第四十五話 存在した女子クラス
「ほ、ほんとに…いるのかっ!!?クレイン!」
「ダケル!近い!近いって!…あっちに見えるだろ!図書管理の訓練施設を挟んで少し離れたあの赤い建物。あそこが女子棟だよ。」
女子クラスがある。
そんな情報を聞いたダケルはクレインの顔の目の前まで食ってかかるように迫り、見たこともない速度で尻尾を振っていた。ダケルを押しのけるようにしてクレインが続ける。
「男がいるんだから女もいるよ。僕たちとは別の試験で入隊してるだけさ。訓練の内容は基本的に別々だから会う機会は殆どないけどね。」
リサの実の母、今は亡きリノン・トゥリカはかつて現役の防衛隊士であった。
リサはリノンの他にも女の防衛隊士が存在していることは知っていたが、こんなに近い場所で訓練しているとは思ってもいなかった。彼女は訓練の日々を送るうちに他の女性という存在を自分とは縁の無い、何か遠い存在のように感じてしまっていたのだ。
リサは勢い良く身体を起こすと机に肘をつき、緩んでいる口元を隠す為手で覆った。
(できるっ…!私、久しぶりに女の子とおしゃべりできちゃうっ…!)
一方ダケルも近くに年頃の女性がいることを知ると元気を取り戻す。
「うおおおおおっ!みなぎってきたああああ!!クレインありがとう!よし、今から見に行ってくるぜっ!!」
プルプルと身体を震わせるリサ、はしゃぎ回るダケル、石拳のゴイルとクレインはやれやれといった様子である。
「いや、まてよ…防衛隊士の試験に合格するくらいの女だ…どうぜゴリラみたいなのしかいないんじゃ……。」
子供の様にはしゃいでいたダケルの尻尾の動きがピタリと止まる。
バァンッ!!
ダケルが動きを止めたその瞬間、叩きつけるように大きな音を立てて教室の扉が空いた。
こんな失礼なドアの開け方をする人間はリサには一人しか思いつかなかった。
しかしドアの前に立っていたのは彼ではなかったのだ。
「へぇ、ここがお兄のクラスなんだ。なーんか、弱そうなのばっかね。」
そこに立っているのは銀髪の少女。
年はリサとそう変わらないだろう。
やたらと鋭い目つきをしており、他人を寄せ付けない雰囲気を持っている。
二つに分けたおさげの銀色の髪には所々黒い色の入った部分が見える。そしてトゲトゲしい雰囲気を放ちながらも整った顔立ちが印象に残った。
青色の防衛隊士の制服を着崩しているが、その服装も彼女の雰囲気になじんでいた。
「なんだこの娘!か、可愛いっ!?可愛いぞっ!!」
(お、女の子だわっ…!本当にいたのねっ…服装からすると女子の青組の子かしら…。)
少女に近寄ろうとしたダケルの額にどこからか飛んできた一本のナイフがザクリと容赦なく突き立てられる。
「うぎゃあああああぁあぁ!!」
「なに?この犬。小汚い、近寄らないで欲しいんだけど。」
「いってえええぇぇぇ…あ、あれ。痛くないぞ?」
「当たり前でしょ?そのナイフには回復魔術が付与してるんだから。あと、そこから少しでも私に近づいたら違うのを刺すから、わかった?」
いつの間にか少女の周りには何本ものナイフが旋回するように動きながら宙を浮いていた。
「な、なんだとぉ!!お前ちょっと可愛いからって調子にっ……ぎゃああああああいってえええええぇぇえ!!!」
一歩前に踏み出したダケルに容赦なく次のナイフが突き立てられる。
「獣人て耳が良いんじゃないの?聞こえなかった?それとも馬鹿?」
そして仕事を終えたナイフは彼女の短いスカートの中に自動的に戻っていった。
「もう…おしまいだぁ…ゴリラよりもひでぇっ…うああっ。」
「は?何?何だって?聞いてあげるからハッキリ喋りなさいよ?」
「俺には…癒しが…必っ…うっ…あ”あっ!…ううあ”あっ!!」
ダケルは地面にうずくまってまたメソメソと泣き始めてしまった。
先ほどのナイフの一撃で彼の中での生物的な格付けが決まってしまったのか、彼の中で何かが限界を迎えたようだった。うずくまって泣くダケルの背中をゴイルはヨシヨシとさするが、ダケルはその手を払いのけた。
(そういえば、あの銀と黒の混ざった髪の色、あの眼つき…どこかで…。)
リサの中に妙な既視感が渦巻く。
それはあの容姿、やたらと偉そうな態度、宙に浮くナイフを操る力にあった。
「ふははは!!流石我が妹っ!素晴らしいナイフ捌きだ、兄として誇らしいぞ!」
「別にお兄に会いに来た訳じゃないから。ちょっと様子を見に来ただけ。」
「そういうな!!…そうだ。ナイフの手入れには兄が開発したこの専用のクロスを使うがいい。ちょうどお前に渡そうと思っていた所なのだ!」
「だから違うっつーのっ!」
リサの大嫌いな馬鹿笑いが聞こえてくる。
どうやらこの少女はレド・ランパルトの妹のようだ。レドに妹がいることをリサは知らなかった。
(レドの妹ですって…!?わ、私と…仲良くなれるかしら。)
たしかにあの宙を舞う無数のナイフもレドの【飛空神剣】を彷彿とさせる、さしずめ少女の力は【飛空小刀】といったところであろうか。
兄妹の様子を離れて見ているとリサの足元からゲロゲロと奇妙な声が聞こえてきた。
「彼女の名前はエリナ・ランパルト、と言うゲロ。今年の女性防衛隊士試験を第2位の成績で合格しているゲロ。スレンダーな身体にあの鋭い目つき、フフフ。たまらないゲロね。」
「カ、カエル…!?」
リサが足元を見ると猿くらいの大きさのカエルが居た。
カエルは赤色の制服を着ている。
カエルが苦手なリサは、突然現れた言葉を流暢に話す大きなカエルを目にして少し渋い表情を浮かべる。
「あの…えっと…赤組の訓練生ですか?何故ここに?」
「失礼、そなたリオ・ドルス氏でありますな?噂はかねがねゲロ。拙者は両生種の”テルテル”と申すゲロ。赤組ゆえ普段はこちらへはあまり来ないゲロが…エリナ嬢の姿が見えたので急ぎはせ参じたという訳ゲロ。」
「エリナ嬢?あの子はエリナというのか?…テルテル、よろしくな。」
両生種、それは水の中と陸、どちらにも適応して生活する種族。外見は彼のようにカエルに酷似したものが多く、なんでも卵から生まれ子供の頃は手足が無く尻尾だけで動き回るのだとか。
「拙者、女子クラスのリサーチは欠かさず行ってきたゲロ。困ったら何でも聞いて欲しいゲロ。あのエリナ嬢は拙者、かねてより目をつけていたゲロ。ダケル氏、そなたの死は無駄にしないゲロよ。我々は今日より同志。我々は今日より兄弟ゲロよ。」
「ええっ!?ダケルは死んでないぞ!?」
「リオ氏、なかなか天然ゲロね…では拙者、所用があるので失礼させて頂くゲロよ。」
そう言うとテルテルはリサからそっと離れるとゆっくりとエリナのほうへ向かい歩き出す。
(ダケル氏、あとは拙者に任せるゲロ…。)
テルテルは吸盤のついた二本の足でペタペタと歩いていく。
ダケルの横をゆっくりと通り過ぎる、その様子は一見無害なカエルに違い無い。
エリナに近づきながらダケルの横を通り過ぎたその瞬間、テルテルは片目を何度かパチパチと閉じダケルに合図を送った。
(分かるゲロか…?ダケル氏…?エリナ嬢はナイフを仕舞うというその能力の都合上、スカートの丈を短く揃えているということに。)
(なに…?…お、お前まさか…!?)
(そう…今、我々が居るこの場所、この好立地。この好機が。そして拙者の低い身長、地面に伏せるダケル氏の姿勢、そこから見上げると何が見えるゲロ…?)
そろりそろりとエリナに近づくテルテル。
(…そ、そうか!あの丈の短いスカート!ここからの眺め!俺…わかったぜ!テルテル!)
テルテルは完全に気配を消す。
ダケルも死んだように声を潜め、少しだけ身体を前にずらす。
(ゲロゲロ!)
(今だっ!)
「キッモ…死ね…。」
顔を上げる前にダケルとテルテルの額にナイフが突き立てられていた。
今付与されているのは回復魔法などでは無く、火属性の魔術だった。
ダケルとテルテルの身体は燃え上がり、二人は地面を転がりまわる。
「火は!カエルに火属性はダメゲロっ!ダメなのゲロおおおおぉぉ!!」
「あんぎゃあああああああああぁあぁっ!!!」
数秒間転がり回ると火は消え、ダケルとテルテルは動かなくなった。
☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。
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