。


「一体この町で何を見ていくんだろうなぁ」

少しだけ気になるが何もはっきりとした情報がないのでその学校のこと知ろうにも知れない。

明日あたり情報通の水無月にでも聞いてみるか。








そして次の日の放課後。早速水無月に昨日姉さんから聞いた修学旅行生達の事を聞こうと教室に居る水無月に聞いてみることにした。


「なぁ水無月聞きたいことあるんだけどいいか?」

「ええ、いいわよ。桜川に来た修学旅行生達のことなら私に聞きなさい」

まさかこっちが本題を言う前に先読みをされるとは…。

本当に何者なんだこいつは。


「その修学旅行生達のことなんだけど、鈴丘学園どこにあるか知ってるか?」

「フフ、もちろんよ。ざっくり言うと鈴丘学園はこの桜川からだいぶ離れた新宮という都会にある学園のひとつよ」

だいぶ離れたって本当にざっくり言ったな…。


「新宮か。行ったことはないけどテレビでやってた新宮にある店の事とかなら観た事あるな。それにしてもなんでそんな都会の学園からこんな田舎まで?」

「田舎でしかできないことをするとかそういうことじゃないのかしら?」

「そういうことじゃないかしらってまだそこのところはわかってないのか?」

「フフ、まだはっきりとはね。でも私はこれからその真相を確かめに行ってくるわ。それじゃあ朝倉また明日会いましょう」

そう言うと水無月は鞄を持って教室から出て行った。

確かめに行ってくると言ったがあいつはどうやって確かめるつもりだろうか?

まぁ何にせよ一番気になっていた鈴丘学園がどこにあるのか聞けたからいいか。俺も帰るとしよう。






いつもの帰り道の途中携帯に姉さんからメールが来た。

メールの内容は「今日はカレーにするからよかったら材料の足らない人参と玉ねぎを買ってきてほしい」ということだった。

俺は特に用事もないのでそのお願いを承諾して近くのスーパーへとむかっていた。


「そういえば金あったかな?この前の祭りでだいぶ使ったし」

財布を確認しようとズボンのポケットから財布を取り出そうとしたとき俺の少し前に誰かが立っているのが目に入った。


前を見てみると俺と同じぐらいの歳だろうか?背はだいたい渚と同じで女性としては普通くらいの背で髪型はロングで目はぱっちりとした二重の女の子がおろおろしていた。

少し挙動不審に見えないこともない。

俺はしばらくその子を見ているとその子は俺の視線に気づいたのか俺の方に顔をむけて俺とちょうど目があってしまった。

何故か俺の方が変な人みたいな感じになってきたので、俺は思い切ってその女の子に喋りかけてみることにした。


「あの、どうしたんですか?」

「え、あ、あのぅ…」

女の子は急に俺に話しかけられたことにびっくりしたのかさっきよりもおろおろしている。

女の子からの返事を待っていると女の子は意を決したように俺に再び顔を向けた、

「道に迷っちゃって…」







「へぇ、修学旅行生なんだ」

「はい。グループで行動していたんですけど私だけはぐれちゃって…」

話を聞く限り彼女は鈴丘学園からの修学旅行生で彼女が言っている通りひとりだけ迷子になってしまったようだ。

俺は彼女から皆が宿泊しているホテルを聞いてそこに連れて行ってあげることにした。


「すいません。わざわざホテルまで連れて行ってくれるなんて」

「全然大丈夫だよ。どうせ暇してたところだしね」

まぁ実際は買い物をしないいけないんだけど。このまま彼女を放置しておくのはかわいそうだしな…。


「本当にありがとうございます」

彼女は俺にお礼を言ってから黙ってしまった。

うーん、ちょっと空気が悪いな…。いくら初めて会ったからといってもこうだんまりが続くのはな…。

俺は適当に何か話そうとしようとしたら何故か横に居る彼女が俺の顔をチラチラと見ていた。

気づいてないように見ているのだろうけどこっちから見たらバレバレだ。

なんなんだろうか?


「え~っと、俺の顔に何かついてる?」

俺は気になったので聞いてみると彼女は俺の顔を見ていたことが俺にバレた事で少し驚いていた。


「その、私の知り合いに凄く似ていたので…」

「そうなんだ。そんなに似てるの?」

「はい。といっても昔の顔しか覚えてないですけどね」

昔というと子どもの頃の事かな?俺はその彼女の知り合いについて気になった。


「その人はどんな人なの?」

「凄く優しくてお人よしな子どもでしたよ」

「そうか。昔の頃の顔しか覚えてないって今は全然会ってないってこと?」

「はい…。会いたくても会えないんですよね…」

彼女は少しだけ元気のない声でそう言った。

会いたくても会えないか…。何か事情があるのだろう。これ以上聞くのは辞めておこう。



この後彼女が桜川の町について聞いてきたので桜川の事を教えてあげながらホテルへと向かっていった。





しばらく歩いているとやっと桜川にある唯一のホテルに到着した。


「本当にありがとうございました!」

「あはは。今度は迷わないようにね」

「はい。その、なんとか努力します」

まぁ桜川の町で迷うことなんて本当はあんまりない事なんだけど…。


「それじゃあ俺は帰るね。桜川何もないけどよかったら楽しんで行ってね」

そう言って俺は後ろに振り返り、姉さんに買い物も頼まれているので急いで帰ろうとした。

そして俺が走り出そうとした時。




「待って!空!!」

後ろで彼女が俺の名前を大きな声で叫んだ。


「あれ?俺って君に名前教えてたっけ?」

確かホテルに来るまでほとんど桜川の事について喋ってただけで名前は教えてないように気がするんだけどな…。

そう思いながら彼女を見てみると彼女の目から涙がこぼれおちていた。


「えっ!何で泣いてるの!?」

「やっぱり空だったんだ…。空っ!!」

彼女は何故か泣きながらも俺の胸に飛び込んできた。


「ちょ、ちょっと!一体どういう事なんだ…」

俺は意味がわからなかった。今彼女が俺に抱きついて来て泣いているこの状況が本当に意味がわからなかった。





しばらくの間彼女が泣きやむのを待ち少し落ち着いてきたところで彼女は恥ずかしそうに俺から離れていった。


「落ち着いたかな?」

「うん。ありがとう空…」

ついさっきみたいに丁寧に喋っているのではなく友達のような感覚で彼女は喋った。

やっぱり彼女は俺の事を知っているのだろうか。


「あのさ、何で俺の名前知ってるの?」

俺がそう言うと彼女の顔色が変わったように見えた。何かまずい事言ったか?


「覚えてないの、私の事?」

「どういう事だ?俺は君の事全然知らないけど…」

この子について必死に考えてみたがやはりこの子に会った覚えなどない。


「嘘でしょ…。小さい頃新宮で暮らしていたことも、小学生の頃私達と遊んでいた事も全部覚えてないの!?」

彼女の言っている事が全然意味がわからなかった。俺が新宮に暮らしていた?

全くわけがわからない。そもそも俺は…。


「小さい頃っていうか俺8歳以前の記憶が思い出せないんだよ」

「8歳以前の記憶?それって…」

俺はどういうわけか8歳以前の記憶が思い出せない。まぁそこまで今は困ってはいないんだけど…。


「それにもしかしたら同姓同名の人違いって可能性もあるんじゃ…」

「そんなことない!私が知っている空はあなたのことだよ!」

「そう言われてもなぁ。根拠はあるの?」

「うん。今さっき8歳以前の記憶がないって言ったじゃない。空が新宮から居なくなったのもその時期なの」

まさかぴったり時期が合うとは…。

彼女は嘘偽りなく本気で言ってるみたいだしもしかしたら本当に俺の事を言っているのかもしれない。


だったら俺の8歳以前の記憶を知っているということになる。


「よかったら俺の8歳以前の記憶のことについて教えてくれないかな?」

そこまで気にしていないと今までは思っていたのだがやはり俺の過去について知っている人が居るという事で俺は自分の過去について知りたくなってしまった。


「うん。あのね、空は…」



「おい、夏川こんなところで何をしている?」

彼女が俺の過去について語ろうとした時ホテルの方から一人の男性がやってきた。


「あ、先生。ごめん空私行かなくちゃ…。明日私たちお昼すぎから自由行動あるからまたここに来てくれるかな?」

「わかった。じゃあ明日な」

過去の事について聞きたかったのだが鈴丘学園の先生も来ているのでしょうがない。

俺は彼女にここで別れを告げて帰って行った。








「おかえり空君。遅かったね?」

「うん、ちょっと用事ができてね…」

「そうなんだ~。それで買い物の方は?」

「あ…」

今さっきまでのことで精いっぱいだったのですっかり姉さんに頼まれていた買い物のことを忘れていた。


この後姉さんに謝って俺は少しすることがあるので自分の部屋に戻って行った。

ちなみにカレーは無理になったので今夜は簡単にレトルト食品で済ますことになった。




部屋に戻りベッドに座ると俺は早速携帯電話を取り出してある人に電話することにした。

こっちからはあまり電話かける事ないので少し緊張する…。



「もしもし久しぶりじゃないか空」

緊張しながらも電話をかけると3コールほどで出た。


「おじさんお久しぶりです」

「どうした?珍しいじゃないかお前から電話だなんて」

俺が電話をかけた相手は姉さんの父親のおじさんで俺の親代わりの人だ。

仕事が結構大変でよくどこか出張に行っていて現在は海外出張中だ。


「うん。少し聞きたい事があって…」

「聞きたい事?なんだ?」

「俺が朝倉家に来る前の事なんだけど」

「そのことか…。昔から言ってるが俺はそのことについては何も…」

今までに自分の記憶についておじさんに聞いたことは何回もある。

だけどその記憶のことを聞いてもおじさんは何も教えてくれなかった。


でも、今回は違う。


「俺が新宮に居た時のことについてなんだけど」

「ッ!お前なんでその事を…!?」

「おじさんがそう言うってことはやっぱり俺は新宮で暮らしてたってことだね」

「あ…」

おじさんには悪いけど少しかまをかけさせてもらった。

そしておじさんの反応を見る限りどうやら新宮でいた事は本当のことらしい。


「どうしてそのことを?」

「今日昔の俺の事を知ってる人とたまたま会ってね。その時に…。おじさん俺は自分の昔のことは聞かないけど俺が新宮に居たってことは本当のことなんだよね?」



「ああ、その通りだ。お前は朝倉家に来る前に新宮の方で暮らしていた」

「そうなんだ。だったらあの子の言ってた事は本当のことだってことなんだ」

「空。今の俺にはお前が新宮で暮らしていたことしか教えることはできない。だがな、お前が昔のこと…いや、真実を知りたいというのなら好きにすればいい。お前にはそれを知る権利があるのだからな」

真実。俺が記憶をなくした理由…


「だがな例えその真実を知ったとしてもお前が俺の息子、朝倉家の子供だということは変わらないからな」

「おじさん…」

「ふぅ、なんだかこの歳で臭い台詞言ってしまったな」

電話からの声を聞いただけでおじさんが恥ずかしそうにしているのがわかる。


「わかってますよ。おじさんと姉さんは俺にとって大切な家族ですから」

「そうか。なら心配する必要はないようだな」

今回おじさんに電話をしてよかった。これで安心してあの子から話を聞けることができる。



「それより空。瑞穂とはどうだ?もうキスとかしたのか?」

「姉弟なのになんでそんな展開になるんですか!?というかそんなことあるわけないじゃないですか!」

今さっきまで少しかっこよかったおじさんだけど今喋っているおじさんが本当のいつものおじさんだ。

本当にいい人なんだけど相手をしていると疲れてしまう…。


この後も俺はおじさんと最近あった事などについて電話をしていた。







そして次の日の放課後。

俺はホームルームが終わるとすぐに昨日の桜川ホテルまで行くことにした。






ホテルの前まで走って行くとホテルのドアの前には昨日の女の子とあと二人、男の子と女の子が一緒に居た。

3人居るところに行っていいのか悪いのか迷ったがとにかく時間もあまりないことだし行ってみることにした。


「ごめん。待たせちゃったね」

「来てくれたんだね空」

「真実を知りたいからね。それよりもこの二人は?」

俺は渚の後ろに居るふたりの方を見るとその男の子と女の子は驚いたような顔をしていた。


「お前、空なのか!?」

「え?そうだけど…」

「まさか本当に空君だなんて…」

かなり驚いているようだけどもしかしてこの二人も俺の事を…?


「今まで何してたんだよ!?俺達心配してたんだぞ!」

男の子はそう言うと急に俺に詰め寄って来た。


「え、えっと、あの…」

急にそんなことを言われてもさすがに何も言えない。


「ちょっと待ちなさいよ!空君混乱してるじゃない。空君は新宮に居たころの記憶がないから今ここでそんなこと言っても仕方ないじゃない」

「そ、それもそうだな…。すまない空」

「い、いや別に大丈夫だけど」

隣の女の子が男の子を落ち着かせてくれたのでなんとか助かった。


「ごめんね空驚かせちゃって。この2人も新宮に居たころ空と仲良くしてたんだよ」

「はろー空君。私たちの事覚えてないんだよね」

「ああ、悪いけど…」

「ん~記憶ないから仕方ないね。じゃあ改めて自己紹介させてもらうね。私は桑原柚子くわはらゆずだよ。新宮に居たころはよく空君と遊んでたんだよ」

桑原柚子さんか。ポニーテールが印象的でかなり明るい感じの子だな。


「何か空に自己紹介するのも変な感じだな。俺は梶谷社かじたにやしろだ。柚子と同じくお前とは毎日遊んでたな」

梶谷社君ね。俺や相馬よりも身長が高くていかにもスポーツマンという感じの人だな。


「それで私が夏川唯なつかわゆい。新宮にあった空の家と隣同士だったんだよ」

俺と隣同士だったか。今で言う俺と渚との関係に近いのかな?


一通り3人の自己紹介を聞いたがやはり何も思い出せない。

この3人どころか新宮に居たことさえ…。


「俺のこと知ってるなら自己紹介する必要ないと思うけど、でも一応しとくよ。俺は朝倉空。新宮に8歳以前…いや、新宮に居たころの記憶がないんだ。だから教えてもらえると嬉しい」

俺が自己紹介し終わると3人は何か納得のいっていないような顔をしていた。


「朝倉…?それは今の名字なのか?」

「そうだけど」

「なるほど、今の名字か」

梶谷はそう言うと黙った。そうか、俺は新宮に居た時とは違う名字だったよな。

その事も後で聞かないといけない。


「それよりもこんなところで大事な話をするのもアレだし場所移さない?空君どこかいいとこないかな?」

「ああ、だったら近くのカフェに行こうか」

「うん。それじゃあレッツゴー!」

俺たちはホテルの近くにあるカフェに移動することにした。

この3人からどんな話を聞けるだろうか。





カフェに入ると俺たちは入口からすぐ近くのテーブルに着いた。

そこまで人も居なかったので話すのには絶好の場所だ。

俺たちは適当にコーヒーなどを頼んで来るのを待ってから喋る事にした。

ちなみに今の席の座り方は3人ほど座れる席に俺1人と前の席に3人が座るという本当に尋問をするようなスタイルで座っている。



そして店員さんが俺達全員のコーヒーを持ってきてくれて、俺たちはそれを合図に喋りだした。


「さてと、そろそろ始めてもいいかな?」

まず初めに夏川さんが喋りだした。

「うん、お願いします」

「でも、何から話そうかな…。空はまず何が聞きたい?」

俺が聞きたい事。たくさんあるがやっぱり俺が最も聞きたい事といえばひとつしかなかった。


「なんで俺が新宮から居なくなったという事が聞きたいんだけど」

「空君が新宮から居なくなった理由かぁ…。う~んここはやっぱり唯に話してもらった方が早いね」

「お前が喋ると余計にややこしくなりそうだしな」

「うん、私が喋るよ。でも空、この話結構辛い話になるかもしれないけど大丈夫かな?」

辛い話か。さすがに内容を聞かないとわからないが、でも俺は真実を知るためには全てを聞かないとだめだと思っていた。


「大丈夫だ。俺は自分のことが知りたい。だから教えてくれ」

「わかったよ。それじゃあ今から8年前の話をするね」

そう言うと夏川さんは一度深呼吸をしてから瞳を一度閉じるとすぐに瞳を開き8年前の頃の事をゆっくりと喋り始めた。





「もう知ってると思うけど今から8年前、空は新宮に居たの。今の「朝倉空」としてじゃなくて「瀬川空」として」

瀬川…それが新宮に居たころの俺の名字。


「新宮に居たころの空は私達と毎日無邪気に遊んでたんだよ。幼稚園から小学校に上がっても私たちはずっと一緒に遊んでいた。それに空達家族も本当に仲良かったんだよ。空のお母さんもお父さんも私たちの事良くしてくれたし、よく遊びに連れて行ってくれたし」

俺の家族。母さんに父さんか…。


「あの頃はずっとこの幸せが続くものだと思っていた。あの事件が起きるまでは…」

「あの事件?」

夏川さんは何やら深刻そうな顔をして、その隣に居る二人も同じような顔をしていた。



「放火事件。新宮の空の家が放火の被害にあったの」

「放火!?」

「うん…。その放火されていた時にちょうど空と空のお母さん、お父さんは家の中に居たの。空はなんとか助かったんだけど空のお父さんとお母さんは家が消火されたあと遺体ででてきて…」

「俺の家を放火した犯人は?」

「未だに捕まってないの。なんの手がかりもないから警察の方でも絶望的とかって…」

「そんな…」

母さんと父さんが死んだ…?未だに信じられない。


「放火事件の後空は病院に連れていかれたんだけどその後は私たちの前から急に居なくなったからわからない。たぶん空は病院のところから記憶をなくしたと思うよ」

病院…。全く記憶にない。俺の記憶は朝倉家のベッドで眠っていたところにおじさんが来て「一緒に暮らそう」と言ってきたことぐらいだ。


「ッ…!!」

過去のことについて考えていると何故か急に頭が痛くなってきた。


「これが空が新宮で居た時の事の全てだよ」

「ああ、教えてくれてありがとう…」

「おい、空。お前顔色悪いけど大丈夫か?」

梶谷は俺の事を心配してくれていたが今さっきより俺の頭痛はひどくなってきている。


「ごめん、何か頭が…」

痛い…。過去の事を思い出そうとすると余計にひどくなっている。


「空君、大丈夫!?」

「空!?」

近くに居る皆の声が聞こえたがその声を最後に俺の目の前が真っ暗になった。

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