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第7話 夜の泉 夜のふたり

「にゃおうん」


 とりあえず、猫アピール。


 まあ、見られて無いとは思うけど……カンが鋭いからな、フィオナ。


 オレの猫アピールにほっとした顔でフィオナがオレに近づいてきた。


「黒猫さん……見つけた。今日は……ありがとう」


 フィオナはオレを抱きかかえると、じっと顔を(のぞ)()んできた。


 ()(れい)な薄緑色の瞳が月明かりを写して輝いている。


 ()(れい)な瞳だった。エメラルドというほどのどぎつい存在感のある瞳ではない。ペリドットグリーン。


 淡く柔らかく優しく暖かい。


 月が()(れい)ですね。


 そして、君はもっと()(れい)です。


 なんちゃって。


 思わず照れ隠しでごまかしたくなるぐらいに気恥ずかしいことを考えてしまった。


「黒猫さん、お話出来たら良かったのに」


 実は出来るんだよな……。


 うーむ。ちょっと悩むな。


 出だしでごまかしてしまったので、なんとなく猫のまま来ちゃったが今後のことを考えると絶対に会話は出来るようになっておかないとマズイ。


 が、フィオナはともかく他の人間がしゃべれる猫をどう思うかというと……ちょっと、読めないんだよな。


 普通に精霊の使いと思ってくれればいいが、化け猫と思われたら目も当てられない。


「猫さん……お話、しよ?」


 少し小首を(かし)げるフィオナ。

 

 くっ、(あらが)えないっ!


「こんばんわ」


 思わず、口走ってしまった。


「黒猫……さん?」


 ええい、もう、行くっきゃ無い!


「使い魔です」


「使い魔さん?」


「はい。精霊様に命じられ、やってきました」


 シーワン、すまん。


「……何のために?」


「あなたを助けるために」


「どうして?」


 む。意外と警戒心が強いな……さすがは落ちぶれても大公息女というところか。


 オレは少し考えてから言葉を紡いだ。


「それは……貴女(あなた)が精霊様にとって重要な人の血を受け継いでいるから」


 ま、まあ。(うそ)ではないよな。いちお、オレってシーワンたちにとってはVIPなわけだし。


 オレの妹の直系なんだから、間違ってない。うん。


「そう。猫さん? 使い魔さん? どっちがいい?」


 呼び名、を聞いてるのかな? どうもフィオナはあまり(しやべ)らない……というか言葉が足りない感じだ。


 ワザと、なのかな。


 自分の感情を出さないようにしている、そんな雰囲気を感じる。


「タスク」


 まあ、どっちにせよ動物扱いなのはイヤなのでオレは自分の名前をフィオナに教えた。


「タスクさん?」


「さんは抜き。オレもフィオナと呼ぶから……いい?」


 こくりとうなずく。

 ささやかな契約はこれで完了。


 しばらく、フィオナに抱っこされたままでトロトロとまどろむ。


 フィオナはオレの毛をなでつけながら、ぽつぽつと話し始めた。


「黒猫さん……じゃなくて、タスク。ありがとうね。色々と」


「どうもいたしましてって言っても何をしたってわけじゃないけど」


「うそ。ずっと、助けてくれてた。(なん)()(げつ)も前から」


 あらー。バレてたのか。


「気がついたのは昨日だけど。おかげで、みんな食べてこられた。今日もしばらくみんな生きていける」


「……そんなに(ひど)いところなのか?」


「うん。作物も育たないし、狩りも難しいから……森には果実があるけど、森人の縄張りだから近づけないし」


 想像以上に(ひど)い場所っぽいな。


 辺境とか田舎(いなか)というよりも、もうそれは荒野って言った方が正解だろう。


「それで、食料の購入資金を?」


「そう」


 フィオナは小さくうなずいた。


「たくさん、稼がないと。食費だけじゃなくて、薬に大工道具。冬も近いから、防寒具。まだまだ、たくさんお金がいるから」


「何人分ぐらい用意しなきゃいけないんだ?」


「87人分。そのうち、子供が10人。お年寄りが15人。あまり身体が丈夫じゃ無い人も8人いるし」


 ……そりゃ、大変だ。


「どこか……もっと条件の良い場所に移住したりとか、そういうのは考えなかったのか?」


 まあ、出来てたらとっくにやってるだろうが。


 答えはやっぱり、想像した通りだった。


「出来ない。叔父の手が回ってるから。この国なら、どこにいてもすぐに見つかる。次は多分、殺される」


 ヘビィな話だ。


 つまり、その荒野をなんとかするしかないわけか。


 さすがに出稼ぎ生活をずっと続けるのは無理がある。まずは拠点の整備が最優先だな。


 土壌を改善し、作物を育てられるようにして、作物がとれるようになるまでの生活に必要な物資を調達して。


 おお、やることが一杯だ。


「さすがに大変そうだな」


「……大変?」


「そ。作物が実るように土を作り替えて、村を整えて、やることはいくらでもあるしね」


「………………え?」


 フィオナは理解出来ないというようにオレを見つめた。


「そんなこと、出来るの?」


「まあね」


 ナノマシンを使えば、土壌改善も可能だろう。ただ、植物の成長促進は……どうかな。これはちょっと試してみないとわからん。


 ちょっと試してみるか。

 多分、身体のメンテナンスの応用でなんとかなると思うんだが。


 オレは意識を集中させて、ナノマシンの制御を試みた。


 うーん。こういうのは訓練してこなかったからなあ。


 シーワンのサポートが欲しいぜ。


 まずは、足下に生えている草を成長させることを試みる。


 オレの意思をくんで、ナノマシンが猛烈な勢いでネットワークを形成。どこかとの通信を開始。


 やがて、ナノマシンが自律的に足下の草の成長に介入していくのが感覚として理解出来た。


 むくりと(つぼみ)が膨らみ、花が開く。


 ふう。


「……すごい」


 フィオナはおっかなびっくり、そっと一輪だけ咲いた花に指を伸ばした。


「な?」


 オレの言葉にフィオナが朗らかに笑い声をあげる。そんな風にして、外に出て初めての夜は更けていった。



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