3.朝食の席で
フレデリック殿下への気持ちが変わってしまった私が、朝食の用意されている居間に向かうと、両親と兄のリアムが既に席に着いていた。
彼らは夢の中で、私に憎悪の視線を向けていたことを思い出し、沈んだ気持ちで席に着く。目の前に朝食が並べられる様子を、ぼんやりと眺めながら、夢の内容を思い出す。
ヘイグ伯爵家の令嬢リリアーナを害した罪で私は投獄され、処刑された。
フレデリック殿下の浮気相手、リリアーナ。
リリアーナは、ヘイグ伯爵にも、夫人にも似ていないことから養子であることは明らかだった。ヘイグ伯爵家には男児しかいないので、政略結婚の駒として、遠縁から養子に迎え入れたのだろうと考えられていた。
養子である伯爵令嬢を、王子の愛人を害した罪で処刑という大事になどならない。
一夫一妻制の我が国は、愛人よりも婚約者や伴侶のほうが尊重される。
しかし、リリアーナは、ヘイグ伯爵に匿われた隣国ジェフサの王が、最も寵愛したといわれる、亡くなった側妃の子だった。
ヘイグ伯爵家は、外交に長けている家門で、夫人は隣国ジェフサの高位貴族令嬢。ヘイグ伯爵夫人の弟はジェフサ王の側近で、リリアーナの母が暗殺された際に、彼女を国外に逃がすと決めた王に、その逃亡先を探すよう頼まれた。そこで、姉であるヘイグ伯爵夫人を頼ったのだ。
リリアーナの母である側妃は、爵位は分からないが貴族令嬢だった。ジェフサ王の愛の深さ故か、輿入れ後はほとんど表に立つこともなく、与えられた宮でひっそりと過ごしていたそうだ。その為、リリアーナの母の顔は、国内でも広くは知られていない。
籠の中の鳥のようねと、私はパンを一口大にむしって口に運ぶ。リリアーナの母である側妃様は、本心に幸せだったのかしらと、いつもより甘く感じるパンを咀嚼した。
両親と兄は何やら話していたが、その話の輪に参加する気にはなれず、再びパンを口に運びながら、夢の内容を思い出す。
王立学園の卒業式の次の日。賓客を招いた卒業パーティーが開催される。
そこで賓客として招かれていたジェフサ王が、側妃そっくりに育ったリリアーナを見つけた。ジェフサ王は我慢できず、リリアーナを抱きしめ、彼女が我が子だと明かした。
我が国の王を含め、ヘイグ伯爵家以外は寝耳に水の出来事で騒然となった。
この騒動をチャンスだと考えたフレデリック殿下は、私がリリアーナを害していたと断罪し、彼女を庇った。
そして、自分の真実の愛はリリアーナにあると、フレデリック殿下は宣言した。
我が国は隣国ジェフサとは違い、一夫一妻制。
出自が曖昧な養子である伯爵令嬢リリアーナと、侯爵令嬢である私であれば、フレデリック殿下の婚約者としてふさわしいという点では、天秤は私に傾いていた。
しかし、側妃とはいえ王の子。隣国の姫であれば、その天秤はリリアーナに傾く。
更にジェフサ国との繋がりも強固なものとなるので、王は私を切り捨てることに決めた。
両親や兄も、相手が自国の王族や貴族ではない。国際問題に発展してしまうため、私を擁護することはできない。
でも、断頭台に向かう私に向けた、あの憎悪の目は何だったのだろう。
婚約破棄の慰謝料と、隣国の姫を虐げた賠償金で生活が逼迫したからだろうか。
でも、貴族席に居たし、三人とも身なりも良かったわ。
笑い合う両親と兄の声に、意識が現実に戻った。
そもそも両親や兄は、本当に私を愛しているのだろうか?
ただのエヴェリーナではなく、フレデリック殿下の婚約者である侯爵令嬢としての私を愛していたのではないだろうか?
だから、最後にあんな視線を送ってきたのでは?
ふとそんな疑惑が私の中に芽生えた。
「気持ち悪い」
ポツリと呟いた言葉は、誰の耳にも届かず消えていった。
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