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陽炎のリサ・トゥリカ  作者: 出水 達郎
~第2章~ 防衛隊士訓練編
42/62

第四十二話  基礎体力訓練、始まる


明朝、早くから防衛隊士見習いとしての訓練が始まった。

青組に配属された訓練生同士で簡単に自己紹介を済ませる。


リサが知っている顔ぶれと言えば、前日顔を合わせたクレイン、ダケル、レド。

入隊試験で見た石拳のゴイル、そしてエーリッツ家のアルクスくらいだろうか。皆この場に揃っていた。


午前中は座学による教育がなされ、午後からは屋外での技能訓練が行われる。


訓練生たちは青組の青い軍服を着て、頭には軍帽をかぶる。

青色の軍服は上半身の服の丈が少し長い。生地は頑丈でありながら伸縮性を兼ね備えているようだ。装飾は控え目といった印象で実用性の高い収納がいくつも見られる。


軍帽も青が基調となっており、前方に短めのつばが伸びているだけで無骨な見た目をしているが内部に多層構造が組み込まれているようで防御性能は高そうだ。


そんな軍服をリサも着ている。


(うん…兄様は軍服が良く似合っているわね!)


更衣室で鏡に映る自分の姿を見ながら、兄の軍服姿に見とれながらも、リサは少し寂しさを感じる。




そして約40人の訓練生が訓練場のひらけたスペースに整列する。


「お、俺っなんだか緊張してきたぞ!」


「おい、ダケル。静かにしろ。始まるぞ。」


リサは昨日に続き私語で注意されるなんてゴメンだ、と言わんばかりに落ち着きの無いダケルとたしなめる。


整列した見習いたちと講師を含めて、訓練開始前に簡単な敬礼を行った。

敬礼が済むと講師から今日の訓練内容が説明される。

正面に立っていたのは先日の説明会の時にもいた担当の小太りの講師だった。


「それでは皆さん、この荷物を持ってあの山の頂上まで行って戻って来てください。」


初日のリサ達に課せられたのは単純な基礎体力強化を行う訓練である。


(そういえばこの講師の人はたしか……入隊試験の時にいたわね。)


小太りの講師、名前をボジャックと言う。彼は現役の防衛隊士だ。


割腹のよいその体形とおっとりとしたその表情が印象に残っておりリサはこの教員のことを覚えていた。彼の優しげな口調や身振りからその温厚な性格が伺える。


「もちろん、能力の使用は禁止です。君たちの基礎体力の増強が目的ですからね。…それと、君は人の話を聞くときは剣から降りてくださいね。」


ボジャックは少しだけ申し訳なさそうにそう言う。

その視線の先にはレド・ランパルトの姿があった。


自分の操る剣の上からレドは答える。


「なぜ、この俺様が降りる必要がある?」


レドは【飛空神剣(ヴァリアルソード)】の力で9本の剣を操る。そして常に自分の剣に乗って移動する彼は剣の上から人を見下すようにしてしゃべるのだった。リサはそんな彼が心底嫌いである。


リサとクレインとレドは初等部の学校からずっと同じ学校を卒業してきた。

しかしリサはこんな男と同じ学校出身だと思われることが恥ずかしいことこの上ないのだ。


(まったく…!早く降りなさいよ、この馬鹿っ…!)


レドは基本的に剣のことしか頭にない。

常識が無く、高圧的な態度、その様子がリサをとことんイラつかせる。


「はいはい、とりあえず降りてくださいねー?」


「貴様ァ!汚い手で我が神剣に触るなァ!!」


講師であり現役の防衛隊士であるボジャックに向かって「汚い手」と発言をするその胆力。約40名からなる青組のクラスであるがレドは初日にして全員にどんな人物なのか理解されたであろう。リサは頭が痛くなってきた。


「下がれ。」


そしてあろうことかレドは講師であるボジャックに向けて空中に浮く一本の自称”神剣”を突きつける。その様子に周囲はザワめきたつ。

リサはこれ以上続けるようなら一発食らわせてやらないと、と人垣をかき分け前に出る。


「…元気なのも結構ですが、言うことを聞いてくれないと先生困っちゃいますよ。」


そう言うと同時にボジャックはレドが向けた一本の剣をすでに手に握っており、その制御を完全に奪っていた。


(何をしたのっ…!?)


「何ィっ…!?…貴様ァ!!」


レドは怒りをボジャックに向けるが、剣による攻撃は何も起こらない。

なぜならすでにボジャックの手により空中を浮遊していた残り7本の剣は掴まれ、制御を奪われていたからだった。


自慢の剣を簡単に奪われ、不自然なほど押し黙ってしまったレドは屈辱に身を震わせている。レドは自分の剣を絶対に人に触らせることは無い。

彼の心中は穏やかではないだろうがレドとボジャックでは実力に差がありすぎる。

レドには何もできないことは明白だ。前に出ようとしていたリサは一歩後ろへ下がる。


「…ぐうぅっ!」


レドに残された剣は自分が乗っている幅広の1本の剣のみ。

残された幅広の剣もボジャックの手により素早く奪い取られてしまい、レドはドサッと地面に落下する。


「お、おのれぇぇぇ!ボジャックゥゥ!貴様ァ!」


「はい、レド君。これをもってね。」


ボジャックはレドに向かって軽々と荷物を放り投げる。


「何だと!うおおっ!?」


立ち上がろうとしたレドはその荷物を受け止めるが、あまりの重さによろめき地面に腰を落とす。


「それを持って山の頂上まで行って戻って来てください。簡単でしょう?」


ボジャックの早業を見ていた他の訓練生からどよめきが起こる。


「す、すげー。さっき先生何やったんだ?」


驚きの表情を浮かべるダケルの前に、栗色の髪をした青年が現れ答えた。


「そんなことも分からないのか?」


その青年はエーリッツ家長男のアルクスだった。

彼は入隊試験を一位で通過した実力者だ。彼にはボジャックの強さの理由が分かっているようだった。


「あれは魔術による簡単な身体能力強化だ、訓練すれば誰でも習得できる。今日の訓練を通じてボジャック講師は我々に習得させてくれようとしているんだ。わからないのか?もっとも、ボジャック講師ほど使いこなすには相当の修練が必要だがね。」


「そ、そうなのか!アルクス、お前すげぇな!」


素直にダケルに褒められ、アルクスは少し困ったような表情を浮かべる。


「そうですよね?ボジャック講師。」


「そ、そうですね、正解ですアルクス君。」


説明を全てアルクスに持っていかれボジャックは少し残念そうに答える。


運ぶ荷物は訓練生それぞれの体格に合わせた重量のものが渡された。

リサにはこれがかなり重たい。それも当然でその荷物は兄のリオ・ドルスの体格を基準に準備されたものだからである。


一人一つずつ荷物を受け取り、皆その重さに困惑している。

そんな中アルクスが自信たっぷりにボジャックに申し出た。


「ボジャック講師、自分の荷物を2倍にして下さい。」


「え?アルクス君でも流石に…。」


「問題ありません。もちろん、僕は魔術による身体強化は使いません。その上で私は1位になりますのでお気になさらず。」


「ほ、本当に大丈夫ですか?」


「エーリッツ家の男子たるもの、この程度出来て当然です。」


アルクスは堂々と言い切る。

そして頭を下げたその姿勢でチラリと横目でリサのほうを見たのだ。

その言動、その態度を見せられリサの気持ちはカッと高ぶり、【朱滅火炎(エル・イグニート)】も使っていないのに顔が熱くなる。


(やっぱり私…こいつのこと嫌いだわ!)


アルクスはリサが相部屋になりたくない男、第2位であった。


理由の一つはリサがリストヴァル家の長男としてアルクスに目をつけられているということだ。入隊試験の時、散々にアルクスに罵られたことをリサはしっかり覚えている。


それに加えて、その周りの目を気にすることが無い言動はある意味レドに通じるものがある。意図せず周りの人間をイラつかせるそのやたらと高い向上心と態度。それがリサに嫌悪感と忌避感を募らせるのだ。


アルクスの言動を見る度に、アルクスと相部屋にならず本当に良かったと思わせられるリサなのであった。


頭にきたリサはアルクスを肘で押しのけるようにしてボジャックの前にズカズカと出て行き申し出た。


「ボジャック先生、俺の荷物も2倍にして下さい。」


「えぇ!?…で、では。」


リサはアルクスと一度も目を合わせることなく、ボジャックから荷物を受け取る。

アルクスの眉がピクリと動くがリサが知ったことでは無い。



「軽すぎて困っていたんですよ、ボジャック先生ありがとうございます。」


「おい……リオ・ドルス…調子に乗るなよ…?」


去ろうとしたリサの退路を塞ぐようにアルクスが立ちはだかる。

長身のアルクスに見下ろされてリサの苛立ちは更に増した。しかしリサはボジャックのほうへ爽やかに振り返り笑顔を浮かべるのだった。


「先生、言い間違えました。荷物は”3倍”でお願いします。」


「えぇ!?」


「…ボジャック講師、僕も言い間違えました。”4倍”でお願いします。」


「ええっ!?ふ、二人ともっ!?」


「邪魔だ、どけ。」


アルクスがワザとらしく肩でリサを押しのけ、荷物を受け取る。


「うるさい!お前こそ手を離せ。」


リサとアルクスが奪い合うようにして荷物を引っ張りあう。





そんなリサとアルクスの様子を見ながら色黒の男がクレインの肩を奇妙な手つきで撫でていた。


「なんだかバチバチやってるわねぇ、青臭くていいわぁ。ねぇ、そう思わない?クレインちゃん。」


その色黒で筋肉質で女性のような喋り方をする男は入隊試験を第2位で合格したラルゴ・デル・パルロであった。入隊試験で見た彼は研究者志望でありながら戦闘もこなせるという謎多き男であった。

入隊試験の時からクレインに対して妙な好意を抱いており、逆に常にクレインの隣に立っていたリサに対しては敵意を見せている。


「そ、そうだね。あのさ、キミって赤組じゃない?なんでここにいるのさ…?」


ラルゴの着ている軍服は赤色。研究志望の訓練生が集められた赤組には、基礎体力の訓練のカリキュラムはほとんど存在しない。今の時間であれば赤組は室内で講義を受けているはずの時間だ。


「なぜって?そ・れ・は…ここにクレインちゃんがいるからよっ!」


「…全然説明になってないよ!っていうか手を離すんだ!」


「いやよ?」


クレインはラルゴを振り払おうと躍起になるのであった。





「ボジャック!貴様ァ!我が神剣を返せ!!」


「ダメです。」



そうして大騒ぎの中始まった基礎体力強化訓練。

皆、苦労しながら山を上り、帰ってくる。




そんな中、息を切らせながら最後尾を歩く二人の姿があった。


「おい…アルクス…?さっきまでの…威勢は…どこにいったんだ?」


「リオ…ドルス…覚えておけよ…最後に勝つのは…この僕だ!」


リサとアルクスは他の訓練生の5倍とも6倍とも見える量の荷物を持ち、二人仲良く最下位を飾るのであった。



☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。


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