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陽炎のリサ・トゥリカ  作者: 出水 達郎
~序章~ 入隊試験編
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第十四話  閉ざされた部屋の中で

クレインからドアが開かないことを伝えられたリサは急いで部屋に一つしか無いドアを引いてみる。


力を込めて引いてみるが確かに開かない。


部屋に似合わず重厚な作りをしたこの扉から察する人間を閉じ込める目的で作られたものに違いないだろう。


受験生である自分達を閉じ込めておく理由に検討は付かなかったが密室に閉じ込められているというのはどうにも落ち着かない。


自分やクレインの能力を使えば扉を破壊出来ないことは無いだろう。


しかしここが試験会場であることから無暗に扉を破壊して試験官の心象を損ねるようなことはしたくない。


ましてやここまで来て減点などと言う話になってしまっては目も当てられない。


リサとクレインの間に暫しの沈黙が続いたが、背後で薄い光が漏れていることに気づいた。


それはこの部屋に一つだけあった家具の小さな引き出しの付いた小型のキャビネットからであった。


まだ試験は終わっていないのか?


そう警戒する二人は念の為距離を取り、様子を見ていたが引き出しがひとりでに開くと中にある光る物体は部屋の壁に映像を投射し始めた。



「受験生の諸君、第4次試験の受験ご苦労。諸君らには混乱を避けるためそれぞれ個室でこの合格発表を聞いて貰うこととなっている。」



突如映像と共に音声が流れ始めたがこれは引き出し内に仕舞われていた小型の魔道具から発せられているものであった。


壁に映し出された男はリサ達を転移の力で試験会場の森へ送り出した仮面を付けた試験官であった。


背景は自分達を転移させた部屋のようにも見える。


部屋を隔ててはいるが自分たちとそう離れた場所にいるようでは無かった。


この場所は?

ドアの鍵は何だ?

試験の合否は?

他の受験生は?

採点基準は?

あの山賊達は?

死亡者はどうなった?

まだ試験終了までしばらく時間があるのでは?


聞きたいことは山ほどある。


しかしこちらの声は試験管に聞こえていないことに気づき、一旦試験官の話を聞くことにした。



「それではまず、合格者の発表を行う。」



リサとクレインに緊張が走る。


試験官が入れたのはたった一息の間だったがリサとクレインにはそれが非常に長いものに感じられ、瞬きを忘れ、生唾を飲みこんだ。


先ほど一人目の山賊達と戦った時とはまた違う、凍ったような空気。


いつも不思議と揺れているクレインの癖っ毛も動きを止める。


画面の仮面の試験官から視線を外すことは出来なかった。



「村へ物資を届け、時間までに戻って来れたもの全て、”合格”とする。」



リサは言われた意味を改めて理解しようとする。


合格、した。間違いない、合格した。


リサはクレインのほうを向き直ると同じ結論を出したクレインがこちらを見ている。


リサは腕を掲げ突き上げると、クレインは逆の腕を突き上げる。


勢い良く互いの腕をぶつけ、交差させる。


二人が学生の頃やっていた、いつものやり取りであった。


いつもと違うのは普段以上に力を込め、勢いよくぶつけたということだけだった。


無論、鈍い音はするが今は痛みなど感じるはずもない。





「リオのせいで不合格になったら、小人族(ホビット)の里に帰って無職になる所だったよ」


「その時は俺の家で雇ってやるよ。お前のサイズならメイド服で合うものがあったはずだぜ。」



クレインがリサの腹部に軽く拳をぶつけていると、遠く部屋の外から別の受験生のものと思われる歓声も聞えてくる。


他の受験生もそう遠くない部屋に隔離されているであろうことは感じ取れた。


そして仮面を付けた試験官は続ける。



「理由は単純だ。この試験の課題を時間以内にこなせたことから、合格した諸君には我々の求める必要最低限の任務遂行能力を備えている、と判断されるからだ」



試験官によって試験の内情について詳細に説明される。


運搬に際して踏破しなければいけない道のりや距離、安全な移動ルート選定、それを時間内に移動する体力、技術。


出現する魔物は強すぎることなく弱すぎることもない、必要最低限の水準を満たしたものであること、ペアの中にある程度戦闘をこなせる者一人いれば十分に対処出来るレベルであること。


また森の中に配置したトラップ、イレギュラーに対処し任務を遂行した能力を総合的に評価しているようであった。



「僕の野望も一段進んだって事だね。リオも良かったね。お父さんに報告出来て。」


「ああ、殺されずに済みそうだよ。」



言われて見れば納得もいく。


二人で一組とはいえ、この敵性生物の徘徊する地域をこの距離を移動し任務を制限時間内に達成するということは常人からは逸脱した能力を有していることは明らかであった。



画面には試験合格者の映像がダイジェストのように映し出されている。


移動系の能力で素早く森を駆ける者、投擲系の能力だろうか物資を村目掛けて射出する者、使い魔を召喚し物資のみを送り届けるもの、自ら空を飛び移動する者。


様々であるが反則など一切無い。条件さえ達成していれば皆合格のようだ。



「そして、”上位”合格者を発表する。」


仮面を付けた試験官の発表はまだ終わってはいなかった。


上位合格者、という単語がいきなり飛び出してきたが意味は分かりやすかった。


やはりこの試験には採点基準があり、それにより加点が行われるであろうことは予想できていたからだ。


だが当初予想していた、運搬までの時間では無いだろう。


先ほどの映像で投擲や飛行で物資を運搬したものの時間は通常に移動して運搬したものと比べればかなり早いだろうが、同列の合格者として処理されている。


リサ達にもいくつか可能性は頭に浮かんでいたが、仮面の試験官の一言から確信に変わる。



「道中の山賊を撃退し、子供たちを救助した者。上位合格者とする。」



仮面の試験管のこの発表を聞き二人は、本来先ほどのように喜ぶべきであった。


口から漏れそうになった歓声が喉元で止まる。


他の受験者は気づいていないのか?


再び離れた部屋から歓声が起こっているようだ。


しかし、リサとクレインは気づいてしまった。


ダイジェスト映像として写っていたのは、山賊から子供たちを救い出す他の受験生の姿だった。


映し出された7人の山賊達はやはり強力だったようで、戦闘を行った者はかなりの苦戦を強いられている。


そんな中、なんとか子供達を救出し、逃走する姿が映し出されまさに英雄的行為に写っている。


子供たちを見捨てて逃げた者、報告を優先し、帰還した者も減点とはされていないようだった。


どれも正しい判断の一つという採点であった。



「リオ、気づいたかい?」


「ああ、何なんだ?これは。」



リサ達は当初、自分達と戦闘した山賊達は本物の役者達では無いという判断を下した。


彼らは本物の山賊であり、役者達は道中殺害されているだろうということを。


子供達に迫る異様な殺気と、少年に対して振るわれた躊躇の無い暴力がそれを確信させた。


今私達が目にしているのは本物の殺戮の現場であろう、と。


場慣れし、即座にこちらへの対抗手段を繰り出してきたあの七人。


なぜ?


なぜ?どの画面にも私達と戦った”同じ顔の7人”が映し出されている?


雰囲気が、体格が、身のこなしが、などではない。


まさに瓜二つ、あの腕の形、骨格、胸板の厚さ、目の色、戦闘スタイルまで。


命のやり取りを行ったリサには分かる。


他の受験生と殺し合いをしている7人は間違いなく、リサが殺した7人そのものだということを。


その疑問は解消することなく、仮面の試験官の更なる合格発表が続く。



「そして、見事山賊を全て撃退し、子供達を救出した2組を更なる上位合格者とする。」



その言葉を聞き、リサはハッとなり、画面に目を移す。


そしてリサが映すなと念じるが時すでに遅く【陽炎幻視(エルリスファントム)】を使い山賊達を切り捨てるリオ・ドルスの姿が映し出された。


人にこのスキルを見られるのは極力避けたいリサであったがまさか映像まで取られていることまでは想定していなかった。


他の受験者が手こずる山賊達を、実際にはクレインの補助があったのだが、映像だけ見た人間の目にはリオ・ドルスが幻術の魔法を使い1対7の戦いに勝利している様にしか写らない。



「彼はあのリストヴァル家の長男であるそうだ。彼は本来の力を使わずしてこの勝利。大変に見事である。」



ざわめきが他の部屋から聞こえてくる。


当然だ、リストヴァル家の能力と言えばここに居るもので知らないものは居ない。


そして”それ”を使わずに見せた圧倒的勝利、に見せかけた勝利。


手を抜いている、余力を残している、そう見られても仕方はないだろう。


見せかけだけの強者、ハッタリの英雄。リサが演じるべき兄上様。


それはある意味間違ってはいない。


だからこそ余計にリサは見られたく無かった。



「リオ、入隊前から目立っちゃってるね。」


「ふん、慣れてるさ、こんなこと。」



そしてもう一つの組の映像が映し出される。



それはレド・ランパルトとダケル・ザーシュの二組であった。


レドは開戦早々に9本の自称”神剣”を展開。


慌てふためくダケルと二人の子供達を掠めながら勢い良く自慢の剣を射出すると前衛を務めていた4人の山賊を一気に両断。


残る三人の山賊達も逃げる隙を与えず、惨殺。


そしてそこにはいつも乗っている幅広の大剣の上から馬鹿笑いしているレドの姿が映し出されていた。


見ているこっちが恥ずかしい、とはまさにこういう時に使う言葉なのだろう。


そしてなぜか映像が切り替わってもレドの馬鹿笑いの声が途切れることは無かった。


どうやら別の部屋で自分の映像を見てまだ笑っているようで馬鹿笑いがここまで響いてくる。



「何が、「見よ!我が神々しく、猛々しい神剣を!なんと美しい輝きだろうか!」だ。あいつは馬鹿じゃないのか?」


「レド君はいつも豪快だねぇ。」


リサが普段口にしないような汚い言葉を口にしてもクレインの耳には届いていないようだった。


仮面を付けた試験官が合否について解説する。



「敵の殲滅速度については、レド・ランパルト、ダケル・ザーシュの組のほうが迅速であった。」


「が、その後の子供達への手当、村まで魔除けの香を持たせ安全に村まで帰還させたリオ・ドルス・リストヴァル、クレイン・ホーカーの組の対応も見事であった為、二組を同点、同列として評価する。」



どうやらレド達は山賊を討伐した後は子供達をそのまま放置して帰還したようだ。



(確かに、あいつが剣以外に配慮する姿は見たことないわね・・・)



今度は一転し、遠くからレドのけたたましい喚き声が聞こえる。今にもドアを破壊せんとするレドをダケルが抑えている姿が容易に想像出来る。


リサとクレインの映像を先に見ていた為、自分のほうが得点が高いと思い込んでいたのだろう。


そしてリサと同点ということが何よりも気に食わないであろうことはリサも良くわかっている。


そんな中、二人の感情とは一切関係なくレドを静止しようとしているであろうダケルだけはただひたすらに不憫であった。



そして、終わったかの様に思えた合格発表。


しかし仮面の試験官は更に言葉を続けた。



「さらに、第4次試験の”更なる”上位合格者を発表する。」


☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。


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