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45話「トリヴァイン王国の終焉2〜三大公爵家」




「馬鹿共は煩いから暫くこうしておこう。

 それより今日はゲストを呼んでいるんだ。

 オルトラン公爵、カスパール公爵、入ってきて」


クヴェルたんが手をパンパンと二回たたくと、オルトラン公爵、カスパール公爵が謁見の間に入ってきた。


お二人は、以前会った時よりやつれてはいたが生気は失っていなかった。


きっと、自分の領地を守るために出来る限りの事をしてたんだと思う。


王都に来る前に、二人の領地に寄って事情を話して連れてきたのだ。


二人も卒業パーティーに参加していたけど、パーティーのあと事態が悪化する前に領地に帰っていたみたい。


オルトラン公爵、カスパール公爵は床に倒れている王太子とイルゼを見て、驚いた顔をしていた。


「それからブラウフォード公爵も呼んでいるんだった」


クヴェルたんは私の実父と継母も呼んでいたんだ。それは知らなかった。彼らも三大公爵家の一角だからね。


クヴェルたんはアイテムボックスから実父と継母を取り出した。


実父はジュストコールを纏ったまま、継母はドレスを纏ったままロープでぐるぐるに縛られていた。


アイテムボックスから取り出されるとか、実父と継母はクヴェルたんに人間扱いされていない。


「心配しないで、アデリナ。

 ちゃんと二人にライニゲンダー・シャワーをかけてからアイテムボックスにしまったから。

 アイテムボックスが汚れることはないよ」


クヴェルたんがにっこりと微笑みながら私の耳元で囁いた。


確かに、元両親だった人達よりアイテムボックスが清潔に保たれることの方が大事だ。


「わ、わしにこんな事をして、た、ただで済むと思っているのか……!」


「私はブラウフォード公爵夫人なのよ!

 縄を解きなさい!」


「煩いからお前たちも黙ってて」


クヴェルたんが実父と継母にも重力魔法をかける。もともと床に転がされていた二人は、さらにぺしゃんこに潰れ、何も話さなくなった。


「今回、三大公爵家を集めたのは他でもない。

 トリヴァイン王家を滅ぼして、オルトラン公爵、カスパール公爵のどちらかに国王になってもらうためだ」


クヴェルたんの言葉に、現国王は目を見開き、信じられない物を見るようにクヴェルとオルトラン公爵、カスパール公爵に目を向けた。


「申し訳ございません、陛下。

 確かに私は公爵位を賜る際、王家への忠誠を誓いました。

 しかしながら、水竜の像を破壊し、このような事態を招いた王家をもはや支えることは出来ません。

 民も王家の存続を望まないでしょう」


「私もオルトラン公爵と同じ意見でございます」


二人は国王を真っ直ぐに見据え、神妙な面持ちでそう告げた。


「まさか……そんな……!」


国王は二人に裏切られると思っていなかったのか、真っ白な顔で膝から崩れ落ちるように床に沈んだ。


鬼のように恐ろしげな顔で、軍部の演習に参加していた頃の国王の面影はない。


彼がこの国で一番心が脆かったようだ。


「国王と、王太子と、王太子の婚約者のイルゼと、ブラウフォード公爵夫妻は、アデリナに謂れなき罪を着せ、彼女を虐げ、国に混乱をもたらした罪で死罪」


クヴェルたんが冷淡な声で告げると、今名前を挙げられた全員が「ひっ」と声を上げ、目を見開き、土気色の顔をした。


「卒業パーティーに参加していたアデリナの同級生とその保護者もこの場に集めて処刑の宣告をしたかった。

 だけど数が多いし、連れて来るのも面倒だから彼らの粛清は新国王に任せるよ」


そう、彼らも粛清されるのね。クヴェルたんが決めたことだし仕方ない。


神であるクヴェルたんを怒らせた原因は彼らにもある。クヴェルたんの像が破壊されるとき、彼らはそれを止めなかった。


水竜の像が破壊されるのを笑って見ていたのだから、彼らも同罪だ。


私はこれでも王太子妃教育を受けていた。時には非情なほど冷酷な対応が必要なことも学んだ。


だから、彼らに同情はしない。


国王がポンコツなせいで、罪のない民が苦しい思いをするのが嫌で一時的に帰国しただけ。


私が助けたい人リストに、私を虐げた身勝手な貴族は入っていない。


「すみません。

 お二人には辛いお仕事を任せてしまいました」


私はオルトラン公爵とカスパール公爵にそう伝えた。


「何をおっしゃいますか、アデリナ様。

 謝罪するのはこちらです。

 私達は、国王の暴挙も、王族や貴族があなたへ酷い態度を取るのも止めることができなかった。

 申し訳ございません」


「だというのにあなたは魔石を使ったルーンを用い民を救うだけでなく、

 隣国リスベルン王国からの援助を取り付けてくださった。

 あなたには感謝してもしきれません」


オルトラン公爵、カスパール公爵が頭を下げた。


「お二人とも頭を上げてください。

 私の魔石の力ではこの国の全てを元通りにはできません。

 ただ、各都市や村々の井戸が枯れるのを遅らせ、

 その間にリスベルン王国への移住を促すものです」


私がリスベルンの国王に望んだ報酬は、

トリヴァイン王国からの移住者の受け入れ、

移住者の移動の補助、

トリヴァイン王国に兵士を派遣しモンスターの討伐を手助けすること。


欲張り三点セットだけど、リスベルンの国王はその条件を飲んでくれた。


こういうのは、ミドガルズオルムの被害の記憶が色濃く残っているうちにした方が良い。


喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉があるように、何年か経過すると恩を忘れられてしまうからだ。


私がリスベルンの宿屋で一生懸命彫っていたのは(ラグ)のルーン。


ルーンを刻んだ魔石は全部で八百個くらい。


国中の全ての井戸を潤すだけの数はない。


王都に二十個。

一万から五万人規模の都市が六都市ある。それぞれの都市に十個づつ。

千から一万人の街が約百町ある。それぞれの町に二個ずつ。

千人以下の村が約五百村ある。それぞれの村に一個ずつ。


人が生存できるギリギリの数の井戸を残す。


井戸が枯れるまでの十年の間に、他国に移住してもらう計画だ。


「アデリナ様、それでもあなたは私達の希望です」


「この国のため、民のためにあなたがしてくださったことは終生忘れません」


オルトラン公爵、カスパール公爵に涙ながらに頭を下げられると、申し訳ない気持ちになってしまう。


私が女王になり、クヴェルたんが水竜神に戻れば国は元通りになるのに。クヴェルたんの申し出を蹴ってこういう結論にたどり着いたんだから。


「気にしないでアデリナ。

 この国はもともと荒野だった。

 それが自然な状態なんだ。

 僕が魔法で雨を降らせ、緑を保っていた方がおかしな状態だったんだよ」


私の心を読んだかのように、クヴェルたんが耳元で囁いた。


クヴェルたんの言う通り、この国は元の状態に戻るだけかもしれない。


だけど三百年の間に沢山の人がこの地に住み着き、家族とともに生活してきた。


その生活を奪うのだから、できるだけのことはしたい。



読んで下さりありがとうございます。

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