第十二考 哀しき怪物たち
ルドモンドには怪物も存在する。彼らは自我を失い凶暴化してしまった元民族である。その多くはキメラ民族の過程で作られ、複数の動物的特徴をもち、異形の体躯をしている。厄介なことに、彼らには人間的知性が僅かに残っており、一般的な動物よりはるかに狡猾である。
現存しない民族の多くは、緩慢と自然的に絶滅してしまった。だが、中には凶暴化の遺伝子に目覚め、あるいは人間より動物としての気性が上回り、民族世界から追放されてしまった者もいる。怪物と化した彼らは皇族や民族に憎しみを抱き、悪さをしてくる。
──いや、そんな憎しみを持つ怪物は、本当は少ないかもしれない。多くの怪物たちは、ひっそりと自分たちの暮らしを満喫しているのかもしれない。だが人里へ現れる怪物たちは、みな憎しみを抱いているかのごとく、民族へ向かって襲いかかった。町がまるごと怪物に食い尽くされてしまったルオーヌ州トルプ崖の悲劇は記憶に新しい。
民族の定着は、怪物との抗争の歴史でもあった。民族たちは怪物となった元同胞を憐れみ、境界線を引こうとした。度重なる追放と努力の末、現代の怪物たちは、禁断区と呼ばれる各州の奥地で暮らすようになった。民族らは怪物が生活圏内に流入しないよう対策を強いられており、専門の職業もいる。
このように民族側が、積極的に怪物を絶滅に追いやるのは法で禁じられている。自然消滅に任せているが、彼らもしぶとく繁殖活動をしているのか、現代でもなかなか減ることはない。
民間人が禁断区に入ることは許されないが、軍や警察、アルバなどの公職は例外である。対策しておかないと対応できないため、駆除の練習が許可されている。ただし怪物の強烈な保護団体もいるため、外部に漏れぬよう練習はひっそりと行われている。





