第三十九話 防衛隊士見習い、始まる
王都、防衛隊士訓練校。
それは防衛隊士見習いたちを教育する施設として王都に設立された軍事施設である。
全寮制のこの施設では、実戦的な戦闘訓練が行える施設、最先端の研究設備、国内屈指の蔵書数を誇る図書館など様々な施設を備えている。
この施設を用いてアイラス・ル・ビア王国は最高の兵士を育成し、この大陸を代表する勇士としての地位を保っているのであった。
そして今日は第113期生としてリサたち防衛隊士見習いの入隊式が行われた。
しかし、そこに入隊試験第3位の合格者の一人、リオ・ドルス・リストヴァルの姿は無かったのである。
「まったく…何やってるんだよ!リオの奴は!」
「まぁまぁ、落ち着けってクレイン。」
入隊式に姿を見せなかったリオ・ドルスに対して怒りを露わにするのはクレインと呼ばれた小人族の少年であった。
その小人族の少年をなだめるのはダケル・ザーシュ、獣人の青年である。
今回合格した受験生の数は約80人。
その80人を2つのクラスに分けており、リサやクレインが配属されているのは戦闘を得意とする訓練生を集めたクラスだ。その鮮やかな青色をした軍服の色から、通称”青組”と呼ばれている。
一方、研究志望で合格した受験生のクラスも同様に軍服の色から通称”赤組”と呼ばれている。
青組に配属された防衛隊士見習いたちは一つの教室に集められた。そして今まさに、担当講師が姿を現し今後の訓練の方針を説明しようと教壇に付いた所であった。
「きっと腹でも壊して遅れてるんだぜ!きっと!」
「リオがそんなしょうもないことで遅れる訳ないだろ、キミじゃあるまいし。」
クレインは容赦なくダケルを切り捨てるように言い放つ。
入隊試験後の打ち上げで打ち解けた二人である。しかしその分、今の不機嫌なクレインの言葉には容赦がない。ダケルはキョトンした様子でおどけた表情を浮かべながらクレインを見返してみるが、クレインのむくれた表情は戻らない。ダケルはクレインの機嫌を取ることを諦め、愛想と一緒に振っていた尻尾の動きを止めて教壇のほうを向いた。
「ねぇ、レド君。なんでリオは来ないんだろう?」
クレインが話しかけた男はレド・ランパルト。リサやクレインとは旧知の仲であり、ダケルとペアで第4次試験を合格した青年であった。
無類の刃物好きである彼は、愛する彼の9本の剣のうちの一本を机の上に並べ丁寧に磨き上げている。
一本磨き上げては「フッ…。」と笑いを浮かべ並べている。そうして一人、悦に浸っているレドには近寄るものはおらず、クレインを除けば話かける者などこの教室にはいないだろう。
「知ったことか。奴がいようがいまいが、俺は一向に構わん。むしろ俺様の訓練の邪魔になる、居ない方がマシというものだ。」
「だよねぇ、やっぱり寂しいよね。」
「クレイン!貴様、俺の話を聞いているのか?」
「分かるよ、レド君はリオがいないと元気無いものね。」
「クレイン貴様ァ!」
「そこ、静かにしなさい!」
教壇に立つ小太りの講師から厳しく注意を受ける。
レドは聞こえても構わんとばかりに大きな音を立てて舌打ちをする。
恐らく小太りの講師にも聞こえていたであろうが、それを気にする様子もなく話を進めた。
今度の訓練方針の説明が進む中、ガラリと教室のドアが開いた。
「…お、遅れて申し訳ありません!リオ・ドルス・リストヴァル、只今到着しました。」
「リオ・ドルス君か、話は聞いているよ。そこの席に付きなさい。」
「…はっ!」
遅れて到着したリサは皆の注目を集めながら教室を歩く。青色の軍服に金色の髪が良く映える。
しかし、皆の目を引いたのは彼のボロボロになった服装についてであった。
服には所々に破れや汚れが目立ち、靴にも泥の跡が見えた。そしてリオ・ドルスの色白の肌にも汚れを拭って落としたような筋が残っており、金色の髪もバサバサと手触りが悪そうなほど荒れている。
そして手に携えている彼の愛刀であろう細身の剣は、鞘の上からでも手入れが必要だと分かるほど使い込まれたように見える。まるで教室に戦場帰りの青年が教室に迷いこんできたようなその様子に、他の見習い隊士たちは目を細めながらリサを見送るのであった。
小太りの講師に指示された席にリサは座る。そこはちょうどクレインの隣、窓際の席だった。
「えー、リオ・ドルス訓練生は入隊式に遅れました。本来であれば罰せられるべき状況だが、ある事情により今回は不問とします。」
「事情ってなんすかー?」
あっけらかんとしたダケルはこんな時でもずけずけと物を言う。
「彼は王都までの移動中に芸術の街クポ・エミルでテロリストと思われる集団と交戦しこれを撃退。」
「さらにその後移動中の馬車を襲撃してきた山賊団を退け、乗客たちを救う。そして本日、近頃王都付近に出没が報告されていたキラーベアの討伐。以上の行動をもって罰を不問としました。」
周囲から「おー」だの「すげー」だの「リストヴァル家やべぇ」だの様々な感想が飛び交う。
「ええと…あの…感謝します…。」
「感謝されるのは貴方の方でしょう。街の住民や馬車の方々の命を守ったのですから。」
周りから歓声が沸き立つ。だがリサにとっては全て成り行き、そこに自分の意志など無い。王都に着くまで巻き込まれるようにして戦い続けた結果なのであった。
敵を倒し、退ける度に周囲の人から涙ながらに感謝され頭を下げられた。
しかしリサは本音を言うと正直乗客など無視して入隊式に向かいたいとずっと考えていた。しかし、そんなことを言い出せるはずもなく馬車に揺られ、戦い続けた結果こんなことになってしまっている。この栄誉は全て他人に与えられたようなものであり、いくら褒められても感謝されても、こそばゆい感覚ばかりであった。
「久しぶり、やっときたね。」
そう言ってくれたのは隣に座るクレインであった。
リサが悪い悪いと顔の前に片手を上げ謝ると、怒っていた先ほどの彼はどこかへいってしまった様だった。そしてクレインは意地の悪そうな笑みを浮かべ話しかけてくる。
「リオ、遅刻の理由にしては今のは盛りすぎじゃない?」
「うるさい。今のが作り話だったらどれだけ良かったことか。なんで俺がこんな目に会わなきゃいけないんだって自分の運の悪さを恨んだくらいだぞ?正直ここに着くまで生きた心地がしなかったんだからな。」
クレインに「王都に移動するだけなのにどうしてそんなことになるんだい?」と質問されたがそれはむしろリサが聞きたいくらいだった。この間マリーとの馬車の旅を一瞬楽しいと思ってしまった自分を今となっては殴りたい。
誰が悪いのか、と聞かれればあのレフィーナという少女が悪いだろう。全ての原因だ。
それにあんなに苦しく、辛い戦いはもう二度としたく無い。
クレインの憎まれ口も今はただ嬉しかった。
リサは王都に辿り着くまで何故か山賊や魔物との戦いに巻き込まれ続けた。こうして普通に会話しているだけでようやく日常に戻ってこれたという気分になれたのだ。
「ふん、なんだ貴様。その程度の相手に手こずったのか?まったくもって話にならんな。」
堂々と聞こえるように悪口をいってくるレドは適当に無視する。この男の相手をしても無駄なことはリサは経験上よくわかっている。リサは人の陰口を言うなと言われ育てられてきたがこの男はむしろ陰口というものを覚えたほうがいい、と心の中で思った。
「貴様、なんとか言ったらどうだ?今後やっていく自信が無ければ今から荷物をまとめて帰ってもいいんだぞ?はーっはっはっは!!」
「そこ、静かにしなさい。」
二度目の指摘となり小太りの講師の語気は強い。
うぐっ、と声を上げ黙るレドとリサを見ながらクレインは一人でニヤニヤ笑っている。
リサはなんなんだこいつは、といった怪訝な顔で横にいる小人族を見た。
教壇に立つ小太りの講師が簡単な説明を始める。
「諸君らは防衛隊士見習いとして明日より所定のカリキュラムをこなして貰います。各自配布した書類に目を通し、明日所定の時間に集合すること………以上。」
簡単な説明が終わる。
初日は訓練も何も無い。明日に備えて解散となった。
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