第二考 皇帝統治後のルドモンド
皇族はその身に有り余る不思議な力をもって、民族を作り出すことに注力した。多くの民族が新たに作り出された。森栗鼠族、芝兎族、森狐族……森に棲む動物たちから順に作られ、大地、密林、砂漠へと、徐々に範囲を広げていった。
第7代皇帝は、鳥類の創出に挑戦した。だが飛翔能力を有する人間を作り出すのは難しく、試みは失敗に終わってしまった。初めて成功したのは第12代皇帝になってからである。彼女は無類の鳥好きで、円梟族をはじめとする鳥類民族を5つも作った。
先代の成功に触発された第13代皇帝は、誰も見たことのない新たな民族の創出を渇望した。そうしてできたのが、2種類の動物から掛け合わせた民族──キメラ民族である。彼は、羊の頭角と猿の尻尾を持つ「羊猿族」を生み出すことに成功した。
キメラ民族の登場は、後の皇帝にも甚大な影響を及ぼした。皇帝たちは、率先してキメラの創出に挑戦し……多くの場合は悲劇に終わった。彼らの失敗の残滓は、後に怪物として、ルドモンド大陸に大量に放出され、民族たちの生活をおびやかす事となる。
代が進むにつれて、哺乳類、鳥類の単一民族は、比較的安定して生み出された。あらかた民族にし終えた後は、爬虫類、両生類に分野を広げ、キメラ民族も稀に生まれた。魚類が一番困難だった。多くが海の藻屑と化してしまい、次々と匙を投げていった。第33代皇帝は、哺乳類同士のキメラより、魚類単一は難しいとの見解を述べている。
──そもそもなぜ、皇族たちは民族創出に夢中になったのか。
それは「民族を作れた者」だけが、皇帝を名乗ることができたからだ。
ルドモンドの皇帝は、世襲制でも代議制でもなく、民族創出者の称号である。
そのため、同時期に活躍する皇帝は珍しくなく、逆に皇帝不在の時期もよくあった。1つでも新たな民族を作り出す事が、彼らの成功の証であり、富の確保であり、存在意義であった。
多くの皇帝たちは自身で政治を行わず、実務的なことは民族が代わりに執り行った。