表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

第1話:えっ…君なの?

(主人公:タロウの一人称)


『二人…三人…四人……』

遅刻してくる生徒たちを、校門の前でぼんやり数えていた。


高校一年の生活が始まって、もう二ヶ月が過ぎた。

そして僕はというと、まるで学園ラブコメの主人公みたいに、窓際の一番後ろの席に座っている。


始業のチャイムはもう鳴っていた。

『あと五分だけ寝たいな…』

そう思って目を閉じかけたその時、教室のドアが開いた。


ナカムラ先生が入ってきて、その後ろには見知らぬ女の子の姿。


「おい、お前ら。今日から新しいクラスメイトが来たぞ。

 しっかり歓迎してやれよ。」


「よろしくお願いします……」


小さくお辞儀しながら、彼女は静かに挨拶した。


その声、その金色のショートヘア…。

『この声、どこかで……あの髪も、見覚えがある……』


先生が続けて言った。

「じゃあ、榊さん。山田の隣の席に座ってくれ。」


彼女はゆっくり僕の方へ歩いてきた。

教室中の視線が、彼女に集まる。


「よし、それじゃ授業を始めよう。」


『ああ、もういいや。少しだけ…寝ちゃおう。』


机に突っ伏して、僕はそのまま意識を手放した。


***


「山田くん…山田くん、起きて……」


控えめでやさしい声。

そして、僕の肩を軽くトントンと叩く細い指。


「あぁ……(あくび)もう放課後……?」


半分寝ぼけながら、適当に口にした。


「やっと起きた……ナカムラ先生、さっき出て行ったばかりだよ。」


そのとき、僕たちの目が合った。

言葉もなく、お互いを見つめ合ったまま、目がどんどん大きくなる。


『うそ…君って……』


***


「まさか……君が?」


「あなた……あなたは、あのマンガショップの店員さん!」


彼女は驚いた様子で席から立ち上がった。


「おお、やっと思い出した。君、いつも店に来てたよね。」


無意識に、驚きながらそう口にしていた。


***


しばらく沈黙が流れたあと、彼女が口を開いた。


「わあ、なんだか……すごい偶然ですね。」


少しだけ安心したような表情だった。


『なんだこれ……もしかして、僕も緊張してる?』


「僕もそう思うよ。」


僕は少し冷静を装って、彼女が店に通っていたことを思い出しながらそう言った。


***


「そういえば、まだ自己紹介してませんでしたね……榊と申します。」


彼女はやさしい笑顔でそう言った。


「僕は山田……です。」


少しかしこまってそう答えた。


『学校でこんなふうに名前を言ったの、たぶん初めてだな。』


***


そのとき、昼休みのチャイムが鳴った。


「おっ、昼休みか……よかった。」


そう言いながら、僕は教室を出ようと立ち上がった。


『そうだ、彼女は転校してきたばかりだよな。こんなふうに出ていくのは……ちょっと無神経かも。』


「えっと、榊さん?……学校を案内しようか?」


何も考えずに、自然と口にしていた。


「えっ……ええ、ありがとうございます。でも、そんな……大丈夫です、本当に。」


少し戸惑っているようだった。


「そう? 見学したくないなら、いいけど……」


そう言って、ドアの方へ向かった。


「その……やっぱり……」


彼女の声がかすかに聞こえた。


僕は立ち止まり、振り返って言った。


「じゃあ、一緒に行こう。案内してあげるよ。」


自分でも、なぜ笑顔でそう言ったのかはよくわからない。


「……はい、お願いします。」


***


「ここが食堂で……あっちは体育館……あれが生徒会室。」


特に会話もせず、僕は淡々と校内を案内していた。


***


廊下を歩いているとき、彼女が口を開いた。


「今日は本当にありがとうございました、山田くん。」


「そんな、大したことじゃ……」


その瞬間、背後から聞き慣れた声が飛んできた。


「おい、タロウー!(はぁ、はぁ)どこに行ってたんだよ〜(はぁ、はぁ)校内全部探したんだからな〜!」


ああ、リョウとレンだ。中学からの友人。


「なんでそんなに息切れてんだよ、二人とも。」


「はぁ? それはな、お前を探してずっと走り回ってたからに決まってるだろ。それに、その子は誰だよ……って、えっ、えっ!? まさか彼女!? まさかまさかお前、俺たちを裏切ったのか!? 信じてたのにぃ〜!」


そう言いながら、リョウはその場に崩れ落ち、地面を転げながら僕と自分の運命を呪っていた。


「ち、ちがいますっ!そんなつもりじゃ……山田くんが、ただ学校を案内してくれてただけで……!」


榊さんは顔を赤くしながら、慌てて弁解した。


「うん、ほんとにそれだけのことだから。」


「そっか、ならよかった。やっぱりタロウは俺たちを裏切らないって信じてたよ……!」


リョウは満足げに僕の肩を叩いた。


「……気分の起伏、激しすぎだろ。」


レンは冷めた目でそう突っ込んだ。


「あ、そうだ。紹介してなかったな。リョウ、レン、こちらは榊さん。今日から僕たちのクラスメイトだ。」


「初めまして。」


「よろしくお願いします。」


「榊さん、こっちは僕の友達、リョウとレン。」


「ふふっ、よろしくお願いします。」


***


食堂の中、四人掛けのテーブルを確保して、それぞれのお弁当を広げた。


榊さんはまだ緊張気味だったけど、リョウの明るい性格のおかげで、少しずつ打ち解けていった。


「で、なんで君たち、そんなに必死に僕を探してたの?」


僕はずっと気になっていたその疑問を、ようやく口にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
続き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ