第9話 ギルドの親父の頼み事
「まいったな……。まさか、価値が高すぎて捌けないってのは」
予想外だったとリックスがうなだれる。
まあ、そうだよな。
普通は高すぎて売れないなんてのは想像しないよな。
価値はある。だが、役に立たない。
腹は減ってる。コンビニはある。だけど財布の中には宝石しかない。みたいな感じで実に泣いて良いのか笑えばいいのかわからない微妙な空気の中、ガチャリと扉が開いていかついハゲ親父が姿をあらわした。
「待たせちまったな。ソフィから、ざっくり話は聞いてきたが……すまんな。こっちも商売だからよ。で、こいつがモノか……」
「ああ。どうだ? ちっとでも金に出来ないか?」
改めて、自分でも検分を進めるハゲ親父。
だが、出てきた答えは同じだった。
「……ダメだな。どうやっても、鑑定額が高くなりすぎる」
(なあ、白金貨ってそんなに凄いのか?)
そもそもの貨幣の価値がよくわからないので、ちょっとフィオナに聞いてみた。
コクリと1つうなずくフィオナ。
(一枚で村の半年分ぐらいの生活費になる)
ってことは50枚で25年か……そりゃすげえわ。
あれ? ちょっと待て。
たしか、リックスはガーディアンを漁ってる時に村の一年分かそこらって言ってなかったか?
だとすると、白金貨だと2枚じゃね? もうちょっと頑張っても3枚とか4枚だろ。50枚は多すぎる。
オレの疑問にフィオナがそういえば、と首をかしげる。
「リックス。額が合わない」
「え?」
フィオナの声に振り向くリックス。
「たしか、祠では村の生活費の1年分。詰めれば3年分ぐらいと言っていたはず」
「あ、ああ」
「だとすれば白金貨は50枚は多すぎる」
だが、これはリックスの鑑定ミスだったらしい。ハゲ親父は、持ち込まれた1つの残骸の一部を指し示した。
「ああ、リックスが悪いんじゃねえよ。普通のアダマスなら、確かに白金貨で頑張っても4枚半ってところだ。値を跳ね上げてるのは、ちょっとした細工がされてるせいだ」
そう言って、親父が指し示した部分にはうっすらとした線が浮かび上がっていた。
「アダマスは魔力を一切通さない。だから、対魔術の鎧や盾なんかに重宝されるんだがな。その性質を逆手にとって、魔力の導線を混ぜ込むって手法が中央で開発されたんだ」
「……聞いたことがある。見たことは無いけれど」
この中でただ1人、魔法に詳しいフィオナが親父の言葉を肯定した。
「ま、そうだろうな。なんせ、タダでさえ加工の難しいアダマスに魔術導線を埋め込むってのは腕っこきの鍛治師でも簡単には手が出せねえ。が……どこで見つけてきたのかは、まあ聞かねえがよ。こいつにはそれが最初から仕込んであるときた。こんなものは中央の研究所にでも持ち込まねえと、こっちも金に出来ねえ」
「ならさ。手付けってことにして、前払いってわけにはいかないのかい?」
「それをやると、算盤が合わなくなっちまう。徴税官が来てるからな。ごまかせねえよ」
完全に進退窮まっちゃったな、これ。
「と言っても、だ。あんたらが困ってるってのは俺も百も承知だ。でな、ちょっと相談があるんだけどよ」
「相談?」
「おおよ。こいつを換金するにはどうしたって時間がかかる。だから、別口の依頼を受けてもらいてえんだ。それなら、こいつを質に預かるってことで契約金の前払いってことで都合はつけられる」
「いくらだ?」
リアムが少し渋い顔で親父にそう尋ねた。
まあ、確かにどんな依頼かはわからないが普通に考えれば白金貨50枚だっけ? それには届かないわな。
それを保証金として預からせろっていうんだから、渋る気持ちはわかる。
「金貨で20枚」
「普段なら、一も二も無く受けるんだけどな」
結構、いい依頼らしい。
(金貨ってどれぐらいの価値があるんだ?)
(だいたい50枚で白金貨1枚。品質によりけり)
ってことは……ざっと2ヶ月分ぐらいか。
足下見られてる感じだな。
「どうするよ? こっちとしちゃ、これが精一杯だ。失敗したら質草は貰うことになるが、まあ、失敗しなけりゃ問題はねえわけだしな」
「依頼の内容は?」
「ちょっとしたお使いだな。採集依頼だ。もち、依頼よりも多く採取できれば、その分は別計算で引き取るぜ」
「で、モノは?」
「竜の肋骨を8本。墓場からもってくるだけだ。徴税官の護衛やらファングの討伐やらで、立て込んでるんでな。無所属のあんたらにはうってつけだろう」
さ、どうする?
そういって、ハゲ親父はそう言うと一同を見回したのだった。
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