第2話 フューチャーのFは、ファンタジーのF
「あー、そのなんだ……頭がまったくついてこないんで、ちょっと解説くれると助かるんだが」
……数百年ぐらいならバッチこいだが、13万年はいくらなんでも未来過ぎる。アフターマンじゃねえんだから。
《承知いたしました。その前にまず、タスク様には委譲した管理者権限についてお話させていただければと。ナノマシンに関しての知識はございますか?》
あまり詳しくは無いが、ナノマシンぐらいはさすがに知っている。
分子サイズのロボットで、身体の中に入り込んで病気を治したり出来る万能マシンだ。なお、暴走するととんでもないことになる危険性も高い。
地球を分解しちゃったりな。
《はい。そのナノマシンは現在、地球のあらゆる場所に散布され環境の維持などに従事しています。このナノマシンの管理権限をタスク様に委譲させていただきました》
え? そんなことして大丈夫なのか? うっかり暴走させたら、シャレにならんと思うんだが。
《ですのでリミッタは設けさせていただきました。タスク様が経験を積むことで自動的にアンロックされます。現時点ではタスク様を中心に、半径10メートル圏内のナノマシンがタスク様の支配下にございます》
それを聞いて、ちょっと安心する。
《実際にどのようなことが可能かは後ほど、タスク様ご自身でお確かめください。操作方法などはインタフェイス画面より確認可能です》
「ああ。で、今の地球って……どうなってんだ?」
ナノマシン云々も興味があるが、何よりも気になるのは現在の地球の状態だった。何しろ、十万年だ。何がどうなってるか、見当もつかない。
《それに関しましては、実際に見ていただいた方が早いかと。こちらへどうぞ。ご案内いたします》
シーワンに案内されて連れてこられたのは、オレが目覚めた施設の上層部だった。
この施設は地下シェルターのようになっているらしく、エレベーターで地表付近に出ることが出来るようになっているらしい。
……ますます人類滅亡説の可能性が高くなってきた気がするな。
《つきました。こちらでございます》
「……廃墟を通り越して、遺跡みたいになってるな」
《この辺りはもう管理を放棄しておりますので。原生生物も住み着いておりますし、それを目当てに原住民も侵入してきます》
周囲は長い年月の間に侵食やらなんやらで、天然の洞窟と人工の建造物が融合したような感じになっていた。
よく映画やらアニメで見るような、超文明の遺跡という感じがピッタリくる。
シーワンについて歩くうちに、どこからか何かが争っているような物音が聞こえてきた。何かの叫び声に激しく何かがぶつかり合う音。
「なんだ?」
《ここからは声を出さないようにお願いいたします。ここから、下をご覧下さい》
シーワンに言われるままに、かつては窓であったのだろうという壁の割れ目からそっと下を覗き込む。
割れ目の先は吹き抜けの大広間のようになっていて、二組の集団が争う……というよりも殺し合っていた。
(よく見えないな……)
と、思った途端に視界の片隅に【ズーム機能 ON:OFF】の文字がポップアップ。もちろん、ON。一気に視界がズームアップされる。
このナノボディめっちゃ便利。
(………………ロープレ? え? ここ、VRゲームの中だったりすんのか?)
《いいえ。現実です》
そこで繰り広げられていたのは、まさにファンタジーRPGとしか思えない光景だった。
戦士とおぼしき巨漢の男が背丈ほどもある剣をぶん回して、猿のような、というかゴブリンそのものの生物をぶった切る。
後方からはローブに身を包んだ小柄な……多分、女が杖を前に突き出して、炎の塊を打ちだした!
「…………!(ちょ! なんか、撃ったぞ! 武器か? 火炎放射器か? ナノテクか? 魔法とか言うなよ!?)」
《魔法でございます、タスク様。少なくとも彼らはそのように呼んでおり、私たち管理知性体には、その力を解析できません》
オレが驚いて硬直している間に戦いは終わり、戦士たち――もう、冒険者でいいや。とにかく、そいつらはゴブリンの死体を漁って、さらに奥へと進んでいった。
《もう、話しても大丈夫でございます》
「あんなのが普通なのか?」
《はい。その通りです。今の世界の人類は……多かれ少なかれ、管理知性体では解析不可能なエネルギーを有しております》
魔力か。魔力なのか。
「剣をぶん回していた戦士もか?」
《はい。彼は魔法で身体を強化しております。無意識のうちにでしょうが》
「どこも、あんな感じなのか?」
《はい。現生人類の中でタスク様だけが、あの解析不能のエネルギーを保有しておりません。つまり、管理知性体が定義する人類に該当するのはタスク様ただ1人でございます》
未来じゃ無くてファンタジーかよ。
……猿の惑星とかゾンビワールドじゃ無い分だけ、よしとするしかないか。
RPG好きだし。
《つまり、タスク様がこの世界で生きていくためには、彼らの魔法に対抗出来る力が必要になるかと思われます》
「特訓が必要だな」
《それが賢明かと存じます。幸い、この施設の上層部はさきほどの猿のミュータントのような生物が相当数、巣くってございます。訓練にはもってこいかと。ナノマシンは汎用性に優れておりますので、彼らの魔法はかなりの部分が再現可能です》
魔法VSハイテク、か。
燃えるな、これは。
よしっと気分を切り替える。
魔法ならぬ、ナノテクの特訓だ。施設のお掃除も兼ねて、ちょっと頑張ってみるか! いずれは外の世界に出て行かないとダメだしな。
ここにいても、彼女1人出来やしねえ。
ん? そういえば……オレって子供作れるの?
《可能です。タスク様の遺伝情報は保持されておりますので、ナノマシンで複製可能です》
ちょっと安心した。
※編集ミスで、同じ文章が二回出現するなど見苦しい箇所がございました。
お詫びして、訂正いたします。