第四十〇話 相部屋の住人
講師である防衛隊士が扉から外に消えていなくなると教室内にドッと雑談の声が広がる。
前のほうの席に座っていたダケルがあくびをしながらリサに近寄り話しかけてきた。
「いよいよ明日からかー。俺なんだか緊張してきたぞ。」
陽気な性格の彼でも緊張することがあるのだなとリサは意外に思う。
そしてダケルに向けてリサは少し申し訳なさそうに軽く笑いながら質問する。
「すまないダケル、ここでの生活について教えてくれないか?着いたばっかりでなにが何やら…。」
「あー、リオはまだ自分の部屋にも行ってなかったな。この後案内してやるよ。」
「あ…ああ。助かるよ。」
そうだ、これから訓練生用の寮で生活しなければならない。
二人一組の相部屋で暮らさなければならないのだ、とリサは思い出す。
「俺まだ荷物片付いてなくてよ。あー、めんどくせー。」
「ダケル、俺の部屋はこっちなのか?」
「そーそー、ここ曲がって右側。」
ダケルの後をついていくようにして自分の部屋へ向かう。
訓練生見習いの寮に続く廊下は小綺麗に整理されていて無駄が無い。余計な装飾は無いが施設は新しく、白い光を放つ魔道具による照明が点々と続く。
しかしリサの様子に落ち着きは無く、施設の様子を眺めている余裕は無かった。
リサが今気にしているのは自分の相部屋の相手が誰かということだ。
ダケルに話しかけて聞いてみようとリサは思ったが少し怖くなって辞めた。
リサは兄であるリオ・ドルス以外の男と同じ部屋で寝泊りなどしたことが無い。
だが防衛隊士見習いとして生活する以上、その生活には不満は無い。
しかし誰にでも一緒に居たくない人間は存在するものだ。
リサの頭に絶対に同じ部屋になりたくない男の顔が2人ほど思い浮かぶ。
通路を曲がると廊下の真ん中に一人の男が立っていた。
そして残念なことに二人の男の内の一人が立っていたのだ。
「なんだ、貴様か。俺の視界に入るな。」
リサの動きがピタリと止まる。
(レドと相部屋か……ど、どうしようかしら……。)
いつも通りレドは自分の剣を操り、その上に乗ってこちらを見下している。
常識が無く、いつもリサに突っかかってくるこの男がリサは心底嫌いだった。
リサは何度かまばたきしてみるがレドの姿が見えていることは間違い無い。
悲しい現実に身体から力が抜け、歩きながら壁にぶつかりそうになるがなんとか踏みとどまる。空いた口がなかなか塞がらず、何かに掴まりたくなって手を伸ばすがそれはダケルの尻尾だと気づきなんとか踏みとどまる。
(こいつとエーリッツ家の長男だけは本当に嫌だったのに…!)
リサは隠す様子も無く苦々しい表情を浮かべ、レドの姿を見る。
(レドと相部屋だなんて私の精神が壊れかねない…訓練よりもそっちで根を上げてしまいそうだわ!)
なんということだと絶望した気持ちで足取りは重くなり、部屋に辿り着きたくないと抵抗するように一歩一歩踏みしめるようにゆっくりとリサは廊下を歩いた。
(兄様…私は一体どうすれば…。)
リサは胸いっぱいの溜息を吐き出す。
ドカッ!
レドに尻を思い切り蹴り飛ばされ、ダケルが廊下の左側の部屋に放り込まれた。
「…駄犬、貴様は早くあの荷物を片付けろ、切り刻むぞ。」
「いってぇな!レド!てめぇ!」
ドカっ!ドカッ!とレドは無言でダケルを蹴り続ける。
「いてててて!やめっ!やめろぉぉぉ!!!」
ダケルに続いてレドが廊下の左側の部屋に入ろうとする。
「お、おい!ダケル!?俺はどうしたらいいんだ?」
「リオはそっちの部屋だよ!右側!クレインがいる!クレイン・ホーカーと相部屋だ!ああああぇ、痛え痛えって!やめろおおぉ!」
「…へ?」
レドに蹴り飛ばされながらダケルとレドが左の部屋に消える。
右側の部屋のドアが開くとリサの良く見知った小人族の顔、クレインの姿がそこにあった。
「クレインっ…よ、よぉし!」
リサはグッとポーズを取ると、表情はうって変わってニヤけきったものに変わる。
「ああ、お帰りリオ。うえっ、何気持ち悪い顔してるのさ…。」
(た、助かったあぁぁ…。)
リサは相部屋の相手がクレインであることに心底安心する。
そして部屋に入ってクレインといつも通り話しかけるのであった。
全寮制の寮での相部屋の生活に不安しか無かったリサだが、クレインと今後のことについて学生時代のように会話できただけでその不安はどこかへ消えてしまった。
訓練のカリキュラムをどうこなすか、勉学の比重はどの程度か、実戦経験の積み方はどうするか。
リサと同じく、他の訓練生と比較して身体的に劣るクレインの意見は非常に参考になる。
何よりも気心が知れているという最高の相部屋の相手だった。
もし、今隣に座っているのがクレインでは無くレドだったらと考えるだけでも恐ろしい。
(兄様…!私…なんとかやっていけそうな気がするわ…!)
屋敷から王都までの道中不運に見舞われ続けたリサであったが、自分にも少しだけ運が残っていたのだなとしみじみ思うのであった。
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