71 かまど
眠ってしまった。
熟睡してしまった。
目覚めてから、失敗に気づいた。
(夜の間に……逃げ出さなければならなかったのに……!)
フィンの生存を確信した瞬間に緊張の糸が切れ、昨日はほとんど徹夜だったのもあって、ほとんど一瞬で寝落ちてしまったのだ。
喉に手をやる。
ちゃんとある。
周囲はまだ暗いが、窓からわずかな光が入ってきている。
夜明け前。
暗い中で、他の少女たちが起き出してごそごそ身動きしている気配が伝わってきた。
カルナリアが動き出すと、みなの視線を感じた。
脱走を試みると思っていたのに、密告して点数を稼ぐ機会を逃した……そういう嫌な空気。
「みなさん、おはようございます」
ひるんでたまるかと、明るく声をかけた。
ほぼ無視された。
二人ほど、「ん」とか「ああ」と小さく返事してくれただけだった。
(昨日の今頃は、ずっと東の方の、道の上……)
フィンと手をつないで立った、あの時に長く伸びたふたりの影を思い出した。
今の自分は、影どころか自分の指先すらよく見えない闇の中。
しかし昨夜の怖さはきれいさっぱりなくなっていた。
(大丈夫……何とかなります!)
根拠はないが、そう確信し、自分も起き上がり身支度を始めた。
互いの顔もよく見えない中で人が動いている状況を、カルナリアは面白がった。
学校に付属する、親元を離れた子供たちが集団で寝起きする寄宿舎というのはこういう感じなのかもしれない。
空が白み、最初の陽光が射してくる頃に、鐘が鳴った。
ずっと遠いところから響いてきた。恐らく最も高いところにあり最初に朝日を浴びる、タランドン城の塔で鳴らされているのだろう。
それに続いて、建物の中でカンカンカンと音がした。
身支度を調えた少女たちはいっせいに廊下に出て、それぞれの部屋ごとにまとまって整列した。
みなほとんど同じ服装。恐らくそろえていないと処罰される。
(ああ……………………よかった!)
そこで、カルナリアは深く安堵した。
何人も奴隷の女の子がいるのだが。
みな、首輪がばらばらだったのだ。
どうやら、いちいち金を出してそろいの首輪を用意してやるという手間をかける気はないということのようだ。
(そういうことなら、ここで身を潜め続けるのもありです……あのひとが迎えに来てくれるまで)
「あんたは、一番端へ行きなさい。仕事が始まったらこっちに戻ってくること」
言われてカルナリアが移動すると、昨日の、ミオがいた。
他の二人は……いない。
「あたしが、はんちょうってのにされたみたい。卵、っていうんだって。三日ぐらいたったら、他の班に入れられるんだってさ」
入ったばかりの者は卵。ここの基本的なやり方を理解できたら、卵から孵って稚魚になる。そして稚魚から若魚、客を取る人魚へ。
客を取る、というのがどういう行為かカルナリアにはよくわからないが、ここに潜んでいる間に教えられることだろう。
「点呼!」
廊下の端から鋭い声が飛んだ。オティリーではないが、同じように帯を巻いた年上の女性。帯は黒、ふたすじの白い線。姿勢良く、目つき鋭く、残忍な気配。胸は普通。手には短い鞭を持っており、自分の手の平に打ちつけてピシリと音を立ててから、ゆっくり歩き始める。
「第一班! 番号!」
一、二、三、四、五……と八まで素早く、それぞれ違う少女の声が連続する。
「第一班、八名、全員そろっています!」
帯巻きが目の前に来ると、各部屋の責任者たちが、人数を確認し声高に告げた。
「よし」
「第二班、六名! ふたり、夜番にて昼までの就寝を許可されています!」
「よし」
カルナリアがいた班は第三班だった。自分が抜けて七人でも問題ないようだ。
各班の、時々いる体調不良の欠席者などの報告を受けつつ女性は歩き続ける。
姿勢が悪かったり寝ぼけていたりする者には容赦なく鞭が飛んだ。
狙われるのは頬、あるいは肘。
後の班ほど打たれる者が多かった。
優秀だと番号の小さい班に入れ替えられてゆくようだ。
一番端、つまり自分たちの目の前に来た。
「う…………!」
ミオは緊張して言葉が出ない様子。
「……他の人と同じように、班の名前言って。それから番号って言うの」
カルナリアは助け船を出した。
「第、た、たまご班っ、番号! ………………」
「………………二!」
ミオが自分を一と呼ばないので、やむなくカルナリアは自分の番号を先に言った。
「……たまご班、二名!」
「………………」
廊下中からクスクスクスと細波のような嘲笑が聞こえてきた。
「……第十四班。お前たち卵は、四人と聞いていたけれど、『二番』ひとりしかいないな。他はどうした?」
「あ、あの二人は、昨日から、どっか連れていかれて、わかんない!」
「そう」
帯巻きは小さく言っただけだが、カルナリアは悪寒をおぼえた。
「お前。後ろからこいつの腕を押さえろ」
「は……はい……」
言う通りにしたが――これは、ミオが鞭打たれるのに、自分も荷担したことになってしまうのではないだろうか。
いや、同じ班の者に手伝わせることにより、罪悪感を抱かせ、遺恨を作り、力を合わせて上に反抗することをできなくするのも狙いなのだろう。
「やっ! やあっ!」
「うるさい」
帯巻きは、鞭ではなく、手をミオの顔に伸ばしてきた。
「いいか、よく聞いて……おぼえろ、卵」
両手を握り、中指の関節だけ突き出させて、それでミオのこめかみをぐりぐりする。
「いだい、いだい、いだいぃぃぃぃ!」
「お前らの立場は卵、班は十四班。第十四班は、今は四名。いない二人は、処罰中にて不在、だ。わかったか」
「わっ、わがりまじだっ!」
「では言い直せ」
「第十四班っ、卵、二名! 今は四名! しょばつちゅうにてふざいだ、ですぅっ!」
さらに嘲笑が湧き起こる。
「…………後ろを向いて、膝を曲げずに、壁に手をつけろ。ここだ。私がいいと言うまで、絶対に離すな」
帯付きが示したのは、壁のかなり低いところ。
そこに手をつけ、脚を伸ばしたままだと、下半身を突き出さねばならなくなる。
「二番。めくって、脱がせろ」
めくれというのは……つまり、ミオのスカートを……そして脱がせろというのは……!
断り、目立っても、自分も鞭打たれ周囲からはおかしな目で見られ、いいことは何もない。自分はこの少女集団にまぎれこんで身を隠さなければならないのだから、言われた通りにするのが正解。
カルナリアはミオのスカートをめくりあげ、自分が身につけているのとまったく同じ下着をずり下ろした。
「や……やめてぇ……!」
可哀想なほどに肉づきの薄いお尻が、恐怖にこわばり、震えている。
「教えたのに、他の者が言っていることを真似することすらできなかった。これは罰に値する」
帯巻きが鞭を振り上げた。
音が鳴った。
ミオのお尻――ではなく、カルナリアの手の甲で。
「ぐぅっ!」
「え……?」
ミオはきょとん。カルナリアは苦悶。
カルナリアの手の甲、手首に近いあたりが、みるみる帯状に赤く染まってゆく。
打たれる瞬間、カルナリアは自分の手を出してミオのお尻に乗せ、自分が鞭を受けたのだった。
「……どういうつもりだ」
痛みに脂汗を流しながらも、カルナリアは騎士たちの訓練風景を思い出して、帯巻きに正対し、背筋を伸ばして返答した。
「私は、班長に助言しました。その上での不手際ですので、私にも罰を受ける義務があると考えます」
実際は、自分が手伝ったことになるのがいやだったのと、ミオが可哀想だったからだ。
きっぱり言ったカルナリアを、帯巻きは忌々しげに見下ろすが、オティリーやマノン婆からある程度聞いているのだろう、手を出してはこなかった。
「…………ならば、班長に代わって、お前が点呼を取れ」
「はいっ。ミオさん、私の後に、二って言ってね。……第十四班、番号! 一!」
「二!」
ミオはカルナリアの後ろで言ってくれた。
「第十四班、卵二名! 他二名は、処罰中にて欠席です!」
「……よし。次は、ちゃんと班長が言うように。次に失敗したら、尻叩きだけではなく、尻の穴にこいつを突っこんでやるからな」
鞭の握りをミオに見せつけて恫喝してから、帯巻きは廊下を一班の方へ早足で戻ってゆき、全員に今日の連絡事項を伝えた。
それで朝の点呼は終了し、みな食堂へ向かってゆく。
「ありがとう、リア! すごいね、あんた! 奴隷なのに! ごめんね、痛かったでしょ! ひどい! 手、真っ赤! ごめんね!」
「…………」
「むずかしい言葉もいっぱい知ってて! かっこいい!」
「あ、ありがとうございます……」
なつかれた。
そのテンションに戸惑いつつ、みなの後ろについて歩いていった。
食堂では、オティリーが待ち受けていた。
鞭を腰にたばさみ少し脚を開いて魅惑のふとももを見せつけている立ち姿が、恐ろしげでありながら美しく、カルナリアは少しだけ彼女の胸元のにおいをかいでみたいなと思った。
オティリーは、点呼をとった帯巻きから報告を耳打ちされると、すぐ歩みよってきてカルナリアの手を取った。
「痛むか」
「はい」
「動かせるか」
「大丈夫です」
「骨は……問題ないな。よかった」
ここへ連れてこられてから初めて、心配してもらえた。
それが、高く売れそうな「商品」に傷がつくことへの懸念だとしても。
「じゃあ……卵ども、こっちへ来い」
カルナリアとミオ以外に、昨日見た他の二人の「卵」が別な帯巻きに連れてこられていた。
四人の「卵」は、長い食卓がずらりと並ぶその前の、ひとつだけ横向きの卓につけさせられた。
他の二人は、どちらも一睡もしていないように憔悴して、カルナリアとミオに目を向けることすらしない。
「稚魚ども、よく聞け」
オティリーが声を放ち、全員が静まりかえる。
「お前たちの仲間になる、『卵』四人を紹介する。班長のミオ。マイネ。クリス」
少し間を置いてから……。
「この火傷顔は、リアという。貴族の家に飼われていた、貴族と同じことができるやつだ。みな、参考にするように」
八十人近い「稚魚」と、教官の帯巻き数人とミオたちと、全員の視線が集中してきて、カルナリアは困惑した。
教材にされるとは思っていなかった。
当番の稚魚たちにより人数分の朝食が運ばれてきて――カルナリアの前にも配膳された。
他の者たちとまったく同じ、雑穀混じりのパンとスープ、魚肉と野菜の炒めもの。しっかりした量がある。
マイネとクリスという名前の、昨日『おしおき』されたらしく土気色の顔をしている二人は、たちまち肉体が欲求の声をあげて、その音がこの食堂中に響き渡った。よだれをすする音も。
それでも目の前のものにかぶりつかないのは、厳しく『常識』を叩きこまれたのだろう。
「食ってよし」
オティリーの合図で、全員が手を動かし始めた。
……が。
食前のお祈りをしたのは、カルナリアだけだった。
長い卓の「稚魚」たちが注視してくる。
あきらかに真似て、祈りの姿勢を取る子がいる。
隣では、ミオをはじめ他の三人が、目の前の食事をむさぼっている。横一列なのでカルナリアの様子には気づかないようだ。
(参考にしろということなら、遠慮なく)
カルナリアは祈りを終えてから、ひとつ息を吸い、ここは王宮だと思い定めてから目を開け、姿勢を整え、表情もゆったりさせてから、まずはスープを優雅に口に運んだ。
すぐに、食堂全体に沈黙が落ちた。
ほとんど全員が見つめてきている。
カルナリアの食べ方を、姿勢を、手の動かし方を、視線の動かし方、表情まで、すべてを、食い入るように。
王宮では、食事とは侍女に給仕に護衛騎士たちにと必ず人に見られながらとるものだったし、数十どころか数百人が列席する晩餐会に挑んだこともあったわけで、この程度の人数に興味津々に見つめられてもどうということはない――が、それにしても、この目つきは異様だった。
ちょうど半分食べたところで、オティリーが言った。
「みな、わかったな。これが貴族のお嬢様らしい食い方だ。貴族様のお相手をする『人魚』は、これができなきゃならん。できないやつは、『人魚』にはなれても上客の相手はさせられん」
(なるほど、自分の出世がかかっているから――そして、できるようにならないと、処罰されるか、ひどい待遇に落とされることになるのでしょう……)
真剣に見てくるのも納得だった。
だがそこで、予想外のことを言われた。
「リア。残りは、隣のやつらのように食ってみろ」
「え……?」
横を見た。ミオ、マイネ、クリス。ミオだけは少々周囲を気にしているが、他の二人は卓に顔を突っこむようにして、汁も飛び散らせて、がつがつと食べ続けている。
「お客様の中には、きれいな格好をした奴隷女が、やはり所詮は奴隷で品のないところを見せてしまう、それを楽しみたいという方もおられる。みすぼらしい奴隷の子供に、自分と『人魚』が食べた残りを食わせてやり、むさぼり食うところを見ながらことに及ぶのがお好きなお客様がいらっしゃったこともある。そういうお客様の望みに応えて、品がないように振る舞うこともできなきゃならん」
「は…………はいっ!」
想像を超えた嗜好の存在にたじろいだが、思い直して、カルナリアはやる気を出した。
レントに見栄を張りそれらしく振る舞えているつもりだったのにランダルにすぐ見破られた、あの屈辱を忘れてはいない。
本当の平民、本当の奴隷の振るまい方というものを学びたいと思っていたではないか。
これはいい機会というもの。
(ええと…………こう、ですね!)
ミオたちの真似をして、背中を丸め、料理を口へ持っていくのではなく、口を料理に近づける。
スプーンもフォークも、握り拳で持って、突き刺すようにして――。
「もぐ、もぐ、むしゃ、むしゃ」
口を大きく開けて、いっぱいに詰めこんで、音も汚れも気にせずにひたすら咀嚼……。
ちょっと楽しい。
「……話にならないね。どう見ても貴族のお嬢さまが無理してる感じだ」
「…………」
「もういい。後は普通に食っていいぞ」
敗北感の中で、どうしようかと迷ったが――やはりここは、『稚魚』たちのお手本になるのが求められていることだろうと判断し、「カルナリアにとっての普通」の食べ方に戻した。
他の『稚魚』たちの姿勢が明らかに良くなっていた。自分を真似しているのがはっきりわかった。
「食べ終わったら、卵どもはあたしについてきな。リア、お前はあっちだ」
昨日と同じ班に戻された。
第三班と、今ではわかっている。
「今日は、午前中は食堂当番……です、リアさん」
班長は、カルナリアに対する態度が丁寧になっていた。
「みんなが食べ終わった食器を集めて、洗って片づけて、次の『若魚』たちの『朝ご飯』の支度を手伝う役目です」
「わかりました。頑張ります」
食堂当番なので、他の者たちがみな退出しても、自分たちは残っている。
そして「帯巻き」も、ひとり残っていた。
点呼の時の女性である。
普段と違うことのようで、三班の者たちは不安そうだった。
間違いなく、カルナリアおよび周囲の者たちの監視だろう。
「あの、手とか足とか、気をつけて」
先ほど、鞭打たれた手をオティリーが気にするところを全員が見ている。普通ならしくじりで鞭打たれた者など放っておかれる。つまりはこの「リア」は、怪我などさせてはならない相手だということ。
この班長はそこまで読みとった上で言ってきている。目端がきき、頭の回転が早く、才能の色も明るい。いずれは上に行く子だろう。
カルナリアは他の七人と入り混じって働き始めた。
板盆を回収して回り、厨房に入って洗い物。
(こうやるのでしたか!)
山小屋での苦労を思い出しつつ、「正解」を見聞きし実体験する。
大量の食器を洗い、洗い、洗い、並べ、並べ、並べ……。
「班長」
何も言わずじっとたたずんでいるだけだった「帯巻き」が、ぼそりと告げ、班長は即座にカルナリアに言ってきた。
「リアさん、洗い物はもういいです。あちらの手伝いをしてください」
恐らく、ずっと水仕事をさせて、カルナリアの手を荒れさせてはいけないということだろう。
料理を作る年配女性たちの方に回された。
「新しい『卵』かい。ひどい顔だね。目は見えてる? 料理はできるかい? できない、じゃあこいつを持ってきておくれ。この野菜だよ。カゴに入ってるのを、あんたの力で持てるだけ持ってきな」
料理経験のない少女を手伝いによこされるのはよくあることのようで、年配女性たちはまったく嫌な顔をせず、カルナリアにもできることだけを言いつけてきた。
野菜を運んだり、逆に野菜屑を捨てたり、大鍋で大量に作っている煮こみ料理をかきまぜたり、とにかく怪我をしないような作業ばかり。
カルナリアは安心し、大いに楽しんだ。
フィンとささやかな料理を作った時とまったく違い、本格的な厨房で大量の食材を扱い、大きな鍋いっぱいに様々な料理を次々と用意していくところは実に面白い。
王宮の厨房に比べると何もかも大雑把で洗練されていないが、自分が参加できるということにもたまらなく心が弾んだ。
――そのせいで、油断し、大事なことを忘れてしまっていた。
「火が弱いよ! 薪足して、吹きな!」
大鍋を沸かす、カルナリアが丸まれば入りこめそうなほど大きなかまど。
ごうごうと燃えている中に、粗い手袋をはめてかかえてきた薪を押し入れる。
非力なカルナリアでは大量に運べないので、何往復も。
(あのサイコロがなかったら、この苦労をさせられていたのですね……)
便利すぎる発熱サイコロという魔法具を思いつつ、ここまででは一番の重労働を果たしてから、筒を手にした。
これで息を吹きこんで、かまどの火を強くするそうだ。
「ふーーーーーっ」
吹いたが、遠かったので灰が巻き上がるばかりで、年配女性たちにどやされ――。
「ふぅーーーーーっ!」
もっと近づいて、這いつくばって、顔の全面に熱波を感じつつ、全力で息を吹いた。
そうするとゴウッと音が鳴り、熾があかあかと輝き、炎が一気に勢いを増す。
面白い。
屋外体験で従者たちが用意してくれた焚き火よりもずっと大きく強い火が、鍋底に上をふさがれた空間で渦を巻く光景は、美しく、力強く感じた。さらに何度か吹いた。
「ふぅ……」
さすがに疲れて身を起こす。
顔が熱く、灰もついた。洗わせてもらえるといいのだが。
「ちょっと…………あんた!」
切迫した声がかけられ、悲鳴が続いた。
帯巻きがすごい顔で接近してきた。
「え……?」
ずるり、と何かが顔を這って、あごから落ち、床に粘着音を立てた。
カルナリアは自分の顔に手をやった。
ぬるっとしたものが右半面に付着していたが――ここ数日くっついていた、かさかさした、火傷の痕が、なくなっていた。
それは、床に落ちていた。
「あ………………!」
血の気が引いた。
「それなりの熱をあてればすぐはがれる」というフィンの声が脳裏によみがえった。
カルナリア姫は天真爛漫、別な表現でいえば脳天気。でもだからこそ過酷な状況でも楽しみを見つけ出し、恐怖に潰されずに動き続けていられる。
徐々に女の子たちを味方につけてゆく学園成り上がりストーリーが展開されるかと思ったが、やってしまって、終了。次回、第72話「訊問」。秘密をどこまで隠し通せるのか。




