第二十七話 【|狂心断頭《レゾナス・ギロチン》】
自分は一人でここまで来たと言うレフィーナ。
それが嘘なのか、真実であるのかリサに判断することは出来ない。
危険な能力を持ち、明確に殺意を向けてくる相手と対峙すること。
今のリサには防衛隊士入隊、第4次試験の時のように助けてくれる親友も居なければ、子供たちを見捨てて逃げるという選択肢も無い。
そして「”みんな”には止められた。」というレフィーナ。
仲間の静止を振り切り、わざわざ魔導機関車に乗り込み、殺害相手と会話する為に接触してくるほどリサに執着している少女。リサが逃げ出そうがレフィーナは間違いなくどこまでも追ってくるだろう。レフィーナの放つ空気はリサにそう肌で感じ取らせていた。
レフィーナは手に持つ身の丈ほどの巨大な鋏を緩やかに動かし始める。
その少女の小さな身体でどうやってあの巨大な鋏を持ち上げているのかという疑問が浮かぶが今はそれどころでは無い。
鋏の動きと呼応する様にレフィーナの表情が変わり始める。
それは先ほど魔導機関車でマリーを襲った時に見せたあの狂気に満ちた表情だった。
レフィーナは口から涎を垂らしながら恍惚とした表情を見せ、もはや可憐な美少女のものとはかけ離れたおぞましい獣を思い浮かばせる表情を見せる。
「わたし…今までたくさんチョキチョキしてきたの…。大好きなお父さん、お母さん、お姉ちゃん、愛犬のテリー、好きな友達、好きな食べ物、好きな場所…。レフィーナはね、好きなものはチョキチョキしないと気が済まない子なのですよ…?」
「そして今日始めて、好きな人をチョキチョキできるの…です。ねぇ、それは素晴らしい日だと思いませんか?ねぇ…ねぇリオ君??」
そう言いながらレフィーナは鋏を分解し二つに分ける。
それはマリーの首にあてられた小さな鋏を思い起こさせる。
合わせてリサも細身の愛剣を抜刀する。
幸い、レフィーナとの距離は十分にある。
微塵も油断は無い。レフィーナは分解した鋏を両手に持ち、前のめりになり重心を下げる。
(…来るわねっ…!)
突っ込んでくるであろうレフィーナの攻撃を見切るためリサは身構える。
一見、一つの武器で二つの武器を防ぎきるのは困難に見える。
だが決してそれは不可能では無い。
武器が二つあろうと致命打となる一撃は二つ内のどちらかである場合が殆どであるからだ。
その致命打となる一撃を確実に見切る。
「…さぁリオ君、受け取って下さいなの…ですっ!!!」
しかし…レフィーナはブンと投げたのだった。
その分離した自慢の二つの鋏を。
二つに鋏はかなりの速度で回転し曲線を描き、その軌道はリサへ向かっていた。
(…投げたっ!?)
接近戦を仕掛けてくると思ったリサは少し驚いた。
しかしリサにこの程度避けることは造作も無い。なぜなら幼い頃から身近に居たのだ、刃物を操り攻撃をしかけてくる男が。
【飛空神剣】
そう、防衛隊士試験で競い合った学友であるレド・ランパルトは【飛空神剣】により9本の剣を同時に操る。
学生時代にレドと衝突する機会が多かったリサは彼が操る9本の剣を避け、反撃へと転じるという動きを自然に身に着けてしまっていたのである。
そして何より、レドが攻撃に使用してくる剣の本数は最大9本。
しかし今回レフィーナの鋏は2本。
(あの馬鹿の剣のほうが断然速いっ!!)
当然、リサ・トゥリカに避けられぬはずは無い。
リサはつま先立ちのステップから身を翻し、空中へふわりと浮くと1本の鋏が空を切る。そしてもう1本の鋏はまだリサの前方、それはリサに命中する軌道では無い。
「……さっすが、わたしのリオ君…なのですっ。」
ヒラリと宙を舞うリオ・ドルスの姿にレフィーナは目を輝かせる。
そして自分の鋏の一撃をかわされたにも関わらず、レフィーナは絶えずあの不気味で狂った表情を続けている。
鋏を投げてからレフィーナの狂気に満ちた表情はなぜかさらに拍車をかけて異質なものと変わっていく。
それはこれから起きる惨劇に期待し、胸を馳せているかのように。
リサは着地時の反動を使い、一気に距離を詰める為前に出た。
レフィーナが大きな鋏を手離した今、彼女が身を守る手段は限られているはずだからだ。
しかし、空中から着地しようとしたその時リサは気づく。
リサは、過去にレドと手合わせしていた時には無かったその違和感に。
空中を鉄の塊が高速で動けば必ず発生するその音、風を切り裂くあの不快な音。風切り音。
それが聞こえない、何故だ?
回転せず突進してくるレドの剣であっても、リサの身体を通過した後に風切り音は必ず聞こえていた。それに対してレフィーナの鋏は先ほどまで激しく回転していたはずだ。
鋏から聞こえていた風切り音はレドの剣の時と比べ物にならず、歪な形状と不気味なデザインがその不快な風切り音を更に際立たせていたくらいだ。
そして鋏が何かにぶつかった様な音も聞こえていない。
だが、消えた。
先ほどまで聞こえていたあの不快な風切り音が。
着地するその一瞬、リサはレフィーナから視線を外すべきでは無いと思いながらもチラリと自分に命中しなかった鋏の一つに目をやった。
芸術的な街並みの中に一つ、異質な物体が目に映る。
それは細長い棒状の鉄塊だった。
間違いない。
見間違えるはずもなく、目に映ったのは間違いなくレフィーナの放った巨大な鋏の片方であった。
それがリサから見て右下に、しかも鋏は空中で止まっている。
更に鋏は回転していないことに加え、重力の影響も受けていなかった。
(なっ…!?…あれはっ…?)
リサの頭に先ほど回避したもう一本の鋏はどうなった?と疑問が沸く。
しかし答えを出す前にリサは場所を変える為に本能的に動き出した。
それはレフィーナがマリーを襲った時の記憶から。
それは鋏という道具の働きから導き出された、何の確信も無い曖昧な回避であった。
そう、リサが回避したもう一つの鋏はリサの後方で同じ様に空中で停止していた。二本の鋏は持ち手を刃へと姿を変え、二つの鋏は引かれあうように速く、鋭くリサに向かって突進してきていた。
その動きは魔導機関車の中でマリーの首筋に向けて放たれた鋏と同じものであったが速度はその比では無い。
ガキィン!と二本の鋏が交差する様に合わさると地面に落下する。
鋏はリサの青いスーツの右腕と腰の部分をかすめ、スーツを引き裂き、青い布切れが宙を舞う。
(あ、危なかった…!なんなのっ!?この鋏は!)
一瞬早く気づかなければ間違い無くリサの胴体は両断されていた。
その事実に気づきリサの背中に気色悪い感覚を覚える。しかしかわすことができた。
かわしたのだ。鋏の一撃を。
予定は変わってしまったが前方にも踏み込むことが出来ている。
レフィーナの手に武器はもう無い。リサは少しよろけながら足に力を込め一気に踏み込んだ。
ここで引く訳にも、距離を取るわけにも行かない。
(一気に…詰めるっ!!)
しかしこの時、またリサは妙な違和感に気づいてしまった。
この街は夜でも常に明るい。蓄光式の魔具によって街路は常に均一に照らされている。
それが自分のいる辺りだけ、暗い。
何故か暗いのだ。
その時リサの周囲ではリサが予想だにしなかった異変が起きていた。
それはリサの立つ左右の街灯の柱で起こっていたのだった。
先ほどまでリサの背丈の3,4倍はあろうかという長さの街灯がリサの左右にはあった。
その二つの街灯が今、リサの頭上から倒れる様に迫ってきている。
頑丈な街灯の柱の根本は折れ、へし曲がり、リサに向かってすさまじい早さで倒れてきていたのだ。
街灯の材質は金属であり、下敷きになればもちろんタダでは済まないだろう。
しかしその街灯の柱はただ倒れてきているだけではない。
先ほどレフィーナがして見せた鋏のように、柱全体を刃に変質させていたのだ。そしてその二本の巨大な柱はリサの頭上に大きな影を落とす。
(そんな…!?ありえないっ…!!)
「…レフィーナの大好きなリオ君へ……受け取ってくださいね…?」
道路を端から端まで横断する様に倒れ来る、ありえない速度で振り降ろされる巨大な二刀の凶刃。
まるであらかじめリサが鋏をかわして更に前に出てくることが分かっていたかのように二本の柱は無情にリサの頭上に降り注ぐ。
そんな様子を離れた位置から眺めながら、レフィーナは狂い笑い、リサの方へ手を指し伸ばし、自分の指を舐めながら満面の笑みを浮かべる。
「…わたしの…【狂心断頭】を。」
街灯だった二つの刃の柱は交差するように、リサに向かって高速で地面に叩きつけられた。
その音は地鳴りの様に鳴り響き、床の石畳を吹き飛ばしながら周囲に土煙を巻き上げる。
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