家出令嬢のお受験②
ざわめく会場に、呆気を取られたがエイドは本来の目的を思い出し、気を引き締めた。
遅れてきてしまったが、メリアナはどこにいるのだろうか?
娘との和解を決意し、使用人達に背中を押されはるばる試験会場まで足を運んでは見たものの、【教養コース】での試験会場でメリアナを見つけることができなかった。
何となく、外に出てみるとかなりの人だかりができている。
あれは、演習場の方か?
例年、こんな騒ぎになるような試験は行われていなかった筈だが、、、。
【国政コース】の卒業生でもある、エイド自身、このような人だかりができた入学試験など見たことはなかった。
人混みも、騎士の様な、何でも拳で物事を解決しようとする考え方の人間がエイドは苦手だった。
と、いうか、運動苦手がコンプレックスとなり、パッと見た感じ、『男らしくてかっこいいわ!』と言われるような騎士という人種が嫌いであった。
こうして学園にいると、嫌な思い出が蘇ってくる。
エイドは、青ざめた顔を隠すように、ベンチに腰掛け休息を取ることにした。
手のひらで額を覆い隠し、滲んできた汗を拭う。
気持ちが悪い、、、
ブライアン、いったいあいつはどこにいったんだ。
人混み嫌いな主人のために、「早く目的を達成するためにこっからは別行動でメリアナ様を探そうぜ!」ともっともらしいことを言ったはいいもののどうせ母校に浮かれて後輩やら、教職員やらに顔を出しているんだろう。
これだから脳みそまで筋肉が詰まっているやつは嫌いなんだ!
そう言いつつもなんだかんだで、性格に難ある、自分についてきてくれているブライアンに感謝はしてなくもないが、、、。
と、そんなこんなを考えつつ、少し具合が良くなってきたため、兎にも角にもブライアンと合流しなければ、、、
気は進まないが、【騎士コース】の人だかりに向かってエイドは歩いていった。
「師匠ー!お祖父様!わたしやりましたよ!合格ですって!」
はしゃぐ、メリアナにシードは睨みをきかせる。
「はしゃいでいる場合じゃないだろ!お前!」
「え?」
“何がですか?“
と言った表情で首を傾げるメリアナに、ここ数ヶ月でかなり打ち解けた2人。
シードは自身の二面性にもすんなり、ついて来てくれた女性は初めて出会った。
お互いに思っていることを雰囲気で察してもらう。
思っていることを言いすぎる。
といった悪癖を超えてコミュニケーションを取り合う仲にまでなっている。
「お前、基礎魔力80といったら、最高クラスだぞ!」
“それのどこが悪いのだ“
と言いたげなメリアナに苛立ちつつも丁寧に説明するあたり、師弟関係が定着しつつあるなと、ガイアスは穏やかな眼差しでそれを見つめいていた。
「最高クラスは問答無用で騎士団の準団員として加入することになる。普通クラスの生徒とは違って、授業内容は過酷でハードだ。ついこの間までお嬢様だったお前についていけるわけがない!」
慌てた様子で、説明するシードにメリアナは怒られている訳ではないと胸を撫で下ろした。
「大丈夫ですよ!これでも、この数ヶ月、お祖父様と野営に行ったり、魔物を狩ったりと有意義な時間を過ごさせていただきました」
鍛えた大胸筋を見せびらかすように、あくまでも優雅に胸を張るが、その見た目の頼りなさにシードは脱力するほかなかった。
いつだって危険が伴う騎士団の仕事は人手不足であり、優秀な人材を逃すまいと、上位成績の持ち主たちを集めたクラスは将来の幹部候補を育成するために、早いうちから騎士団に所属させ任務へ同行させることとなっている。
少ないながらに、存在している女性団員は、高い身分の女性の身辺警護やその他雑務につくことが多く、ほとんどは普通クラスへと行く。
と、いうか、女性が男性と同じレベルで自身を追い込むようなトレーニングを行うことは滅多にないため、いいとこ基礎魔力を65辺り。間違っても70超えることはない。
そのため、今回、女性の最高クラス入学者ということで、教員達も、生徒達も動揺を隠せないでいた。
「まぁまぁ、とりあえず、メリアナ入学おめでとう」
今まで聞いているだけだった、ガイアスは純粋に孫娘の合格を祝う。
「ありがとうございます!お祖父様」
とここだけみると、とても孫想いないいお祖父様、、、なのだが、、、
「ところで団長?俺は野営とか、魔物狩りとか、メリアナの訓練メニューに入れた覚えはないんですがね???」
表向きは朗らかな笑顔だが、目元が全然笑っていないシードに、騎士団団長ことメリアナの祖父はモゴモゴと手をせわしなく動かして答えた。
「え、いやぁ、だってわしもメリアナと訓練したかったし、、、」
「訓練って!あんたのは実践じゃないですいか!孫娘危険に晒してどうするんですか!」
と、部下からごもっともな叱責を受け、騎士団団長は肩を落とした。
「お祖父様!私はとてもいい経験をさせていただいたと思っています!お祖父様とシード様の尽力あっての結果でございますわ!」
そう、慌ててフォローを入れるメリアナに気を良くしたのかすぐに復活して調子付いたように
「そうかそうか!さすが我が孫!最高クラスとは鼻が高いぞ!!」
と埒が開かないのであった。
と、いった様子を柱の陰から《《執事は見た!》》状態となっているブライアンだがいまいち理解が追いついていなかった。
というのも、ガイアス様とメリアナ様が2人でキャッキャしているのはまぁ、そのよくある事というか、、
祖父と孫といった関係のため、家出した行き場のないメリアナ様を庇護しているのが公爵家というのはわかる。
だが、シード、、お前はなぜここにいるんだ!?
ブライアン・ライアットは動揺を隠せないでいた。
とにかく、メリアナ様が若い男と楽しそうに戯れている姿など、、、見ただけで旦那様が卒倒するに違いない!
しかも相手が俺の弟だと知られたら、、、消される、、、。
多分俺が、、、。
容易に想像できる結末に身慄いしつつ、華麗なる保身を固めるために、もとい主人を探すために、ブライアンはその場を後にしたのだった。