第十一話 最後の靴は届けられた
【陽炎幻視】
それは相手の五感に作用する強力な幻術の力。
リサはその力を使い、自らの兄であるリオ・ドルスの姿を纏い生きている。
【陽炎幻視】を使い兄の姿をしていることを周囲に悟らせるわけにはいかない。その為、リサはこの力を他のことに使うことは極力避けていた。
クレインの【植物操作】の力は植物の種子を素早く成長させるという素晴らしい力であるが、植物の成長速度は決して速くなく、戦闘にはあまり向いていない。
森の中での戦闘ということもあり、リサは自分の持つ”もう一つの力”を使う訳にもいかなった。襲い掛かる手練れの山賊二人を前にしてリサは【陽炎幻視】を戦闘に使うしかなかったのだ。
過去に【陽炎幻視】をクレインに何度か見せたことはあったが、その度にあくまでこれは幻術の”魔術”だ、と説明していた。
クレインは魔術にそこまで明るくなく、その説明を疑う様子は見られなかった。
幻術の魔術に詳しい防衛隊士の前ならいざ知らず、クレインの前ならば問題無いだろうとリサは【陽炎幻視】の使用に踏み切ったのである。
先ほどの戦闘で二人の山賊は【陽炎幻視】によって生み出されたリオ・ドルスの幻影を切ったのだ。
強烈な幻想の世界に引きずり込まれた二人の山賊は、リオ・ドルスの首と胴を確かに切り捨てたようなリアルな感覚を受け二人は勝利を確信してしまった。しかし本物のリサはその場におらず、フワリとステップを踏み身をかわすと、山賊の二人が通り抜ける瞬間に二人を切った。
そして二人は幻想の世界の中から出ると、切られたことを理解した瞬間に絶命した。
剣での戦いにおいて【陽炎幻視】は反則に近い力を発揮する。
だが【陽炎幻視】を戦闘に使用すればかなりの体力を消耗してしまう。それに加えてリサ・トゥリカは正体を隠さなければならないという都合上、戦闘で【陽炎幻視】を使うことは極力避けたかった。
(残るは三人ね…!!)
リサが残る3人の山賊を見据えた頃には、三人が【陽炎幻視】を目の当たりにした時の動揺は収まっている。そして今、新たな戦いが再び始まろうとしていた。
リサを警戒するように三人の男たちは距離をとる。
山賊の二人が口の中で何か言葉をモゴモゴと呟く。すると二人の山賊の手に何か光が見え始めた。
その手の光は魔術的な輝きに感じられる。恐らくは何かの攻撃魔術なのだろう。
(やっぱりこいつら…手慣れてるわねっ…!)
リサは自分の置かれた状況を瞬時に理解した。
そして山賊の距離は十分に離れているにも関わらず、リサは焦りの表情を浮かべる。
そう【陽炎幻視】は決して無敵の力では無い。
その力は相手の感覚を狂わせ、リサの存在を誤認させるだけのものなのだ。
いくら姿、形、位置を誤認させようと、どこかに本体が存在するのは間違い無い。
魔術を唱えようとしている山賊は先ほどの攻防で見破ったのだ。
今自分たちの仲間が切られた時に使われた力、それは幻術の類の何かだろうと。
目の前の餓鬼は姿を隠しているだけだと、その程度の小心者なのだ、と。
山賊たちはこれまでの経験を元に、幻術を使うリサに対して一つの答えを出す。
「近づかず、薙ぎ払え。」
何語を話しているのかはリサには分からない。しかし山賊たちがそんなやり取りをしている様にリサには聞こえた。
リサが姿を歪ませようが辺り一帯を火なり、雷なりで薙ぎ払ってしまえば問題ない。
そうすればこの金髪の男は力を持たないただの餓鬼に過ぎないのだから、と。
(どうするっ…!?)
リサは周囲の状況を確認する。
魔術を避けられるほどの【陽炎幻視】を広範囲に使ってしまってはリサが力を使い放たしてしまうことだろう。たとえそうしても確実に魔術を避けられる保証も無い。
こうなってしまっては【陽炎幻視】は役に立たない。
二人の山賊は先ほど突撃してきた二人とは打って変わってゆっくりとにじり寄る。
魔法の力を広範囲に拡散させることで、命を奪う、とまでは行かないまでも十分に戦闘不能に陥らせることを狙っている。そしてリサの反撃は決して許さないという高い集中力を感じる。
徐々に高められゆく魔法力。これは自分達の経験に裏付けられたと言わんばかりの自信が垣間見える、これは必勝とも言える戦術だ。
金髪の小僧が少し斜めに後退するが作戦に影響はない。
リサは山賊をジっと睨みつけるが山賊はその様子に動じることは無い。
(あの餓鬼、倒れた子供を気遣って射線をズラしたか…?ご苦労なことだ。)
死にかけの子供を気遣うなど、結構なことだと山賊はニヤリと笑う。
あと三歩前ほど前に出れば避けられない、俺たちの自慢の魔術の力を見せてやる。
(金髪の小僧はずいぶん汗をかいているな。やはりさっきの幻術で力を使い過ぎたのか。)
残り二歩
さぁ、幕だ。残り一……
その時、ブチブチブチと音が鳴る。
何かが引き千切れる様な音が山賊の足元から聞こえる。
「な、何だ?足が…!!」
そう思って二人の男が自分の足元に目をやると、蔦状の植物が脚に絡みついていた。
それはこの森を仲間たちと荒らして回っているときに何度も脚に絡みついてきた、名前も知らない憎たらしい植物であった。
こいつの簡単な払い方はよく覚えている。足の親指に力を入れて足先を細くし、左右に振って捻じり抜く。
なんでこんな時に、こんな場所にと一瞬山賊二人の頭をよぎり、若干だが上半身がぐら付き視線が下に落ちた。
もし、二人の山賊が足に対して何かの”攻撃”を受けていたと感じることができていたならば、少なくともこんな隙は存在しなかっただろう。
その蔦状の”植物”は”たまたま”そこにあり、”二人同時に”運悪く足を取られたと感じてしまった。
幻術をかけられずとも、二人はそう誤った認識をしてしまったのだ。
その時間はとても短いものであったが、リサを二人の山賊の懐に飛び込ませるには十分な時間であった。
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