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12話「リスベルン王国の王都。賑わう街に忍び寄る不吉な影」




それからも数回にわたり、王都へ向かう街道でワームの群れに遭遇した。


私はクヴェルたんから「ブリザード」の魔法を教えてもらい、次の戦闘からワーム退治に参加した。


クヴェルの「祝福のキス」を受けてから、魔法の威力が上っただけでなく、楽に新しい魔法を習得できるようになった気がする。


クヴェルたんの「フローズンエタニティ」と私の「ブリザード」の魔法で、ワームを一掃した。


「アイスランス」の魔法で氷漬けになったワームの体を破壊し、行商人の方々の手も借り魔石を拾い集めたのだった。


ワームに襲撃される間隔は王都に近づくほど短くなっていた。


時には、他所の商団がワームに襲撃されている現場に出くわし、襲われている人々を救護した。


そんなわけで、王都に着いたのは船着き場を出て三日目の午前中だった。


ワームを大量に倒したため、私達が収集した魔石の数は七百個を超えている気がする。


ワームとの戦闘に時間を取られるのは初回だけだ。


それもワームとの戦闘ではなく魔石を拾うのに時間を取られただけ。


二回目以降の戦闘からは、行商人の方々にも魔石を拾うのを手伝ってもらった。


なので、そこまで時間をロスせず王都に辿り着けた。



◇◇◇◇◇



リスベルン王国の王都の門を馬車でくぐり抜けると、活気のある町並みが広がっていた。


よく整備された道の周りには、手入れの行き届いた家が軒を連ねていた。


遠くにある大きな建物が目に入った。高台に建つ勇壮な建物がきっとお城だろう。


街を歩いている人を観察する。彼らの装いには清潔感があり、ほつれやツギハギのある服を着た人はほとんどいなかった。


「賑やかな街ですね。

 それに裕福な人が多いみたい」


私は街の印象を口にした。


「王都はリスベルン王国で一番大きな街ですからね。

 騎士団や兵士が巡回をしているので治安もいい。

 それにしても……いつにも増して人が多いな」


行き交う人々を眺め、団長さんがそう呟いた。


歩道には人が溢れ、車道は渋滞していた。


トリヴァイン王国の王都もそれなりに大きな街だったが、これほど混雑はしていなかった。


「お祭りでもあるんですか?」


「そんな予定はないはずですが……」


不思議。お祭りでもないのにこんなに人が集まっているなんて……。


「アデリナさんとクヴェルさんは王都で冒険者登録をするんでしたよね?

 お二人にはお世話になったので、冒険者ギルドまで送らせてください」


私達は団長さんのご厚意に甘えることにした。


知らない街で建物を探すのは大変だ。道も混雑しているし、道に迷ったらいつまでも目的地に辿り着けない。


「その林檎は俺のだ!」

「やかましい! 先に手にしたのは俺だ!」


街では小さな小競り合いが起きていた。渋滞で馬車が止まっているので、小競り合いの様子がここまで聞こえてくるのだ。


「賑やかな街だけど、あまり治安は良くないようですね」


「おかしいですね。

 以前来たときは街の人はもっとおおらかで、穏やかな雰囲気の街だったのですが……」


団長さんは街の様子を見て困惑している様子だった。


街に人が溢れていることと、人々の気持ちが荒んでいることに何か関係があるのかしら?


「街道にワームが出現するせいかもね」


「クヴェル、それはどういう意味?」


「ワームの出現が増え、近隣の村から食料が届いていないのかも」


クヴェルたんが道行く人を眺めながらそう答えた。


クヴェルが言うことにも一理ある。


あの数のワームが頻繁に出現したので、一般の人では太刀打ちできない。


そうなると物流が滞ってしまう。物流が滞り食べ物が不足すれば、人々の心は荒み、小さないさかいが絶えない。


ということは……!


ギルドに行けば沢山お仕事があるって事だよね!


私は不謹慎にもそんなことを考えてしまった。




◇◇◇◇◇




渋滞に巻き込まれつつも、馬車は一時間ほどで冒険者ギルドに到着した。


冒険者ギルドは二階建てで、赤いレンガ作りの立派な建物だった。


「トリヴァイン王国からここまで乗せてくださりありがとうございました。

 皆さんが助けてくださらなかったら、

 こんなに早くリスベルン王国に辿り着くことはできませんでした。

 団長さんをはじめ、商団の皆さんには感謝してもしきれません」


私は丁寧に頭を下げた。


「いやいや、アデリナさんとクヴェルさんには何度もモンスターを退治してもらいました。

 助けられたのはこちらの方ですよ」


団長さんは人の良さそうな顔にシワを作り、微笑んだ。


「これ、お世話になったお礼。

 一人に一つずつあげるね。

 肌身離さず身につけて。

 特に食事の時とお風呂の時は体から離さないで」


クヴェルたんは魔石に紐を通し、ネックレス状にしたものを行商人の皆さんに配っていた。


クヴェルったら、いつの間にこんなものを作ったのかしら?


「ありがとうクヴェルちゃん!」


「クヴェルちゃんから貰ったお守りだもん。  大切にするに決まってるよ!

 このお守りをクヴェルちゃんだと思って、そばに置くからね!」


お姉さん達はクヴェルとの別れを瞳に涙をたたえて惜しんでいた。


クヴェルたんは本当に年上キラーだわ。


「わしらの拠点は王都の外れにあります。

 何かありましたらいつでも訪ねて来てくださいね。

 アデリナさんとクヴェルさんなら大歓迎です」


団長さんはそう言って微笑んだ。


「わしらにできることなら何でもします。

 いつでもお二人の力になりますよ」


初めて訪れた知らない街。知り合いもいなければ人脈もコネもない。


そのような時に、こんな温かい言葉をかけられたら……泣いてしまう!


「ありがとうございます!

 団長さんも皆さんもお元気で!」 


私は改めてお礼を伝え、深く頭を下げた。


行商人の方々を乗せた馬車が遠ざかっていく。私達は馬車が見えなくなるまで手を振った。


「クヴェル、別れって寂しいね」


「アデリナ、感傷に浸ってる暇はないよ」


「どういう意味?」


「アデリナはリスベルン王国で当初予定していた過ごし方を覚えてる?」


「うん、もちろんだよ。

 まずは冒険者ギルドに登録。

 依頼をこなしてB級冒険者を目指す!

 ついでに旅の資金を調達する!

 ランクを上げるには時間がかかるから、

 この街にしばらく滞在することになるよね?」


リスベルン王国の港から船に乗るにはいくつか条件があると、団長さんが教えてくれたのだ。


港から船に乗れるのは、貴族か商人などの身元がしっかりしている者か、冒険者ギルドに登録しているB級以上の冒険者。


商団の護衛をしていた兵士さんが、冒険者のシステムをざっくりと教えてくれた。


まずはF級の犬猫探しや、買い物の手伝いや、庭の草むしりなどをこなしEランクを目指す。


E級になったら薬草を採取して、D級を目指す。


D級になってようやく低級のモンスターを退治する依頼を受けることができる。


「F級の仕事から始めたら、B級冒険者になるには順調にいっても半年はかかるよね?」


「そんな悠長に構えてる時間はないよ」


クヴェルは厳しい表情をしていた。


「どうして?」


「理由は言えないけど、僕はなるべく早くこの街から出たい」


「うん……」


思い返せばクヴェルはこの国に来てからずっとピリピリしている。


「昇級に時間がかかるのは、下位ランクの依頼がしょぼい割に手間がかかるからだ」


確かに外に出てワームやオークを倒すのに五分。お使いや草むしりを終えるのには早くても一、二時間かかる。犬猫探しに至っては何日かかるかわからない。


「だから冒険者ギルドの職員に僕らの実力を見せつけて、強引にでも昇級しようと思うんだ。

 川沿いの街から王都に着くまでに、何度もワームの群れと遭遇した。

 その時に集めた魔石を見せればB級に昇格できるかもしれない」


「そうだね……!」


船着き場から王都に来るまでにワームを七百体以上倒した。


倒したワームの数は正確には把握していない。七百を越えた辺りから数えるのが面倒になったからだ。


だからもしかしたら、私達が倒したワームの数は千体を超えているかもしれない。


「B級に昇格したら馬車を買って北の湿地帯を越えて、急いで港に向かおう」


「そんなに急がないと駄目なの?」


私としては数日ゆったり宿で過ごして、それから港に向かってもいいかな……と考えていた。


「この街……いや、この国には長く滞在しないほうがいい。

 この国は多分もう……」


クヴェルたんが眉根を寄せ愛らしい顔を顰める。


「クヴェルたん、この国に何か起きてるの?」


この国で何か起きてるなら、できれば解決してから次の国に行きたい。


私に解決する力があればの話だけど。


「詳しいことはここでは話せないんだ。

 とりあえず冒険者登録する為に中に入ろう」


「うん」


他国に行くにしても、まずは冒険者ギルドに登録してBランク以上にならないといけないもんね。





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