第四十八話 【|飛空小刀《ヴァリアルナイフ》】
エリナは叫びながら無数のナイフを室内にばらまくように投げつけた。
投げられたナイフは誰にも当たること無く、教室内の壁や床に突き刺さる。
「言っとくけど、私をコケにしたアンタが悪いんだからねっ!」
その瞬間、リサの視界からエリナの姿が消える。
高速で移動した訳でも、幻術で姿を消した訳でもない。文字通り姿も気配も完全に消えてしまったのだ。次にリサがエリナの気配を感じたのは背後からであった。
リサは背後からの気配と音を頼りに身を素早くひるがえすと、リサが居た位置を小さなナイフが音を立て通り過ぎていった。
「ちっ!運のいいやつ!」
そう言い放つエリナはリサから少し離れた真後ろに立っていた。
「エリナ!いきなり何をするんだ!危ないじゃないか!?」
「はぁ?何よいきなりって…!ああっ!もうホントむかつくわねアンタ!」
エリナは再び姿を消すと、再びリサの背後からナイフが飛んできた。
リサは困惑した表情を浮かべ、紙一重でナイフを回避する。
「ふん、避けるので精一杯って所かしら?何が起こってるのか分からないんでしょ?アンタじゃどうせ私の速さには一生絶対に追いつけないわ!!」
「だから待てって!」
「待たないわよっ!!」
エリナはリサの周囲を取り囲む様にして何度も姿を消しては現れる。
姿を現してはナイフを放ち、リサの反撃を許すことなくすぐに姿を消すのだ。
それはさながら檻に閉じ込められたまま四方八方から矢の雨を浴びせかけられるような感覚に近いだろう。
(ふふっ!焦っちゃって無様ねリオ・ドルス!!私の能力【飛空小刀】を甘く見たわね!!まさか私の【飛空小刀】がお兄の能力の下位互換だとでも思ったのかしら?)
エリナは必死に姿を追うリサを小馬鹿にするように教室中を飛び回る。
「すごいな!これがエリナの能力か。ナイフからナイフに瞬間移動できるのか!!」
「あはははっ!今更気づいたの?でも私の早さについてこれないなら何の意味もないからっ!私の気が済むまでナイフを刺したら許してあげるっ!」
「あと何を見落としているんだ…!?エリナ!少しでいいからヒントをくれないか!?」
「だから!何意味わかんない事言ってんのよ!!」
エリナは姿を消し、リサの背後に回ると渾身の力を込めてナイフを投げつけるが何故かリサに命中することは無い。エリナは自分の必中の間合いに捉えたはずの相手に攻撃が当たらないことに苛立ちが隠せなくなってきていた。少し首をかしげるようにして唇を軽く噛みしめる。
「そうかっ!!…まさかこの攻撃そのものがヒントなのか!?エリナ!そうなんだな!?」
「グダグダうるさいっ!!アンタに勝ち目はないんだからいい加減、降参しなさいよっ!」
エリナは何度も部屋中に突き刺さったナイフの場所へ瞬間移動してはリサにナイフを投げつける。その攻撃を3,4回繰り返すが攻撃がリサに当たることはない。
「ああ!もおっ!!なんで当たらないのよっ!当たれっ!当たれええっ!!」
「なんでって……当たったら痛いじゃないか!?」
「アンタ、マジで私をイラつかせることに関しては天才だわ…それだけは褒めてあげるっ!!」
エリナは更に速度をあげて瞬間移動を繰り返す。宙を舞うように部屋中を飛び回り攻撃するがリサを捉えることはできない。思わず今度は歯を強く噛みしめ、手に握るナイフにも力を込めた。
(なんでっ!?なんで当たらないのよっ!?)
「教えてやろうか?エリナ、理由は二つある。一つはお前は素直すぎることだ。」
「素直?アンタ意味わかって言ってんの?」
「ああ、素直すぎる。自分の能力を過信するあまり、俺の死角にばかり瞬間移動しているだろ?そして視線の動きだ。瞬間移動前に移動先を見ているな?せっかくの能力なのに移動先が丸わかりだ、もったいないぞ?」
「くうっ…!」
リサから思いもよらぬ指摘を受けエリナは短くうめき声をあげる。エリナは自分のナイフを操る力と瞬間移動の力に絶対の自信を持っていた。今まで自分の力にケチを付けるような人間に出会ったことが無い。この力で今まで立ちはだかる敵を倒してきたのだ。目の前のこんな生意気な男に苦戦している自分と、こんな小細工で自分が苦戦していたという事実がエリナのプライドに更に傷をつけた。
「移動先がわかったからって、避けられるわけないんだからっ!!」
エリナは再び瞬間移動してナイフを投げるがリサの体に命中することは無い。
その事実を受けてエリナの顔からリサを軽蔑するようなニヤついた表情が消えた。
リサに死角に移動しすぎると指摘されたばかりだったがエリナが戦い方を変えることは無かった。もし変えてしまえばこの青年に屈してしまった様な気がするからだ。
そもそも大体の移動先が分かっただけでナイフの一撃を回避できるはずが無いのだ。しかしリサが子供の頃からレドの【飛空神剣】を回避してきたという経験、そして先日のレフィーナという少女に視界を奪われた状態で向けられた狂気の刃の一戦。その経験からリサは死角からのナイフの一撃を避けることが可能になっていたのだ。
「そして二つ目だ、お前は優しすぎる。」
「だ、誰が優しいですって!?」
「いいや!優しすぎる!無意識の内に手加減しているんだよ!口じゃ物騒な事を言っているが優しい女の子そのものだ!」
「はあああぁ!?い、いきない何なのよっ!?」
「世の中には危険なやつが沢山いる。きっとこの先、お前のその優しさは弱点になる!もっと明確な殺意をもって奴らは迫ってくるぞ?残忍で、恐ろしく、嫌らしく、こちらを殺しに来る。」
「わ、私はアンタを殺すつもりでやってるっつーのっ!」
「いいや!やってない!!」
「やってるわよ!!」
「やってない!!」
「うるさい!お前のいうことなんて聞かなくても私は強いんだっ!!」
「聞け!聞いてくれ!その時になってからじゃ遅いんだ!!」
エリナは間違いなくリサに向かって全力でナイフを投げていた。そのナイフの投擲は100点満点といっても良い。しかしそれは的当て、訓練、テストでの話だ。
リサに対して必ず勝つ、必ず殺す。そういった気概を込めた一撃でなければ自分を捉えることはできない。その為の知略を、戦略を巡らせろとエリナに説きたいのだ。
リサ自身もこれまで命を懸けた戦闘の経験が多い訳では無いが、この戦いでエリナという少女は恐らくその恐ろしさを、恐怖を知らないのだろうと推測できたのだ。
エリナほどの能力であればリサの反撃を許すことなくもっと効率的に、徹底的に追い詰めることができるだろう。このまま彼女が自分の力を過信したまま戦場に立てば彼女自身を危険に晒すことになるのは避けられない。それは彼女の不幸な将来に繋がりかねない。
リサは真剣な表情に変わり、動きを止めたエリナという少女を見据える。
(あの連中がまとっていた雰囲気はたしか…。)
今までリサにおぞましい恐怖を与えてきた連中、地下室の”アレ”、エンペル、レフィーナ。あの連中が放つ雰囲気はどんなものだったろうかとリサは思い出す。そしてその雰囲気、それは殺気というものだろうか。連中には遠く及ばないだろうが、リサなりに真似てエリナに対してぶつけてみたのだ。
ブワッ…!
リサの背後から目には見えない黒いモヤのようなものが広がる。
エリナは今まで感じたことの無い気配を受け、手に握るナイフに汗が滲む。肩をこわばらせるように力がこもり、声を出そうとすると思わず甲高い声をあげそうになった。膝が震え、呼吸が早くなる。
「何っ…!何なの…!何なのよっアンタ!!」
「何って…俺はリオ・ドルス・リスト……って、これはさっきも言ったな……。」
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