第二十二話 地下室の”アレ” ①
防衛隊士の入隊試験に合格したリサは、当面の間防衛隊士の訓練生として王都にある施設での訓練、勉学、実務を行うこととなる。
そして訓練生は全寮制となっていることからしばらくリストヴァル家の屋敷には戻れない。
当然、リサはその為の荷造りを行わなくてはならないのである。
リサは青色の軍服のような服を着て、マリーを引き連れ屋敷の中を歩き回る。
準備に急ぐリサを後目にマリーはいつもの調子でフワフワと歩き、楽しそうになにかをつぶやく。
マリーと一緒では準備がまったく捗らない。
しかしながらマリーはリサの専属メイド。
同じ寮に住む訳ではないが、マリーには訓練施設に近い借家に住んでもらいリサの生活をサポートして貰う予定だ。
一方リサの正体を知る人間は他にもいる。
両親、メイド長、副メイド長の四人、この四人はとても身の回りの世話を頼めるような身分の人間ではない。
その為、消去法で仕方なくマリーなのだ。
リサの不安は隠しきれないがマリーは何故かとても喜んでいた。
リサが防衛隊士入隊試験の間屋敷を留守にしており、その間マリーに元気が無かったと他のメイドから教えてもらった。
今までマリーに好かれるような態度を取った記憶はリサには無い。
むしろマリーに対して言ってはいけない言葉を言わない様にすることで精一杯の場面がよくある。
そう思う一方、自ら”リサの秘密を話せば死ぬ”という呪いを受けてまでいるのだから屋敷の置いて行くのも流石に不憫というものだ。
マリーには頑張ってもらう他無いとしても、リサには訓練生になるにあたって懸念される点は多い。
訓練生の寮の部屋は他の訓練生と共に二人一組、相部屋だと聞く。
知らない男と同じ部屋で寝るなど避けたいところであるがこれは規則である以上避けられない。
軍隊という規律を重んじる集団に身を置く以上、それに従うのは当然である。
むしろこの程度に耐えられなければこれから始まる防衛隊士としての生活が耐えられるはずが無いのだ。
さて、衣服の補充はどうしたものだろう。
見た目はリオ・ドルスに扮しているとは言え、露骨に女物の衣服を持ち歩いてはリオ兄様の人格を疑われかねないというもの。
魔力により伸縮自在な特殊な繊維を持つ衣服を普段から着ているが、それ以外を持ち込むのはやはり危険だろう。
それも見た目が地味で、無骨な、実用的な、男ものだけ。
(しばらくは、こんな可愛くない服ばかりかしらね。)
リサは今自分の着ている青色の軍服のような服を見てそう思った。
もっともこの服は事前に渡された防衛隊士の制服。今しがた丈を合わせていたのだった。
この軍服は兄リオ・ドルスには素晴らしく似合っていた。
屋敷のメイド達は「良くお似合いです。」と何度も褒めてくれていたがリサにはまったく嬉しくない。
リサには両親やメイド長達に秘密にしている趣味が一つあった。
今まで自分の部屋だけで行っていた、マリーに持ってこさせた”流行りの女物の服をこっそり着る”という趣味が。
窓のカーテンを締め切り、ドアに部屋をかけ、その時だけリサは【陽炎幻視】を解除して”リサ・トゥリカに戻る”のだ。
町の村娘たちが着ている可愛らしい服を着る為に。
鏡の前でクルリと回り、少しニコリと笑ってみたり。
観客はいつもマリーだけ。
マリーだけがいつもニコニコ笑って見ているのだ。
リサのたった一つの楽しみだったかもしれない。
二人きりのファッションショー。
しばらくそんなことは出来なくなる。
そんなこと、ただの甘えだったのかも、とリサは今になって思う。
むしろ二度としない方がいいのかもしれない。
それがいい、そうしよう。
女性用品に関してはマリーにも王都へ補充させることにしよう。
給金は訓練生にも多少あるようで生活不自由はなさそうだ。
もちろん家からも自由に使って良い金は工面されている。
しかしどちらにも手をつけたく無いリサであった。
なぜならこれらはどちらも兄様のお金なのだから。
自分の為に使うお金は自分で稼ぎたい、リサはそう思う。
武器の手入れはどうする?
馴染みの武器屋からスペアをあわせて数本準備しておいてもらうことにしよう。
手入れを依頼する為、腕の良い鍛冶屋は王都で探すしか無いが。
王都までの移動の魔道機関車を予約しなくては、入隊までの期間を考えるとそれほど余裕は無いので急ぐべきだろう。
リサは思いつく限り準備を進めようと早足で廊下を歩く。
この季節にしては思いのほか廊下は暑い。
リサもマリーも少し汗をかいたようだ。
ふと気づくと先ほどまで一人で王都のおいしい食べ物の話をしていたマリーがリサから離れて後ろで立ち止まっていることに気づく。
リサは暑いことに加え、マリーのどん臭さにイライラする。
「おい、マリー!何を立ち止まっている、早くしろ!」
振り返ると震えているマリーが見えた。
リサはつい強い言葉を使ってしまったことを後悔する。
「すまない、マリー。もうひと頑張りしよう。」
しかし、マリーが気にしているのはそこでは無かった。
マリーは廊下を振り返るリサの更に後ろを指さし、震えている。
「リオ様・・・そちらに、リ、リンダイル様が・・・おられっ、ます・・・。」
リンダイル?
そんな馬鹿なと。
リサは素早く振り返ると、廊下の先に確かにそこに、居た。
この廊下の暑さはこの陽気によるものでは無かった。
リサは出来れば、いや絶対に出会いたく無かった。
ここはまだ屋敷の1階だというのに、何故、そこに居る?
もちろん近寄らないようにしていた。
しかし屋敷を歩き回っていたが為に出会ってしまったのか?
いや、こんな所にいるはずが無いのだ。
だが出会ってしまった、この事実は変わらない。
先ほど父リグラスが言っていた、「地下室の”アレ”」という存在に。
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