第四十七話 見られることを意識してる
「見られることを意識してる、ですって?意味わかんないんだけど?」
(この後の会話は…そう…たしかマリーは「女の子は服装を褒めるのが定石」、そう言っていたわねっ。)
リサはエリナの服装をじっくりと観察し話しかける。
「さっき私、ジロジロ見んなって言わなかったっけ…?アンタ馬鹿なの?」
「軍服を着崩しているが、お前なりに似合うと思ってそんな着方をしてるんだろう?なかなか良いセンスをしてると思うぜ。俺がエリナに似合うように考えてもそんな感じになるだろうな。」
「キモ…なにいってんの?」
「軍服の折り目が綺麗で整っているな…毎日丁寧に手入れしているのがわかるぜ。そしてその髪留めと手首に少しつけているその香水も、今王都で流行っているものに似ているな…。」
「…それで?」
「たしか今日は風が強かったはずだ…なのにお前の髪型、軍服の襟、リボンもスカートも随分整っているな。この教室に入る前に鏡でも見てきっちりと整えて入ってきたんじゃないのか?」
「…だから?」
リサは本心では可愛い服や、ファッションの話がしたいのだ。しかし兄リオ・ドルスの姿でそれをするのは余りにもおかしいことは分かっている。そこで今までこっそりと分析してきた女の子の可愛い服装について自分の持てる知識を使ってエリナを褒め称えてみることにした。そうすることで間接的ではあるがリサは自分の欲求を解消したかったのである。
「エリナ、俺の見立てではお前はファッションにかなりこだわりがあると見た。その様子じゃ俺たちに見られたかったんじゃないのか?嬉しいんじゃないのか?違うのか?なかなか良く似合ってるぞ。」
ガキィン!!
リサが言い終わると同時に2本のナイフが勢いよくリサ目掛けて飛んできた。エリナは先ほどダケルやテルテルを突き刺した時とは違い、無言でナイフを凄まじい勢いで放ったのだ。
リサは一本を素早くかわし、もう一本は机の上においた鞘に収めたままの自分の剣を持ち上げはじき飛ばし大きな金属音を教室に響かせる。
はじき飛ばしたナイフがザクリと天井に刺さり、エリナはかなりの使い手だな、とリサは感心するような声を上げた。
「喧嘩売ってんならなかなかセンスあるわよ?アンタ。私がお前に見られて喜んでる?全ッ然、違うんですけど…?マジでキモい…死ねば?」
(あ、あれ…?おかしいわね…これだけおしゃれな服装をしてるのだから褒められたら、誰かに見てもらえたら絶対嬉しいはずなのに…。私なら絶対そう、私はおしゃれを見せる相手がマリーしかいなくて…とっても寂しかった。誰か他の人に見せたくて、見て欲しくて仕方がなかったっていうのに!)
離れた位置からレドの馬鹿笑いが聞こえてきた。
「ふははははっ!よく言ったぞ!エリナ!いいぞ!もっとだ!もっとそいつに言ってやるがいいっ!!」
「…お兄、黙れ。」
「エリナァッ!!兄に向かってなんという口をッ!!こら!!エリナあああァァァ!!」
「…黙れ。」
レドは喉の奥から「うぐぅっ」とうなり声を上げ黙ってしまう。
訓練が始まって以来の静寂が教室を包み、エリナは切り裂くほど鋭い眼光でリサを睨みつける。
(そうよ、エリナはきっと恥ずかしがってるんだわ!本当は嬉しいのに、これは照れ隠しってやつなのよ!)
「全部図星なんだろう?エリナちゃん?今飛んできたこのナイフがその証拠じゃないのか?」
リサが拾い上げた二本のナイフをエリナに差し出す。
それを見たエリナはリサの手が切れてしまうこともいとわない早さでナイフをかなぐり取る。しかしリサは驚くことも、手が切れることもなくあっけなく手を引いてしまい、エリナは悔しそうに舌打ちする。
「恥ずかしがるなって、”可愛い”ぞエリナ。俺で良ければいくらでも見てやるから。」
「はぁ!?可愛い…!?…ウザすぎるんだよ……マジで……黙れよお前ェ……!!」
エリナは少し顔を赤らめるがそれは怒りの表情と入り交じる。恥ずかしいのか頭に血が上っているのか判別できない。
とうとうエリナはスカートの中に手を入れ、素早く大きな8本のナイフを取り出した。
エリナの小さな指と指の間に挟まれている8本のナイフはリサを威嚇するように扇状に広げられる。エリナが持つ8本のナイフは先ほどリサに投げられたような小さなナイフとは異なり本格的な魔術の刻印が刻まれたナイフであった。
「今すぐ土下座して詫びなさいよ…!そしたら半殺しですませてあげるからっ…!!」
(おかしいわね…エリナが何故か怒っているわ…どうして?まだ褒め足りないということかしら…いや、まさか私のファッションチェックに見落としがあるということ!?その程度の知識で偉そうに語るな、謝れということなの!?)
「そうか!見落としていた!まさかこのスカートに何か秘密が…!?」
リサはしゃがみ込み、エリナのスカートをまじまじと観察し始めた。
「はぁ!!?ちょ…ちょっとアンタ!?」
スカートの端をつまんだり、めくりながら質感や内部の構造を確認する。随分手入れが行き届いているなと感心するように頷きながらリサは唸る。
「そうか!スカートの内側にナイフを収納しておけるように鞘が仕込んであるんだな。スカートのデザインを崩さないようにギリギリで調整しているとは…流石だな、エリナ。」
「いきなり何やってんのよっ!?……気安く触んなっ!!……マジで殺すっていってんでしょ!!この変態っ!!」
リサを払いのけるようにエリナはナイフを振り回すがリサがタイミング良く後ろに下がってしまい空振りで終わる。エリナはネコのように喉を鳴らし威嚇する。
「なんなんだよっ!!なんなんだよお前はァ!!」
「何って…俺はリストヴァル家の長男、リオ・ドルスだけど…。」
「うるさああああいっ!!!」
エリナは顔を赤らめ地面を足で数回踏みつけながら鬼のような形相を浮かべる。
ナイフを持つエリナの手にギュっと力が入り、色白の肌をした彼女の腕に血管が浮かんだ。
可愛い女性隊士を眺めていた男子達はいそいそと避難を始める。
いや、今のエリナの表情からすれば”可愛かった”女性隊士といったほうが適切だろうか。教室の中心に残されているのはリサとエリナの他にはエリナの名を叫ぶレド、そして焼け焦げたダケルとテルテル、離れて頭を抱えながら見ているクレインが残った。
(なんで!?エリナはまだ納得してないみたいだわ!?…何か…まだ何か見落としがあるというの…!?)
「もういいわ、二度と私に向かって生意気な口をきけなくしてあげる。剣を構えなよ?リオなんとか……いや、リオ・ドルスっ!!」
エリナはナイフを構えると冷たい眼差しでリサを見据える。
しかしこの一触即発の状態にもかかわらず、リサはまだエリナの軍服をじっくりと見ていたのだ。
「また…その目ぇ…ムカつく……なんなんだよ、さっきからァ……!」
(ふふっ、ナイフを取り出す動きを見てようやく気づいたわ。このスリットね?この軍服…動きやすいように所々にスリットが施してあるわ…可愛さと機能性を両立している。素晴らしいデザインね…エリナ!)
「…ふふっ…。」
「ハアァァァ!!?何また笑ってんだよぉ……余裕かぁ…!?テメェ…このアタシを前にしてよおぉォォ!!!」
聞こえるはずもないエリナの堪忍袋の緒が切れる、という音がブチブチと聞こえてくるようであった。
本来可愛いはずのエリナの顔だが、今の激昂したエリナの表情で睨まれてはしばらく女性に近づけなくなるほどのトラウマを受ける男性は多いだろう。
「ま、まて!今気づいた!このスリットだろ?ナイフを振り上げたときにチラリとエリナの腋が見えてやっと気づいたよ。ナイフを振り回す為に工夫してたんだな。すぐに気づかなくてすまなかった。」
「わ…き…?」
エリナは腕を下げ肩を狭めると顔を赤くして震え始めた。
(スリット…これも不正解だというの…!!?)
「ああああああっ!!もういい!見るな見るな!!なんでもいいから死ねえッ!!」
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