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陽炎のリサ・トゥリカ  作者: 出水 達郎
~第2章~ 防衛隊士訓練編
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第五十五話  首に巻く、チョーカー

リサの目にはアルクスが突如として激昂したように映り、彼女は訳も分からず唖然とした表情を浮かべる。

しかし、自分の威圧を受けても微動だにしないリサの様子を見るとアルクスが業を煮やしたように口を開く。


「お前とモニカが過去にどんな関係だったかは俺には分からない。しかし彼女を泣かせたお前を俺は許す訳にはいかない。彼女は俺が守ってみせる。それはエーリッツ家の男として、そして彼女の許嫁である、この俺の責務でもある。彼女の隣に立つのはお前のような男じゃない!!この俺だっ!!」


「は?…はぁ!?モニカ…?何なんだいきなり!?…いや……確かに今朝モニカには泣かれたか……。って、それが一体何の関係があるって言うんだ!?」


アルクスは仕切りのあった位置から数歩後ろに下がると、昼間の訓練中にリサに何度も見せた腕を構え前に突き出す動作をすると、リサに向かって冷たく言い放つ。


「もう話はいい…立て、そして構えろリオ・ドルス。お前とは話をしても無駄なようだ。やはり拳で分からせる必要がある。」


(は…?はぁ!?立て…?私に立てと言ったの!?コイツ!?この馬鹿っ!!誰が立つもんですかっ!!馬鹿なんじゃないの!?)


リサはなぜこんな浴室で、しかも全裸でアルクスと殴り合いをしなければならないのかと混乱し思考が乱れる。


アルクスは訓練続きで突然暴力を振るってしまうほど精神が不安定になっているのだろうか?それとも何か怪しい薬でもやっているのだろうか?


そもそもこの話にモニカが何の関係があるのか?

なぜこの男は荷物運びに負けた程度でここまで怒っているのか分からない。リサはこれ以上アルクスを刺激しないようにすることを考え、いつものような軽口で挑発しないように慎重に口を開く。


「なっ…なんでお前とここで殴り合いをしなくちゃならないんだ?俺はそんなバカげたことする気は無いぞ。それに風呂っていうのは静かに入るものだ。暴れてこれ以上他の奴らの迷惑になるのはごめんだね。」


リサは椅子に座ったまま首だけ後ろを向きながらアルクスの説得を試みる。

そんなリサの姿を見て、アルクスは構えていた腕をおろした。


その様子を見てリサはホッとしたようにお湯を汲んだ桶を持ち直したが、その一瞬リサの目に濡れた前髪がかかり、アルクスの動きを目で追うことが出来なくなっていた。



ガッ!!!



「うぐっ……がっ…!!」


その瞬間、アルクスの手がいきなりリサの首を思い切り掴むと、リサを体ごと持ち上げた。


「立て、と言ったんだ。リオ・ドルス。」


自分より頭一つ分程背の高いアルクスの長い腕で首を掴まれたままリサは軽々と空中に持ち上げられる。

リサは身体をバタつかせるが身長差から地に足を付くこともできず、足は空しく空を切る。

せっかく桶に汲んでいた二杯目のお湯は無残に浴室の床にぶちまけられ、床を空しく流れ消えていく。


今の状況に恥じらいを感じリサは体を隠したい衝動に駆られるが、強く首を締められ呼吸できない苦しみがそれを上回る。

アルクスの手を引きはがそうと手に力を込めるがリサに力で勝ち目は無かった。


「うっ……あぐ…っ………ああっ……っく………!!」


容赦なく首を締められ、呼吸もままならないままリサはアルクスとの戦いが唐突に始まったことを理解した。


一瞬、リサの頭にアルクスに【朱滅火炎(エル・イグニート)】を叩きこんでやろうかという考えがよぎったが、リサのプライドがそれを邪魔する。拳一つで挑んでくるアルクスに対して己の拳で答えるというのが筋というもの。それが彼女の中に思い描く兄リオ・ドルスの理想の姿であった。


「………う……ぐっ……ああっ……な……っ……するっ………!!」


「……立て。」


立てと言われても地面に足が届かない今の状況ではそれすらできない。

そして卑怯にも不意打ちしてきたアルクスに罵倒を浴びせようにも声が出ない。


首を絞められ、宙づりとなったままの状態がしばらく続き、呼吸がままならないリサの意識は次第に薄れ始めた。

その時すでにリサの腕にはもう殆ど力が入らなくなっており、抵抗しているはずの腕がアルクスの腕を撫でるだけになっていた。


「…………っ…………あ……………ぅ………。」


リサ片手が力を失いダラリと下に下がった時、首をつかんでいたアルクスがリサの首に巻かれたチョーカーの存在に気づく。


そのチョーカーはリオ・ドルスがいつも身につけているものであることをアルクスは知っていた。しかしまさか入浴時まで身に付けているとは思っていなかったのだ。チョーカーの造りは職人が手がけた物のように作りこまれており、とても浴場には似合わないような見事なものであった。


そして中でも目を引いたのがチョーカーの中央に埋め込まれた不思議な輝きを放つ石である。虹色にも近いその色合いは、アルクスも思わず見入ってしまうような不思議な色と模様を作り出していたのだった。


「…これは……?…リオ・ドルス、なんだ?このチョーカーは?」


アルクスが首を締めていないもう一方の手でリサのチョーカーに手を伸ばす。

その手がリサの首に巻くチョーカーと不思議な色を放つ石に触れようとしたその瞬間、光を失いかけていたリサの目に輝きが戻る。


「……それ、…にっ……触るなああああぁッ!!」


突然息を吹き返したようにリサは力を取り戻すと、渾身の蹴りをアルクスの顔面目掛けて放つ。

顔面に直撃したかに見えた強烈な蹴りであったが、アルクスはチョーカーに伸ばしていた腕を素早く引き蹴りを防いでいた。


しかし、その蹴りを受けて流石のアルクスもリサを掴む手が緩む。

手の力が緩むとリサはすぐさまアルクスの胸を足の裏で蹴り飛ばし後ろに回転するように飛び退く。ようやく首を絞められた状況から解放されると、リサは浴室の水気を多く含んだ空気を思い切り吸い込み、咳き込みながらつばを垂らす。


急いで首をさすり、チョーカーと石がアルクスに奪われていないことを確認する。


逃げ出したリサを前にしてもアルクスはすぐに襲い掛かってこなかった。彼は遠くを見るような悲し気な表情を浮かべリサの蹴りを防いだ腕をしばらく見つめていた。

その腕を2,3回上下に振り、水滴を飛ばすと顔の前で拳を強く握り直し、床に手を着き苦悶の表情を浮かべるリサを上からつまらなそうに見下ろす。


「…ようやく、やる気になったようだな…リオ・ドルス。」


「はぁ…はぁ……ああっ!…くそっ…なんなんだよ……やるよ!!やればいいんだろっ!?やってやるよ!!この野郎っ!!!!」


リサが待望していた入浴というイベントはアルクスの乱入によって儚く打ち砕かれる。

久しぶりの入浴を邪魔されたからだろうか、もしくはアルクスに首を締められたからだろうか、リサの目にうっすら涙が浮かぶ。


(くそっ!くそくそくそっ!!ああ!ああっ!くそっ!なんなのよ!この状況はっ!?いいわよ!!やって…やってやるわよ…!こんちくしょうっ…!!)


☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。


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