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陽炎のリサ・トゥリカ  作者: 出水 達郎
~第1章~ リストヴァル家&クポ・エミル襲撃編
34/62

第三十四話  誇りと、愛と、全てをかけた最後の一撃


「はぁ…?今更…なんなのです?リオ君…命乞いですか?」


レフィーナは手を止めるが手はそのまま突き出したままであり、いつでも【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を放てる状態を保ち続ける。


「お前をそんな表情にさせないで済む未来があったのかもしれない…そう考えた。こんな関係になる前にお前に出会いたかった、ともな…。俺はお前のことをもっと知れたかもしれないし、お前も俺のことをもっと知れたかもしれない…それが本当にっ…残念だっ…!!」


「リオ君…?何を言って…!」


リサがそう言うとレフィーナから見て右の時計台の窓を突き破り、突如火の手が上がった。


「なっ…!?」


レフィーナは一瞬驚いた表情を見せ、急いで両手に力を込めなおすが刃に変質した時計台がみるみる元に戻っていく。

それと同時にレフィーナの表情に焦りが見え、構えた手が震え始めたのだった。


「くそっ…くそ、戻るなっ…!戻るなぁぁぁ!!」


「燃えている時計台と、燃えていない時計台。お前には”同じ物”に見えるか?見えないよな!!」


ここまでレフィーナと戦いを繰り広げたリサだったが【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】の能力にある疑問を感じていた。


狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】が操ることができるのは二つの同じ物体。


(本当に”同じ物体”なんて、本当にこの世にあるのだろうかってことにね…!)


どんなに腕の立つ職人の作った工芸品だろうと、同じ型を取って作った鋳物だろうとそれは決して”同じ物”などでは決して無い。小さなほころび、小さな傷、小さな偏り、小さなズレが必ずあるものだ。

では、レフィーナは何を持って”同じ物体”だと言っているのか?ということに。


(そう、始めに気づいたのはあの二つの看板…。)


その違和感に最初に気づいたのは蒸気に包まれ、武器屋と道具屋の看板で肩を切られた時のことだった。あの時レフィーナはリサの【朱滅火炎(エル・イグニート)】回避するために、左上空の屋根の上から【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】で攻撃してきた。


激痛と水蒸気によって塞がれた視界の中、リサはそれを見ていたのだ。


(元の姿に戻った武器屋と道具屋の看板はその形も、装飾も、文字も全く違っていたのよ…!)


では何故?なぜ【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】による攻撃に使用されたのか?

その答えは町中を逃走している時に疑問としてリサの中に残り続けた。


逃走中にも似たような看板はいくつかあった。

しかし後ろから追ってきたレフィーナがそれらの看板を使って攻撃してくることは無かったのである。


違和感を覚えたリサはあえて形状の異なる二つの看板の間、その対角線上に身を置いてみたが、それらが攻撃に使用されることは無かった。ではなぜ、レフィーナは看板で攻撃をしてこなかったのか

では始めに一度だけ攻撃に使われた二つの”違う看板”の正体は何だったのか。


そこでリサは一つの仮説を立てた。


(屋根の上にいたレフィーナは看板を上から見ていた、つまり形状の違う二つの看板が上から見ることで同じ看板に見えていたんじゃないのかってことに!)


レフィーナはリサの左側上空の屋根の上からあの武器屋と道具屋の二つの看板を見ていた。

リサから見れば形状がまったく異なっていた二つの看板だが、レフィーナのいる左側の上空から見れば”同じに見えていた”のでは無いかという仮説を立てた。


加えて水蒸気で視界が悪くなっていたことを考えればまったく同じ看板に見間違えてもおかしくは無い。


そしてリサはレフィーナの言う”同じ物体”とは「レフィーナが同じ物体だと”認識した”同じ物体。」なのではないのか、という答えに辿り着いた。

もしそうであるのならば一度だけ攻撃に使用された形状の違う看板の説明が付くのである。


(つまり、同じ物体だと認識できなくなれば【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】で攻撃ができなくなるはずっ…!)


そう、二つの時計台に上った最大の目的は【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を二つの時計台に使わせること。


狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を使用しようとしたその瞬間に時計台の片方に火を放ち、レフィーナが持つ二つの時計台は”同じ物体”だという”認識”を狂わせること、それがリサの狙いであったのだ。


リサがダクトに寄りかかっていたのは負傷による為では無い。

全てはレフィーナに気づかれることなく、ダクトの中を通し片方の時計台に炎を送り込む為である。


始めはダクトからゆっくりと炎を送り込み、レフィーナが【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を使い、攻撃するその瞬間に最大火力で炎を流し込み、激しい大炎を起こし塔を炎上させるための下準備を行っていたのだ。


リサの狙い通り燃える塔と、燃えていない塔。その二つを同じ物体だと認識し続けることができず、レフィーナは【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を発動することができなくなっていたのだ。


そしてこれほどの巨大建造物、流石のレフィーナも【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を使う為に今まで見せたことの無い構えを取り力を込めていた。


巨大な塔に対して【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を使う為にかなりの力を使ったはずだ。そして時計台に火の手が上がり、認識が狂わされ全力に近い力を込めた【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】がキャンセルされた今、その反動による隙は必ず発生する。


その一瞬の隙を突く為、リサは残された力を一気に解放する。


(…ここで、決めるっ!!)


リサは両手を後ろに伸ばすと後方に光り輝く自分の手で【朱滅火炎(エル・イグニート)】を放ち爆炎を起こす。

そしてその爆炎により跳ね飛ばされるとリサはまるで爆発するような勢いでレフィーナに迫る。



「リ、リオ君っ!?ああっ!あああっ!!!」


レフィーナは【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】がキャンセルされた反動でバチンと身体をのけ反らせてしまう。そしてふらつきながらも、叫びながら何とか(はさみ)を構えた。あまりの出来事に驚きの表情を見せるレフィーナ。しかしながら急速に接近するリサを目の当たりにし戦う意志を強く持ち武器を構える。


如何に速いとはいえ、それは直線的な突進である。

狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】のキャンセルによる反動さえなければレフィーナは簡単に回避していただろう。しかしふらつく足と硬直しかけたこの身体でそれは不可能であった。


(速い!速すぎるっ!!かわせないのですっ…!!)


初めから(はさみ)を投げるように誘導されていたのでは無い。

二つの時計台に【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を使うようにこの場所に誘導されていたことに気づき、怒りと屈辱を感じながらもレフィーナは冷静にこの状況の対処を試みる。


(何かっ!何かで!!何かで迎撃しなくてはっ!?)


猛烈な勢いで迫るリサの攻撃を回避することは出来ない。

回避できないレフィーナは迎撃するしかなかった。その方法は二つ、一つは地上にある他の物体に【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を使ってリサにぶつけることだ。


(…無いっ…!無いっ!?…遠いっ…遠すぎるっ…!?何かっ…何か無いのですかっ!!?)


しかし二つの時計台の周りは開けた広場となっていた。そこには芝生とまばらに木が広がるのみ。当然、レフィーナが認識できる”同じ物体”など近くに無い。


広場から少し離れればクポ・エミル特有の同じ物体が並んでいる。

だがレフィーナまで離れすぎている。今から引き寄せていては爆発的な勢いで上空から迫るリサに間に合うはずが無い。


レフィーナは知らなかったが、リサはこの街には何度も来たことがあり、この時計台の周りに物が少ないことを知っていたのだ。


引き寄せる物体までの距離が遠く、レフィーナが瞬時に【狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】を使い身を守ることができない。それがリサがこの場所を決着の舞台に選んだもう一つの理由だった。


(間に合わない!!間に合わないのですっ…!!そんなっ…!あああっ!ああああああぁぁぁ!!)


そしてレフィーナに残された手はただ一つ。

その右手に持つ(はさみ)でリオ・ドルスを迎撃すること、のみである。


(この場所もっ!この状況も!全てリオ君が仕組んだ状況だとでもいうのですかっ!?)


リサの勝機…それはリサの剣とレフィーナの(はさみ)での一度きりの接近戦を行うこと、それに賭けたのである。


ここまで策を巡らせても、リサが勝つ確率は100%では無い。

しかしここまでレフィーナを追い込んだのだ。今まで近づくことすら許されず、どんな攻撃も当たらなかった、あのレフィーナを追い詰めた。


(レフィーナがっ…このレフィーナが追い詰められている…!?まさか…!たった一つのこの(はさみ)に運命を賭けなければならないなんて…!!)


…その瞬間、レフィーナの頭にセルナス教国で育った幼少期の記憶が何故か不思議と浮かんできたのであった。


お父さん、お母さん、お姉ちゃん、皆に”愛されていた”はずのあの日々を。

狂心断頭(レゾナス・ギロチン)】に目覚める前の、毛布にくるまり愛犬と一緒に寒さに震えていた小さな少女時代の思い出を。


…持ち物と言えるものはただ一つの(はさみ)だけ。

その可愛らしい小さな(はさみ)にすがるようにして生きていたあの頃の記憶を。


だがこの(リオ)がレフィーナに向ける目は何かが違う。


これまでレフィーナに対して周囲の人間が向けてきた目とは何かが違っていたのだ。

そしてこれはレフィーナのことが”嫌いだ”と言った人間が向ける目なのだろうか?と思わされる。それはその目には強さと暖かさと、レフィーナを思う強い気持ちのようなものが感じられたからだ。


(なに…なに…リオ君!?なんなのですかっ!?リオ君は…!!?)


では、今までレフィーナに向けられていた目線は何だったのだろうか?

皆、自分の事を好いてくれていたのではなかったのだろうか、そう考え始めてしまったレフィーナの思考はグチャグチャになり、涙が止まらなくなり、訳の分からない叫びを上げた。


(はさみ)と剣の一騎打ち。


リサも、レフィーナも、もはや勝てる、勝てないという話では無くなっていた。


この一撃で彼女を止めることができるのだろうか?彼女に理解してもらうことができるのだろうか?彼に愛してもらうことができるのだろうか?

その答えは無い、そしてこの戦いが終ってもその答えは出ないかもしれない。だがこの二人はやる、今やるしか無いのだ。この一撃、全てをこの一撃にかける。



「…あああっ!!リオ君!!リオ君!!あああああっ!リオ君!!うああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!」


「レフィーナッ!!今っ!終わらせてやるからなっ…!!」



両者、互いに愛する武器を手に、互いの誇りを、気持ちを、愛をぶつける為、二人に残された最後の手段で攻撃を仕掛ける。


すさまじい風が辺りに広がり、リサとレフィーナは激突した。

周囲の砂やガレキを巻き上げ土煙が周りに広がり、衝撃と金属音が広場に響き渡った。







☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。


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