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陽炎のリサ・トゥリカ  作者: 出水 達郎
~序章~ 入隊試験編
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第十三話  二人の控え室



そこからの二人の行軍は早かった。


村までの安全なルートを選択してこれまで移動していたこと。

子供たちを助けるために山賊達との交戦を行ったこと。

その二つが原因で日没まであまり時間は残されていない。


二人は森の中をただひたすら走り続ける。

トゲを持つシダ植物がクレインの腕を、リサの頬を掠めるも二人が歩みを止める事は無い。


だが幸運だったのは、山賊達が魔除けの香を持っていたことだ。


始め山賊から魔除けの香を奪った時はその効果に二人は疑問を持っていた。見たところ魔除けの香だということは分かったがリサもクレインも初めて見る形をした香だったのだ。そして山賊が持っていたということもあり出所や品質を疑わざるを得なかった。


しかし二人は疑心暗鬼になりながらもその香を炊いたことで魔物との遭遇が起きることなく移動することができていた。


効果は十分、あの二人の兄弟にも十分な量の香を持たせることができたし、この辺りの魔物であれば寄せ付けることなく安全に村に帰ることができるだろう。

その魔除けの香を炊きながら走ることで二人の行軍は更に早いものとなったのだ。


次第に暗がりへと向かう周囲の光景の中、道を阻むやっかいな枝木をかき分け、深く積もった苔の絨毯を踏みしめながら二人は走り続ける。


リサもクレインも着ている青色の服が汗を吸いやけに重く感じられてきた。

脱ぎ捨ててしまおうかという感情に駆られるが、それは貸出されている防衛隊士訓練生の制服であり脱ぎ捨てるなど許されないことなのであった。


クセのついたクレインの髪が汗で額に張り付いている。


リサも首筋に張り付く自分の長い金髪を鬱陶しく思うがそれを払うような素振りを見せることは無い。それは兄であるリオ・ドルスの髪はそこまで長く無いからだ。髪を払うような動作を見せればクレインに怪しまれてしまうだろう。


そうして短い休憩を挟みながら、息を切らせながらも二人はようやく見知った丘にたどり着いたのだった。


「…着いた…のか…?」


「…間違いないね…。」


二人は出発地点の地面に刻印された魔法陣を見つけると、ここが出発地点で間違いないことを確信する。そこは森に着いた時と同じように静まりかえっており、遠くから鳥の鳴き声が聞こえるのみであった。違うのは沈みかけた夕日と鳴いている鳥の種類くらいであろう。


「…ひとまず…一件落着ってね。」


「おい、まだ気を抜くなよ?。」


「ははは、ごめんごめん。」


森から帰還する時はこの魔法陣の上に乗り念じること。と仮面の試験官から事前に指示があった。

こちらの思念をどうやって受信しているのか不明だが、もしかすると仮面の試験官は情報伝達(テレパス)系の能力者と連携しているのかもしれない。


そうリサが考えている内にクレインはすでに魔法陣の上に乗っていた。

時間の速さが採点の条件の一つかもしれない、自分でさっき口にしていたことだ。

ここまできて無駄に時間を浪費する必要も無いだろう。


クレインが指をクイクイと動かし呼んでいる。

リサも急いで魔法陣に入り、ここへ来た時の様に二人並び、念じてみる。


最も、念じるという行為に縁の無い二人にとってはこれが正解なのかも分からない。

宗教的な文化がそこまで普及していないリストヴァル領に住んでいるリサにとって、念じるという行為自体をぼんやりとしたイメージでしか持ち合わせていなかったのだ。


頭の中に文字を思い描けば良いのか、言葉として口に出す手前でもう一度飲み込むような感覚でいればいいのか。

念じるという行為が良くわからないリサはクレインとなんとなく手を繋いでみる。

それにこんな森の中に一人でとり残されたくは無かったのだ。


リサは薄目でチラリとクレインの方を見てみる。

クレインがそうしているのでなんくとなく目を瞑り、試験会場の光景を脳裏に思い浮かべてみる。


するとリサの不安とは裏腹に、身体がここへ来た時の様な心地よい暖かさに包まれ始め魔法陣の発動するのを感じた。

目を瞑っていても足元が光っているのが瞼を通して見えたのだ。


リサは薄れゆく景色の中でこの4次試験の出来事を振り返ってみたが、自分の行動が最善であったのかは今でも分からない。


クレインと組んだのは正解だったのだろうか?

道中見落としているものは無かったのだろうか?

助けた少年と少女は無事村まで帰り着くことが出来ただろうか?

山賊と交戦し、命を奪ったのは間違いではなかっただろうか?


考えても答えは出ない。


そうしてリサの意識は白い景色に包まれていった……。












……リサはゆっくりと目を開くと自分が見知らぬ場所にいることに気づいた。

その姿勢はうつ伏せであり、周囲は薄暗い。


「…うぅ…っ……着いた、のか…?」


転移の力によって森へ送られた時と同じ様にリサは目を覚ました。


以前と違う点は二つ。


一つは自分が見知らぬ部屋にいるということだ。


リサの目に飛び込んできたのは石造りの壁や床。

その造りや色から、きっと始めにいた試験会場のどこかであろう事は予想できた。


そして自分が今横たわっているのは白いベッドであろうか。


ベッドを除けばほとんどスペースが無いくらいの小さな部屋に自分たちはいるようだ。

周りには重厚な鉄のドアと小物入れが付いた小さな棚が一つ置かれているだけの簡素な景色がリサの目に映る。


窓はどこにも無い、部屋というよりもむしろこれは牢屋といったほうが良いのでは無いだろうか?部屋の様子を観察したリサは少し気分を悪くする。


そして転移したこの部屋に他の受験者の姿は見えない。

リサはこの場所を、この状況を理解できなかった。



そして二つ目の違う点は


(…今度はどうしてクレイン(おまえ)が下に居るのよっ……!!)


今度はクレインがリサの下敷になっていることであった。

そして面倒なことに自分よりも先に目が覚めていたようだ。


リサより小さなクレインはじたばた藻掻いているようで、息苦しそうに何か唸っているようだった。

森へ転移させられたときのことを思い出し、転移前から少し身構えていたリサであったがこの状況は何ともこそばゆい。


クレインよ頼むから動かないでくれ、と思うリサであったが、兄のリオ・ドルスが女々しく飛び起きることはリサが思い描く兄の姿が許さない。


あくまで冷静に、毅然として、雄々しく、そう意識してリサは深呼吸する。



「…クレイン、お前ラルゴとチーム組まなくて本当に良かったな。俺の位置にアイツがいたらお前危なかったぞ?」


「…ぷはっ!は、早くどいてくれよ!それには感謝してるけどさ!」


リサはゆっくりクレインから離れると衣服の乱れを直す。ゆっくり後ろを振り返るとリサは心臓の鼓動がクレインに伝わって居なければ良いのだが、と少し不安げな表情を浮かべる。


するとリサはあれほど森の中を駆けまわったにも関わらず、衣服の汚れが殆ど無く山賊たちから浴びた返り血も消えていることに気づく。


(転移対象以外は転移されないようになっているのかしら…便利な能力ね…。)


クレインの服装にも汚れは見られない。彼もそのことに気づき目を丸くしているようだ。

落ち着いた二人は改めて周囲の状況を確認する。


「控え室にしちゃ、寂しい場所だね。まるで牢屋みたいだ。」


「もしかすると不合格者用の部屋かもな。」


「…今は君の軽口に付き合ってる暇は無いんだ。」


リサをクレインはバッサリ切り捨てる。

リサとしては笑わせようと思って言ったつもりだったがクレインを不機嫌にさせてしまったようで少し落胆する。


クレインも辺りの様子を観察するが殺風景な部屋の景色にそれ以上の感想は無かった。


「それよりさ、リオ。気づいてたかい?」


「…何を?」


簡素な作りの部屋で異彩を放っている重厚な鉄のドアの前にクレインが立ちこちらを見ている。クレインのこの顔は大体良くないことに気づいた時の顔だ、リサは昔から良く知っている。


そしてクレインは少し笑ったような表情をして頭を指でポリポリとかきながら話しかけてくる。


「このドアさ、開かないんだよ。」



☆~☆☆☆☆☆ 何でも構いません。


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