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第4話 精霊の使い魔 すなわちオレ

 すでにガーディアンは冒険者たちがいる部屋に飛び込んできたところだった。



 きゅうううううんっと(かん)(だか)い音を立てて、ガトリングガンのように束ねられた砲身が標的を定める。



 シーワンが制御不能である以上、電子系の(かい)(ざん)・上書きは無駄になる可能性が高い。


 ならば、ここは物理押しで行くしかないか。



 ナノマシンは大きさこそ目に見えないが、何しろ数が膨大だ。


 今、オレが制御している数だけでも10の16乗というオーダーに達する。


 そして、オレの感覚では(はる)かな未来のナノマシンはたった1つのノードだけで周辺物質を数グラムオーダーで操作しうる。


 たった数グラムと侮るなかれ。


 1000のナノマシンでキロ単位。


 100万でトン単位だ。


 100万ってたった10の6乗よ?


 10,000,000,000,000,000のうちの100,000でトン単位。


どうよ?


 

 オレの意思に従い、部屋を構成していた建材が分子変換。


 積層構造の盾となって、冒険者達を射撃から守り抜く。



 ガーディアンの射撃が始まり、チェーンソーのような(かん)(だか)い連続音が部屋の中に(とどろ)く。


 あまりに(うるさ)いので思わず、音を遮断。



 お次はこちらのターン。


 同じく部屋の構造材を再構成。


 合金製の鋭い(やり)となって、ガーディアンに降り注ぐ。


 一瞬にしてガーディアンはスクラップに。



 周囲をナノマシンでもって、サーチ。

 

 ……反応なし。


 間に合ったか。


 冒険者達は何が起こったのか、理解していないらしい。


 身体を浮かして、攻撃に備えた姿勢のままで固まっていた。



「な、何が起こったんだ?」



 戦士が少しどもりながら、周囲を見回す。



「……黒猫さん」



 魔法使いの少女がめざとくオレを見つけて、そう(つぶや)いた。


 たしか名前はフィオナだっけ? やっぱり魔法使いだけあって、カンが鋭いんだろうな。



《それだけはないようです》



 シーワンから速攻で捕捉の声。


 ん? 他に何か理由が?



《はい。その少女とタスク様の間にある種の情報の一致を確認しました》



 情報の一致?



《はい。その少女はタスク様の子孫のクラスタの中でもっともタスク様と深く結びついています。そのためでしょう。本能的にタスク様のことを感じ取れるようです》



 なんと。


 オレは子供どころか彼女1人作る前に冷凍睡眠に入ってしまったので、当然ながらオレの子孫ではないが。


 考えてみれば家族や親戚がいるしな。



《タスク様の妹君の直系になるようです。もっとも歳月が歳月でございますので、遺伝子的な意味はほとんどございませんが》



 まあ、十数万年っていったらオレの時代から見て原始時代だからな。


 ミトコンドリアイブとか、それぐらい離れてる。



《ただし、遺伝子ではない固有の情報は極めて似通っています》



 それでか。


 どうしても、フィオナのことが気になって仕方なかったのは。



《他の方々とも類似点を発見しました。フィオナ様に比べれば微々たるものですが、やはり一致が見られます。おそらく、フィオナ様の氏族全体がタスク様の子孫に該当するようです》



 なるほど、ね。


 てなやり取りがフィオナ達に聞こえるはずも無く、相変わらずキョトンとしたままだ。


 いや、フィオナだけはしゃがんでオレにおいでおいでをしているが。



《タスク様。ちょうどよい頃合いでは無いかと》



 あ、やっぱ、そう思う?



《はい。いつまでもこの施設で暮らすというわけにもいきますまい。彼女たちのグループであればタスク様も居心地がよろしいのではないかと思われます。私としては——少々、お名残惜しいですが》



 AIの癖に感傷的なやっちゃな。ここに来ればいつでも会えるだろうに。



《そうですね》



 よし。フィオナにくっついて、いよいよここを出るとするか。



 外の世界がどんな感じかは(いま)だに五里霧中だが、今のオレなら生きていくぐらいはなんとかなるだろう。



 トコトコとフィオナにすり寄って、そのまま猫らしく手のひらを()めてみる。



「……くすぐったい」



 途端、それまで無表情だった顔がふわんと緩まった。

 

 年相応というべきか。


 いや、こっちが本来のフィオナなんだろうな。今は状況が許してもらえないだけで。


 フツフツと怒りにも似たもどかしさが沸き上がってくる。


 どこのどなた様か知らんが、オレの()(わい)い(妹の)子孫を悲しませるとは。


 しかも、えん罪でお家乗っ取りからの一族追放とか、将軍様でも黄門様でも許しちゃおかねえ。


 よし、決めた。



 シーワン。



《はい。いかがしましたか?》



 ナノマシンを扱うにあたる規範というかルールというか、そういうの教えてくれ。


 やると決めたからには全力投球。手加減無し。



《特にございません。大規模な環境破壊ぐらいでございますが、そこはリミッタがかかります》



 大規模の定義は?


  

(おおむ)ね、大陸全土のナノマシンによる同化・異化・分解がラインになります。が、そこまでしてしまうとタスク様の生存も困難ですので》



 そこまでわかればいいや。


 別に大陸ごと、炎の海に沈めて火の七日間祭りをやらかしたいわけじゃないしな。


 ただ、最高の(ふく)(しゆう)は最高の幸福にありってだけだ。



「黒猫さん。一緒にくる?」


「にゃおうん」



 フィオナがこしょこしょとオレの喉をくすぐってくる。心地よい。


 そのまま、彼女に腕の中にすっぽりとおさまった。



「お嬢さん、いいのかい? こんなところに黒猫なんて……絶対におかしいだろ。さっきの妙なモンスターといい、その後の…………とにかく、よくわかんないことと言い。絶対、おかしいぜ」



 女戦士のカレンが気味悪そうにオレを見つめている。


 まあ、そうだよな。


 普通はこんなところに猫はいないしな。


 そういう常識的な警戒心、大事だと思います。



 だが、フィオナはオレを抱きかかえるときっぱりと断言してくれた。



「大丈夫。きっと……このコは精霊様の使い。でなければ、さっきの不思議なことが説明できない」



 す、鋭いな! シーワンが精霊だとしたら、ほとんどビンゴじゃないか。



「だとしたら、こいつは縁起がいい。そう思わねえか、カレン?」


「いや、お嬢様がそれでいいんなら、アタシは別に」



 ぼやくカレンの声をリックスが断ち切った。



「お、おい! ちょっと来てくれ! 当たりだ当たり! 大当たり! レア素材の山だぞ、こいつ! リアム、バラすの手伝ってくれ!」


「本当か?」


「すげえぞ、これ。村のみんなが1年やそこらは余裕で食っていけるぜ。いや、節約すれば3年ぐらいは……」



 なんと。そんなに価値があるのか。



《実際にはもっと価値があると思われます。ガーディアンは()(しよう)金属の塊でございますので》



 そんなの持って行っちゃっていいの?



《現在の所有者はタスク様でございますから。お忘れ無きように。タスク様がただ1人の継承者なのです。私たちの世界の》



 そうか。なら、ありがたく。


 どんがらガッシャンっと金属音が響き渡る。


 あーあ。そんなことしたら剣もパーツも傷むって。もったいない。


 というわけで、ナノマシンでお持ち帰りサイズにこそっとバラす。


 それじゃあ、またな。シーワン。いろいろとありがとうな。


《どうもいたしまして。タスク様のこの時代でのご活躍、楽しみにお待ちしております。ようこそ、未来へ》



 そうして、オレはいよいよ未来の大地へと足を踏み出したのだった。


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