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46 追跡する死神たち


死神(ザグル)退散!」

「死神退散!」

「風よ、お清めください!」


「…………」


 従士ディルイは、困惑していた。


 今、この国に大異変が起きているということは知っている。

 第一王子が平民たちを率いて反逆し、国王が討たれ、「十三侯家」の当主も何人も討たれ、各地で戦闘が始まっている。

 隣領のノーゼラン領は半分が平民軍に占領、ノーゼラン侯爵は城にこもって抵抗し続け、このタランドン領から続々と傭兵が出ていって援軍に駆けつけている。


 このタランドン領は伝統的に戦争には参加しないが、動員令自体は発せられ、ディルイの主、騎士ネレイドが村々を回り徴兵する任務を命じられて、自分も従いワグル村に来た。

 それはいい。


 このワグル村で、山向こうのノーゼラン領から逃れてきた貴族令嬢に出会ったことも――奇妙な存在ではあったが、()()()()()()

 女の脚で越えられる山ではないはずだったが、現実に山から現れたのだから、越えたのだろうと認めることはできる。


 ということは、反乱軍の兵士が侵入してくる可能性が高いということでもある。

 主に山へ向かえと命じられた時、ディルイは自分が最初の戦死者になるかもしれないということも覚悟した。


 だが、理解できないのは――。


 連れ立って山を登った村人たち…………徴集に応じた、健康で屈強、武装した若者たちが。


 渓流沿いの場所で「()()」を見つけた途端に、ひざまずいて、恐怖の形相でひたすら祈りを唱え始めたのだ。


死神(ザグル)退散!」


 (バール)の死骸である。

 死んで、まだそれほど時は経っていない。


「来客」たちが倒したものであるのは間違いない。

 あの奴隷少女は、この熊の(てのひら)を持ってきたのだから。


 だが、なぜ、村人たちはこうも恐れるのか。


「おい」


 比較的冷静な、白髪の男性――村長の父親、前村長に、ディルイはどういうことか訊ねた。


「こいつぁ、人のしわざじゃねえです。ありえねえ」

「どういうことだ」

「顔面が斬られてんです。(バール)の頭ってのはめちゃくちゃ分厚くて、硬ぇんです。弓矢どころか槍を突きこんでも通らねえくらい。それがチーズみてえに()()()()と。ありえねえ。人にできることじゃねえ。()()()()()()――」

「まだあるのか」

「いやもう、口にするだけでも恐ろしいんで……勘弁してもらえませんかね」


「聞かせてもらえるかな」


 突然、新しい声がかけられた。


 上から。


 木々の間に男の姿が見えたと思ったら、飛び出してきて、岩や木の幹を軽やかに伝い、あっという間に降りてきた。


 山中を移動するのに向いた、マントとフード、動きやすい服装。

 顔は――きわめて平凡。

 何の特徴もない。一度別れて、後日また会ったとしても初対面と思うかもしれない。記憶に残りづらい顔立ちの、妙な男だった。


 続いてもうひとり、同じように降りてきた。

 弓矢を(たずさ)えた、こちらはきわめて精悍(せいかん)な男。

 (バール)の鼻面と前脚を持っていた。


 投げ出されたそれを見た村人たちが、また悲鳴をあげ口々に死神(ザグル)退散とつぶやき始める。


「な、何奴(なにやつ)!? ここはタランドン領、ワグル村! 緊急事態につき、現在、他領の者の立ち入りは禁止されている!」


「巡察官である」


 男はディルイに身分証を示した。

 王家の紋章と、四位貴族の人名、役職名。

 あらゆる領内に自由に立ち入り、領主を含むあらゆる者に面会することが許される権限を持った役人だ。


 ディルイは貴族に対する礼をとった。


「タランドン領の事情は心得ているが、巡察官の立ち入りを拒むことはできなかったはずだ」


「それは…………私では判断いたしかねます。我が主、騎士ネレイドが間もなく参るはずですので、それまでしばしお待ちを」


「わかった。ではその間に、今の話を聞かせてもらおう。この(バール)の死骸が、頭と腕が切断されている以外に、何をされているというのか」


 前村長が引きつった顔で答えた。


「見りゃあ……わかるだろ……鳥どもがあんなに集まってくる理由…………()()()()()されてんだよ」


「食べやすく?」


 そこへ、背後の茂みが揺れた。


 犬と、猫背の男が現れた。


 見るからに獰猛そうな大型犬。

 固まる村人たちには一瞥(いちべつ)もくれず、ひたすら地面をかいでいる。


 寝台のようになっている岩のところで小さく吠えた。


「ここに寝そべったな。それから……」


 犬は地べたをかぎ――ふと、風向きが変わった。

 (バール)からの獣臭、死臭。


「ギャンッ!」


 途端に、ものすごい悲鳴をあげた。

 ひっくり返り、腹を見せ、尻尾を巻きこみ、猫背の男の背後に逃げこんで、そこで情けない声をあげてうろうろするばかりになってしまった。


「なんだと……!?」

「どうした。熊におびえたのか」

「いえ、それならここまでもう何度もかいでいます。これは――なんてこった。()()です。こいつはもう使い物になりません」

「何が起きたというんだ」

()()()()()()()、としか……」


「やっぱり」

 前村長が言った。


死神(ザグル)退散! こいつは、山の神様の警告だ。人間の争いを山に持ちこむんじゃねえってお告げだ。お前ら、戻るぞ! ノーゼランの連中も、これ見たら降りてこねえ!」


「おい、一体、何が――」


 ディルイが問うと、前村長はあごをしゃくった。


 人が離れたので、すぐに鳥が降りてくる。

 その鋭い(くちばし)(バール)の毛皮にさしこむと――あっさりと、人の手の平ほどの皮がはがれ、その下の肉があらわれた。

 その肉に別な鳥が食いつくと、これもまたあっさり、肉の塊らしきものがくわえられ、鳥は舞い上がってゆく。


()()()()()()んだよ! 分厚い毛皮も、固え肉も、石みてぇな骨も、()()! あいつらが食いやすいようにな! 人間わざじゃねえ!」


「……なんと。そんな真似を、一体、誰が?」


 巡察官が訊ねたが、村人たちは青い顔で震えるばかりなので、ディルイが答えた。


「恐らく、山から下りてきた貴族さまの、護衛の方々でしょうが……姿は見ておりません」


「ほう。()()()。その貴族の方は、()()()()?」


「先ほど村を訪れて、手土産にとこの(バール)(てのひら)を渡してきた後、すぐドルー城へ向かいたいとおっしゃっており……我が主、騎士ネレイドが馬をお貸ししたはずなので、今はドルーへの道の途上ではないかと」


「お一人か?」


「令嬢と、奴隷の女の子だけがたどりついたと。この熊と戦った護衛の方々がおられたはずなのですが、どこにも見当たらず、こちらも困っております」


「なるほど。その方の()()()拝見できたか?」


「いえ、奴隷の子だけでした。ご本人は顔を隠しておられて――()()()()()()()は、ここにいるみなが並んでいるところにやってきたので、()()()見ておりますが」


「わかった。ここの全員か。と、なると……七人全員でやらねばならぬな。時間をかけるわけにはいかん」


 巡察官が意味のわからないことを言った、次の瞬間。


 ディルイの意識は途絶えた。




 ――川べりで、猛禽(もうきん)や小動物たちの宴が始まった。

 彼らのエサが大量に供給されたのだ。


「二十七人。討ち漏らしはないな」

「はい」

「さすがに村すべてを回る手間はかけられぬ。騎士および村長たちだけですませよう」


『1』と老人の『3』は(バール)の死骸の前に立った。


「確かに、これは尋常ではないな。殺意の塊じゃ。犬がああなるのも仕方ない。わしも怖い。追ってくるなという()()に間違いない」


「ふむ…………やはり、剣聖――本物か。厄介だな」


「なに、どれほど凄腕(すごうで)であろうとも、やりようはあるというものよ。我らが身につけた技を持ってすれば()()()()もの」


「その通りだ」


 二人の背後では、他の面々が自分の得物を水で洗っている。


「くっそー、八つしか首とれなかった!」

「俺は十五」

「『2』、ずるい、鉄棒でなぎ倒すのって反則!」

「自分で斬った数だけにこだわるって、お子様ねえ」

「なんだよ『5』、ひとりも斬ってないくせに!」

「風魔法使ったの、わからなかった? 全員、動きが変だったでしょ。息を吸えなくして、声も出せなくしたのよ。それにひとり茂みに飛びこんだのを、『4』が射たのは気づいた? そういうの、見落としちゃだめよ」

「むううう……」


「……若い連中は、全然()()づいておらんのう。心強いわい」


「油断につながらねばよいのだが」


「そこを抑えるのがわしらの役目であろう」


「その通りだ。『剣聖狩り』は、いい経験になるだろう」




          ※




 騎士ネレイドは、貴族令嬢「エリーレア」を見送った後、先に行かせた従者のディルイを追って自分も山に入っていった。

 空を舞う鳥が先ほどより増えている。


 だが、村はずれの「門」を開け山道を登り始めてほどなくして。


「ホオォォォォォォォォォォォォォォォォォ」


 遠くから、とてつもなく甲高い、異様な叫び声が聞こえてきた。

 進む先の山ではない、背後からだ。


「なっ!」


 連れていた村人たちが顔色を変えた。


「おい、吠え猿(バウンキー)じゃねえか!?」

「まさか……」

「でも今の、昔聞いたのと同じだぞ!」

「やべえ!」


「どうした。何なのだ、今の声は?」


吠え猿(バウンキー)ってのは、普段は山奥にいるサルなんですが、大体二十年に一度ぐらい、めちゃくちゃ増えて、(ふもと)に降りてくるんですわ。山にいるときはおとなしいんですが、そん時は動くものすべてに襲いかかり、つかみ、噛みつき、えぐり……村が丸ごと消えちまうこともあるそうで。あの声は、そいつらの先頭が後の連中を呼ぶ声に違いねえ!」


「そんな獣が……!」


「騎士さま、先にいる連中を戻してくだせえ! サルどもが襲ってくる前に、できるだけのもん、家ん中に隠して、立てこもらなきゃなんねえ!」


「し、しかし、ノーゼランの者たちが降りてきたら……」


「サルどもが来たら、むしろそいつらが襲われてくれて助かるってもんで!」


「わかった! 誰か伝えに行け! 私は村長と相談し対策を行う!」


 ネレイドは慌ててとって返した。場合によってはドルーへ知らせに駆け戻らなければならないかもしれない。


「……?」


 その途中――走る自分の後を、()()がついてきているような気がした。


 振り向いても、山林とまばらな家々だけ……。


 気のせいだろう。ネレイドはそのまま村長の家に駆けこんだ。


「村長、先ほどの声は!? 厄介な猿だそうだな!」


「おお、そちらにも聞こえましたか! もう村中に呼びかけて、立てこもる支度を始めさせております!」


「どのくらいの規模になりそうだ? 城に、いや近隣の村にも伝えなければならないのではないか?」


「この辺りの村はみんな知ってますんで、あの声だけでわかっているはずです。ただ、お城へは誰かが伝えなければ――」


「それは我々が引き受けよう」


 ネレイドでも村長でもない、別な男の声がした。


 ぎょっとした。

 村長の屋敷の門――その内側に、フードで顔を隠した男女が立っていたのだ。


 門はいつの間にか閉じられている。

 血の(にお)い。犬が二匹とも殺されている。

 下働きの老人も倒れて動かない。


 謎の連中は、七人。


「家を」

「はっ」


 三人、するすると家の中に入りこんでいった。わずかな悲鳴が聞こえた。


「なっ!」


 ネレイドが剣に手をかけた次の瞬間、地面に引き倒されていた。

 腕を背中にねじりあげられ、一切の身動きができなくされる。


「答えろ。ここを訪れた貴族の女性は、何者で、今どこにいる」


「!」


 ネレイドは瞬時に悟った。

 あの方を追っている、反乱軍のやつらだ。


 手練(てだ)れだ。残忍な連中だ。


 あの美しい方は、こんなやつらに追われていたのだ。


 あの方が捕まったら、ひどい目に遭わされる。

 そんなことは絶対に許せない。


 技量の差は歴然だ。戦っても自分では勝てない。だがそれでも、やりようはある。少しでも手間をかけさせ、あの方ができるだけ遠くへ逃れる時間を稼ぐのだ。そのうち山に行った者たちも戻ってくるだろう。そうすれば……。


「先に言っておく。山に入った者たちは全員殺した。いくら待っても戻らぬ」

「なっ……!」

「素直に話せば、楽にすむ。時間稼ぎは苦しむ時間が延びるだけだぞ」

「ぐっ……!」


 ねじられている腕に激痛がはしった。

 骨や関節はまだ無事だ。だが折ろうと思えば簡単に折れるだろうし、こいつらはあっさりやるだろう。


「しっ、知りませんっ! 私はっ、貴族の女の人のっ、顔もっ、名前もっ、何も教えていただけませんでしたっ!」


 同じように押さえつけられている村長が、命惜しさに叫び散らした。


「何も知らないのです、連れていたルナという奴隷の子に食事を出しただけでっ、私たちはっ、何もっ! 騎士様の馬に乗り、先ほど村を出て行きました! それ以上は何も知りません! どうかお許しをっ!」


「ふむ。では、知っているのは、お前だけか」


「その通りだ、そちらの村長は何も知らぬ、離してやれ! 聞きたいことがあるならこの私に聞くがいい!」


 すると相手は、ネレイドの想定とは違うことを言ってきた。


「カルナリア。フィン・シャンドレン」


「……?」


「エリーレア・アルーラン」


「!」


 麗しき姫君の名を出されて、ネレイドは反応してしまった。

 わずかではあるが、ぴくりと。


「エリーレアか。間違いないな。やつらはここにいた。背の高い女性と、奴隷の少女ひとりだけだな」

「いや、護衛がついていた! 凄腕のな!」

「嘘だな。女ひとり、奴隷ひとりか」


 ネレイドの体の反応から真実を読みとってしまうらしい。


「女は、剣を持っていたか? ――持っていたな」


 無理矢理力をこめてみたが、無駄なようだ。

 絶望感が広がる。のらりくらり適当なことを言って時間を稼ぐこともできそうになかった。


「許さん、許さんぞ! あの方に手を出そうなどと! 貴様ら、反乱軍の者だろう! このタランドン領で、貴様らが好き勝手できると思うなよ! あの方の後を追って、猿どもに食われてしまうがいい!」


「猿?」


 村長が即座に説明する。


「なるほど。先ほどの妙な声はそれか。まずいな。すぐ行かなければ」


「使える馬は一頭だけです」


 連中のひとりが報告してきた。


 従士ディルイの馬だ。

 ネレイド自身の馬は『エリーレア様』に提供した。アシル、イルディンも自分の馬で出立(しゅったつ)している。

 馬を使うのがひとりだけなら、『エリーレア様』が逃げられる可能性は高い。徒歩の連中は猿に襲われてしまえ。


「家の中に、魔力は感じません」


 女の声がした。


「では、最後に聞く。奴隷の少女は、地面にしゃがみこんだり、()()を埋めるようなことはしなかったか」


「…………それを聞いてどうするんだ」


「していないな。それだけわかればよい。やっていたら、その場所を白状するまでお前は苦しみ続けることになった」


 死の予感をネレイドはおぼえた。

 次の瞬間、間違いない死がもたらされると確信した。


 しかし、村長のような見苦しい命乞いをする気持ちは一切湧いてこなかった。


(我が姫君! 騎士ネレイドは、最後まで貴女のために、勇敢な男であり続けます!)


「……私は、どういう理由で殺されるのだ」


 ふっ、と小さな笑いが聞こえた。

 何も知らないやつに教えてやろうか、という傲慢(ごうまん)な失笑。


()()の逃亡幇助(ほうじょ)罪だ」


(王女…………だと!?)


 ネレイドの脳内で全てがつながった。


 ()()()は、第四位貴族ですらなかった。もっと上の、王女殿下だったのだ。

 だからこそあれほどに身を隠しておられた。

 だからこそこれほどの連中が追っている。


 自分が生きるこの国の、頂点に位置する存在。

 だからこそ、あれほどに………………()()()()()


(あの方が王女様であるならば……ああ! この国に生まれて良かった! カラント王国に栄光あれ! イルディンよ、頼むぞ! あの方を守ってドルーまで、私の分まであの方にお仕えせよ!)


 輝きと喜びに包まれ、笑みを浮かべながら、騎士ネレイドの意識は途絶えた。




        ※




 ワグル村の、村長の屋敷を見ている者がいれば、おかしなことが起きたのに気づいたかもしれない。


 門が開かれ、馬が一頭出てきた。

 誰かがまたがっているような、しかし(もや)がかかったような、馬だけのような――そんな奇妙な状態で。


 さらには、門が閉じられ、馬上の(もや)と同じような、あやふやな何かが六つ、馬と共に去っていったと。


 だが、村の者たちは、迫る獣の襲来に備えて家畜や食料などを家に入れ、あらゆる出入り口を閉じるのにおおわらわで、誰も気づくことがなかった。


 その、(もや)のような者たちは、村を出て道を進んでいった。


「……申し訳ありません」


 馬上で()びたのは、七人のうち最も体が大きな『2』である。


 馬は速歩。周囲の六人は呼吸ひとつ乱さずそれについてゆく。


「かまわん。吠え猿(バウンキー)とやらが出た場合は、お前に最も忙しく働いてもらうことになるのだからな」


「……本当なのでしょうか?」


「そういう獣がいる、ということは事実だ。いると想定しておいた方がいいだろう。出てくる前にこのあたりを抜けられれば良いのだが。厄介なのは『四女』が巻きこまれ、襲われ、『板』を獣どもに奪われることだ」


「確かに。逃亡者を追うよりも、山の中で猿どもの巣を探して回る方がずっと面倒ですな。やつらには拷問も薬も意味をなしませんし」


「その場合は、我々が『四女』を助けるために猿と戦うことになるやもしれんのう。皮肉なことじゃ」


「えー、やだよー、そんなの。貴族を守るなんてさあ、絶対、やだー」


「……前方に、血の臭い」


『6』が言い、全員が口をつぐんだ。


「馬が」


 鞍は置かれているが主の姿がない、そして血が付着している馬が三頭、道の上をうろうろしていた。


 手綱をとらえ、落ちつかせる。

 一頭は、『2』がまたがるのと同じ鞍、同じような馬体だった。


 路上に死体があった。

 投槍に貫かれた若者。

 山で処置した、騎士ネレイドの従士と同じ格好をしている。


 そして――傭兵とおぼしき者が、ふたり。


「これは……この者が、戦い、倒したということでしょうか」

「いや、これは」


 傷口を見るまでもなかった。

 傭兵の死体は――ふたりなのに、()()あった。


「『剣』のしわざだな」

「何という切り口じゃ」

「こやつらは何者でしょう」

「傭兵のようだな。男がいなくなった村を略奪しようとでもいうところか」

「なるほど」


 四頭になった馬を進め、曲がり道を行った先に。


「…………なるほど、傭兵団ですな」


 雑多な、統一されていない装備を身につけた男たちが、道の周囲にへたりこんでいた。


「ば、化け物だ……」


 みな放心状態だった。


「団長も、副団長も、()()()()()()()……わけがわからないうちに、みんな、首が飛んだ…………死神(ザグル)退散……!」


 そこら中に、人体の一部が飛び散っていた。

 盾にしただろうに一緒に切断された、切り口も鮮やかな木の幹が、何本も年輪をのぞかせていた。


「『剣』とは、()()()()か……」

「実に恐るべき使い手」

「『2』、お前なら勝てるか」

「わかりません。先ほどまでは自信がありましたが、これを見ると、正面から立ち会うと俺でも危ういですな。一対一で戦ってはなりません。必ず複数で当たるべきでしょう」


 空の馬がまた三頭いた。


「ちょうど七頭か。ありがたい」


 七人全員が馬上の存在となった。


 何の断りもなく馬をいただいたが、傭兵たちは誰もとがめてこなかった。自分がまだ生きているということがわかっていないように、完全に気力を失い、うつろな目を向けてくるばかり。

 処置する必要はなかった。周囲の農村の者たちが、脅威でしかないこいつらを、害獣と同じように片づけることだろう。


「猿はいないようだな。急ぐぞ」


 少し先の路上に、三人目の従士の死体があった。


「む。馬がしばらくここにとどまっていた。『剣』の足跡。この死体に近づき、また戻った。遺品か何か取り出したか」


『6』が馬を下りて地面を這いまわり、報告してきた。


「あの傭兵団と遭遇した際、『四女』を馬に乗せたまま突進させ、『剣』は馬を下りて暴れ回ったようです。それが追いついて合流したのがここ。ここからは二人とも馬です。まだそれほど経っておりません」


「ドルーに入られる前に追いつけそうだな」


 七騎は馬を急がせた。




答え合わせ回、続き。カルナリアは「ご主人さま」が敵にとってはどれほどの悪鬼羅刹かをまったく知らない。しかし追う側もそれに負けぬ凄腕たち。両者がぶつかる時は近い。次回、第47話「強襲」。残酷なシーンあり。

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