家出令嬢②
「お嬢様はこの国の創立史はご存知ですよね」
「もちろん知っているわ、この国では平民ですら幼子から学ぶことよね」
昔、1人の男がいた。
この男は、強欲で乱暴者であったが神から授けられた特別な才能を持っていた。
その才覚を自身の欲を満たすために使用していた。
それを憂いた神は心が清らかで、力に恵まれた女性を1人選びその者に男を改心させる役目を与えた。
のちに聖女と呼ばれるこの女性は男と出会い、導き、2人で建国を果たした。
以上がこの国の建国史であるが、聖女の影響からシュメール国は女性の社会進出が盛んであり男女平等の風潮すらある。
メリアナも才ある女性として名高く、学園で学ぶことにより力をつけ、王族の婚約者候補となることが社交界では囁かれていた。
「リーナ、まさかあなた、、、」
そこまで思考を巡らせたメリアナは一つのことに気づいた。
リーナは何も言わず真剣な顔で頷いた。
というのもこの国の貴族は伯爵以上は多少なりとも王族の血筋であり、リード伯爵家からも何度か王妃を出しており“由緒正しいお家柄“とういやつである。
王族に連なる伯爵以上の家柄の者には“婚姻“が義務付けられている。
そのため幼い頃から婚約者を定めるものも珍しくはないが、才あるものは皆 学園で学び王族の配偶者となれるように定められている。
メリアナは才あるものとして誰もが認めていたため、学園への入学は決まっていたようなものである。
何故お父様がこのタイミングで、婚約をするよう命じてきたのかはわからないが確かにこの方法しか残っていないようだ。
メリアナは覚悟を決めて頷いた。
「リーナ、家出するわよ」
「お嬢様、一度入ってしまえば学園は全寮制ですから流石の旦那様も容易には手出しできません」
リーナの言う通り、学園教師は特殊な身分となり元王族、貴族、平民何でもござれの才ある者集団である。
迂闊に手出しすれば、王族に手を出すことと同義にあたるため流石のお父様も手を出すことはできない、と思う。
どのみち、メリアナの未来は婚約するか学園に行って結婚するかの二択なのだ。
どうせ結婚するなら自分のやりたいことやりきって結婚したい。
元々、メリアナは王立学園の【教養】コースに入学する予定であった。
多くの王妃がこのコース出身であることから、聖女への登竜門と言われている。
そのためマナー、ダンス、刺繍、音楽などのレッスンを過密スケジュールでこなし各家庭教師達に合格間違いなしと言われるほどに成長していた。
しかし、メリアナは心のどこかで【騎士】に憧れを抱いていた。
颯爽とかける馬に跨り、民の安全を守り、導くその姿。
何より、筋肉!そう、筋肉こそ正義なのだ。
どうせ、お父様の言いつけに背くのであれば、一世一代の大チャンス!
「わたし、騎士コースに入学するわ!」
「え。お嬢様、教養コースではないのですか?」
流石のリーナもこの返答は予想しておらず驚いた様子を見せた。
「ええ、どうせ言いつけに背くのであれば自分のしたいことをするわ」
そう言って、とびきりの笑顔を見せたメリアナに、リーナが言えることは何一つなく
ちょっとミスったかも、、
と思いつつも、メリアナはもう止まらない。
とりあえず様子を見ましょう、侍女は考えることを放棄した。
そうと決まればやることはたくさんあるが、まずは入学手続きを行わなければいけない。
入学手続きには推薦書の記入が必須となる。
「リーナ、至急お祖父様に手紙を届けて欲しいの」
内容は王立学園の推薦書を記入してほしいとシンプルなものであるが
元々、推薦書の記入者は身分が高く学園出身のものが望ましいため、現在も騎士団団長として活躍しているアスメル公爵家のお祖父様に記入してもらうのはごく一般的である。故にバレないはずだ。
「かしこまりました」
リーナは心得ていますと一瞥し、足早に退出していった。