34話「しばしの休息。彼らに緊張感を求めてはいけない」
お腹が膨れたら次はお風呂。
お皿を片付けにきたメイドさんが、お風呂の道具を持ってきてくれた。
その時に、お風呂についての説明もしてくれた。
「クヴェルたん、王様がお城の大浴場を貸し切りにしてくれたみたい。
ライニゲンダー・シャワーもいいけど、たまにはお風呂で手足を伸ばしたいよね?
大きな湯船に浸かるなんて何年ぶりかしら?」
大浴場が使えるとわかって、子供みたいにはしゃいでしまう。
「クヴェルたんも一緒に入る?
な〜〜んてね」
「うん、いいよ。
アデリナがいいなら一緒に入ろう」
クヴェルたんがにっこりと微笑む。
「ク、クククク……クヴェルたんのエッチ!
じょ、冗談に決まってるじゃない!」
私は胸を庇うように腕を組んだ。
「な〜〜んだ冗談だったの?
それは残念」
クヴェルたんがしょんぼりした顔をする。そんな顔をされると罪悪感が……。
子供の姿のクヴェルたんとなら一緒に入っても……? いやいや、クヴェルたんの本当の姿は大人なんだし、それは駄目よ!
そんなわけで別々にお風呂に入りました。
◇◇◇◇◇
王宮で用意してくれた寝間着は白のネグリジェだった。素材はシルクで裾についたフリルが可愛らしい。
クヴェルたんのは子供用の白のナイトガウン(ワンピースみたいなパジャマ)だった。
ナイトガウンを着たクヴェルたんはなんとも可愛らしく、胸がトクンと音を立てる。
ナイトガウンはワンピースにも見えるので、クヴェルたんを女装させているような気がして……。そんな彼にときめいてしまう自分に罪悪感がわいた。
「国王が僕とアデリナ、それぞれに部屋を用意してくれたけど……。
今日はどっちの部屋で寝ようか?」
「ふぇ……!?」
それはつまり一緒に寝ようというお誘い??
今まではシングルの部屋しか空いてなくて、それで仕方なくクヴェルたんと同じ部屋で寝ていたけど……。
別々の部屋が用意されているのに、一緒の部屋で眠るの?
それって、なんだか凄く……卑猥な感じが……。
「大丈夫だよ。
何もしないから」
「そ、そうだよね」
「それともアデリナは何かされることを期待してた?」
クヴェルたんが目を細め、口角を上げる。その表情が艶っぽく見えた。
「そそそそそ、そんなわけ、なかとでしょうが……!!」
「ふふふ、アデリナはからかいがあって、面白いね」
クヴェルたんがくすりと笑う。
クヴェルたんの掌の上で踊らされているわ。
◇◇◇◇◇
そんなわけでその夜は私の部屋で寝ることになった。
王室が用意してくれたベッドは天蓋付きで、レースのカーテンがついていて、ふっかふかだった。
安宿の硬いベッドとは違う。
こういうベッドを使うのはハネムーンみたいで……。
「なんか、こういうベッドを使うと新婚初夜みたいだね?」
ナイトガウン姿のクヴェルたんがベッドに腰を掛け、小首を傾げる。
クヴェルたんは私の頭の中が読めるのかしら? それとも同じことを考えてた?
「アデリナもそう思わない?」
ふかふかのベッドの上で跳ねながら、クヴェルたんが微笑む。
「ぜ、ぜんぜんそんなこと、思っとらんだがね……!」
変な言葉遣いになってしまった。緊張してるのが丸わかりだ。
「クヴェルたん、何もしないって約束忘れないでよ」
私はベッドの縁に腰を下ろした。
大きなベッドなので端と端で寝れば、体が触れ合うことはないと思う。
「うん、しないよ。
あっ……でも」
「何……」
クヴェルたんが迫ってくる。
彼はいつの間にか大人の姿に戻っていた。
服はどういうわけか伸び縮みしている。
私は、ナイトガウンを纏った美青年からしか得られない栄養素があることを知った。
「アデリナに魔力を供給しないと。
昼間魔力を使って疲れたでしょう?」
クヴェルたんの逞しい腕が私の肩に触れ、彼に抱きしめられていた。
彼の体温を感じ、心臓がドクンドクンと音を立てた。
「いや……今日は魔力をほとんど使ってないよ。
集中できなくて魔石にルーンを彫れなかったし……」
「ルーンを彫ろうと思うだけでも魔力って流れていくもんだよ」
そうなのかな? 魔石やルーンのことには詳しくないからよくわからない。
「だから、僕の魔力を分けてあげるね」
「でも……」
この状況でキスしたら、キスだけでは済みそうにないんだけど……。
「明日、沢山魔石にルーンを彫るんでしょう?
魔力が足りなかったら何も出来ないよ?」
それを言われると辛い。
「なら……一回だけ」
「うん、わかった」
クヴェルは色っぽく目を細め、口角を上げた。
確かにキスは一回だけだったんだけど……。その一回が長かった。
後書き
※リスベルン王国の危機に何やってるんだろうね? この二人は? と思いながら書いてました。ようやく本当の意味で両思いになったので、イチャイチャが止まらなかったようです。
※もう少し前世云々でもだもだするかと思ったんですが、そうはなりませんでした。シリアスな雰囲気が長く続かないようです。