第二十六話 初デートは死のデート
リサとマリーとレフィーナの三人は駅のホームに降りた。
ここまでレフィーナは大人しく後ろを付いてきていた。
他の乗客達に怪しい動きも見られず、レフィーナが一人でここまで来たというのは嘘では無いのかもしれない。
マリーに荷物を持たせて駅のホームでリサはレフィーナを睨みつける。
「レフィーナ、リオ君にそんなに見つめられると恥ずかしいのですよぉ。」
「そ、そうです!だめですっ!リオ様、年頃の男女がこんな時間に出かけては!マリーは!マリーは許さないのですよ!!」
マリーが演技で言っているのか、リサが女だということを忘れているのか正直反応に困る。
「と、とにかくマリーは許しませんからねっ!」
「…マリー、少し静かに。」
「リオ様…?」
リサはレフィーナのほうを見つめると綺麗に整えた髪を指先でこねくり回している。
「リオ君は、レフィーナのことが気になりますか?」
「…あぁ、気になって夜も眠れそうにもない。」
レフィーナは何やらニヤついているがこんな女を放っておく訳が無い。
「レフィーナはどうなんだ?俺がこの後付いて行かなかったら一体どうするつもりなんだ?」
「それはそれはとてもショックで、今夜はそこら中にいる人に声をかけてまわってしまうかもしれない、なのですよ…?」
「れ、れ、レフィーナさん、ヤケになってはいけません!マリーが相談に乗りますよ!」
まだこの辺りに人通りは多い、それに先ほどのマリーの件もある。
この少女は私、リオ・ドルスを名指しで指名してくる。行かざるを得ない。
「分かったよ、それでデートの場所はどこが良いんだ?」
「やったぁ、なのです!レフィーナはこの街の中ならどこでも良いのですよ。リオ君にお任せするのです!!」
「リ、リオ様、駄目です!マリーは…!」
マリーは依然食い下がるがリサはマリーの顔の前に人差し指を立てて静止する。
「そうだ、マリー。今日はアドルの旦那の所に泊まることになっていたな?先に荷物を持って行っててくれないか?」
「そしてそこで大人しくして、待っていること。良いな?」
「…リオ…様?」
リサは自分の愛剣と手荷物だけを持ち、その他の荷物をマリーに渡す。
リサが「行くぞ」と言うとレフィーナはこれ見よがしに腕に抱き着いてくる。
レフィーナは「こっちよ」と言わんばかりにリサを引っ張るとマリーのほうをチラチラと見ながら、駅のホームから、そしてマリーから離れていく。
(マリーさんも大好きですけど…待っていて下さいね?レフィーナは料理を好きなものから順番に食べていくタイプなのです…!)
残されたマリーはホームから二人の姿が消えるまで後ろ姿を見つめているのであった。
リサはレフィーナとのデート場所としてある場所を選んだ。
それは駅のホームから離れた商業地区の外れ、閑散とした通りであった。
商業地区と言っても日没後で人通りは無く、日中に営業しているだけの店がまばらに並ぶ街並みであった。
「リオ君?こんな人通りの少ない薄暗い路地に連れ込んで何をするつもりなのですか?わくわくっ、なのです!」
「…さて…ここなら良いだろ?」
リサはレフィーナに冷たく言い放った。
「リオ君…レフィーナはもっとロマンチックな場所が好きなのですよ…?」
リサは腕からレフィーナを離すと一歩、また一歩、様子を見ながらレフィーナと距離を取る。
リサはクポ・エミルに来るのは初めてではない。
ここなら他の人間に迷惑を掛けにくいだろうということ、そして万が一にはこの街の防衛隊士が駆けつけることができる距離。それがこの辺りであった。
「それで、何が目的なんだ?身代金が目当てか?それともリグラスに対する恨みか何かか?」
「まったく、ぜんぜん、どっちも違うのですよぉ。」
小さな鋏を手にしてレフィーナが可愛らしく答える。
「あの映像を見てからわたし我慢出来なかったのです…胸がドキドキ、という感覚なのでしょうか?」
「でも皆に止められたのです…でもでもレフィーナ、本物のリオ君を見たくて、会いたくてっ!」
映像を見た。
リサには最近の自分の姿を写し取られた心当たりが一つしか無い。
「そうか、その映像で俺は”どう”だったんだ?」
「パッっと消えて、汚いおじさんたちをズバズバっと切って、子供たちを守って、それはそれはもうカッコよかったのですよ…。まさにわたしの理想の王子さま、だったのです。」
レフィーナが言っている映像、それは防衛隊士入隊試験、第4次試験。その時山賊達との交戦の様子を移した映像に違い無いだろう。
何故あの映像をこんな少女が?
「…防衛隊士の試験の続きか何かか?抜き打ちテストがあるとは聞いてないぞ?」
「それも違うのですよぉ…あの試験に受かってしまったから、”ぼーえいたいし”になってしまったから、リオ君をチョキチョキしなくちゃいけなくなったのですよ…?」
「防衛隊士であるから」リオを狙う。そうであれば説得のしようが無い。
レフィーナとの戦闘を避けられないことをリサは確信する。
言い終わるとレフィーナは今度は巨大な楽器ケースから長細い鉄の塊を取り出し始める。
巨大な楽器ケースから出てきたのはレフィーナの身の丈ほどもある巨大な鋏であった。
先ほどマリーの首を切断しようとして見せた小さな鋏を操った謎の力。
肌身話さず持ち歩いていることから察するにこの巨大な鋏がレフィーナの主力武器であることは間違いない。
大きさも去ることながらその醜悪なデザイン。
巨大な鋏の持ち手には人でも魔物でもない生物、人外の何かがびっしりと彫り込まれている。
(気持ちの悪いデザインの武器ね…恐らく近接型、鋭利な刃物を使った切断系の能力ってとこかしら…?)
であればレフィーナとある程度距離を保った状態でいたことは正解であった、とリサは感じる。
【陽炎幻視】は射程距離が短いものの、リサにはまだもう一つの力、炎を操る力【朱滅火炎】を使うという選択肢がある。
「レフィーナはリオ君を映像で見たときに心うたれてしまったのです、それはもう夜も眠れませんでした。」
「こんなに好きな人を、チョキチョキできたら、どんな気持ちになるだろうかって。」
「レフィーナは好きなものは、好きな人は、必ずチョキチョキするのです。しなければ我慢できないのです。本当はマリーさんもとってもチョキチョキしたかったんですよ?」
「レフィーナ、我慢したんですから。褒めてください。」
レフィーナは頬を膨らませ拗ねた表情を見せるが「可愛い」などという感情が沸いてくるはずが無い。
(何が我慢よ…この女頭がおかしいんじゃないの…!!)
「褒める?むしろこれからたっぷり叱ってやる予定だよ…!」
「怖い顔。なのですね。でもそんなリオ君も素敵なのですっ。」
リサの苛立ちに気づくことなく、レフィーナは愛しい人を見る様な目でリサのことを見つめる。
「みんなに止められたけど、わたしは好きな人をぜったいに譲りたくないのですっ。」
レフィーナはその手に持つ巨大な鋏をリサに向けると、その刃を大きく開き、構えた。
☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。
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