第三十〇話 共振する世界の狂詩曲(ラプソディ)
「わたしの【狂心断頭】がどんな能力なのか…知りたくないですか?リオ君…?」
自分の能力を教えてくれるというレフィーナ。
通常、1対1で命の取り合いをしている相手にそのような塩を送るような馬鹿はいない。
ここまでレフィーナの猛攻を受け続けたリサだが、レフィーナの能力、【狂心断頭】を見破るには至っていなかった。
リサは【狂心断頭】が二つの物体を刃に変え、攻撃する能力という程度のことは分かっていたが、そこまでだ。目の前の狂乱する少女に勝つ為には更に詳細な情報が必要であることは間違い無い。
【狂心断頭】の発動条件、射程、攻撃速度、力の制約。リサ・トゥリカと違い、自分の能力を自由自在に使いこなすこの少女に勝つには敵の情報を集め、弱みを突くしか無かったのだ。
「……でもぉ、ざぁんねん…!たとえリオ君でも絶対に教えたりしないのですっ。あれれ…?もしかしてちょっと期待してたりしちゃいましたかぁ?」
レフィーナはこちらを小馬鹿にしたような表情で煽ってくるが、リサは元より教えてくれるなどとは全く思っていなかった。
しかし苛立ちを感じていたのは事実であり、それは追い詰められつつあるこの状況に対してでだった。それがリサの表情に滲みだし、手に少しばかりの力が入ってしまい濡れた袖と肌がかすれ気持ち悪さを覚えさせていた。
「あぁっ!いいっ!またいい顔なのですよ!リオ君っ!」
白く濁った視界の中でレフィーナはこちらの顔が鮮明に見えているかのように叫び、狂喜しているようだった。
子供じみたしゃべりをするレフィーナであるが、リサはここまで剣を交えてこの少女に対して戦いと殺しに関して恐ろしいまでのセンスを感じさせられていた。
思考を巡らせての策略というよりも動物的本能による駆け引きに近い。常識も言葉もまるで通じない、力で負けてしまえばそれが即、死に繋がる。はっきり言ってリサの苦手とする類の相手に他ならない。
白い視界の中、レフィーナの紫色の髪が街灯の灯りに照らされ揺らめくように鈍く光り再び姿を消す。
「ご自慢の炎も、幻術も、私には効かないということが分かって頂けましたか…?悲しいですよね?くやしいですよね?…そろそろ終わらせてあげるのですよ…リオ君っ…!!」
レフィーナがそう言い放つと同時にまたあの不気味な風切り音がリサの耳に鳴り響く。
視界は蒸発した水の蒸気によって遮られている。服は水に濡れ鉛のように重い。
そしてどこから攻撃が飛んでくるのか分からない斬撃。
(…本当…最悪の気分だわっ…!)
リサは次第に大きくなる風切り音から、飛来する物体の大きさは街頭ほど大きくないことは予想ができた。しかしどこから飛んでくるか分からない以上【陽炎幻視】で回避をすることもできない。
音が近づき、蒸気を切り裂き刃が姿を現した時にはすでにその刃はリサのすぐそばまで来ていた。
気づいたリサはすぐさま回避しようとするが、それは既に遅すぎた。
「…ぁ…!痛……ぃっ……!」
かわしきれず、リサは肩口を刃に切り裂かれ体勢を崩す。
刃と化して接近してきていたのは、左にある武器屋の看板と右にある道具屋の古びた看板であった。
看板二枚はリサを切り裂き交差すると刃が姿を消し元の看板に戻った後、石畳の上を転がりガラガラと音を立てる。
「あはっ!当たった?当たったのですねっリオ君?ああっ…もったいない、リオ君の血が流れていくのです…なんてもったいない!!」
(痛い…!なんで見えてるのよっ…!あの女ぁ…!!)
こちらからレフィーナの姿は見えないがレフィーナにはリサの居場所がはっきりと分かっていることは間違い無い。
(ここから離れないとっ…!!)
リサは肩から血を流しながらも蒸気により塞がれた視界を取り戻す為にこの場を離れるべく走り始める。
「あはははははっ!デートの最後は鬼ごっこなのですぅ?いいですよっ!いいのですよっ!リオ君が死ぬまで追いかけてあげる、追って、追いかけて、追い続けて…殺して…!あげる…っ!」
リサ目掛けてレフィーナも屋根の上を飛び跳ねるようにして追ってくる。
ここまで考える余裕など無かったリサだが、逃げ始めた今僅かだが時間ができレフィーナとのこれまでの戦いを思い起こすことが出来ていた。
(これまであの女が攻撃に使った道具は何…?マリーに使った小さな鋏、そして手に持つ大きな鋏、街の街頭、そして消火栓、先ほどの武器屋と道具屋の看板。)
そしてリサは自分の立てた一つの仮説を元に動き出す。
(…これは私の推測でしかない…でも恐らく…あの能力…【狂心断頭】は…もしそうであるなら…!)
リサは赤く染まった肩を抑えながらレフィーナから走って逃走する。
レフィーナはリオ・ドルスの名前を叫び、奇妙な笑い声をあげながら屋根の上からそれを愉快に追いかける。
レフィーナは追いながら周囲の物体を刃に変え、リサに向けて放つ。その数は先ほどまでの刃の数の比にならず、手あたり次第に次から次へと刃をリサに向けて放ち続ける。
レフィーナは芸術的な街並みを積み木でできたおもちゃの家を崩して遊ぶ子供のように破壊しながら街の中を突き進む。
リサに放たれるのはレフィーナ自慢の【狂心断頭】による必殺の一撃。
それは街灯、消火栓、看板、手すり、石材、廃材、刃の種類は多岐に渡る。
「……あれ…?………あれれぇ…?」
レフィーナが突如、ふ抜けた声を上げ、攻撃を止める。
当たらない。
リサに向かって放たれたのは嵐のような刃の連続攻撃。
手を抜いているつもりはない、全てが当たれば必殺の一撃。
だが、しかし当たらない。
レフィーナの攻撃は何故かリサに当たらないのだ。
「…もしかして、気づいたのですかぁ?リオ君?」
破壊され尽くした街並みの中、少し息を切らせながらもリサの五体は無事残っていた。
周りに散らばるのは破壊された街の一部だった残骸の数々。
レフィーナの顔から気味の悪い笑みが消えたのを見て、リサは今まで推測だった自分の考えは真実だった確信を覚える。
(【狂心断頭】の能力、それは恐らく、二つの全く”同じ物体”を刃に変えて交差させる能力っ!ならば、回避することは難しくないっ…!)
(つまり、周囲にある二つの”同じ物体”の対角線、それこそが【狂心断頭】の攻撃範囲っ!周囲にある”同じ物体”の対角線に常に注意して移動しながら戦う!それこそがこの能力【狂心断頭】の攻略法よっ!)
(そして、このルールの中にあってイレギュラーが一つあるわ!それがこの攻撃っ…!!)
レフィーナはすでに鋏を二つに分けてリサに向けて投げていた。
レフィーナが宙に放った鋏は二つの”同じ物体”の対角線というルールの中においてその範囲外を犯す存在、つまり”安全地帯”にいたリサを的確に狙うことのできる攻撃。
しかしリサは華麗にステップしこれを回避する。
「どうした?レフィーナ?もう笑うのをやめたのか?そのほうが可愛いぞ?」
「……はい…?」
先ほどまでの笑い声は消え、屋根の上からレフィーナはリサを見下ろしていた。
そしてつまらなそうに手元に戻ってきた鋏をキャッチし荒々しく一つに合体させる。
「…なんなの、ですか?リオ君の、その顔は?レフィーナ不愉快なのです?」
初めて怒りの感情を表に出したレフィーナを前にリサは少しだけ身じろぎする。
しかしここで引くわけにはいかない、視界を取り戻したリサは強くレフィーナを見据える。
「ええ…分かったみたいなのですね?【狂心断頭】は同じ物体を刃に変えて攻撃する能力だということが。」
「で?だから?それが何?何なのです?それが分かった程度で何?なのです?もしかしてその程度でリオ君はチョキチョキされない、とでも思ったのです?それはレフィーナにとって、とても不愉快なことなの、です…よ?」
そう言い放つと自身の能力を見抜かれたはずのレフィーナの顔は再び不気味な笑みを浮かべた初め、不気味な顔に戻っていく。
「あぁ、デートの場所をこの芸術の街、クポ・エミルを選んで本当に良かったのですよ。おかげでリオ君にこれ以上不快な顔をされずに済みそうなのですよ。この街は本当に綺麗なの…なのです。どこに行っても、どこまで行っても、左右同じ構造、同じ建築物、同じ作りが続く街並み。」
手にもつ鋏を無駄に動かし、不快な金属音を鳴らしては刃を舐めて遊び始める。
「リオ君。レフィーナね、パズルとか知恵の輪とかとっても好きなのですよ…。」
「…パズル…何のことだ?」
リサがそう言い終わった瞬間、予想だにしない角度から刃と化した短い鉄柱が飛んできた。
「何っ!?」
【狂心断頭】のルールにおいて”安全地帯”であるはずのリサの立ち位置目掛けて予想だにしない刃による攻撃が放たれた。
それを間一髪で回避するリサであったが、身にまとう青い服は無残に切り裂かれ更にその生地を減らす。
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