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23話「ゴラード・ビリックは質の悪い職員のようだ」




だけど、今はクヴェルといちゃついている場合ではない。


ギルドの職員を待たせてるんだ。急いで支度しないとね!


今日来ているのはギルド長のオルフェリオさんかしら? それともトーマスさんかしら?


二人共温厚な方だけど、あまりお待たせしたら悪いわよね。


私はクヴェルにライニゲンダー・シャワーの魔法をかけてもらい、マントを羽織り部屋を出た。


ライニゲンダー・シャワーの魔法は夜はお風呂と洗濯の代わりに、朝は歯磨きや洗顔の代わりになる非常に便利な魔法なのだ。


クヴェルは子供の姿に変身し、私のあとについて一階に向かった。


彼への気持ちを自覚してから、彼が側にいるだけでドキドキしてしまう。


クヴェルが髪をかきあげる仕草、てくてくと歩く姿、腕組みをするときの真剣な表情、その全部が愛しい。


ふとクヴェルと目が合う。彼は私に向かって穏やかに微笑んだ。その瞬間キュンと胸が音を立てた。


子供の姿のクヴェルとなら一緒にいても平気だと思っていた。


だが実際は子供の姿のクヴェルと視線が合っただけでも、青年クヴェルの端正な顔立ちや艶のある囁き声を思い出してしまい、胸が高鳴り、心がふわふわした。


ああ……これが恋なのね!


クヴェルと目が合う度に「好き」って気持が溢れてくる。




◇◇◇◇◇




いつまでもクヴェルのことだけを考えていたいけど……そうもいかない。


今、この国の人達はミドガルズオルムによる汚染に苦しんでいる。気を引き締めて事態の改善に向けて動かないとね!


私達が一階に下りると、宿泊客がフロントに集まっていた。


宿を訪ねて来たというギルド職員の姿はフロントにはない。彼らはいったいどこにいるのかしら?


「おはようございます。

 皆さんお早いですね。

 こんな時間にフロントに集まってどうしたんですか?」


「アデリナさん、クヴェルさん、大変ですよ!

 今、食堂にギルドの職員が来てるんです!」


どうやらギルドの職員は食堂にいるようだ。


「彼らはアデリナさんとクヴェルさんに用があるようで……。

 先ほどから『遅い!』とか、『早く呼んでこい!』とか、『俺様をいつまで待たせるんだ!』と騒いでいるんです」


ギルド長さんもトーマスさんもそんな横柄な態度を取る人ではない。


ということは今食堂にいるのは、私達と面識がない職員だろう。


「あんたらを訪ねて来たのはゴラード・ビリックというギルド職員だ。

 ゴラードは子爵家の四男という身分を鼻にかけたいけ好かない野郎だ。

 あいつには何人もの冒険者が泣かされている。

 あんたらも、奴の機嫌を損ねないように気をつけた方がいいぜ」


宿泊客の一人がそう忠告してくれた。


子爵家の四男は継ぐ爵位もなく、婿入りも難しく、貴族の間では平民のような扱いをされている。


しかし、平民からは貴族として扱われ恐れられているようだ。


ゴラードは恐らく貴族の前では威張れないから、平民の前で威張り散らしているのだろう。


その事からもゴラードが器の小さい人間だとわかる。


「大丈夫ですよ。

 私、貴族への対応には慣れてますから」


貴族だからといって、平民相手に横柄に振る舞ってもよいという法律はない。度が過ぎれば王家からお咎めを受ける。


ゴラードが貴族だからといって必要以上に下手に出る必要はない。


「随分落ち着いてるんだな。

 貴族への対応に慣れてるなんて、アデリナさんは一体なにものなんだい?」


「アハハ、ちょっと貴族と顔を合わせることが多かっただけですよ」

 

いけない、いけない。元公爵令嬢なのを知られる訳にはいかないのだ。


「だが気をつけるに越したことはないぜ。

 ゴラード一人でも面倒なのに、奴はやっかいな冒険者を連れてきた」


「やっかいな冒険者って誰ですか?」


「C級冒険者のドクラン、ランザー、イグニスの三人だ。

 奴らは頭はあまりよろしくないが、体格に恵まれてる上に馬鹿力だからな」


「ええ……知ってます」


私は深く息を吐いた。


マルタさんから「冒険者ギルドの人間が訪ねて来た」と聞かされたとき、私は真っ先にドクラン、ランザー、イグニスの三人組を思い浮かべた。


彼らがお礼参りに来たという私の予想は、半分は当たっていたようだ。


「この街に来たばかりのアデリナさんにまで、奴らの恐ろしさは知れ渡っているようだな」


私がため息をついたのを、宿泊客は恐怖心からと勘違いしたらしい。


「権力はゴラードが、力はドクラン、ランザー、イグニスの三人が担っている。

 あの四人に目をつけられたら、王都では仕事が出来ないぜ」


つまり連中は中途半端な強さをお互いに補い合い、その力を使って弱い者虐めをしていると言うことね。


そんな連中を野放しにしておけないわ。私の正義感に火がついた。


「ご忠告ありがとうございます」


親切に教えてくれた宿泊客にお礼を伝えた。


「クヴェルさんは不思議な力を持っているがまだ子供だ。

 アデリナさんは華奢な女の子だ。

 女子供だけじゃ舐められる。

 俺も一緒についていってやろうか?

 俺だって冒険者の端くれだ。

 奴らを牽制ぐらいできる」


そう言った宿泊客の足はがくがくと震えていた。


他の宿泊客も「俺達も行くよ!」と申し出てくれたが、全員顔色が悪く、微かに体が震えていた。


「皆さんのお気持ちはありがたく思います。

 ですが彼らへの対応は、私とクヴェルだけで大丈夫です」


宿泊客にはこの街での生活がある。彼らを巻き込む訳にはいかない。


「皆さんは、ここで待っていてください」


私がそう伝えると、彼らは安堵の表情を浮かべていた。


十八年間、貴族として生きてきたので貴族への対応には慣れている。


ワームを何体も倒してレベルも上がった。


だから、ゴラードのこともC級冒険者三人組のことも少しも怖いとは思わない。


「アデリナ、本当に平気?

 なんなら僕一人で行こうか?」


クヴェルが私の袖を引っ張った。私を見つめる彼の表情には心配の色が宿っていた。


「平気だよ。これでも元貴族だもん。いばりんぼうの貴族への対応は慣れっこだよ」


私は小声でクヴェルに伝えた。


「あのね、元貴族でも今のアデリナは平民なんだよ。

 今までは君が公爵家の令嬢だったから、周りの貴族も君にそれなりの敬意を払って接していたんだよ」


クヴェルにそう言われ、学園にいたときどんな扱いをされていたのか振り返ってみた。ろくな思い出がない。


「私より身分の下の貴族から、悪口を言われることなどしょっちゅうだったよ。あれで私に敬意を払っていたの?」


「悪口は言われたけど、暴力は振るわれていないでしょう?」


言われてみれば、学園では散々悪口は言われたけど、暴力を振るわれたことはない。


公爵令嬢に暴力を振るったらただでは済まないと、彼らもその辺はわきまえていたのかもしれない。


「そう言えばそうだね」


「平民相手に、貴族がどんな態度を取るかわからない。

 もし、相手がアデリナに乱暴を働くようなら、僕は容赦なく相手を吹っ飛ばすからね」


クヴェルの顔は険しく、怖いくらい冷たい目をしていた。


クヴェルたん、頼もしい!


「僕は、この国の将来や国民よりアデリナの方が一億倍大切だから!」


彼に大切に思われているのが痛いほど伝わってきた。


クヴェルが街の人を見捨てて他所の国に移動しないように、私が気をつけないと。


嫌味なギルド職員と態度の悪いC級冒険者のせいで国が亡びるなんて、この国の人達がかわいそうだもの。


「クヴェルたん、私のことはそんなに心配しなくても大丈夫だよ。

 平和的に交渉に臨もうね」


クヴェルたんは私のことになると過保護になる。


平和的な交渉の為にも、私が相手に舐められないように気をつけないと。


私は深呼吸して息を整え、食堂へ続くドアを開けた。



読んで下さりありがとうございます。

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