第五十〇話 ナンバー1様
少女はそう言うと周りの目など気にすることなく長い黒髪を風になびかせながら教室に乗り込んできた。
表情は柔らかく、その仕草から育ちの良さが伺える。艶やかな黒髪が似合うその涼し気な顔立ちからエリナとはまた違った美しさをもつ少女であった。服装は女性防衛隊士の青組の制服を着用しているが、着崩すことなくきっちりと整えられており、エリナの服とはまるで別物の服を着ているように見えた。
「これは失礼、男子の皆さま。わたくし、モニカ・シュナイメルと申します。以後お見知りおきを。」
その名前を聞いた足元の黒こげになっているテルテルが最後の力をふり絞ってしゃべり始める。
「…そう、彼女はシュナイメル家のご令嬢にして女性防衛隊士トップの成績で合格した天才ゲロ…。容姿端麗、頭脳明晰…ゲロ。家柄も容姿も非の打ちどころが無いゲロが欠点があるとするならばその性格が…!!」
「うるさいですわ。」
近づいてきたモニカに蹴り飛ばされるとテルテルは一際大きくゲロと鳴き再び動かなくなった。
リサに向けていた腕をエリナが下ろすとナイフはフワリと宙を浮きスカートの中へ戻っていく。そうして腕を組み直すと今までリサに向けていた鋭い視線で不機嫌そうにモニカを睨みつける。
「あらあら、ナンバー1様がこんな所に何の用なのかしら?私は今忙しいの、邪魔だから消えてくれない?」
「お断りしますわ。男子棟へ向かうアナタを見かけて嫌な予感がしたので追ってきたのですわ。来て正解でしたわ。」
「うるさいわね。アンタには関係ないでしょ!」
「そうはいきませんわ、ここの規則をご存じでしょう?なんでしたら教員を呼びましょうか?問題を起こされては女子クラス全員に迷惑がかかります。何より、仮にも女性隊士の中でナンバー2であるアナタがそのようでは、ナンバー1であるわたくしが低く見られてしまいますもの。」
「…はぁ?あたしはアンタの下になったつもりはないんですけど?もしかして喧嘩売ってんの?」
「貴方がどう思おうと関係ありませんわ。評価するのは周りの人間なのですから。男子棟に一人で訪れて暴れまわるなんて貴女が野蛮な女である証拠です。このまま問題になるまで放っておけば良かったですわ、勝手に自滅して私との差がどんどん開いて行くのですから。」
「……ふんっ…!」
エリナは右手の指を二本立てると左から右に切るように動かし、リサと戦った時に部屋中に散らばったナイフを操りスカートの中にしまい始める。
リサより頭一つ分ほど背の低いエリナであったがリサを睨みながら近づいていき胸元をつかむと額がぶつかってしまいそうな勢いで頭を引き寄せる。
「リオ・ドルス…!今日はこの辺で勘弁しといてあげる!次会った時は覚えときなさいよ!!」
「あ…ああ!楽しみにしてるよ!」
挑発されているにも関わらずリサは奇妙なほど嬉しそうな笑顔を浮かべており、それを見たエリナは眉間に皺を寄せ不快そうな表情を見せる。
「何なのよアンタ、バッカじゃないの…。」
投げ飛ばすようにリサの胸ぐらを離し突き飛ばすと「ふんっ」と鼻を慣らしエリナはリサから離れていった。室内には何人かの男子がいたがエリナの直進を遮ろうとするものはおらず、自然と道が開かれていく。
部屋を出ようとするがレドがそれを咎め、何かを叫んでいるがエリナの対応は非常に淡泊なものに見えた。
「あらあら、なんて野蛮なんでしょう。ガサツで品の無い女ですことっ。」
モニカは卑しいものを見る目でエリナを見る。手に持った扇のような装飾品をヒラヒラとはためかせエリナをその風で遠ざけるような仕草を取る。
そんな彼女の前に一人の男が歩みを進めた。
癖のついた茶色の髪型、そしてスラリとした体型に姿勢良い直立が妙に映える。
それはアルクス・エーリッツだった。
エリナが暴れようがくだらないものを見る目で眺めていた彼だがこのモニカという少女に対しては先ほどとは全く異なる視線を向けていたのだ。彼は服装の襟を綺麗に整えると片手を差し出すようにしてモニカに語りかける。
「やぁモニカ。今日も美しいね。君がこんな所に来るとは思わなかったよ、もしかして僕に会いにきてくれたのかな?」
モニカは何も返さず手に持つ扇で口元を隠すように動かした。
その様子を見て床に転がったままの黒こげのダケルが動き出した。
「おい…アルクス…その子と知り合いなのか…?」
「ああ、紹介するよ。モニカは僕の”許嫁”だからね。」
「いいなずけ…っ!!」
ダケルはゴフッっと口から何かを吹き出すような音を立てテルテルと同じように横たわり、ついに動かなくなった。
「アルクス、別にあなたに会いに来たのではありませんわ。言ったでしょう?わたくしはエリナを止めに来ただけ。何より許嫁だなどとお父様たちが勝手に言っているだけ。私は認めていませんからね?」
モニカは肩に手を回そうとしたアルクスを興味さそうに振り払うと教室の中に歩いて進んでいく。もうモニカの歩みを遮るものは誰もいない。
そして意外なことにモニカが目指していた先にはリサの姿があったのである。
(ええっ!?何っ!?私なの!?また女の子が近づいてくる…ど、ど、どうしようっ、緊張してきたわっ…!)
床に膝をついた状態でリサはモニカという少女を見上げていた。
モニカは腰を曲げ、リサにどんどん近づいてくる。長いまつ毛の生えた目元と柔らかそうな唇を動かし、モニカは優しげな笑みを浮かべる。
「ええと…あの…俺に何か用ですか…?」
「ごきげんようリオ・ドルス。お久しぶりですね、何年ぶりでしょうか?ようやく挨拶に来れましたが……貴方随分男らしくなったようで見違えましたわ。」
「…ええっ…!?」
そう思ったのはリサだけでは無かった。クレインとレドを除く全員が驚くような表情を浮かべる。そんな中ただ一人、アルクスだけは憎悪に満ちた鋭い視線でリサを睨みつける。
「まぁまぁ、可愛そうに…あの野蛮な女に何かされたのでしょう?大丈夫ですか?」
「い、いや。大丈夫だよ。ちょっと投げ飛ばされただけだし…いててて。」
モニカはリサが手で肩をさするように動かす姿を見ると少し安心したような表情を浮かべる。リサの苦痛に歪む表情を見ながらモニカの口元が僅かに緩むが、素早くそれを見られないように扇で顔を隠すと小声で何かをつぶやき始める。
「全く、あの女…リオ・ドルスをいじめて良いのはわたくしだけだというのに……ああ、いえ…なんでもありませんわ。そういえばわたくしの知っている方も他に何人かおられるようですわね。なんだかわたくし懐かしい気持ちになってきましたわ。ねぇリオ・ドルス?」
(どうしよう兄様…私分からない…。この娘のことを全く知らないの!)
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