第20話 村の改造計画 ④ ~穀物の達人~
とんだサイコ野郎に付け狙われてるとも知らず、オレたちは砂漠のバザールで砂長に相談を持ちかけている真っ最中だった。
とにかく、何をするにしても避難民の集まりのようなフィオナの村には人材がまるで足りていない。
とくに村の今後のことと秘められた潜在能力のことを考えると灌漑技術を持った人間と農作物、とくに主食となる穀物に関する知識をもった人間がどうしても必要だ。
そんな都合の良い人材が果たしているのか……というのが不安の種だったわけだけど。
すっかりフィオナのことを精霊の巫女と信奉している砂長が、その持てる情報網を駆使するとわりとあっさり候補が見つかってしまった。
正確にはそれだけ砂長と砂の民が頑張ってくれた……というか、彼らが営々と作り上げてきた人脈と情報のネットワークを惜しげも無く使ってくれたおかげなわけだけどね。
そこらへんはとにかく、感謝しか無い。
「……巫女姫様のご要望に添う心当たりは、申し訳ございませぬが今のところは1人づつしか見当たりませぬ。誠に力不足、申し訳ございませぬ」
いや、1人づつでも見つけてくれただけ、凄いんだってば。
妙に恐縮している砂長に鷹揚にうなずいて見せたフィオナは、気にするなと励ましてから先を促した。
「まず、農業に関しまして出ございますが……こちらはちと人物が難しく、能力はあれども、誰もが持て余すという御仁にございます」
「というと?」
「とにかく、農作物のことしか興味が無いのですな。費用対効果ですとか、そういう発想がございませぬ。とにかく理想を追求する、典型的な学者バカと申しますか……人呼んで、麦バカ先生でございます」
さすがに短期間でむりやり探しただけに、癖が強そうだ。
「能力はあるの?」
「それはもう。間違いなく」
なら、問題は……ないのかな? 他が見えなくなって大暴走されても困るし、これは面接待ちだな。
(一応、会うだけは会ってみたら?)
(ん。贅沢は言うつもりはない)
というフィオナの考えで、あっさりと顔合わせが決まった。
幸い、というわけではないけれど、この麦バカ先生。例の公爵領の増産計画で予算を使いすぎてクビになったところを、砂長ネットワークに引っかかったらしい。
まさに渡りに舟という感じだ。
ただ、こっちも懐に余裕があるわけじゃないからなあ……白金貨50枚でなんとかなればいいんだけど。
そして、2日後。例の遺跡の街でオレたちと麦バカ先生の第一回の面接が行われた。
麦バカ先生はオレが想像していたのとはまるで違っていて、まず予想外に若かった。てっきり爺ちゃん先生だと思ってたんだけど。
たぶん、40かそこいらだ。
そして、女性だった。
細身の身体に鋭い眼光。農学者というよりも、海賊の女首領とかそんな形容がよく似合う。そういう感じの女性だ。
「……あんたたちが、ノーマンズランドの開拓者ってわけかい」
「ん。私たちはあの土地を豊かに出来る人を探している。そのための支援は惜しまない……つもり」
惜しまないと言い切りたいけど、現実問題として手元は不如意だ。
「ふん。どうだかね。あすこで麦を育てる? 正気の沙汰とは言えないね。見込みはないよ。諦めてヨソの土地に移りな」
まさに取り付く島の無いという感じだった。
まあ、どうみてもなあ……
「どうして無理なの? 可能になる条件を言ってみて。出来るかどうかは無視でいいから」
だが、フィオナは諦めなかった。ぐいぐい切り込んでいく。
呆れたように麦バカ先生が紹介者の砂長に視線を移す。
「アンタの顔を立てたけどね。こんなこと言う子供が相手じゃ、さすがのアタシでもお手上げってもんさね」
「お主の言わんとすることはわかるがの……その巫女姫には精霊様の加護がある。奇跡を起こせる御仁じゃ。とりあえず、無理は承知で必要な条件を言うてみい。おそらく……なんとかなるぞい」
「……まあ、そんじゃ言わせて貰うがね。まず、水だよ水。それから土だね。痩せすぎだ。どんな麦でも厳しいね。それから肥料。麦ってのはね。肥料で育てるっていうぐらいでね。とにかく土の力を使っちまう。どうだい?」
……き、厳しいな。
なんとかなりそうなのは水ぐらいだ。
「水なら、アテがある」
「……尋常な量じゃ無いよ? あすこには小さなオアシスがポツポツあるだけだ。全部使っても足りないね」
「…………その気になれば、あの土地を全て水で満たすぐらいなら、どう?」
フィオナはさっそく、例の地下水脈の切り札を使った。
たしかに、あの水量ならそれぐらいは可能だ。どうやってくみ出すかっていう問題はあるけど。
けど、それを信じられるかというと……
「は? あんた、どんな夢見てんだい。長、悪いがあたしゃ降りるよ」
けど、ここで諦められちゃ困るんだ。
「地下に大水源が眠ってる。それを発見した。だから、砂長にこうしてあなたを紹介してもらった。そうでなければ、最初から紹介なんてしてもらおうとは思わない」
さらに強気で攻めるフィオナ。
大人しく見えて、頼もしいな。
というか、ここが勝負所だと解ってるんだろう。
あまりの迫力に同席しているリックスやリアムにカレンは出る幕が無い。
「地下水脈ね……本当にあるんだろうね?」
「ある。あとはそれをくみ出すための仕組みを考えられる人。そして、その水を使って土地を生き返らせる人。この2人がいれば……私たちは動ける」
疑わしげな麦バカ先生にさらにフィオナはたたみ掛けた。
(タスク。地図を出せる?)
(もちろん。演出は?)
(ん。お願い)
「精霊様のお告げを聞いた」
「……夢でかい? 証拠って言葉、知ってるのかい?」
「知ってる。だから、今みせる」
フィオナの言葉と共にオレは派手なエフェクトつきで床に大水脈の解っている限りの情報を描き出した。
ナノマシンを駆使して猛烈な速度で精緻な図が、土むき出しの土間に彫り上げられていく。水脈だけではない。
水量、水流の速さ、水温、成分。
とにかく解ることは全部だ。
オレにはよくわからない部分も専門家なら、ちゃんと読み取ってくれるだろう。
輝く光と共に描き上げられた水脈図に腰が抜けたようにへたり込む砂長。
ちょっとやり過ぎた?
だが、さすがは麦バカ先生はひと味違う。
奇跡なんておかまいなしに、じっとオレの描いた水脈図に見入っていた。
待つこと……一時間。
徐々に独り言が多くなる麦バカ先生を気味悪そうに眺めていたカレンがそろそろ、痺れを切らした頃、ようやく立ち上がりフィオナに目を向ける。
「これが本当なら……という前提で話すよ。今からいうことをよく聞きな。いいかい?」
「ん」
「これが本当だとすると……あんたたちは国を1つつくれるよ。水量、水の質、水温、申し分なしだ。ただし、作るのは麦じゃ無い」
「麦じゃ無い?」
「米だ。いいかい? 麦は肥料で育てるっていうぐらいでね。これは水も必要だが、とにかく地力が必要だ。さすがにこれは無理ってもんさ。けどね、米は違う。米は水で育てるって言われてる。もちろん、必要最低限の地力は必要だがね。それよりも水だ。良い水が大量にあれば、そこから養分を得て育つ。気温もちょうど頃合いだね。ちょっと乾燥してるが、なに……これだけの水を表に出しちまえば問題は無いはずだ。あとは水を絶対に絶やさない工夫だね。絶やすと……あっという間に塩だらけになっちまう。まずは土に含まれてる塩っ気を全部抜く。そして、土作りだ。5年……いや3年よこしな。100人どころか万人養える場所にしてやるよ」
ものすごい長いセリフを一息で言い終えると、麦バカ先生はニタリと大きな笑みを浮かべた。
まるで獲物を前にした海賊みたいな凶暴さで。
「あたしはね。麦バカなんていわれちゃいるがね……本当は米バカって言われたかったのさ」
まず、1人目の人材が見つかりました。
かなり、クセが強いですが頼もしい味方です。
いよいよ、村の大改造が始まります!
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