第十話 リサ・トゥリカ VS 幸せな二人
リサは瞬く間に二人の男を切り捨て、残る5人の山賊の男たちの前に立ちはだかるが、彼らに大きな混乱は無かった。男たちの態度からは死ぬことなど日常に起こる些細な出来事だといったような余裕すら見える。
(二人殺したのよ…尻尾を巻いて逃げ出しなさいよ…!)
リサは自分に都合の良い妄想を拭い去ると、残る5人を残さず自分の視界に収める。
5人の男たちの目もぶれることなくリサを捉える。
街のチンピラとは違う。やつらのように馬鹿のような名乗りやくだらない恫喝をしてくることは無い。
結局どちらかが死ぬ。そんなことに意味は無いと言っている様に感じる。
ただひたすらにリサを殺すことだけに注視している…これはそう、人殺しの目というものなのだろうか。それは憎悪でも怒りでもない、自然界での捕食者の目そのものだった。
強さではない。金でも、力でも知識でも権威でもない狩猟者の本能のような冷たい瞳。だが、それがこの上なく恐ろしい。
そんな目で見られてリサは少し身震いを覚える。
先ほどの2刀は奇襲によるものだ。本当に自分の剣がこの山賊たちに通用するのだろうかという不安に駆られる。
元々静かな森だったが今は鳥や羽虫のさえずりも届かない。
男たちが会話する様子は見られないがついに動き出す。
合図も無しに動き出した男たちだったが、その動きは統率されたものだった。
近くにいた一人の男が”ガッ”っという喉から異物を出すかの様な汚い呼吸音を鳴らすとリサに猛進を開始する。
そして息を合わせるように離れて立っていたもう一人の男も飛び出す。
二人の男は横並びでリサに向かって突進する。
お互いが左右対称に武器を揃え、狙うのはリサとすれ違い様の一撃のようだ。
そもそもリサの武器は細身の長剣。受ける事には適していない。
切ることや突くことに長けている一方、防御に用いるには用途が限られる。
まともに受けては剣を折られるリスクが高く、受け流そうにも敵の攻撃は2つ同時に襲い掛かってくる。
(この攻撃は…捌ききれないわね…っ!!)
そして二人同時に攻めればもし片方が切られようが、二人目の一撃は確実に相手を捉える。
1対多に弱い。
そんな細身の武器の弱点を理解した山賊のこの突進。
一刀がリサの首目掛けて、二刀が腹を目掛けて横薙ぎに振り降ろされる。
リオは驚いた様な表情を見せるが、構えを取るだけでその場を動かない。
この状況、この立ち位置、このガキは動けずとも仕方ないと山賊達には分かっていた。
そして山賊の二つの刀がリオ・ドルスの首を、腹を無慈悲に切り裂いた。
彼らの手入れの行き届いて居ない粗悪な武器では、突き刺しながら強引に引き裂いた、といった表現のほうが正しいだろうか。リオ・ドルスの美しい金髪は鮮血により半分が紅に染まり、防衛隊士の入隊試験で借用された隊服は切り裂かれ腹から臓物がこぼれ落ちる。
山賊がリオの脇を走り抜けてリオ・ドルスが崩れ落ちるまではそう時間はかからなかった。
リオを切り裂いた山賊二人は経験から、今の手応えで肉を、骨を、臓物を、切り裂き間違いない致命傷を与えたことを確信した。そう、二人の山賊はこの金髪の餓鬼を死に至らしめたことを確信したのだ。
戦いが終わりリオを殺害した二人の山賊だが、口にこそださないが同じ考えをしていた。
”殺ったのは俺だ、あの高そうな剣は俺が貰う。”
そんな山賊らしい私欲にまみれた思考を二人同じようにしていたのだ。
そして右隣りを走り抜けた山賊が、左隣りを走り抜けたもう一人の山賊の様子を確認した。
するともう一人の山賊の腹に血が滲むのが見える。それは細身の剣で切られたような鋭利な切り口であった。見立てではあの傷は決して浅く無い。
(やったぜ…、アイツは死んだな。)
右隣りの山賊はバレないようにほくそ笑むと喜びに震えた。
左隣の男は通り抜け様にあの金髪の餓鬼の反撃を受けて切られたに違いない。
(俺は何てツイてるんだ。あの傷じゃ恐らく助からない。これであの剣は俺のものだ。今夜こっそり殺す手間が省けた。)
(実は傷に効く薬液を隠し持っているが絶対に渡さない。)
(早く死ね、さぁ死ね、今すぐ死ね、俺の前で。)
リオの右を通過した山賊は今度は剣を奪い合うはずだった競争相手の死を確信する。
もしかしたら切られていたのは自分かもしれない、と一瞬頭を過ったが死への恐怖など持ち合わせてはいなかった。
右を通過したこの山賊は自分がこの1/2の運試しに勝利したことに喜び、顔をにやけさせていたが、一つだけ不思議なことに気づいた。
左を通過した山賊も満面の笑みを浮かべている。痛みは無いのだろうか馬鹿なやつだ、これから死ぬというのに。これまで殺して来た人間で笑いながら死んだやつは殆どいなかった。これまで悪事を働いて来たにしては良い死に方をしたな。
アイツは気に入らない奴だったが今日だけはこいつの為に酒を飲んでやってもいい。
そう思いながら、相手を弔う気持ちに包まれたその時。
自分の腹部にチクリと痛みが走る。
「……ん…?」
何が起こったのか分からない右を通過した山賊は自分の腹を見る。自分の小汚い茶色の服に血が滲み、黒に近い色となりどんどんとその色を広げていたのだ。
男は驚愕するが、その黒い染みを剣で切られた傷だと認識した瞬間、猛烈な痛みが身体じゅうを駆け巡る。そしてうめき声を上げながら足が震え、立つことすらままならない状態となる。
「なんで……俺…も…切られ……!」
そして二人の山賊は同じようなうめき声と血を流し、二人同時に地面に崩れ落ちた。
二人は少しの間身体を震わせながら動いていたが、やがて動かなくなった。
残された三人の盗賊は目の前で起きた異様な光景を目の当たりにし硬直していた。
三人の中の一人がおい!と大きな声を上げると残り2人もハッとなる。
先ほどまで臓物をぶちまけ絶命した亡骸があった場所に、切り裂かれたはずの金髪の餓鬼が傷一つなく立ち剣を構えている。多少汗をかいた様子はあるものの、切られた様な跡も、血が滲んだ跡もなく剣に付いた血が二人の山賊を切ったのがこの青年であるということを物語っていた。
「……残り、三人か。」
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