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陽炎のリサ・トゥリカ  作者: 出水 達郎
~序章~ 入隊試験編
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第十五話  気づけなかった惨劇

更なる上位合格者?何を言っているんだ?


それはリサとクレインのみならず、個室で聞いている受験者達は声こそ出さなかったが皆そう感じたに違いない。


誰より素早く森を駆けた自分より?


遠距離から迅速で素早く物資を届けた自分より?


山賊を退けたあの二人より?


各々がそう思考を巡らせる中、映像が切り替わる。


そこには見覚えのあるピンクのド派手なスーツを着た色黒の男が居た。


独特の女の様な口調、間違いない、ラルゴ・デル・パルロ、試験開始前に出会ったオカマのエルフだ。



「なんであのオカマが・・・それにあの隣にいるのは確かリオの・・・」



クレインの言う通り、ラルゴの隣に居る男はリサが3次試験の相手だった石拳のゴイルという男だった。


二人は目的地である村に到着した所のようでリサとクレインを出迎えた村人と瓜二つの者たちがそこには映っていた。



「ゴイルちゃんお疲れぇ、ごめんなさいね、アタシばっかり楽しちゃって。」



ラルゴには泥はね一つ汚れが無いのに対してゴイルは全身に汚れやキズが目立つ。


森の中での戦闘や物資の運搬は全てゴイルに任せきりだったようだ。


だがこういった組み合わせが特別珍しい訳では無い。


研究者として研究課を目指す受験者が道中の護衛として戦闘を得意とする受験者とペアになっている受験者は多かった。


(でもあの男は言っていたわね、自分は”どちらも”こなせると。)


ここまで映像を見た限りではリサ達と比べても特別早く移動した訳でも無く、このまま試験を無事クリアしたとしても高得点を取ることが出来たようには思えない。


村への道中に採点に影響される要因があり、それを見落としていたのか?


恐らくこの後遭遇するであろう山賊達と戦闘で何か特別な方法を用いたのだろうか?



「た、頼む!あんたら防衛隊士さんだろ!俺の息子と娘が森に勝手に入っていっちまったきり帰らねぇ!」


「もうすぐ日が暮れちまう!手ぇかしてくれ!頼むよ!」



そして例の行方不明になった子供達の親の男性が現れた。


リサとクレインに発した言葉と全く同じ言葉を発する。


気持ち悪い、というより奇妙な違和感、といった感情がリサに渦巻く。


昨日見た夢と同じ夢を別の人間も見ているような、そんな映像。


男性が必死に子供を助けてくれと状況を説明した後、ラルゴは間を開け冷静に口を開く。



「どうしてこのアタシが”生体人形(フレッシュゴーレム)”であるアナタ達を助けなきゃいけないのかしらぁ?」


「ふ、ふれっしゅ・・・?何を言っているのか分かりませんな・・・。」



生体人形(フレッシュゴーレム)というこの試験で始めて使われる言葉を聞いてリサは一時思考が止まる。


クレインも少し考えていたが二人ほぼ同時に気づき画面に再び視線を映す。



「独特の魔力の流れ、時折関節から軋む駆動音、瞳孔の挙動の違和感、随分精工に作られた最新型みたいだけどこのアタシは直ぐに気づいたわよぉ?」



生体人形(フレッシュゴーレム)の存在自体はリサもクレインも知っていた。


軍事目的、労働目的で人形(ゴーレム)生成に精通した魔術師と技巧職人による精工な造形を合わせて作られるものだ。


このアイラス・ル・ビア国内においても人間と区別が付かないほど精工な生体人形(フレッシュゴーレム)が生産され稼働していることも知識としては知っていた。


人形(ゴーレム)というものを過去に見たことはあったが単純な作業をようやくこなせるレベルの代物で今回村で目にした村人達とは全くの別物と言って良いレベルのものだった。


この試験で出会った村人達の外見はまさに人間そのものといって遜色ないと言いきれた。


長年かけて刻まれたであろう深い皺、労働の結晶である日に焼け使い込まれた腕や山岳地帯を歩き酷使されたであろう筋肉質な脚。


どれも本物の人間としか思えない完成度。


自然に会話し、最後まで自然に別れた。


そしてその中には人間として好感が持てるほどの人格を持つものもいた。


だがラルゴは言う、全てが生体人形(フレッシュゴーレム)


それは全てが紛い物であり、作り物であると。


試験の最中、常に周囲に気を巡らせていたはずのリサとクレインにすら違和感を覚えさせないその高い完成度をもつ生体人形(フレッシュゴーレム)


それをラルゴは見破った。



「大方、その助けて欲しい子供と山賊とやらも生体人形(フレッシュゴーレム)かしらぁ?」


「さて、アタシは本物の村人さんと会話がしたいのだけど?それとも役者としてアナタ達が村人の役割をしているだけなのかしら?」



生体人形(フレッシュゴーレム)が登場人物を演じているのなら全てに納得がいく。


画面に映し出された村人や山賊が全て同じ顔をしていることも。


山賊が子供に致命傷となる一撃を躊躇なく放ったことも。


受験者と山賊を命がけで戦わせる試験を組むことが出来た理由も。


村人とあれほど長く会話しても、山賊達を剣で切りつけ命を絶っても、リサには気づかなかった。


気づけなかった。


歯がゆい、憤りの感情が込み上げる。


リサは口から汚い言葉を発しそうになったが、クレインの存在を思い出しそれを踏み留める。



「・・・これは、お見事ですな。そう、我々は生体人形(フレッシュゴーレム)。創られし肉体と魂。」



村人達は自身が観念生体人形(フレッシュゴーレム)であることを観念する。


観念した後、周囲を取り囲む村人達に変化が生じる。


突如姿勢はだらりと崩れ、異質な空気を放ちながらラルゴと石拳のゴイルを取り囲む。


健康的な肉体をした農夫達から力は抜け、皆猫背のように脱力し腕を下げている。


目から生気は失われ、人間とは思えない首の動きを始めた生体人形(フレッシュゴーレム)達はラルゴと石拳のゴイルに冷たい視線を向ける。


この冷たい目に、リサは見覚えがあった。


それはリサが殺した7人の山賊達の目だった。


・・・



村の代表をしていた生体人形(フレッシュゴーレム)の男が口を開く。


「あくまでこれは試験の為の設定ですが、我々が生体人形(フレッシュゴーレム)であることに気づいたあなた方にはこの村の状況を説明致しましょう。」


「ここに本来住んで居た村人は皆殺しにしております。そして敵国の生体人形(フレッシュゴーレム)である我々に占拠されている・・・という状況になっています。」


「あなた方受験者の方には敵対勢力に物資を届けるという馬鹿を演じて頂く予定でした。」


「が、村を良く調べられれば我々が本来の住人で無いことはバレてしまう。」


「早々に立ち去って頂く為の子供の救出依頼でし・・・たが・・・見破られて・・・は・・・仕方が・・・ない・・・。」



村人達の筋肉が大きくせり上がる。


農機具を持っていたその手にはいつの間にか異国のものと思われる湾曲した剣が握られている。


村人達は不規則な足並みでラルゴ達に歩み寄り始める。



「ラルゴぉ・・・俺はこんなの聞いてねぇぜ!!」


「大丈夫よぉ。ゴイルちゃん。アタシこういうの好きだから。」



あまりの展開に映像に映るゴイルの慌てぶりは相当なものだった。


一方、ラルゴは眉一つ動かさず胸を張り、巨漢のはずのゴイルよりも大きく映る。


村人全員の数は山賊よりも遥かに多い。


老若男女入り混じっているとは言え、機能的には山賊達に近いものを持っているに違いない。


しばらくの静寂の後、数人の村人達が同時に二人に襲い掛かる。


・・・と同時に映像は終わった。



「受験生の諸君、分かっていただけただろうか。君たちが相手をしていた村人は全て敵国が送り込んだ生体人形(フレッシュゴーレム)による偽装された村であった。」


「無事任務を遂げた君達も、結果としては敵国に物資を届けたのみであり村で起きた異常に気づくことは出来なかった。」


「この鋭い洞察力、観察力、そして戦闘力。全てを評価してラルゴ、ゴイルの二名を更なる上位合格者とする。」



周囲の他の部屋からざわめきが聞こえる。


リサは今一度、村での出来事を振り返る。


あの村の調査を蔑ろにしていたことは否めない。


村までの移動に時間をかけ、残り時間を気にしてしまっていた。


しつこく子供の救出を依頼する男を退けることに労力を割き、早く村から出たいという気持ちに誘導されてしまった。


あの村をきちんと探索していれば何か見つけることが出来ただろうか。


殺された本来の村人の痕跡、焼けた家の後、矢じりの後、返り血の着いた壁、死体を焼いた後、何か一つでも。


少しでも偽物の村人に対して疑念を持てていれば見る目は変わっただろうか?


目の前の試験に合格するという餌に釣られ、観察を怠った。


それは認めざるを得なかった。


時間が無かったから?言われた通りの任務はこなしたから?


全て言い訳に過ぎない。


これが実戦であればリサとラルゴどちらが大きな功績を上げたか、それは明白だった。



「映ってるみたいねぇん・・・」



そんな中突如、画面が切り替わり控え室にいる現在のラルゴと石拳のゴイルが映し出された。



「アタシにかかればこんな魔道具、干渉するの造作もないわぁ。」


「イェーイ!アタシからクレインきゅんを奪った泥棒猫のリオ!みてるぅ?」


「うぉおおお!この男ゴイル!今年で年齢制限ギリギリ、35歳にしてついに合格したよ!おっ母ぁぁぁあ!」



ラルゴが魔道具に向けて男性がするとは思えない奇妙なポーズを決めている中、男泣きするゴイルが映る。


正直、直視するのが辛い光景だった。



「アンタが3次試験でボコったゴイルちゃんに負けて悔しいでしょお?」


「もちろんゴイルちゃんもアレが生体人形(フレッシュゴーレム)なんて”初めから”、”余裕で”、気づいてたんだからねっ。そうでしょ?」


「えっ!?」


「・・・そう、でしょぉ・・・?」


「あ、ああ。もちろん!」



ラルゴが急に野太い声で威圧した為、ゴイルの返答は早かった。



「あのオカマ・・・、大丈夫だよ。気にしないで。」


「・・・あぁ、クレイン。俺はすこぶる冷静だよ?」



ラルゴに対する怒りというよりは自分への怒り。


リオ兄様であれば負けない。こんな男には。


生体人形(フレッシュゴーレム)だと見破れずとも、更なる最適解へ到達していたはずだ。


私が弱い。私が疎い。私が悪い。そうに違いない。


更なる高みへ、踏み台にしてやる、お前(ラルゴ)も、他の防衛隊士達も。


完璧な兄様を演じ切って見せる。


怒り?いや寧ろ感謝しているよ。


改めて私に決意させてくれてありがとう。




「ラルゴ君。君の成績は確かに素晴らしかった。」



仮面の試験管が魔道具に改めて干渉し、半分の画面を占有する。


ラルゴの魔道具への不当な干渉については言及しない。


上位合格者の権限としての配慮か、それとも元々何かしゃべらせるつもりだったのだろうか。



「だがキミは受験生の中で”2番目”の成績なのだよ。」



「・・・・・・あ”ぁ”?」



今まで聞いた中で一番野太いラルゴの声が響き渡る。


☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。


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