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30話「豪華な朝食。国王からの依頼」



食堂にはきらびやかなシャンデリアが吊るされ、床には真紅の絨毯が敷き詰められていた。


縦に長いテーブルの上には燭台があり、銀食器がセットされている。


テーブルの上には豪華な料理がいくつも並んでいた。


私の大好物のビーフシチュー、ハーブのサンドイッチ、じゃがいものポタージュ、スモークハムといちじくのトースト、パフペイストリーのパイ、仔羊のフィレソテー、グリルドチキン、ブランケット・ド・ヴォー、オマール・テルミドール、ソール・ムニエール、カレ・ダニョー・ペルシヤード、フィレ・ダニョー・ロティ、バルブ・ア・ラ・ロワイヤルがお皿に綺麗に盛り付けられている……!


デザートにアップルパイ、フルーツのコンポート、レモンドリズルケーキ、苺のタルト、苺のケーキ、モンブラン、タルト・タタン、レモンタルト、シュークリーム、エクレア、チーズタルト、マカロンが並び、まるで宝石箱のようだった。


これだけあると、どれから食べるか迷ってしまうわ!


「アデリナの好物まで調べてたの? 趣味が悪いな」


クヴェルたんはお料理を見て眉を顰めていた。


私はクヴェルの隣に座り、国王はテーブルを挟んで向かいの席に座った。


私はどれから食べようか迷った末に、バルブ・ア・ラ・ロワイヤルをいただくことにした。


バルブ(ヒラメの一種)は高級魚だから、多分街のレストランでは手に入らない。


バルブを一口含むと赤ワインの芳醇な風味が広がる。


もぐもぐと私が食事を口に運ぶのをクヴェルが、複雑そうな表情で眺めていた。


「クヴェルは食べないの?」


「今は食欲がなくてね」


クヴェルは、みんなの前で正体をバラされたことにまだ腹を立てているみたいだ。


バルブ・ア・ラ・ロワイヤルの次に、ソール・ムニエールをいただき、デザートにアップルパイと苺のタルトとタルト・タタンもいただいた。


ここの料理は、トリヴァイン王国の王宮で出された料理と同じくらい美味しかった。


私は祖国では虐待に近い扱いを受けていた。だが、お母様と王妃様が生きている時には、シェフやパティシエが腕に縒りをかけた料理を振る舞われていたのだ。


私が料理を食べ終わるまでの間、クヴェルたんは一口も口にしていなかった。


王様に腹を立てているのは分かるけど、食事を抜くのは良くないわ。


私はメイドに頼んで、レモンタルトとチーズタルトとマカロンを包んでもらった。後でクヴェルたんと一緒に食べよう。


長年、食べ物で苦労したせいかどうしても残すのを勿体なく感じてしまう。




◇◇◇◇◇





「ご馳走になりました。

 とてもお良いお味でしたわ。

 そうシェフとパティシエにお伝え願えますかしら?」


私は優雅な微笑みを浮かべ国王にお礼を伝えた。


お腹を思いっきり鳴らして、ガツガツ食べて、お土産まで包んでもらって、今さらお嬢様のように振る舞っても仕方がない気がするけど、礼儀は大事だしね。形だけでもお礼を伝えておこう。


「もちろんでございます、アデリナ様。

 貴方が喜んでくださったと知ったら、料理人たちも誉れと感じるでしょう」


「陛下。私はクヴェルのパートナーとして、B級冒険者としてここに参りました。

 どうか敬称はお控えください。

 敬語も必要ございませんわ」


偉いのはクヴェルで、私はそのオマケに過ぎないのだから。私におべっかを使っても仕方ないよ。


「承知いたしました。

 では、今後はアデリナ嬢と呼ばせていただきます」


「そうしていただけると、こちらも気が楽ですわ」


お嬢様らしく振る舞うのも王族と話すのも久し振りだから、この話し方も優雅な微笑みを維持するのも凄く疲れる。顔が筋肉痛になりそうだわ。


「食事も終わったし本題にはいろうか?

 それで国王がB級冒険者の僕とアデリナを城に呼びつけた理由は何?」


クヴェルは国王を警戒しているようで、厳しい表情を崩さない。


「水竜様、そう焦らずともよろしいではありませんか。

 香り高き紅茶をご用意いたしました。

 食後にいかがでしょうか?」


「用がないなら僕は帰るよ」


クヴェルたんは冷徹に言い放つと席を立った。


「水竜神様よ、どうかお心を鎮められますように」


「僕は冒険者として城に来たと伝えたはずだけど?」


クヴェルが国王に冷ややかな視線を送る。


「失礼いたしました。

 今後は『クヴェル様』と呼ばせて頂きます」


「僕は一介の冒険者に過ぎない。

 様付けは不要だよ」


「申し訳ございません。

 では、『クヴェル殿』と呼ばせていただきます」


国王がクヴェルたんの顔色を伺いながら尋ねた。


「まぁ……それならいいけど」


クヴェルたんはぬるやかにうなずき席に座った。それを見た国王がホッとした表情で胸をなでおろしていた。


神様ともなると色々と大変なのね。


クヴェルが神様としての扱いを受け入れたら、神としてのこの国に肩入れしたことになってしまうものね。


クヴェルたんはトリヴァイン王国の神様だから、リスベルン王国には肩入れできないよね。


クヴェルがリスベルン王国の異変を察知したとき、早急に国から出ていこうとしていたのはその為かもしれない。


そういえば、トリヴァイン王国にあった水竜様の像は国王と王太子によって破壊されてしまったけど、クヴェルはまだトリヴァイン王国の神様のままなのかな?


「それで、B級冒険者の僕に国王がなんの用があるわけ?」


クヴェルは「B級冒険者」として依頼を受けることを念入りに強調する。


一介の冒険者が国王にそんな口をきいたら大変なことになるけど、国王もクヴェルもその辺は気にしないらしい。


「本題に入らせていただきます。

 クヴェル殿には、北の湿地に巣食う魔物を討伐していただきたい」


国王が神妙な面持ちで口を開いた。


ついに元凶であるミドガルズオルムの討伐依頼が来た。


「元凶の魔物って?」


「おとぼけになられるのですか?

 クヴェル殿ほどのお方が、禍々しきかの存在に気づかないはずがございません」


国王はにこやかに笑っていた。だが彼の目には鋭い光が宿っていた。


「さあね、ギルド長は誰かに口止めされているのか北の地に住み着いたモンスターの名前は明かさなかった。

 僕はしがない冒険者に過ぎない。

 開示されていない情報は知りようがないよ」


クヴェルたんは眉根を寄せ厳しい表情で冷徹に言い放った。クヴェルたんはあくまでもB級冒険者として通すつもりらしい。


「左様でございますか。

 では、国王としてB級冒険者のクヴェル殿に依頼したい。

 北の湿地にミドガルズオルムという厄介な魔物が住み着きました。

 魔物による被害は徐々にこの国に広がりつつあります。

 あの禍々しい魔物こそ、我が国に降りかかる異変の元凶。

 クヴェル殿には早急にミドガルズオルムを討伐していただきたい」


国王の説明によると、ミドガルズオルムがこの地に現れたのはおよそ二週間前。


ミドガルズオルムは北の海から上陸し、土地や水を汚染しながら湿地を進み、湿地帯の真ん中で動きを止め、そのままその地に住み着いてしまったらしい。


ミドガルズオルムがこの大陸に上陸して二週間しか経過していないなんて驚きだわ。 


てっきりもっと前に住み着いて、徐々に大地や水を汚染しているのだと思っていた。


これ以上、ミドガルズオルムを放置したらこの国はどうなるのかしら?


考えただけで背筋が寒くなるわ。


「三日前、街道を封鎖いたしました。

 しかし、それより前に愚息が……。

 王太子が、兵を率いミドガルズオルム討伐へと向かってしまったのです。

 あの禍々しい魔物の恐ろしさは、王太子にも十分に伝えたはず……!

 だというのに……!」


国王は苦悩の表情を浮かべている。ここに来て初めて国王の人間らしい表情を見た。


彼も一国の王である前に人の親なのだ。


それにしても、勇敢というか無謀というか無鉄砲というか……行動力のある王太子ね。


確かこの国の王太子の名前は……。


「息子の名前はテオドリック・リスベルン。

 年は二十歳。

 余と同じ銀髪に紫の目をした長身の男です」


そう、テオドリックだわ。


「息子が率いた兵の数は五十名。

 十隻のカヌーに乗り、ミドガルズオルムの元へ向かいました。

 どうか、ミドガルズオルムを退治し、息子と兵を連れ帰っていただきたい!」


国王は悲壮感の籠もった顔でクヴェルに懇願し、彼に向かって深く頭を下げた。


クヴェルは冷たい視線を国王に向ける。


当初クヴェルはミドガルズオルム退治を受けるつもりでここに来た。


皆の前で自分の正体を明かされ、神として国に協力するように誘導されたことに怒っているのだ。


国王が何もしなければ、クヴェルたんもここまでへそを曲げなかったのに。



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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 人と神様(恋愛攻略中の神)の価値観の違いもあるのかな〜 神様にタメ口は不味いし、『自分分かってますよ!』とアピールしないと駄目かなと思い込んでたとか?(笑) 王様だし普…
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