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オキザリス  作者: 萩里
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光を浴びて輝く花


 「男は仕事せななぁ。何事も経験やで。」

フン、どの口が言っているのだ。ろくに仕事もせずに酒を飲み歩き、挙げ句の果てには店に数十万ものツケを残すこのロクデナシイエローモンキーが。お前みたいな奴はなぁ、「せかせか」通り越して「そきそき」働けばいいんだよ。だいたいな、この店のマスターのご好意でツケ払いにしてやってんだろ。それを何勘違いして飄々と飲みにきてんだよ。普通はツケなんかやってねぇっつうの。分かったらその風呂も入ってないような汚ねぇ身体削って働けよな。あー、お前今「そきそき」ってなんだって顔したな。お前みたいな低脳野郎に分かりやすく教えてやろう。五十音順で「せ」の次は「そ」だろ。「か」の次は「き」だ。「せかせか」を通り越す、つまり一文字下にずらせば「そきそき」になる。まあこういう簡単な仕組みさ。つまんねぇジョークに聞こえるだろ。あー、そうさ。つまんないね。だが、つまんねぇ男にはつまんねぇジョークがお似合いだと思ってな。俺なりの配慮ってやつだよ。とはいえ、今日はちょっと言いすぎたか。まあいい。


 僕の心の中はいつもこんな感じなのだ。決して口には出さない。顔にも出さない。出さないのではない、むしろ自分でも分かっていない。煌々と光る月に照らされると浮き出てくるような感覚。小学生が使う光に照らすと文字が見えるペンで書かれたようなもの。だが、それを遥かに上回る濃さ、黒く尖った鉛筆で書かれていることは間違いない。しかし照らされるまでは気付かない。本来伝達のツールとして生まれた文字が僕の中では死んでいる。僕は死文字と共存している。


 「健太!ルーズリーフ持ってる?ノート忘れちゃってさあ。」いつものように元気な直也の声は学校生活1日のスタート合図のように聞こえる。「あるよ。」朝起き初めて声を出したせいか声量の調節を誤り、少し大きな声で返答してしまった。当然のことながらクラスメイトは1ミリも気にはしていないが、心配性な僕は変な目で見られていないかを首を回すストレッチをしているフリをしながら確認する。よし、誰も気にしている素ぶりはない。朝からヒヤヒヤする一日だ。


 僕は都内の高校に通う17歳。華のセブンティーンとか呼ばれる年齢だそうだが、現実はそんなに華やかではない。根暗で人見知りなただの17歳である。スポーツは得意で小さい頃は器械体操をならっており、小学校のマット運動、跳び箱、鉄棒などは常にお手本をやらされるほどである。勉強の面でも格段頭が良いとまではいかないが、器用にこなすタイプではあったみたいで、上から数えた方が早い位置につけていたことは間違いない。今思うとその頃が人生最大にモテていた。勉強が出来てスポーツも出来て面白くて。小学生女子が男子を好きになる勉強、スポーツ、面白さ、顔という4大要素の3つもクリアしていたのだから当たり前である。残念ながら顔という要素には恵まれなかったが、不細工とまではいかない。そこは人間誰しもが持っているナルシストというプライドが声高に主張している。そんな華の小学生時代を経て闇の中学生時代に突入するわけだが、闇の中学生時代と言っても特別何かがあったわけではない。佐藤健太という人間自体は小学生時代と何一つとして変わらず学校生活を送っていた。ただ周りの人数が増え、キャラが増えといった環境の変化に上手く対応できなかっただけである。その結果クラス内カーストで40位中30位くらいの目立たないポジションで3年間を終えた。


 そして今に至る。何も変わらない自分がここにいる。中学時代の反省を踏まえてなど思ってもいない。華の小学生時代は良かったが、自分を客観視出来る年齢になり、そういうことは自分の性格に合わなく意味のない事だと感じていた。わざわざその性格に反抗するプロテスタントになるくらいなら今のままで良い。そう思い続けてきた。「いつも悪りぃな、昨日の夜までは覚えてたのになあ。」と直也が言った。文字が刻まれる。「全然いいよ。足りなくなったらまた言って。」直也は意気揚々と自分の席へ戻って行った。


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