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22話「ファーストキスの動揺。アデリナ恋心を自覚する!」




――アデリナ視点――



リスベルン王国、王都、宿、早朝。


今、クヴェルたんと私の唇が触れた……!?


大人の姿のクヴェルはまだ寝ぼけているようで、きょとんとした顔でこちらを見ている。


もしかして、私達の唇が触れ合ったことにクヴェルは気づいてない……?


「アデリナからキスしてくれるとは思わなかったな。

 僕の寝込みを襲うなんて、アデリナは結構積極的なんだね」


クヴェルが美しい目を細め、にやりと笑う。


「違っ! あれは偶然! 事故で……!

 ほんとは唇じゃなくて、ホッペにチューする予定で……。あっ……」


自ら墓穴を掘ってしまった! 私は慌てて自分の口に手を当てた。


「ふふふ……。 

 アデリナからのキスならほっぺでも嬉しいよ」


クヴェルが緩やかに口角を上げ、嬉しそうに微笑む。


美青年の笑顔が尊い……!


ドンドン……!


またドアが叩かれた。


そうだった!


誰かが部屋の扉をノックしていたのを忘れてた!


「アデリナさん、クヴェルさん起きてるかい!?」


この声は女将のマルタさんだわ!


「大変! クヴェルたん!

 早く子供の姿に変身して……!」


マルタさんに大人の姿のクヴェルを見られたら面倒なことになるわ。


「僕はもうちょっとこの姿で、アデリナとのキスの余韻に浸っていたいんだけどな」


自身の唇に人差し指を当てるクヴェルたんは、絵になるくらい妖艶で、思わず見惚れてしまう。


私だってもう少しイケメンのクヴェルを鑑賞していたい……。


「アデリナさん、クヴェルさん、起きておくれ!

 冒険者ギルドから厄介な人達が来てるんだよ……!」


マルタさんの声はトーンが低く、不安気だった。


ギルドから厄介な人物が来てる?


もしかして昨日絡んできたC級冒険者の三人組のことかしら?


私達が泊まっている宿を調べてお礼参りに来たとか?


そうだとしたら、マルタさんや他の宿泊客に迷惑はかけられないわ。


「起きてます!

 支度したらすぐに向かいます!」


「良かった、起きてたんだね。

 アデリナさん達が来るまでは私が対応しておくからね。

 でもできるだけ早く降りてきておくれ」


私が起きていることがわかると、マルタさんの声は普段の落ち着きを取り戻していた。


「クヴェルたん、今の話聞いたでしょう?

 急いで身支度を整えよう」


「わかった。

 でもその前に……」


クヴェルたんに手を引かれ、気づけば彼の腕の中にいた。


「ちょっとだけハグさせて」


耳元で囁かれる青年クヴェルの低音ボイスが色っぽくて、背すじがぞくぞくし、心臓がドクンドクンと音を立てた。


彼の体から漂うライニゲンダー・シャワーの爽やかな香りが漂う。


早く身支度をして一階に行かなくては行けないのに……。いつまでこの時間をずっと味わっていたい。


彼の長い指が私の髪を撫でる。それだけで心臓が口から飛び出しそうになる。


これ以上は私の心臓は持たない……!


「あ、あのね……!

 そろそろ支度を始めないと……!」


「うん、そうだね」


クヴェルの体が私から離れていく。彼は少し寂しそうな顔をしていた。


大人の姿でそんな表情しないで! 胸がキュンキュンしちゃうよ!


「一階に下りる前にアデリナに伝えておきたいことがあるんだ」


クヴェルが急に真剣な表情をした。


「クヴェル……?」


「北の湿地に住み着いたモンスターのことなんだけど……」


「うん」


凄く重要な話みたい。私は姿勢を正し、クヴェルの話に集中した。


「僕の推測だけど、北の湿地に住みついたのはミドガルズオルムだ」


「ミドガルズオルム……?」


「蛇のような見た目で毒をまき散らす巨大なモンスターだよ」


うわぁ……想像しただけで背中がブルリと震えた。


「この国で起きている異変はミドガルズオルムのせいだと考えている」


「……それはどうして?」


「まず街道にワームが大量に出現した件。

 あれはきっと、北の湿地にミドガルズオルムが住みついた影響で地下の水脈が汚染され、

 ワームが湿地の中にいられなくなって、逃げ出した結果だ。

 街道に逃げてきたワームが人と遭遇し人々がワームを退治しようと彼らを切りつけた結果、

 逆に増えてしまった」


「なるほど……」


ワームもミドガルズオルムの被害者だったのね。


「この宿の井戸水の汚染もミドガルズオルムの影響だろうね。

 水ほどでもないけど、この国の空気も汚染されている」


「そうだったのね」


だからクヴェルはリスベルン王国についた時から、様子がおかしかったのね。ずっと何かを警戒しているみたいだった。


「多分、今宿の一階に来ているのは冒険者ギルドの職員だろう」


「そうなの?」


私はてっきり、ギルドで私達に絡んできたC級冒険者の三人組がお礼参りに来たのかと思った。


「ギルドの職員はなんの為に宿を訪れたのかしら?」


街道のワーム退治を急かしに来たのかな?


「恐らく彼らがここを訪れた目的は、僕に井戸の浄化をさせることだ」


「井戸の浄化……だけどそれは昨日クヴェルが……」


「僕が浄化したのはこの宿の井戸だけだよ。

 ミドガルズオルムによる地下水の汚染が、この宿だけに留まっているとは思えない。

 他の宿でも……いや国中に影響が出ていてもおかしくない」


「そっか、そうだよね」


この宿の水が汚染されていたってことは、王都にある他の井戸も汚染されている可能性が高い。


「それで、彼らの話を聞く前にアデリナの気持ちを確認しておきたかったんだ」


「私の気持ち……?」


「うん、僕はこの国から一刻も早く離れるべきだと思っている。

 仮にそれが一度トリヴァイン王国に戻り、陸伝いに他国に行くことになったとしてもだ」


クヴェルの目には強い意志が宿っていた。


彼がそんなことを言うのはきっと私の為だ。


私を危険な目に遭わせたくないから……。


「だけど、アデリナはこの国の人達を見捨てたくないんだよね?」


そう言った時のクヴェルは少し切なそうだった。


「うん……。

 この国には親切にしてくれた団長さん達も住んでる。

 それに、ギルドの人達もこの宿の女将さんも宿泊客も、みんな良い人だった。

 だから……彼らを見捨てて自分だけ逃げるのは嫌だな」


「アデリナならそう言うと思った」


彼は私の回答がわかっていたようで、穏やかに笑っていた。


「ごめんね。

 私には大した力がなくて……。

 クヴェルの能力頼みなのに、こんなわがまま言って……」


「僕の力はアデリナの願いを叶える為にあるんだ。

 だから気にしてないよ」


クヴェルが私の手に、自身の手を重ねた。


ゴツゴツしている大人の男性の手の感触に、心臓がドクン……! と音を立てる。


「ただ、これだけは言わせて。

 一度関わったら途中で逃げ出すことはできない。

 アデリナは、この件に最後まで関わる覚悟はある?」


「最後まで関わる覚悟……?」


「言い方を変えるね。

 僕が言いたいのは、ミドガルズオルムを倒すまでこの国を離れない覚悟のことだよ」


ミドガルズオルムを倒す……?


毒を撒き散らす危険なモンスターを……?


いくら井戸を浄化しても、ワームを退治しても、元凶のミドガルズオルムを倒さなければ、この国の厄災を祓うことはできない。


私が覚悟を決めないとこの国は……。


「覚悟ができてないなら、僕はアデリナを担いででも他国に逃げるよ」


「それは駄目だよ、クヴェルたん。

 そんなことしたらクヴェルたんでも嫌いになっちゃうよ」


「それは困るな。

 アデリナに嫌われたら僕は生きていけないから」


クヴェルは眉を下げ、どこか傷ついたような憂いを帯びた表情をした。


「私、覚悟を決めるね!

 ミドガルズオルムを倒すよ!

 それでこの国の人達の平穏な生活を取り戻す!!」


私は真剣な表情でクヴェルを見つめ、拳を固く握り腕を突き上げた。


正直に言えばミドガルズオルムに挑むなんて怖い。


駆け出しの冒険者にすぎない私にできることがあるかもわからない。


だけど、私にできることが一つでもあるなら私はこの国の為に戦いたい!


何もしないで逃げ出すなんて嫌。


「ごめんね。

 クヴェルたんに迷惑をかけて」


「いや、君なら絶対にそう言うと思ってた。

 君を危険に晒したくないから、この国から急いで去ろうとしていた僕が過保護なだけかも」


クヴェルが困ったようにゆっくりと眉を下げ、苦笑いを浮かべる。


「そんなことないよ!

 クヴェルたんは、勇敢だし、思いやりが深いし、優しいよ!

 クヴェルたんはいつも私の事を思って行動してくれた!

 クヴェルの行動の一つ一つが、凄く、凄く、嬉しかったんだから!」


クヴェルがいなかったら、私はこんなに勇気を出せなかった。


ミドガルズオルムを倒すまでこの国に留まる覚悟だって持てなかったよ。


ああそうか……私はクヴェルのことがとってもとっても大好きなんだ!


……多分、恋愛的な意味で……。


か、顔が熱い……! 湯気が出そう……!


心臓が煩いくらいにバクバクと音を立てている。


意識したらクヴェルの顔を直視できなくなってしまった。


クヴェルも私の事を多分……両思いだと思ってもいいのかな?




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