第8話 最果ての街
明けて、翌日。
オレを肩に乗せたフィオナ達が街についたのは昼前だった。
「さて。それじゃあ、換金に行くか」
「ん」「にゃあ」
荷物は重いが心は軽い。という感じでリアムとリックスの2人が先頭を切って颯爽と街の中を歩いて行く。
その少し後ろを苦笑しながらカレンとフィオナ。そしてオレがテクテクと続いていく感じ。
街はすいぐ近くにダンジョンもとい精霊の祠があるせいだろうか。かなりの賑わいを見せていた。
施設の中では入れ替わり立ち替わり冒険者の姿を見かけたので、それを支える街はそこそこだろうな……と想像はしていたのだが。
それよりもかなり人出が多い。
(思ったよりも賑わってるんだな)
(ん。精霊様の祠だけじゃなくて、この周囲にはモンスターや魔獣の群れも多いから。それを狙ってハンターも来てる)
フィオナがオレの心話に心話で応える。
朝から何度か練習していいるうちに、すっかりマスターしてしまった。
本当になんというか学習能力が高い。
(モンスターと魔獣って何か違うのか?)
(少し違う。道具を使ったり魔法を使ったりするのがモンスター。そうじゃないのが魔獣。普通の動物と魔獣の違いは魔力があるかないかで区分してる)
と、こっちの疑問に先回りしながらの模範解答。
なるほど。モンスターってのは昨晩のファングみたいな、ああいうヤツのことをいうのか。RPG的にはコボルトとかレッドキャップとかゴブリンとかああいうやつらがモンスターなんだな。
で、魔獣が魔力を持ったケダモノか。
ドラゴンなんかはどうなんだろうな? そもそも、この世界にドラゴンがいるかどうかっていう問題があるが。
やっぱ恐竜系なのかね。
などなどと思いながらも、テクテクと歩くと目当ての建物らしきものが見えてきた。
いかにも冒険者といった格好の人間が増えてくるのですぐにそれとわかる。
あれだな。冒険者ギルドとかあったら、こんな感じかもな。
「お、リアムたちじゃねえか。今回はどうだったよ? 前はからっきしだったらしいが」
なんて気さくな感じで知り合いとおぼしき他のパーティの冒険者達が話しかけてくる。
「あ、フィオナちゃん。久しぶり! この前、作ってくれた薬、助かったわぁ。また、お願いしても大丈夫かな?」
「ん。材料持込なら白銅貨3枚。材料をこちらで用意するなら銀貨1枚」
「んんんんん……今、材料の手持ちがちょっと心許ないんだよね…………まけてくんない? ね? お返しはするからさあ」
「値引はしない。けど、10本以上買ってくれるなら、1本オマケしてもいい」
「む。そう来たか。んじゃ、それで近々お願いすると思うからよろしくね!」
「ん。待ってる」
フィオナはフィオナで特殊な技能をもっているのか、こんな感じで入れ替わり立ち替わりで細々とした頼まれ事を引き受けていた。
皆が皆、知り合いに挨拶したりからかいあったりしながら、建物の中へと入る。石造りの建物の中は薄暗く、半地下になっているらしかった。
リックスがちょいちょいと手近の職員らしき人間を捕まえて、一言二言耳打ちをする。
すると、真面目な顔つきになった職員に別室へ案内された。
やっぱ、あれかな。
高額商品の取引だからかね。
「や。お待たせお待たせ。何? わざわざ、部屋取引ってことは期待していいのかな? かな? かな?」
ややあって、部屋に入ってきたのは長い赤毛をポニテで纏めた二十歳になるかならないかという感じのお姉さんだった。
物腰は柔らかいが、いかにもやり手という感じのオーラが漂っている。
「ああ。今回はすげえぜ。んじゃ、頼むわソフィ。ここの金庫が空になる心配しててくれ」
自信たっぷりのリックスにキラリとソフィと呼ばれた女性の目が光る。
「言うねえ。ほう。どれどれ。それじゃあ……ちょーっと見せてくれるかな? かな?」
おう、とリアムがどさりと荷物をテーブルに載せる。
「ん…………………ふむ………………………………………むう…………………………………………………………………………………………………………………」
無言が重い!
次から次へと品を検分しては次の品へ。
そうやって検分をすませたソフィは難し顔つきで腕を組んで考え込んだ。
「どうだよ? ちょっとすげえだろ」
自慢げなリックスに、しかしソフィは思いがけないことを告げるのだった。
「……悪いんだけど、さ。持って帰ってくんないかな? その、ちょっと、ね」
カクンと顎が落ちたのかと思うほど大口を開けて固まるリックス。次の瞬間、猛然と彼女に食ってかかる。
「な、な、なんでだよ! 気でも狂ったのか?! アダマスだぞ、アダマス! それもかなり純度の高い! それを持って帰れって? 冗談だろ?」
「冗談じゃないんだわ。いやね、うちも欲しいよ? 欲しいんだけどね。ちょっと間が悪いっていうか……1ヶ月先なら、ばっちこいなんだけど」
「どういうことだ?」
なんか、理由がありそうだな。
前肢で顔を洗いながら、話に割り込むわけにもいかずに黙ってことの成り行きを見守るオレ。
部屋の隅にゴキブリ発見! いかん、本能が本能が。
「その、ね。今、街に徴税官が来てるのよ。伯爵んとこの。だから、こんだけうちで引き取っちゃうと…………えらいことになるんだわ。あと、単純にこれだけのブツに見合う金が無いし」
さらさらさらさらと木の札におそらくは買取額を書き付けたソフィがほいっとリックスにそれを手渡す。
それを見た、リックスがピシリと固まった。
「…………いくらなんだ?」
「……………………白金貨50枚だって」
わからん。
いくらなんだ、それ。
天文学的な金額っぽいが。
「つうわけでね。今、これを引き取ると……たぶん、半分以上持ってかれるのよ徴税官に。これだけのものを捌くとなると中央までもってかないといけないしね。となるとうちの回転資金もなくなるし、そもそも、そんだけの税金払う余裕ないし。タイミングが悪いってのかな。ちょっとね……今は無理。2月ほど待ってくれるなら、準備は出来るけど」
なるほど。
どうやら大口すぎて、この店で扱えるキャパを超えちまったのか。
「だったらよ。一部で良いから引き取ってくんねえか? こっちの都合は知ってるだろ? 待てねえよ。待てて1ヶ月だ」
「……それはまあ、知ってるんだけどさ。こんなレアなインゴット。こんなど田舎じゃこっちも金に出来ないのよ。中央に持ってかないとなんだけど、そうなると護衛だ旅費だって感じで一部だけだと足が出ちゃうのよ」
「そこを何とか頼めないか?」
なんか豊作貧乏みたいな話になってきたな。
「……ちょっと親父に話してみるわ」
そう言って、ソフィが出て行くとリックスはがっくりと腰を下ろしてうなだれたのだった。
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