第五十一話 知らない、知らない、私は知らない
モニカはレドやクレインを見ながら、あの頃のお友達と言った。
リサが兄であるリオ・ドルスと入れ替わる前からの知り合い。本当のリオ・ドルスとの友人。そう考えざるを得ない。
リサにはモニカという少女がどんな人間なのかも、兄とどんな関係だったのか全く分からない。
間違った対応を取ってしまえばリサは自身の正体を怪しまれかねないことに焦りを隠せない。
それまでエリナにどれだけナイフを向けられても冷や汗一つかいていなかったリサだが、唾を飲み込むと目を細めながら何か思い出すことはないかとモニカをじっと見る。
(どうする…どうすればいいの…!?)
「そんなに見つめられては恥ずかしくなってしまいますわ。あらあら貴方…なんだか随分雰囲気が変わりましたわね?昔よりも更にいじめたく……いえ凛々しい顔になられましたわね?」
モニカの距離は妙にリサに近い。モニカは腕をリサの胴に回し、もう片方の手をリサの頬に当て滑らせるようにして体つきを確かめ始めた。それはただ触っているというより周囲の人間たちには艶めかしい動作に映っている。
「ふふふっ…わたくしがこの日をどれだけ待ったことか、貴方は分かっているのですか?」
「ええと…あの…俺は…その…!」
モニカという少女のことを思い出せず、リサには何の言葉も浮かんでこない。モニカにされるがままにベタベタと身体を触られる。リサが困ったような表情を浮かべているのを見ながらモニカは嬉しそうに触ったりつねったり、押したり引っ張ったりして久しぶりに見るリオ・ドルスの表情を見て確かめるようにニヤニヤと笑う。
(何…何…?何なのこの娘…誰なの…!教えて…兄様!)
「ねぇ…ちょっとアンタ……いい加減にしなさいよ…?」
二人の様子を見かねたようにエリナが割って入ってきた。
「私がリオ・ドルスでどう遊ぼ……いえ、リオ・ドルスとどうお付き合いしようが貴方には関係ないでしょう?わたくしとリオ・ドルスの仲ですもの。ふふっ、もしかして妬いているのですか?やはり野蛮な女は余裕がありませんこと。」
「はぁ?勘違いしてんじゃないわよ、このビッチ…!あたしの中のムカつく奴ランキング1位と2位が同時に視界に入ってきて不愉快極まりないってだけの話なんだけど?」
「これはこれはエリナさん…このわたくしに向かってその口の聞き方。大きく出ましたわね?」
「大きく出る?これでも最大限言葉をオブラートに包んであげてんだけど?流石ランキング一位は言うことが違うわね?」
言い争う二人の少女を尻目にリサはこのモニカという少女にどう接するべきか考えていた。適当に話を合わせて知り合いのフリをするべきだろうか?それは無謀すぎるというものだ。
リサの知らない10歳までの兄リオ・ドルスの交友関係。リサがリオ・ドルスを名乗り始めてから6年以上の歳月が過ぎていたことで、もうリサの知らないリオ・ドルスの知人などいないとばかり思い込んでいた。
リサは兄の過去を知る人間に助けを求めるしかないと考え、チラリとクレインのいる方へ目をやる。
クレインと目が合ったリサは少し早めにまばたきをしてみる。
(クレイン…お願い…気づいて…!)
しかし、クレインは白けたような目でこちらを見るとため息をつき、飲み物を一口飲むと手に持つ本のページをめくるのであった。
リオ・ドルスを取り合うようにして喧嘩する二人の少女。
今の状況、傍から見れば男女がいちゃついているようにしか見えない。
クレインからすれば見たくもない親友の姿を見せられる立場になって欲しいというものであった。
(だ、ダメか…!!)
レドに助けを求めることなどできはしないことはリサが一番良くわかっている。
リサの願いは空しく、クレインに無視された時点で唯一の希望が消えたのだ。
リサはモニカに失礼を承知で覚悟を決めるのであった。
「モニカ…さん、ええと…その…。」
「ふふふ、わたくしも色々と成長しているでしょう?まぁ、わたくしに見とれて声が出なくても仕方ありませんわ。リオ・ドルスもお年頃ですものね?」
「あの、すまない………誰だっけ…?」
「は、はい…?あの…リオ・ドルス?」
「すまない、モニカさん…だっけ?俺…全く記憶に無いんだけど…。」
「きっ…ききき記憶に無い…?まさか、このわたくしのことを覚えていないと言うのですか!?リオ・ドルス!」
「すまない…覚えていないんだ。」
声も出せず凍りついたように動かなくなったモニカと対象的にエリナが隠す素振りも無く吹き出すようにして腹を抱えて笑い出した。
「ははははははっ!!ウケる!マジで受けるんですけどー!?えぇ?リオ・ドルスとわたくしの仲??顔も覚えられてないじゃないの!まぁアンタなんて覚えておくほどの女じゃないってことかしらー?あはははははははっ!最高ーっ!」
「ちょ!ちょっと!リオ・ドルス!冗談はおやめなさいっ!?わたくし!わたくしですのよ!?モニカ・シュナイメルですの!!」
「冗談じゃないんだ。本当に覚えてない…。」
リサに覚えていないと一蹴され、エリナに笑われ馬鹿にされた挙句周囲の男性隊士たちからも憐みに近い視線がモニカに注がれる。モニカは先ほどとは打って変わりリサの服を力一杯掴み、リサの顔を睨みつけるがとぼけたようなその表情が変わることは無い。
(覚えていないですって!?どうしてそんな嘘をつくんですの!?なんて白々しいっ!!何よりリオ・ドルスの癖にわたくしに恥をかかせるなんてことが最も許せません!!それにわたくしを笑ったエリナも!周りの男どもも許されませんわっ!!)
「もう一度聞きますわ!本当に!覚えていないんですの!?」
「覚えてない…。」
「わたくしにあのような事をしておいてですの!?」
「そうそう、あのような事を…って?えっ…!?」
「あのような事をしておいて!!ひどい!ひどいですわ!!」
モニカが涙目でリサを見る。
しくしくとワザとらしく泣くような仕草すると顔を手で覆い隠し、リサの表情を指の隙間からチラチラと覗いていた。
(あのような事!?兄様っ!?何をしたのですか!?この娘に!)
リサはいくら思い出そうとしてもこの少女のことを思い出すことは無い。モニカに突然しおらしい態度を取られリサは動揺を隠せない。これまで同世代の女性と話す機会が少なかったリサはこの少女のワザとらしい演技を見抜くことも、起点の効いた言葉を思いつくことも出来無かった。
その言葉を聞いた周囲の男性隊士たちから今度はリサへ向けて「人間の屑だな。」「リストヴァルやっぱやべぇわ。」と陰口を始めたのだった。
周囲の仲間たちから辛辣な言葉を向けられ、泣き真似をする少女を前にしてリサは困り切った表情を浮かべる。
(ふふふっ!そうです!その顔ですわ!いい気味っ!いい気味ですわ!貴方にはそういう顔がお似合いですわ!!貴方が悪いのですからね?リオ・ドルスの癖にくだらない嘘を付いてわたくしに恥をかかせたのですからね!)
「…ところであのような事って何よ?」
エリナがつまらなそうに問いかけた。
「……えっ…?」
☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。
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