第5話 野営と夜襲と使い魔と
「あー、それにしてももったいなかったな……」
施設というよりも、完全に山腹に埋もれた遺跡のような入口を抜けたところでリュックにぎっしりとガーディアンの残骸を詰め込んだリックスが名残惜しそうにぼやいた。
「ぼやくな。持ち帰れる量に限りがあるんだから、仕方ないだろうが」
「そりゃわかってるけどさ。もったいない……次に潜るまで残ってるかなあ」
ガーディアンの大きさを考えれば、とてもこの4人のパーティがお持ち帰り出来る量では無い。
取りこぼしが出るのは仕方のないところで、とりあえず価値が高く小さなパーツを厳選して持ち帰るほかなかったという次第。
まあ、ガーディアンの残骸はシーワンに頼んで隠蔽してあるから他の冒険者が発見することは出来ないだろう。
それにいざとなったら、オレが次のガーディアンを用意してもいいわけだし。
そんなことを思いながら、フィオナの足下を戯れるように一緒に歩く。
もちろん、踏まれたりするようなヘマしない。
が、ひょいといとも簡単にすくい上げられた。
「黒猫さんは危ないから、ここ」
と、そのまま肩に誘導される。
なんか、格好いいからそのまま肩にライドオン。
これでフィオナの服が青かったらアレだな。
猫じゃ無くてキツネリスになっておくべきだったな。
「それにしても、思ったより時間を食っちまったね。この分だと街につくのは夜中になっちまうよ」
「……それはうまくないな。今日は荷物も多い。野営してゆっくり身体を休めた方がいいだろう」
そろそろ傾いてきた日を眺めながら、リアムとカレンがそんな相談をしている。
おお、ファンタジー鉄板のキャンプイベント。
心が躍るね。
「領主様、構わないか?」
「リアムたちがそれでいいなら」
リアムの問いにあっさりうなずくフィオナ。
餅は餅屋ってところだな。任せるべきは任せる度量は、やっぱり育ちの良さをうかがわせる。
「リックス」
「あいよ」
カレンの声にリックスが身軽にほいほいと道を外れて、森の中へと入っていく。
待つこと、しばし。
わりとすぐにリックスが戻ってきた。
手にはお土産のつもりか、野ウサギが数羽。
「場所、見つけてきたよ。あと、これ晩飯」
「いいね。野ウサギのシチューとしゃれ込むか」
◇ ◇ ◇
「黒猫さん、どうぞ」
……残念ながら、オレの晩ご飯はできたての熱々シチューではなく干し魚だった。
猫にシチューを出すってのもおかしな話だしやむを得ないのかもしれないが。
食いたかったな、シチュー。
まあ、ウサギの生肉を出されるよりはマシか。
腹は壊さないのはわかりきってるが、なんというか生肉にしゃぶりつくのは文明人の尊厳に関わる気がする。
猫だけど。
まだしも、干し魚の方がマシだ。
とりあえず、ほぐされた切り身をひょいと口にする。
む。
思ったよりも、いや、これは普通に極上にエクセレントに美味い!
味が濃いぞ味が。
干されているので味が濃縮されているのはわかるが、それ以上に肉の旨みが凄い。
塩味もついてない、本当に干しただけなのにこんなに美味いとは!
この時代の魚って、みんなこんなに美味いんだろうか。
思わず、むしゃぶりついて骨まで舐めてしまった。
「おいおい。精霊の使い様にしちゃあ、意地汚いんじゃないかい?」
カレンが何か言ってるが、知らん。
美味いものは美味いのだ。
お代わりを所望する、とばかりにタシタシと地面を叩く。
オレのにゃんこダンスに戯けた空気が漂う。
オレ、マジ癒やし系。
なんちゃって。
「いい?」
「いいんじゃないか? 魚の干物なんてメじゃない大戦果だったしな」
おお、お代わりゲット。やってみるもんだ、にゃんこダンス。
ウキウキしながら、フィオナがリュックから魚の干物を引っ張りだそうするのを見つめていると不意に張り巡らしておいたナノマシン網を通して検知信号が走った。
……人の食事を邪魔するヤツは誰だ。
ナノマシン経由で映像情報を転送。
んんん? これはなんだろうな。
一見すると人っぽい。
二足歩行で槍を持っている。
ボロボロだが衣服も着ているし。
だが、そのボロから除く肌は剛毛で覆われているし、顔つきはというとほとんど狼だった。
あれだ。
コボルトに近い。犬人ってやつ。
人間では……ないだろうな。
一体、何が進化してあんなのが出てきたんだ。
とりあえず、取るべき対応がわからないので、フィオナ達に警戒を促すべく精霊のご託宣モードを作動させることにした。
木々を発光させて、ぼんやりとした映像を映し出す。最初はおぼろげに。
「……おい、アレ」
最初に気がついたのはカレンだった。
隣で一心不乱にシチューをかっ込んでいたリアムを肘で突っつく。
「なんだ? 幻? にしちゃあ……ファングか?」
コボルトもどきはファングというらしい。
牙。なるほど、そのまんまだ。
すかさず、地面に耳を当てたリックスが目を閉じて耳を澄ませる。
よし、音声も経由して送り込もう。
「近い。数は6体、か。こっちに向かってる……焚き火を見られたかな?」
「どうでもいいよ。どの道、やるしかなさそうだね。けど、6体か。ちょっと多いね。リックスは隠れてな。悪いけど、手が回りそうにないからね」
カレンが獰猛な笑みを浮かべて、木に立てかけておいた剣を手に取る。
リアムはと言うと、もう完全な臨戦態勢だった。
じりじりと時間が流れる。がさりと音を立てて姿を現す、ファング。
よだれを牙から垂れ流し、どうみても対話でなんとかなるようには見えない。
「さ、おっぱじめようか!」
カレンの声が戦闘の合図となった。
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