第十九話 帰省、リストヴァル家にて
「リオ・ドルス様がお帰りになられました。」
副メイド長のギルダが屋敷の門の前に立つ守衛にこう告げた。
守衛は丁寧な会釈を返してくると、所定の手続きを済ませると門を開け二人を招き入れた。
王都から魔動機関車に乗り、乗り継ぎを3回。
約2日の行程を経てリサとギルダはリストヴァル家の屋敷まで帰ってきた。
門から見えるその中の景色は手入れされた芝生に長い石畳が続き、その先には目立つ大きな噴水が複数見える優雅な庭と屋敷そのものであった。
随分と離れた位置に屋敷の本堂となる建屋が立っている。
リサからすれば防衛隊士試験の為、前乗りから計算して10日間程度屋敷から離れていただけだったが石畳から屋敷までの道がやけに遠く感じられる。
それもそうでありリサにとって都合悪く、あの多忙な父上が帰っている。
防衛隊士として合格するという最低条件をクリアしているとはいえ、合格した順位は主席とは程遠い。
魔導機関車の故障でも起こらないかとこの二日間願ってみたが、当然そんなことは起きるはずはなかった。
しかし移動中窓から見えた油と土に汚れながらも車両の点検に当たる整備士達を見ると、なんと自分勝手な妄想だろうかと反省するリサであった。
「り、リオお坊ちゃまがお戻りになられたので!あいたたたっ!」
そういって屋敷の離れから飛び出してきたのはリサの専属のメイドを勤めるマリーであった。
年齢は尋ねたことは無いが30代後半といったところだろうか。
黒髪で分厚いメガネをかけた女、一言で言い表すならひたすらにドジなメイドであった。
今も柱の角で頭をぶつけ、よろめきながらリサの元に寄って来る。
「ミス・マリー、何をやっているのですか。まったく貴女という人は。」
「す、すみません。つい焦ってしまいまして・・・」
リストヴァル家に仕えているメイドの中で一番使えない中年女、マリー。
これが私の専属メイド。
副メイド長のギルダやメイド長、他のメイド達に馬鹿にされながら毎日働いている。
私がこうして憂鬱にしている時に限っていつもこうやって騒ぎ立ててくる。
まったくもってイライラする。
「リオ様っ!それで試験の方は!?」
「合格だよマリー、少し落ち着いてくれ。」
「ああっ!今日はなんて素晴らしい日でしょうか。きっとリオ様の努力を神様が見ていて下さったのですわ!お祝いの準備をしなければっ!」
「ミス・マリー、そこまでにしなさい。リグラス様へのご報告が先です。」
「そ、それは大事でございますね・・・ではお荷物お運びしますわ!」
父上、リグラスの名前を出されて従わぬものはこの敷地内、いや領地内には居ないだろう。
マリーを加え3人で屋敷へ向う。
ただ歩いているだけだがリオやギルダがいる手前、他の使用人達はすれ違い様に一礼を忘れない。
これはリサがリオ・ドルスとして生き始めてから受けた待遇の一つだった。
リサがリサであった時には無かった光景であった。
今でこそ慣れてきたが内心では使用人達に申し訳ないという気持ちが沸き立つ。
毛先が整った厚手の絨毯が敷かれた廊下を歩き進めると一際高価な装飾の付いたドアに三人はたどり着く。
リサが息を整えているのを少し確認した後、副メイド長であるギルダが扉をゆっくりと開く。
中に入ると一礼と共に挨拶を交わす
「失礼致します。リグラス様、リオ様がお戻りになられました。」
そう言い切るとほぼ同時に重たいドアがバタンと閉まり、リサ達の前にはロングテーブルに豪華な食材が並んだ景色が広がる。
一見小規模なパーティー会場のようだが食材には殆ど手を付けられておらず、そこには曲を演奏する吟遊詩人はいない。
複数人が掛けることのできる大きなテーブルだが座っている人間は二人。
「お久しぶりです。父上、母上。リオ・ドルス、只今戻りました。」
浅くだが頭を下げ、リサは椅子に手をかける。
「おかえり、リオちゃん。さぁ座って。」
そう言うのは母、メリルである。
メリルはリストヴァル家に嫁いできた女性だが、堅い雰囲気にそぐわない庶民的なしゃべり方をすることが多い女性であった。
性格から来るものもあるだろうが最もこの場合は少しでもこの場を和ませようとしての事だろうか。
「それで、結果は?」
父であるリグラスはリサが席に着いて飲み物に軽く口をつけるとようやく、重々しく口を開いた。
私の父、このアイラス・ル・ビア王国に置ける防衛隊士であり、4人の最強の防衛隊士の称号、大将軍をもつ、リグラス・ドルス・リストヴァル。
傷のあるその顔からこれまでの人生での激戦の跡が伺える。
軍務で家に居ることは少なく、前に会ったのはいつぶりだろうか。
その偉大な父から参集の声が掛かって断ることができるだろうか?いや出来るはずもない。
無論、父上が息子の試験結果を聞くために待っていてくれた、などということはあろうはず無いだろう。
ましてやこのリサ・トゥリカに?
それは無い。
偶然、たまたま、何かの巡り合わせで試験の結果を父上に報告することになったのは間違いない。
これに関しては大層運が無い、と会話を始めてこの事実を改めて認識する。
「はい、合格しました、父上。20日程後より訓練生として訓練校へ入学することとなっております。」
「合格など当然だ、続けろ」
「試験結果は、、、3位での通過となりました。」
リサは父から少し視線を外しながらも続ける。」
「一位にエーリッツ家の子息の者、その他の者についで3位と。・・・訓練生として入隊後も精進し、力を付けていきたく思います。」
リサが一度外した視線をリグラスに移すが、思っていた様な反応は無かった。
リグラスは表情を特に変えることなく食事を口へ運んでいた。
リグラスが戦地から久しぶりに戻ったということもあり、料理長が腕を振るった料理だ。
鹿肉を香草で蒸した様な料理に、上質な酒、魚と新鮮な野菜を重ね合わせた料理、鮮やかな色どりが眼前に広がる。
少し焦った様な表情を見せた母メリルであったがニコリとリサへ首を傾げ、笑みを返す。
リサも料理に手を付けて良いものかとナイフやフォークを手に取り、様子を伺う。
しばらく入口のドアの脇で遠目に様子を眺めていたがギルダだが、別のメイドに目配せを行った。
そして目配せに気づいた別のメイド達がゆっくりと移動し何かの準備にとりかかる。
マリーも遅れて動き始めるがギルダに腕を捕まれそのまま立っているよう命じられる。
リサはゆっくりとだがリグラスの周りの空気が揺らめき始めたことに気づいた。
「父上っ、、、。」
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