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家出令嬢の弟子入り②

淑女とは、華奢で儚気、一歩引いて夫を立てる。

女性の活躍する場も増えてきてはいるが、今だにそういった風潮は根深く残っている。


一昔前までは女性を決して家からは出さず、陽の光を浴びせず白い肌を維持させるなど行きすぎた美容を追及するあまりに体の弱い淑女が増えてしまった。

女性の体が弱いと出生率は下がる一方で、研究が進んだ今は女性に無理な美容を押し付けない様にと王室直々に勅令が降りてはいるが風潮というものは中々変わることがない。


メリアナは幼き日のことを思い出していた


『お父様、私もお外で遊びたいわ』

厳しい淑女教育をこなし、束の間の休み時間。


領地の小作人の子供達だろうか?

無邪気に野山を駆け回って遊んでいるのを見て、メリアナは何か必要なものはあるか尋ねにきた父にそう答えた。


そんなメリアナを一瞥し、表情を変えず父はなんと言ったのだろうか。


覚えていることは、その時母を亡くしたメリアナがとてもよく懐いていた妙齢の侍女が、教育に悪影響であると解雇されたことであった。


侍女は度々、メリアナを息抜きのために外へ連れ出し、花や小さき生き物に触れさせてくれた。


それらは父に内緒で行われていたことであり、幼いメリアナにとっては侍女の立ち回りが理解できず、、、。

この思い出は心の中のしこりとして今でも残っている。


私が野山を駆け回りたいと思うことは誰かに迷惑をかけてしまう。

お父様や侍女をはじめ、家の顔に泥を塗る行為なのだわ。


そう考えたメリアナは一層、“淑女らしく“あろうとした。

本当は、野山を駆け回り、泥にまみれ、汗を流し、肉体改造に勤しみたいと構想を夜な夜な練っていたとしても、、、。


「筋トレ、、、ですか?」


表情が見えないくらい頭を下げ小刻みに震えているメリアナを見てシードは気分を良くした。


いくら変わり種であろうと、筋トレをしたいという令嬢は一般的にはいない。

ましてや、あのメリアナ・リード。

淑女の中の淑女として育てられたお嬢様には無理だ。

そう思ってリードは優しく語りかけ、、、


「なんて素晴らしい!!!また一つ夢が叶うなんて!シード様!いえ、これからは師匠と呼ばせてください!私、独自に筋トレの方法を考えいましたの、まずはどちらを鍛えたらよろしいのでしょうか?食事もタンパク質摂取中心に考えなければ、、、!あぁ!構想が溢れ出てきますわ!」


天を仰ぎながらあくまでも優雅に興奮を抑えられない様子で捲し立てる令嬢を目の前に、シードはなすすべがなかった。


早朝から始まった、初訓練は夜が更ける頃に終了し、身支度を整えたメリアナは祖父に呼ばれた晩餐会へ参加するために身支度を整えていた。

晩餐会と言っても師匠の歓迎会のようなもので身内でのお食事会であるが、メリアナはご機嫌であった。


「お嬢様、訓練はとても身になったようですね」


主人の嬉しそうな様子にリーナは髪を整えつつ声をかける


「ええ、師匠との訓練はとても素晴らしいものですわ、よかったらリーナも今度一緒にいかが?筋トレは美容にとてもいいと思うのよ」


リーナはふふっと笑い


「考えておきますね」

と答えた。


適度に汗を流すことを体の巡りをよくし、引き締まった肉体を実現させる。

折れそうなたおやかな美も美しいとは思うけれど、私はやっぱり、しなやかで、ハリのある美しさが好みだわ。

シュメールの女性が求めている美は、そもそも壊れゆく手前のものだわ。

どの美しさにもそれぞれの良さがあるとは思うけれどやりすぎにはよくないと思うの。

ダイエットも美白を維持する方法も、やる過ぎると体を壊してしまうわ。

でも運動と筋肉トレにやりすぎなんてないと思うのよ!


どうにかシュメールの女性が健康的な美に目覚めてくれないかしら?

メリアナは一つの野望を見つけ出したような気がした。


「メリアナはどうだ?合格できそうか?」


訓練終了後、休憩もそこそこに上官に呼び出されれば駆けつけなければ行けないのが縦社会というものだ。

分かってはいるが、訓練中そわそわと屋敷の中から張り付いて見張るくらいなら、参加すればいいのにと胸の内でシードはため息をついた。


しかし、お嬢様だと侮ってはいたがメリアナの努力は目を見張るものであった。

有り余る持久力、努力を怠らない真面目な性格。騎士を志すものとして必要なものは揃っていた。


「はじめは不可能かと思いましたが、もしかするかもしれません」


シードは素直にそう思っていた。


「そうか、これからもよろしく頼むよ」


騎士団の中では厳格な表情しか見せないガイアスも孫娘のこととなると表情が柔らかい。

シードはしばらく帰っていない実家の両親を思い出した。




「失礼します」

豪華な執務室のドアをノックし、部屋の主に呼ばれた執事は返事を待たずに部屋のドアを開けた。

本来であれば返事を待たずに入室することは許されない行為であるが、部屋の主とは長年の付き合いであり、学園時代の同級生という間柄。

主従関係とは家、ある程度砕けた関係性を主人の希望で保っていた。


「どうされましたか?旦那様?」


王家の象徴でもある銀髪に碧玉の瞳を持って生まれた我が主人は、女性顔負けの美貌を真っ青に染めて、執務室を行き来していた。


「ブライアン、メリアナが、娘が、、」


主人の狼狽ように、これはただ事ではないと、察し発言を促すように落ち着いて声をかけた。


「旦那様、落ち着いてください、メリアナ様がどうされました?」


人間離れした美貌に王家の特徴を色濃く受け継いだ旦那様は、どうにも冷たい印象を持たれがちであるが、ブライアンにとってはただのヘタレ。

娘にどう接していいのか分からず四苦八苦しているただの困った父親であることをよく理解していた。


「家、、出て、あぁ、どうしたらいいんだ!!!」


頭を抱え、地面にうずくまってしまった我が主人を励まし、宥め、喝を入れつつようやく聞き出した内容は


一人娘であるメリアナ様が家出をしてしまったということ

理由は全く分からないこと

どうやらメリアナ様の祖父である公爵家へ身を寄せていること

この3点だけであった。


頭を抑えつつブライアンは主人である、エイドに向かって情報を整理する。

「ちょっと待て、あのメリアナ様が理由もなく家出をするわけがないだろう」

ブライアンにとって、メリアナとの関係は希薄でエイドの領地経営の補佐が主な業務内容となっている。

とりあえず侍女頭に話を聞くために、役に立たなくなったエイドを奮い立たせ、ブライアンは侍女頭を呼びにその場を後にした。


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