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目覚めたら、婚約破棄の5年後でした ~わたしが悪女? 旦那様が妹の元婚約者? 記憶にございません!~  作者: 三羽高明@『廃城』電子書籍化


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20/23

婚約破棄された令嬢は、美貌の悪女の夢を見るか?(1/2)

 夕食を終えたわたしは、早速もう一つの貸金庫のカギを探すことにした。


「わたしは金庫の移転を計画していた。つまり、カギも新天地へ持っていくつもりだったんだわ」


 となれば怪しいのは……荷物の中! 手ぶらで旅をするはずないんだから、きっとトランクか何かを持っていたはず! カギがあるとすればその中に違いないわ!


「今日のわたしは冴えてるわね!」


 上機嫌で自室を見渡す。……ここにはなし。じゃあ衣裳部屋は……なし。もしかして寝室? ……やっぱりなし。


 この部屋にはないのかしら?


「ねえ、ちょっといいかしら?」


 今度は廊下に出て、使用人を捕まえる。


「わたし、事故に遭った時にどんな荷物を持っていたの?」

「さあ……」


 使用人は困ったような顔になる。


「若奥様は、救助された後は港に急造された医療施設に収容されていたのです。身元が分かるものを何も持っていらっしゃらなかったので、関係者も困っていたとか。でも、そこにたまたま若旦那様がいらして、ロワイヤル家に移送されたんですよ」


 ……たまたま、ねえ。


 多分、フローランさんはわたしを追いかけようとして港へ行ったんだろう。「遠い海の向こうへ行くことにします」って手紙にはあったから、船に乗ったんだってピンと来たに違いない。


 それに、「行方を捜したりなさいませんように」とも念押しされていたけど、フローランさんがそんな言葉に従うわけない。


 彼なら、愛する妻がいなくなってしまったとしたら絶対に探そうとするはずだ。フローランさんはそういう人だと、わたしにはちゃんと分かっていた。


 でも、困ったわね。きっと乗客と一緒に荷物も流されちゃったんだわ。っていうことは、わたしのカギも……。


 ……ううん。諦めるのはまだ早い。明日は港へ行ってみよう。もしかしたら運良く岸に流れ着いて、回収された荷物もあるかもしれないもの。


 翌日。わたしは早々とロワイヤル家を出発した。王都には港が一つしかないから、特に迷うこともなく目的地に到着する。


 使用人が言っていた「医療施設」はすぐに見つかった。といっても、「施設」なんて立派なものじゃなくて、空き倉庫を活用した診療所って感じだったけど。


「あの、すみません」


 ちょうど、倉庫からカゴに山盛りになった使用済みのシーツを抱えた女性が出てきた。わたしは彼女に話しかける。


「荷物の忘れ物はありませんか? この間の船の事故の時に流されてしまって」

「それでしたらこちらへどうぞ」


 女性の案内で連れてこられたのは、「医療施設」の隣の倉庫だ。床一面に、衣類やハンドバッグなどが並べられている。


「事故の後、港に流れ着いた荷物です。お探しのものが見つかりましたら、係員に声をかけてくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 女性が去っていく。さて! この中からわたしの持ち物を見つけないといけないのね! これは結構骨が折れそうだわ!


 ……いや、骨が折れるどころじゃないかも。


 よく考えたら、どんな荷物を持って家出したかなんて、全然覚えてないわ。それなのに、こんなにたくさんの漂着物の中からどうやってお目当てのものを探すの?


 それに、もう誰かに持って行かれちゃってたらどうしよう!? 「うひひひ、このカバンの中からお宝の気配がするぜ! いっちょかっぱらってやるか!」みたいな悪者がいたりしたら……!


 妄想を膨らませていたわたしだったけど、ふと、いくつもある荷物の中に、やけに気になるものがあることに気が付いた。


 小ぶりで持ち運びしやすそうな女性用のトランクだ。高級な素材でできているけれど、海水に浸かった後で長い間放置されていたためか、少々表面が傷み始めている。


 ……もしかして、これじゃない?


 どうしてそう言い切れるのかは分からなかった。あえて言うなら直感だろうか。わたしの心のどこかに残ってる、二十二歳の自分が言っている気がしたんだ。「これはあなたの荷物よ」って。


「このトランク、持って帰っていいですか?」


 係員さんを呼んで尋ねた。係員さんは「あなたのですか?」と返す。


「はい、そうです」

「では、何か証明できるものを」

「証明……」


 どうしよう。そんなものはない。「わたしの直感が囁いているんです!」なんて言っても、信用してくれないだろうし……。


「このトランクはダイヤル式ですね」


 困っていると、係員さんが助け船を出してくれた。彼の言う通り、トランクの側面にはカギの役目を果たすダイヤルが並んでいる。


「あなたの荷物なら、開けられますよね?」

「確かに!」


 ……いや、全然「確かに!」じゃないわ!


 カギの開け方は至ってシンプル。0から9までの数字を使って、四桁の秘密の番号を完成させるだけだ。


 でも、わたしは正解となる数の並びを覚えていない。


 この桁数じゃ、総当たりに挑むのも無謀な話だ。だって組み合わせは、10×10×10×10=1万通りもあるのよ? そんなものを片っ端から試してたら、傍目には執念深いコソ泥にしか見えないわ!


 でも、これは絶対にわたしの荷物だ。だったら大丈夫なはず。さっきこのトランクを見つけた時を思い出して。ほら、頭の中に数字が浮かんで……。


 ……来ないわ! 何てことなの! こら、早く思い出しなさい! この、このっ……!


「……大丈夫ですか?」


 突然自分の頭を叩き出したわたしを見て、係員さんは不信感をあらわにする。マズイ! このままだと、変な人扱いされてつまみ出されちゃう!


 こうなったら、なるようになれだわ!


 ダイヤルを素早くいじり、「0921」に合わせた。わたしが暗証番号によく使っている数字だ。お決まりのパターン、自分の誕生日である。


 これでダメなら、トランクを抱えて逃亡するしかない。このカモシカの脚は飾りじゃありませんように!


 祈るような気持ちでトランクの上部に手をかける。すると……開いた!


「持ち主が見つかって良かったです。こちらに受け取りのサインをお願いしますね」


 小躍りしたいくらい浮かれていたけど、表面上は澄ました顔で係員さんが渡してきた受取用紙に自分の名前を書く。


 ああ、助かったわ! 二十二歳のわたしと十七歳のわたしの誕生日が同じで良かった! それに、盗人がいないくらい治安のいいこの街にも感謝しないと!

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