第三十一話 破壊、巻き起こる街の中で
(そんなっ!?ここは”安全地帯”のはずでしょ!?)
リサは決して同じ物体の対角線に入ってなど居なかった。リサが立っている場所、ここはリサが見抜いたレフィーナの【狂心断頭】の死角、すなわち”安全地帯”のはず。
それはレフィーナ自身が先ほど認めていたことではないか。
だがこうして攻撃を受けてしまったという事実に驚きを隠せない。まさかレフィーナの先ほどの表情も言葉も全て嘘であったのだろうかとリサは自分の甘さにうんざりする。
しかしこの思わぬ攻撃の正体、飛来してきた短い鉄柱、その柱が動いた際に残されたえぐられた石畳の跡を見てリサは理解したのだった。
(…柱の進行方向が、途中で完全に変わっているっ…!?)
今まで直線にしか移動してこなかった【狂心断頭】。その軌道が折れ曲がるようにして変化していたのだった。
「まさか…あれは3本目の柱っ…!」
そう、リサへの攻撃に用いられたのは3本の柱。
二本の柱は初め、直進しながら交差する軌道を描いていた。
当然その対角線上にリサの姿は無い。
しかしその軌道を描いていた柱のうち一本と3本目の柱の対角線にリサを捉えた瞬間、突如挙動を変えリサに襲い掛かっていたのだ。
そう、レフィーナは【狂心断頭】を3本の柱を使い切り替えることで柱の動きを自在に操っていたのだった。
「こんな風にぃ、3つ同じ物体があればいくらでも攻撃できる範囲は広がるのですよ。3つの物体であればそれが描く三角形の内側、それがレフィーナの攻撃範囲。」
そう言われハッとなり、リサは周囲を確認する。
デザイン性を重んじたこの街の街頭、それは町中至る所に使われており左右の柱だけでなく一定距離離れた場所にも同じ柱が立っているのである。
もちろんそのことはリサも気づいていたがどこまでも続くこの街並み、それをパズルのように組み合わせて【狂心断頭】を使って攻撃してくるのだとしたら、と想像しリサは戦慄する。
「同じ物体が4つあれば四角形のその内側全て。そしてクポ・エミルの街中に同じ物体がどこまでも続いているのです。つまり、この街全てがレフィーナの攻撃範囲!全てがレフィーナの武器!!全てがレフィーナの手中!!わかって頂けたのですか?リオ君、レフィーナの【狂心断頭】に死角は無いのですよ!!」
リサがやっと見つけた”安全地帯”は簡単に取り上げられてしまった。能力の弱点だと思ったがそれはレフィーナがとうに辿り着き、攻略していた課題であることに気づかされる。
戦いの舞台がクポ・エミルで無ければ違う戦術も立てることができただろうかとリサは思案するが今更それを悔やんでも仕方がない。
「ああ、良かったのですぅ。攻撃を避けてくれて。またその表情をしてくれて。まさか私の【狂心断頭】を見破った、と思われたままチョキチョキされてしまってはレフィーナ悲しくて泣いてしまうところでした。」
「さっきも言ったのですよね?”この街”で戦う時点でリオ君に勝ち目は無い、のです。レフィーナたくさん準備したのですよ?大好きなリオ君にもっともっと苦しんで欲しかったので。」
レフィーナは自信たっぷりにリサを見下ろす。その目に宿る不気味な光には自分の磨きあげた能力と自分の戦いのセンスの絶対の自信のようなものを感じさせられた。
「この街でレフィーナに攻撃できない場所はありません。この街は広いですよ、リオ君。
逃げ切れるのです?逃げ切れないですよね?つまり、わかりますよね?」
「悲しいですよね?怖いですよね?苦しいですよね?でも、大丈夫なのですよ、レフィーナはリオ君の全てを受け入れてあげるのです。」
リサはレフィーナに勝つ方法を考えていた。
もはや対角線を頼りに攻撃を回避することはできない。
【朱滅火炎】も封じられ、【陽炎幻視】も見破られた。攻撃の射程も、範囲も、正確さもレフィーナのほうが上回っている。
能力の使い方も、練度でも勝てない、どうすれば。
「そうそう、さっきマリーさんにしていた”お願い”も、無駄、なのですよ?」
「…お願い?…何のことだ?」
「ええと確か、”アドルの旦那”の所に泊まる?だったですか?恐らくアドルという方、防衛隊士かその関係者の方なのでしょうが…。リオ君…レフィーナに嘘を付こうとしましたね…?許さないのですよ…リオ君…?確かリオ君達が今日泊まる宿は中央街の…”緋色の狼亭”だったはずなのですよね…?」
「アドル」。そう、アドルこと「鉄鎖のアドル」はこの街の防衛隊士の名だ。
リサの知り合いであり、この街屈指の実力者だ。この状況でアドル以上に頼れる男はこの街にはいないだろう。
しかしレフィーナは完全にリサ達のことを調べ尽くして来ていた。魔導機関車に乗る時間も、客室の番号も、今日泊まる宿の場所も、リサの能力も、リサの弱点も。
しかしレフィーナにまさかアドルへの救援が見抜かれていようとは思いもしていなかった。
絶対に逃がさない、逃がすつもりは無い、そういった強い思いがその不気味な瞳から伝わってくる。
「…でも多分今頃忙しくて、助けは来ないと思うのですよ…?」
リサには、まだマリーがリサの言葉に気づいてアドルを助けを呼んでくれれば、という僅かな望みがまだ残されていた。
だがレフィーナは何かを根拠にそれは無いと言い張る。
レフィーナという少女はリサの想像以上に危険で、強かった。
しかしアドルが居れば…あの鉄鎖のアドルと協力すればこの凶悪な少女にも間違いなく勝つことができるだろう。
だがレフィーナは言う、「助けは来ない」と。
「…そうそう、魔導機関車ってとっても可愛いものの上を走っていると思いませんか?リオ君?」
「…またいきなり…今度は何の話だ?」
「魔導機関車のレール、あれって右と左、”全く同じ”レールが続いているのですよ…可愛いです、それはとっても可愛いと思いませんか…?」
「なっ……お前…まさかっ…!」
「えへへへ、とっても可愛いレールだったのでレフィーナ我慢出来ませんでした…なのでこっそり、”ちょっとだけ動かして”おきました。たぶん今頃駅のホームはすっごい騒ぎだと思うのです!たくさんの人の絶叫、血しぶき、肉片、断末魔!いいなぁ、レフィーナみたかったなぁ!!」
リサは急いで駅のほうへ目をやる。
建物に遮られ離れていてここからでは良く見えない、音も殆ど聞こえない。
レフィーナとの戦闘に必死だったリサはその異常に気づいていなかった。
駅の上空の空が明るい、日が沈んで大分たつ、そんな時間にしては空が異様に明るいのだ。見えるのは照明や街灯の灯りでは無い、赤や黄色、普段見ないような光が空を飛び交いそれが騒然としている駅の様子を物語る。
「レフィーナっ…!お前なんてことを…!」
魔導機関車はクポ・エミルに停車しない車両もある。その車両がもし高速で駅を通過中に脱線したならばその被害は想像を絶するものとなるだろう。
「綺麗な空なのですねぇ。……と、いうことで助けは来ません。そしてリオ君は私に勝てません。つまり、私にチョキチョキされるしか無い、という事を理解して頂けましたか?」
レフィーナがリサを追い、これほど破壊を街にもたらしても防衛隊士や警邏の人間一人現れないということが、レフィーナの言う駅での大惨事の対応に追われているということの何よりの証拠なのかもしれない。
つまり、「助けは来ない」。
明るいはずの空を眺めているはずのリサの顔に陰りが落ちる。
「あれ?あれれっ?リオ君絶望しちゃいました?諦めちゃいましたぁ?手足を一本ずつ刎ねながら逃げ回るリオ君を追いかけるの楽しみにしていたのにぃー!!もぉ!つまんないのですうっ!!」
自分の置かれた状況を理解し動かなくなったリサを見てレフィーナは一人で怒っている。その感情は自分勝手極まりないものであった。
戦うに当たってリサは最善を尽くしてきたはずだった、そこまでの準備も、戦略も、撤退も救援も、全て考慮に入れ最良のものを選択してきたつもりだった。
しかしそのすべてがこの少女に通用することは無かった。
リサの手は僅かに震え、遠く見える煌々と光る駅の空模様を呆然と眺めてしまっているだけとなっていた。
そんなリサを見てレフィーナは大層ご満悦になったのだろうか、今日一番の笑みを浮かべリサと同じ地面に降りる。
「でも、安心して下さい。大好きなリオ君。リオ君の後で次に好きな”マリーさん”の所にも行ってチョキチョキしてあげますからね……?」
しかし、勝利を確信したレフィーナが言い放った何気ないその言葉を聞いたリサはその心に、不思議と力が湧いてくるのを感じた。
ずぶ濡れの全身の毛が逆立つような感覚を覚え、目に光は戻り、やめようとしていた剣を握る手には再び力が戻る。
「…マリーを…だと…?」
「ええ、レフィーナ、マリーさんも好きになってしまいましたので。」
その言葉は先ほどまでこの少女に服従しかけていたリサの気持ちを、この少女には決して負けられない、この少女を止めなければ、必ず勝たねばという強い気持ちへ変化させる。
恐らく、残った【陽炎幻視】、【朱滅火炎】をふり絞って戦ってもレフィーナには勝てないことはリサが一番良く分かっていた。
だが、勝たなければ未来は無い。
リサの未来も、マリーの未来も、そしてリオ・ドルスの未来も。
その時、遠く駅の様子を見たリサの目に一つの建築物が映る。
その建築物はこの無慈悲な破壊を受け、暗雲立ち込めるこのクポ・エミルの街の中にあってリサの目には燦然と輝いて見えた。
「…あっ…ああっ…!」
傍から見れば狂ってしまったかのようにリサは声を上げてしまった。
しかしそれをレフィーナに聞かれていないことは幸いであった。
(…あった…見つけた…かも、しれない…!レフィーナに通用するかは分からない…でも、通用するかもしれない……あった…あったわ…【狂心断頭】が攻撃できない場所がっ!!)
そしてリサは今まで見せたことが無いほどの剣幕でレフィーナを睨みつける。
その表情にレフィーナは一瞬動きを止めるがリサを小馬鹿にした態度を改める様子は見られない。
「…ついて来いっ!レフィーナっ!次で終わりにしてやる!」
「ぷぷぷっ!!あははははははっ!この状況で?何を?どうして?どうやって?どうするのですぅ?とっても面白いのっ!面白いのですよっ!…それでこそリオ君!私のリオ君なのですよっ!!」
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