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第3話 冒険者たち

 シーワンの助言に従って、オレが遺跡……というかぶっちゃけダンジョンで特訓を始めてから半年が経過していた。


 最初は1人で深層部へ挑戦なんかしていたが、最近はダンジョンを訪れる冒険者を影からこっそりとサポートすることで訓練と趣味を両立させている。


 さすがに何ヶ月もこんなことを繰り返していると、冒険者達も冒険者達でオレの存在に気がついてきたらしく、精霊の加護だとかなんとか言い出すようになっている。


 カシカシカシと前肢で顔を擦りながら、今日も今日とて冒険者達の様子を伺う。


 冒険者達は何組も来ているが、とくにオレのお気に入りのパーティが彼らだった。



 男女の戦士が1人づつに、小柄というか小人という感じの軽戦士が1人。


 どうも、純粋な人間では無く亜人というヤツらしい。


 一体何がどうなれば、そんな人種が出来てしまうのかわからないが……なんせ10万年だ。


 何が起きても不思議じゃ無い。


 こいつは戦闘よりも探索やら遺物の発掘で活躍することが多いので、まあ盗賊ポジだな。実にそれっぽい。


 そして、最後の1人が小柄な女の子の魔法使い。

 年の頃は14ぐらいだろうか。


 こんな感じのパーティで、見てわかるように回復役がいない。


 なので、オレがこっそりと彼らを影から()()を癒やしたりしていた。

 もちろん、毒だのなんだのは全て、即座に中和。


 ナノマシンによって、体内からメンテすることで常に最高のパフォーマンスを発揮出来るように維持することは難しくない。


 ただ、それで彼らが自身の能力を誤解しても、それはそれで困るので加減はしているし、他者の力が働いているという演出もかけている。


 今もまた、中層域で中規模のモンスターの一団を(ほふ)った彼らは小休止(レストタイム)を取っていた。



 彼らの身体をスキャンしたナノマシンからの情報を可視化。


 っと、これはちょっと援護飛ばした方が良さそうだな。


 大きな()()はないが、モンスターの攻撃を一手に引き受ける戦士の右腕に疲労が蓄積されている。


 このままではイザという時に筋断裂や骨折などを起こしかねない。


 オレはいつものように合図として、彼らの周囲の壁を発光させた――



◇ ◇ ◇



「……また、来てくれたか」


 ほのかにダンジョンの壁面がいつものように光り始めたのを見て、リアムは(あん)()の吐息をついた。


 精霊の縦坑の中層域にもなると、さすがにモンスターはそこそこ()(ごわ)い。


 上級の少し下の冒険者パーティである【ドレッドノート】にとっては、そろそろ厳しい階層だ。



 今も致命的なダメージこそ受けなかったが、あまり無視するわけにもいかない細かいダメージはかなり負ってしまった。


 とくに皆には内緒にしているが、リアムの右腕はさきほどから嫌な熱を持ち始めている。


 重量級のモンスターであるミノタウロスの攻撃を受けたときに、おそらく筋を痛めてしまったのだろう。



 加護の前兆である発光現象が終わると、熱く(うず)いていた腕から(うそ)のように不快感が消えていく。


 それどころか、たっぷりと食事を取り、ぐっすりと眠ったあとのような爽快感さえ感じていた。



「……精霊様か。おい、リアム。お前、また()()を隠してただろ」



 相棒の女戦士、カレンが乱暴な口調でリアムを(にら)みつける。


 精霊の加護はありがたいが、隠し事までバレてしまうのは少し困りものだ。



「別に隠してたわけじゃない」


「あん? 精霊様が来たってことはお前、そういうことじゃねーか」



 そう言われてしまえば、返す言葉も無かった。


 リアムは苦笑でごまかすと、(たお)したばかりのモンスターの死骸を(あさ)っていた斥候の小人に声をかける。



「リックス! どうだ?」


「……ダメだね。しけてる。なーんも無し。解体して売っぱらって終わりだね」


「そうか……。こればかりは仕方ないとは言え……スマン、領主様」



 リアムは少し離れた場所で(めい)(そう)しながら、魔力を回復させている少女に頭を下げた。


 頭を下げられた少女は目を閉じたまま、小さく首を振る。



「リアムが悪いわけじゃない」


「まあ、こればっかりは運だけどね……けど、先は遠いなあ。ねえ、フィオナ様。いっそ、もう少し潜ってみる? ボクたちツいてるみたいだし」



 ほじほじとミノタウルスを解体して、めぼしい素材を取り出していたリックスの言葉にフィオナと呼ばれた少女は同じように首を横に振った。



「ダメ。無理をして……犠牲を出したら意味が無い。今、あなたたちの誰かを失ったらダンジョンアタック出来る人が足りなくなる」



 甘いなあと苦り顔でリックスが肩をすくめる。だが、このパーティの全員がそんな彼女のことを好ましく思っていた。

 

 本来ならば、こんなところでダンジョン探索などを行うような身分では決して無いのだ。


 何しろ、元々は大貴族のお姫様……王国の七大貴族の一角を占める公爵家の跡取りだったのだから。



 だが、彼女の父。


 要するに公爵が妻もろとも行方不明になったことがきっかけで父親の弟に(かん)(けい)をもって放逐の憂き目を見ることになった。



 彼女だけではない。


 公爵家に連なる一門郎党全てが追放されたのだ。


 理由は王家への反逆罪。死人に口なしとばかりに公爵が(はん)(ぎやく)(くわだ)てていた……と罪状をでっち上げた。



 (いや)、その周到さから見て、おそらくは公爵夫妻を害したのも彼女の叔父に仕業だろう。


 機が熟したとみて、一気に勝負に打ってでたというわけだ。



 死一等はかろうじて免じられたものの、実質的な死罪に等しい辺境地区――通称、ノーマンズランドへと流罪になった。



 今やまともに農作物も実らない荒れ果てた大地の村民を養うために、こうして彼女自身が自ら身を削ってダンジョンに潜って少しでも金目のものを(あさ)る毎日だ。


 そうして、数十人の氏族の命を(つな)いでいる。



「で、どうする? ここで引き上げるかい?」



 カレンの言葉に少女は小さくうなずき――そして、(きよう)(がく)に目を見開いた。



◇ ◇ ◇



 何年()っても人間は人間だなあ……と彼らの事情をこっそりと聞いていたオレはペロペロと毛繕いをしていた。



 そう。オレのナノボディは実は意識を維持するコア部分さえ確保しておけば、人間の形態を取る必要が実はないのだ。



 このことに気がついたのは訓練を開始して2週間目のことだ。


 しかも、ナノボディを構成するナノマシンをそのまま別の用途に転用できるので、この形態の時の方が実は本来の姿の時よりも出来ることはずっと多い。



 ただし、デメリットもいくつかあって……要するに思考が動物に引っ張られやすくなる。


 今みたいに。



《タスク様》



 シーワンの声が脳裏に響く。


 同時に視界にウィンドウが展開。

 近接警報。


 かなり脅威度の高い何かが高速で近づいている。



《ガーディアンが反応いたしました》



 止められる?



《――緊急停止コマンド……失敗しました。制御不可です。申し訳ございません》



 マズイぞ、それ。

 

 オレは慌てて、ガーディアンの情報を呼び出した。


 あ、ダメだこれ。強い。



 オレは隠れていたことも忘れて、ガーディアンから彼らを守るべく物陰から飛び出した――


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