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11話「リスベルン王国に到着! 不穏な空気とワームの大群にご用心」



帆船に乗ること二時間。


私達はセレヴィア川を渡り、対岸に辿り着いた。


「着いたーー!

 ここがリスベルン王国なんだね!!」


船から降り地面を踏みしめる。


異国の空気を胸いっぱいに吸い込み、両腕を伸ばす。


「空気まで違う気がするね!

 ね、クヴェルたん!」


「…………そう、だね」


隣を見るとクヴェルたんが眉間に皺を寄せ、厳しい表情をしていた。


船に酔ったのかな? 酔い止めを持っていないか行商人の人達に聞いてみようかな?


「アデリナ」


「うん、何?」


クヴェルが私の手を取る。


「この国では、なるべく……いや、絶対に僕の側を離れないでね!」


彼が珍しく真剣な表情をするので怯んでしまう。


「うん、それはいいけど。

 この国に何かあるの?」


「驚かせてごめん……。

 ただ……そう、アデリナが迷子になると困るから」


クヴェルたんが眉根を下げ困ったように笑う。


「もう、私は子供じゃないよ」


「そうだね」


クヴェルたんは心配性だな。


船着き場には小さな街が出来ていた。


ちらっと見ただけだけど、街は清潔そうだし、行き交う人達の服装も整っていて、治安が良さそうだった。


こういう街にもならず者がたむろする場所があるから、そういうところには行くなってことかな?


行商人の人達はこの街で馬を調達するようで、その間に私達は早めのお昼ご飯を済ませた。


川の近くなので、魚料理がメインだった。


パプリカをふんだんに使った鯉の煮込み料理や、燻製にした(ます)にサラダを添えた料理などがテーブルの上に並ぶ。


「うわぁ〜〜!

 美味しそう!!」


お腹がぐーぐー鳴ってしまう。


「ね、クヴェルたん」


向かいの席に座るクヴェルに目を向けると、彼は浮かない顔をしていた。


「アデリナ……」


「何?

 もしかして魚料理苦手だった?」


「そうじゃないよ。ただ……」


歯切れが悪いな?


やっぱり体調が悪いのかな?


「この国で何かを口にする時は、僕の確認を取ってからにして」


それはどういう意味なのだろう?


「どうして?」


「理由はまだ言えない。

 でも大事なことなんだ」


クヴェルは厳しい表情をしていた。きっと彼は凄く大事なことを伝えている。


「うん、わかった。

 クヴェルの言う通りにするね」


クヴェルが私の害になる事を言ったり、したりするはずがない。


ここは彼に素直に従っておこう。


「よかった」


クヴェルが安堵したように息を吐いた。


「行商人の人達も心配だな。

 別れる時に渡そうと思ったけど、先にお守りを渡しておいた方がいいかな……」


クヴェルはぶつぶつと何かを呟いていた。



◇◇◇◇◇




魚料理を美味しくいただき紅茶をすすっていると、出発の準備が出来たと団長の奥さんが呼びに来てくれたので、馬車へ向かった。


リスベルン王国は街道にモンスターが出るので、護衛の男性は馬で並走するそうだ。


団長さんはその馬の手配をしていたらしい。


港で食料をいくつか買い込み、昼過ぎに街を出た。


街道は綺麗に整備されていた。


団長さんの話だと、このまま順調に進めば三日ほどで王都に着くそうだ。


護衛さんが馬車を降りたので、馬車が少し広くなった。


クヴェルたんは私の膝の上から隣の席へと移動した。


クヴェルたんの細くて華奢な体を抱きしめながら旅をするのも、楽しかったのに……残念。


リスベルン王国の景色はトリヴァイン王国とは全然違った。


トリヴァイン王国では街道の周りには森が広がっていた。


対して、リスベルン王国の街道の周りは平原や湿原や湖が多い。


「街道を少し外れると、沼や湿地がある。

 底なし沼もあるし、モンスターも出るから気をつけて」


行商人のお姉さんがそう教えてくれた。


そう言えば、トリヴァイン王国は森や草原が多いけど、リスベルン王国は湿地が多いと授業で習った気がする。


夕方まで何事もなく進み、日が暮れるまでには宿駅に着けるかも……などと話していたとき。


「モンスターだ!」


馬で並走していた護衛の兵士が叫んでいた。


馬車の窓から外を覗くと、ワームの群れが道を塞いでいた。


「ワームが大群で、しかも街道に出現するなんて……!」


護衛の兵士は顔を真っ青にしていた。


馬車の中からも悲鳴が上がり、他の人達は隣の人と抱き合ったり、手を繋いだり、お祈りを捧げていた。


「数が多すぎる!

 ここは俺が食い止めます!

 団長は街に引き返してください!」


護衛の兵士が腰の剣を抜きそう叫んだ。


「斬っちゃ駄目だよ!

 ワームは斬ると増えるからね!」


外からクヴェルの声がした。隣にいたはずのクヴェルがいつの間にかいなくなっていた。


「少年!

 馬車から降りたら危ないぞ!」


「大丈夫だよ。

 僕はこう見えて強いから」


兵士が険しい表情でクヴェルに声をかける。クヴェルは口角を上げ余裕の笑みをうかべていた。


「お兄さんも魔法の巻き添えにならないように下がってて」 


ワームはクヴェルの数メートル手前まで迫っていた。


クヴェルは兵士の前に出ると、迫ってくるワームに向かって腕を突き出した。


「フローズンエタニティ!」


クヴェルが呪文を唱えると猛吹雪が巻き起こる。


トリヴァイン王国でオークを倒した「ブリザード」の魔法とは比べ物にならないくらい、大規模の吹雪だった。


目を開けるとクヴェルの数メートル先にいたワームが氷漬けになっていた。


氷漬けになったのはそれだけではなかった。はるか後方にいるワームまでブリザードで凍りついている。


クヴェルの魔法は街道の近くに生えていた木々を凍りつかせ、近くにあった池は一面氷に覆われていた。


「ワームはね、こうやって倒すんだよ」


馬に乗ったまま呆然としている兵士にクヴェルが告げる。


兵士は目を見開いたまま、硬直しているようだった。


無理もない。あれだけの魔法を至近距離で見たのだから。


「アデリナ、馬車を降りられる?」


「うん」


「急いでこっちに来て」


クヴェルたんが馬車を降りろと言うのだから、外は安全なのだろう。


私は彼に言われるままに馬車を降り、クヴェルの元に向かった。


吹雪の魔法を使ったせいか、外の空気は冷え切っていた。


「アイスランスの呪文で攻撃して、奴らの体を粉々にしちゃって。

 魔石を取り出す手間が省けるよ」


クヴェルたんてば抜け目がないのね。


でも、長い旅になりそうだし、魔石とお金と経験値はいくらあっても構わない。


蛇みたいなミミズみたいな生き物が、口を大きく開けたまま凍りついていた。


動かないとわかっていても不気味だ。


「アイスランス! アイスランス!

アイスランス!!」


私は呪文を唱えワームの体を砕いていく。


オークとの戦いでレベルが上がったので、魔法力には余裕があるのだ。


あとには砕け散ったワームの体の破片と、魔石だけが残った。


「ワームの体は素材にならないから、魔石だけいただくね。

 魔石を取り除いてしまえば、彼らの体は土に還り、再生できなくなるからね」


いつものことだけどクヴェルの知識には驚かされる。


それに、彼はとても実戦に慣れている。


魔石を拾うこと一時間。


一回の戦闘で百個以上の魔石が手に入った。


これでしばらくは宿代とご飯代の心配をしなくて済む。


夜になる前に魔石を拾い終えることが出来てよかった。


「次はアデリナも戦闘に参加して。

 ブリザードの呪文を教えるから、経験値稼ぎをしよう」


クヴェルたんにかかったら恐ろしいワームも、ただの経験値と魔石を稼ぐ相手にしかならないようだ。


「うん、わかったわ」


私も経験値がほしい。それに戦闘経験も積んでおきたい。


「次からは行商人の人達にも魔石を拾うのを手伝ってもらおう。

 無理なら護衛のお兄さんだけでもいいけどね」


流石クヴェルたん、使えるものは何でも使うのね。


ワームの残骸を風魔法で退け、次の宿駅に向けて馬車を進めた。


「リスベルン王国は街道に魔物が出るといっても、あれほどの大群ではありませんでした。

 ワームも湿地の奥に住んでいて、街道に出て来ることはなかったのに……」


団長さんが不安そうにそう漏らしていた。


リスベルン王国では原因不明の異変が起きてるみたいだ。


「王都に着けば騎士団や兵士がおります。

 そこまで行けば安全でしょう」


団長さんはそう話していたけど、本当にそうなのかな……?





読んで下さりありがとうございます。

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